銀河をカケル逃避行 ~5億の借金持ち宇宙海賊、うっかり禁忌を破り愛で詰む~

山本条太郎

文字の大きさ
9 / 67

第9話 宇宙海賊は死んでも諦めない

しおりを挟む
スターダスト・レクイエム号のシェルター。 

そこに設置されたモニターを、ミューは息を詰めて見つめていた。 

彼女のラピスラズリの瞳は、戦場を駆ける白銀の光だけを捉えている。

胸元で「星影の涙」のペンダントが、まるで心臓のように、熱く、切なく脈打っていた。

(ベレット……!)

指輪を失った不安定なフォワード能力。 

けれど、今の彼女にははっきりと分かる。

未来の危機が、まるで自分の肉体の痛みのように。

脳裏に閃く、残酷なビジョン。 

敵の攻撃軌道、ミサイルの接近、死角からの奇襲。

「ベレット! 右! ミサイルが来る! 左後方! 敵の編隊が!」

ミューは必死に叫ぶ。 

その声は真空の宇宙を隔てて届くはずもない。 

けれど、彼女は信じていた。

二人の魂は、確かに繋がっていると。

          ◇


「……ッ!」

脳髄を走る電流。 

俺はミューの警告を、言葉ではなく第六感のような『予感』として感じ取った。 

反射的に操縦桿を叩き込む。

コンマ数秒の差で、死の光が機体を掠めていく。

「この感覚は……ミューか」

『マスター! 敵増援! 数、およそ三倍! 後方より大型戦艦も急速接近中! このままではメインフレームの限界を超えます!』

ナビィの悲鳴に近い電子音声がコクピットを満たす。 

コンドル軍は圧倒的な物量で、俺たちを確実に仕留めにかかっていた。 

無数のビームと実体弾が、流星となって降り注ぐ。

「クソッ……!」

俺は歯を食いしばり、機体を軋ませながら回避機動を取る。 

白銀の装甲に赤い傷跡が増えていく。 

装甲強度は限界だ。

アラートがけたたましく点滅し、鼓膜を打つ。

ギギギ……ッ! 重く鈍い悲鳴。 

それはただの金属音ではない。 

スターゲイザーのメインフレームが刻む、死へのカウントダウンだ。

「クソッ! キリがねえ……! こうなったら、一か八か……!」

俺が全てを賭けた最後の賭けに出ようとした、その刹那。

脳裏に、時を超えて響くような、優しくも切ない声が木霊した。

『ベレット。あなたは、優しい人。誰かを守るために、戦える。そんな、あなたの強さが、わたしは好きよ』

リリーナ。 

その声は、今にも消えかけていた勇気の炎を再び激しく灯した。

しかし同時に、深淵のような悲しみが心を寸断する。

守れなかった過去。

失った光。 

だが――今は! 

「まだ死ねるか! こんな所で、終わってたまるかァァァッ!」

俺は喉が張り裂けんばかりに絶叫し、残存エネルギーの全てを一気にレーザーライフルへ注ぎ込んだ。 

機体が悲鳴を上げる。

オーバーロード寸前。 

青白い火花が散り、警告音が嵐のように荒れ狂う。

「これで、終わりだァァァァァッ!!」

渾身の怨嗟と決意を込めて放たれた、白銀の怒れる光の奔流。 

それはコンドル軍先鋒部隊を飲み込み、連鎖的な誘爆を引き起こした。 

暗黒の宇宙に、一瞬の壮絶な破壊の花火が咲く。

「やった……か……?」

俺は肺が焼けるような荒い息を吐きながら呟いた。 

コクピット内は酸素が薄く、鉄と油と、自身の汗と血の匂いが充満している。

だが、安堵は一瞬の幻だった。 

背後から、死神の吐息のような禍々しいプレッシャーが迫る。 

絶対零度の冷気。

皮膚を這い、骨の髄まで凍らせる殺気。

『王国の反乱分子を追ってきたと思えば、貴様か、ベレット。随分と、みすぼらしくなったものだな』

通信機から響く、優越感に満ちた嘲りと侮蔑。

漆黒の闇の中から、空間が裂けたかのように巨大な影が出現した。 

全身を深淵の闇で覆われた、漆黒のスペースロボット。 

ブラックナイト・カスタム。

『フッ、フッ、フッ。久しぶりだな、ベレット。まさか反乱分子の掃討中に、貴様のような大罪人に出会えるとは。運命とは実に皮肉なものだ』

「クラウス! お前!?」

『アルベルト王子殿下の御心のままに、邪魔者は排除する。それが、騎士としての唯一絶対の務めだ!』

クラウスは、巨大なレーザーアックスを禍々しい光と共に起動させた。

≪ベレット! 気をつけて! 相手は、フォワードを薬物で無理やり増幅させているわ! 機体からも、おぞましい気配を感じる!≫

ミューの悲鳴に近い警告。 

薬物強化だと……? 誇り高き騎士だったお前が、そんな紛い物の力に手を染めたって言うのか!

