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二章 吸血鬼

七話 またお会いしましょう

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「痛っ」
「ああ、尻がっ」
「っと」
「あ」

 空中に現れた転移門から落ちてきたウィオリナとバーレンは体を地面に打ち付る。大輔はスチャッと着地し、杏を抱きとめる。スルリと降ろし、周りを見渡す。

 一瞬だけ頬を染めた杏も、周囲が放つ殺気に体を強張らせ、そしてチラリと後ろを見て大声を上げる。駆け寄る。

「か、母さんっ!」

 先ほどの杏の母親の病室だ。けど、部屋の四隅に置いてある黒羽根ヴィールで病室の空間が拡張されていて、十倍ほど広くなっている。

 八つの黒羽根ヴィールで空間を遮断するほど強力な八点結界を張って、杏の母親を守っている。大輔たちはその結界内に転移したのだ。

 そんな結界に攻撃をするのは蝙蝠の黒い翼を背中に生やした人型の異形が三人。美しい緑髪の女性と金髪の女性。白髪の初老だ。

 全員瞳は鮮血に輝き、肌は青白い。気品ある衣服を身に纏い、それぞれが妖しい雰囲気を放っている。

 そんな彼女たちを冥土ギズィアは自らの拳と二十七枚の黒羽根ヴィールで何度も撲殺、刺殺、斬殺する。

 されど、首と体が泣き別れても、体の一部が消し飛んでも、再生する。不死身と言わざるおえない力だ。

 大輔は冥土ギズィアに〝念話〟を繋げる。

『狙いは?』
『杏様のお母さまです。結界の持続時間は三百。拡張隔離も同様です』
『分かった。戦闘能力は?』
『全個体、例のエネルギーを使い、血の状態操作、洗脳に近い精神攻撃、無限に近い高速再生に痛覚無効、膂力は3000程。白髪以外は炎が少しだけ弱点です。緑髪は斧と雷、金髪は糸とレイピア、技術はかなり高い。白髪は空間攻撃に肉弾戦。指示役は緑髪ですが、白髪の方が実力が上。なお、白髪は手を抜いている様子で、仲間はそれに気が付いていない』
『なるほど。警告はした?』
『可能な限り尽くしました。一応理性的で善良的な一般人のメイドですので』

 流石は冥土ギズィア、と自分たちのルールを守ってくれる冥土ギズィアに感謝し、大輔は“天心眼”と“星泉眼”で更に情報を収集していく。

(うん? なんか全体的に精彩を欠いている……あれは、封杭? なんか、封杭らしきかけらが……、何で? 直樹の魔力が少しだけ……え?)

 全個体の体内に封杭の極小欠片が多量にあることに首を傾げながら、大輔はおもむろにイーラ・グロブスを召喚する。そして三発、発砲する。冥土ギズィアが張っている結界は外側からは干渉できないが、内側からは素通りできる。

「ッ」
「いまさらオモチャなんて」
「遅いわ」

 白髪の初老は必死に顔を歪ませ、体の一部を自分で切り裂くことで弾丸を躱す。それとは対照的に、緑髪の女性と金髪の女性は傲慢に鼻で笑い、弾丸を掴み取る。

 瞬間。

「な、ガァーーーッッー!」
「ウッッゥッッッッッッッッ!」
「……なるほど、魂魄への攻撃は効果ありかな。ついでに痛みを感じる、と。肉体的な欠損はともかく、魂魄の欠損修復は遅いらしいね。あと、やっぱりあれ、封杭だ。活性化を発動させたら反応を示しはじめた」

 緑髪の女性と金髪の女性の手にある弾丸が光ったかと思うと、二人は崩れ落ち、下半身が黒灰と化していく。這いつくばり、のた打ち回る。

 そんな様子に頬を引きつらせ、殺意が籠っている冥土ギズィアの殴る蹴るをいなしながら、白髪の初老は自分で切り裂いた体を再生させていく。

(これで時間は稼げたかな)

 大輔は、こんなあっさり、と呆然しているウィオリナたちに体を向ける。見下ろす。

「で、君たちはアレの仲間? 敵?」
「……敵です。アナタたちこそ――」
「僕が尋ねてるの」

 冥土ギズィアの隙を突いて空間衝撃波を繰り出そうとした白髪の初老を銃撃で牽制しながら、大輔はピシャリとウィオリナの言葉を遮る。

 ウィオリナはうぐっと息を飲む。大輔に次を促す。

「で、君たち二人であれはたおせる?」
「……いえ、斃せないです。けど封印はできます」
「封印?」
「そうです」
「……なるほど。じゃあ頼んだ」
「もちろんです」

 ウィオリナは慎重に頷く。と、白髪が放った空間を揺らす衝撃波を不完全な転移門を作って相殺した冥土ギズィアが、声を荒らげる。

創造主様マスター、魔力がっ!」
「分かった。っていうことだ。こっちには余裕がない。君たちがあれを撃退してくれると嬉しいけど、というか、しろ」
「……分かりました。ひとまずは吸血鬼ヴァンパイアの方に専念します」

 ヒュンと背筋が凍りそうな程鋭い声音で命令され、ウィオリナは頷くしかない。バーレンもだ。

 怖ろしいまでに鋭い覇気を発していた大輔は、二人が指示に従ってくれると判断し、拘束を解除していく。そうしながら後ろを振り返る。

「それで百目鬼さん、どうする? あの人外、吸血鬼ヴァンパイアかな? アレは君のお母さんが狙いらしい」
「ッ」
「それで≪白焔≫を使えば問題なく戦えると思うよ」
「……母さんは私が守る」
「そう。じゃあ、体内にある魔力を意識しながら戦うといいよ。今の百目鬼さんなら、高い身体能力が出せる」
「助言、感謝する。……それとごめん。母さんを頼む」

 大輔のアドバイスに頷きながら杏は体を紅蓮に輝かせていく。深紅を基調とした魔法少女へと変身する。衣装等々は通常の魔法少女のだが、赤のフィンガーレス・グローブだけは部分的に覚醒変身している。

「任せて」

 へぇ、器用なことするなぁと感心しながら大輔は杏の頼みに頷く。その頷きに杏は多大な安心感を抱く。大剣を握りしめ、結界の外へと足を踏み出す。

「変わるっ」
「では」

 そのまま、冥土ギズィアと入れ替わるようにして白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアを相手にする。拳や脚、大剣に≪白焔≫の白炎を纏わせ、攻撃を繰り出す。

 蹴りが来たかと思えば、流れるように大剣が振り下ろされる。防いだかと思えば、白炎が体に伝わってくる。

 白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアは空間衝撃で一旦距離を取ろうとするが、結界内に引っ込んだ冥土ギズィアが置き土産としておいていった黒羽根ヴィールが不安定な転移門を創り出して、それを妨害する。

 同時に気配操作で一瞬だけ気配を消した杏が、≪白焔≫纏う大剣を薙ぎ払う。

「シッ」
「クッ」
 
 白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアは≪白焔≫に焼かれる。魂魄を攻撃する≪白焔≫に白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアは驚く。脅威だと認定する。

 拡張された部屋で二メートル近くの大剣を縦横無尽に振り回す杏は、≪白焔≫だけでなく≪灼熱≫や≪直観≫もフル稼働させる。

 白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアは転移で逃げようとするが、≪直観≫による転移発動と転移位置の高精度予測で全てがことごとく潰される。不意打ちやブラフすら通じない。

 白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアは、自分の体を切り離したり、ありえない方向に折ったりと、驚異的な再生能力を当てにした回避で何とか躱している。

 が、歯噛みせざるを得ない。

「これはこれは、見抜かれていますね」
「お前の一挙一動、全て分かるぞ」

 吸血鬼ヴァンパイアに特化した血闘封術師ヴァンパイアハンターでもないのに、驚異的だ。

 洗脳しようにも、対混沌の妄執魔法外装ハンディアントの超強度な精神防衛によって防がれる。

 ≪白焔≫を使いこなせていないため、魂魄そのものに多大なダメージ与えることはできないが、それでも白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアは身体能力等々が弱体化される。魂魄が弱まっている。

 杏は追い詰める。

「彼女、凄いっすね」
「これは負けてられないです」

 ようやく拘束が解け、力を練り上げていたウィオリナたちもそれに続く。大輔が魔力残量がほぼなく、弱体化している事を知らないため、何故戦わないのか疑問に思いつつ、結界の外に出る。

 ウィオリナはヴァイオリンケースを握りしめ、バーレンは懐から取り出したコインを指で上にはじく。

 明瞭に呟く。

血魂けっこん譜具ふぐ、ウィヴァイオリン」
血魂けっこん譜具ふぐ、フロフコイン」

 途端、二人の体から血が噴き出る。その血が空中を流れ、ヴァイオリンケースとコインに纏わりつく。

 そして。

「ウィ流血糸闘術、<血糸妖斬>ッ!」
「悪徳滅殺法、<レッドバースト>ッ!」

 血が纏わりついたヴァイオリンケースは血のヴァイオリンと弓に変化した。

 ウィオリナは血の弓を引き、血のヴァイオリンの弦をこすり合わせる。すると、温かな音と共に血のヴァイオリンから血糸が溢れ出て、奏でられる音に会わせて踊り狂う。

 血が纏わりついていたコインは血のコインへと変化した。

 バーレンが血のコインを指ではじいたかと思うと、周囲に百近い血のコインが現れ、竜巻となり踊り舞う。

「死ねやです!」
「ウィオリナさん、もっと上品に」

 それらは、ようやく大輔の攻撃から回復し始めていた緑髪の女吸血鬼ヴァンパイアと金髪の女吸血鬼ヴァンパイアに襲い掛かる。

血闘封術師ヴァンパイアハンター如きがこの私にっ!」
「あのクソ白仮面のせいでっ!」

 回復し始めたとはいえ、両者とも黒灰と化した両足の再生はできていない。魂魄を攻撃されたのもあるが、体内に残る忌まわしき鉱物ふうくいが活性化したせいで思うように力が使えないのだ。

 悪鬼羅刹もかくやと言わんばかりに顔を歪ませ、力が入らない両腕でどうにか動こうにもにも間に合わない。

「こノワタシガァァァーーッッッッーー!」
「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッッッーーー!」

 断末魔が響き渡る。血飛沫があがり、肉片が舞い散る。

 そんな様を不快に思ったのか。ウィオリナとバーレンは再び血を体から湧きあがらせる。

 ウィオリナは赤錆色の瞳を、バーレンは茶色の瞳を輝かせて、吸血鬼ヴァンパイアを視る。調べた。

 ウィオリナは血の弓で血のヴァイオリンをく。断末魔を否定する美しき音色と共に血糸が溢れ出て、緑髪の女吸血鬼ヴァンパイアへと纏わりつく。

 バーレンは血のコインを親指ではじき、さらにもう一度親指で弾く。軽やかな金属音が響き渡り、金髪の女吸血鬼ヴァンパイアの上に巨大な血のコインが現れる。

 シャンと響き渡る。

 それはその血に刻まれた心。その清らかな瞳で見抜いた『名』。

「フィローネライトファロネスガルイ――ウィ流血糸闘術、<血糸封楔ふうけつ>ッ」
「ヤナフラスバルフアカラフラフナ――悪殺滅法、<クロスコイン>ッ」

 ウィオリナが操る血糸が緑髪の女吸血鬼ヴァンパイアの全身を覆う。巨大な血糸のまゆとなり、ドクンドクンと脈動し、小石ほどの大きさへと圧縮していく。

 バーレンが操る巨大な血のコインは、金髪の女吸血鬼ヴァンパイアを押しつぶす。はりつけのごとく縛り付け、血のコインの中へと取り込んでいく。露出するのが顔だけになると、ドクンドクンと脈動しながら通常のコイン程度に圧縮していく。

「―――――!」
「―――――!」

 声にならない悲鳴を上げ、そして二匹の吸血鬼ヴァンパイアは封印された。

「へぇ、すご」
「なるほど、魂魄と肉体に刻まれた名前を利用した高等封印ですか。人魚の魔王の術式と近いですね。強さ的にはシンタロウ様が使う封印と同等でしょうか?」
吸血鬼ヴァンパイア特化なんだろうけど……時の性質が加わってるね。にしても……既視感ががすごい。技名を叫んでから殴るのかな?」

 ウィオリナは吸血鬼ヴァンパイアを封印した血糸の繭を菫色のベルトに下がるチェーンに、バーレンは吸血鬼ヴァンパイアを封印した血のコインを腰のベルトに付ける。

(なるほどね。基本的に吸血鬼ヴァンパイアとやらは封印する存在なんだ。とすると、やっぱり倒すことは不可能、もしくは手間なのかな? まぁ確かに肉体と魂魄を同時に消失させないと行けない気がするけど……)

 そう予測しながら大輔はウィオリナたちから、杏へと目を移す。

 と、その時。

「これはこれは」

 ≪白焔≫に体の殆どを焼かれ、大剣で首すらも断絶させられそうになっていた白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアがワザとらしく声を張り上げる。

 嫌な予感がした杏はそれに構うことなく、大剣をごうとするが。

「なっ!」

 カンッと鋼鉄の音と共に大剣が弾かれる。白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアが鋼鉄の血の結界を首元に創り出し、防いだのだ。

 今までそんな事を一切しなかった、杏は思わず驚きの声を上げる。

 けど、それだけではない。

「ふむ。フィローネにヤナが封印されましたか。ではその女性の事は諦めるとしましょう」

 全身を焼き尽くしていた≪白焔≫が祓われたのだ。それだけではない。先ほどまで全く感じていなかった覇気が放たれ、爆発的な力が感じる。

 そのまま黒の翼をバサリと羽ばたかせ、黒が混じった血の繭で体を包み始める。

「ッ、逃がすかっ!」
「逃がさねぇですっ!」

 反応したのは杏とウィオリナ。

 杏は使い慣れた≪灼熱≫で火炎弾を創り出し、放つ。ウィオリナは血のヴァイオリンを投擲する。
 
 が。

「またお会いしましょう」
「願い下げだね。っというか、もし今度会ったら後悔させる。ムカつくんだよ。その柔和顔」

 自分の周囲一帯を一時的に異空間へとし、外部の干渉を完全に遮断した白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアは音もたてずに、消えた。転移で逃げたのだ。

 “天心眼”などでそれが分かっていた大輔は、吐き捨てるようにそう言いながら、魔力の消費量的にそれを阻害するのは得策ではないと考え、見逃した。

 そもそも大輔の目標は杏の母親を守ること。手を出さないと言うなら、それを信じよう。

 というか、白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアが本気を出せば、いくら魂魄を攻撃できる≪白焔≫を使う杏でも、追い詰める事ができなかった。制限していたのだ。

 制限するだけの余裕があったのか、それとも戦うつもりがそもそもなかったのか。どっちにしろ過酷な異世界で生き抜いた大輔は、白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアには殺意がなかったことを把握している。

 なら、今は見逃しても問題ないだろう。

冥土ギズィア、消していいよ」
「よろしいのですか?」
「うん、問題はない」

 消え去った白髪の初老吸血鬼ヴァンパイアに悔しがっているウィオリナを見て、大輔は頷いた。冥土ギズィアは畏まりました、と頷き、張っていた結界と空間拡張を解除する。

「わっ」
「うぉ」

 広かった病室がいきなり狭くなり、ウィオリナとバーレンは驚く。杏はハッと顔を上げ、母親の元へと駆ける。

 冥土ギズィアはパージしていた黒羽根ヴィール黒翼アーラに戻し、カシュンカシュンとスライドして黒翼アーラを体内に収納する。

 大輔は眼鏡をクイッとして光らせ、ウィオリナたちに顔を向ける。

「さて、と。ウィオリナさんだったけ? ここに来た理由を話してくれるかな?」
「……そちらこそ、ここに何の用ですか?」
「それは、百目鬼さんのお母さんのお見舞い。……ね?」

 明るい赤錆色の瞳を鋭く光らせたウィオリナに、大輔は飄々と答える。母親を真剣に見つめている杏に同意を求める。

「あ、ああ」

 大剣を握りしめ考え込んでいた杏は大輔の同意に遅れながらも頷いた。ウィオリナは一瞬だけ不審に思ったが、先ほどの杏の様子を思い出し嘘ではないだろうと思い直す。

 杏の母親に目をやる。

「……そちらの女性、百目鬼芽衣めいさんの保護です」
「ッ。保護とはどういう――」

 杏はウィオリナに詰問しようとするが、大輔に手で制される。

「保護、ね。それは吸血鬼ヴァンパイアとやらが狙っているから? それとも吸血鬼ヴァンパイアの力が問題だから?」
「ッ。アナタはどこまで知ってるんですっ!」
「あんまり知らないよ。吸血鬼ヴァンパイアって存在もさっき知った。僕が知っているのは、百目鬼さんのお母さんの魂魄が君や吸血鬼ヴァンパイアたちが使う力で生かされ、肉体の死が偽装されている事」
「ッ」

 ウィオリナは息を飲む。驚いた様子もなく淡々とウィオリナを見つめる杏を見て、さらに驚く。バーレンもだ。

「君たちが使う力には個体ごとに少しだけ気配が異なるね。たぶん、吸血鬼ヴァンパイアも君たちもその固有の存在のために動いているのかな?」
「……それで、そこまで把握している眼鏡のアナタはどうするのですか?」
「どうする、ね。僕としては――」

 [極越]の弱体化やほぼスッカラカンの魔力等々により、とても疲れている大輔はだるいなと思いながら今後の方針を話そうとして。

 トルゥルゥルゥルゥ。

 携帯が鳴った。大輔の電力を使ったスマホではなく、異世界で改良した魔改造スマホの方だった。

 ウィオリナは逡巡した後、どうぞと言う。

 大輔はなんで魔改造スマホの方なんだろ、と疑問に思いつつ、通話ボタンを押す。ついでに信用を得るためにもスピーカーもONだ。どうせ聞かれても問題ない。いざとなったら記憶を消せばいい。

「直樹、ちょうどよ――」
「大輔っ! 海外にいるんだけど、転移――」

 プツン。そこで通話が切れた。

 大輔の目が点となる。杏もだ。ウィオリナたちは戸惑う。

 更に、大輔が手に持つスマホとは別のスマホの音が鳴る。普通のスマホの方だ。

 え、どういうこと?と首を傾げつつ、大輔は通話ボタンとスピーカーを押す。

「白桃さんと一緒に海外にいるんだっ! 吸血鬼ヴァンパイアと自称する奴に飛ばされたっ! 魔力がなくて帰れないっ。イギリスの――」

 またプツリと切れた。たぶん、両方のスマホの電源が切れたのだろう。

「……うん? どういうこと」

 ただ、そんなことはどうでもよく、情報量が多すぎて大輔は固まった。杏もだ。特に雪が巻き込まれている事に固まる。
 
 ウィオリナたちは吸血鬼ヴァンパイアという言葉が聞こえ、驚く。

 沈黙が病室を包み込んだ。
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