「クソッ! 分かってる! だがな、ただ尻尾巻いて逃げるわけにはいかねえんだよ!」

俺は満身創痍のスターゲイザーを、再び漆黒の巨影へと向けた。 

怒りが、腹の底で煮えたぎる。

「クラウス! てめえとの因縁、ここで断ち切ってやる!」

レーザーサーベルを構え直す。 

白銀の刃は、俺の不屈の闘志を鮮烈に映し出していた。

『フッ、無駄な足掻きを。これは、あの御方からの最後の慈悲だ! 計画の邪魔者は、消えろ、となぁ!』

ブラックナイト・カスタムが嵐の如く唸りを上げる。 

空間を断ち切る雷鳴のような轟音と共に、レーザーアックスが振り下ろされた。

「くっ……!」

俺は歯を食いしばってレーザーサーベルをクロスさせ、渾身の力で受け止めた。 

ガキンッ! 

超高密度の金属が軋む音。火花が散る。

しかし、薬物強化されたクラウスの力は、想像を遥かに超えていた。

ベキベキッ! 

悲鳴を上げるスターゲイザーの左腕部。

いとも簡単に吹き飛ばされ、機体が激しく回転する。 

外装が融解し、内部フレームが露呈した。

『マスター! 左腕部機能停止! エネルギー伝達系、損傷率70%! このままでは……!』

ナビィの絶望的な報告。 

目の前が赤と黒の警告灯で染まる。

≪ベレット! お願い! 負けないで! ベレットなら、きっと……!≫

ミューの涙に濡れた叫びが、凍りついた心に響く。 

最後の火花が再燃する。

「ああぁぁぁっ! まだ、死ねねえ! 絶対に、なぁぁぁっ!!」

俺は魂を絞り出すように叫び、残存エネルギー全てを右腕のサーベルへ注ぎ込む。 

回路がショートし、火花を散らしながらも、白銀の光が極限まで輝きを増す。

「これで、決める!」

最後の希望を託し、振り下ろそうとした瞬間。 

クラウスもまた、全エネルギーを漆黒の斧へと集中させた。

「コンドルに栄光あれ! そして永遠に眠れ、ベレットォ!」

断罪の宣告。 

白銀の剣と漆黒の斧が、激突した。

閃光。

衝撃波。

次元の歪み。

「ぐ……ぁ……ぁぁぁっ……!」

俺の絶叫がコクピットに木霊した。 

受け止めきれなかった。 

サーベルごと右腕を根元から断ち切られ、機体は激しくバランスを崩す。 

衝撃が中枢を直撃し、胴体の装甲に亀裂が走る。

機体は、致命傷を負った巨人のように無様に激しくよろめいた。

『ハハハハハ! 見たか、ベレット! これが新たなる力よ! 貴様のような過去の遺物が、敵うはずもないわ!』

クラウスの高笑いが響く。

「クソ! まだだ! まだ……終わっちゃいねえんだよ……!」

血反吐を吐きながら、俺は闘志の破片をかき集めた。 

だが無情にも、メインシステムが沈黙した。 

計器類が闇に沈む。

『マスター! メインシステム、シャットダウン! 再起動……不可能です……!』

ナビィの絶望的な声。 目の前に、黒く冷たい死の口が開かれていく。

『ハハハハハ! 終わりだ、ベレット! 潔く死ね!』

クラウスはレーザーアックスを振り上げた。

「誰が、簡単に、死んでやるかよ……」

俺は血濡れの唇で笑った。 

こんなところで終わってたまるか。 

俺には、まだ、やらなきゃならねえことがあるんだよ!

「俺は、宇宙海賊ベレット・クレイだ! 金のためなら、死んでも戦い続ける……! それが、俺の生き様だ!」

俺は手動で火器装置を起動させ、頭上の潜望鏡型照準器を引き出した。 

残されたのは、豆鉄砲のようなバルカン砲だけ。 

それでも、撃つ。

撃たなきゃならねえ。

「やってみなきゃ、分からねえだろうがぁぁぁぁっ!!」

引き金を引く。 最後の命を燃やすように火を噴くバルカン砲。 

弾丸がセンサーアイを一点集中で狙う。

カキンッ! 

虚しい金属音。 

特殊装甲に弾かれ、小さな火花が散っただけだった。

『無駄だ! 諦めろ! 死こそが貴様への救済だ!』

クラウスは憐れむように言うと、灼熱の刃をゆっくりと突き出した。 

刃の切っ先が、コクピットを捉える。

「クソ……!」

俺が全てを諦めかけた、その瞬間。 

視界の端に、予期せぬ複数の光点が飛び込んできた。

「……! なんだ!? あれは……??」

『マスター! コスモノイド解放戦線の艦隊です! 識別信号、多数!』

予想だにしない第三勢力。 

勝利を確信していたクラウスの動きが止まる。 

漆黒の斧が、俺の目前で静止した。

『フッ、フッ、フッ。ベレット。貴様は本当に呪われているらしいな。あるいは、悪運が強いと言うべきか』

クラウスは忌々しげに喉を鳴らした。

『非常に残念だ。コスモノイドどもとここで事を構えるのは、今の任務ではない。だが覚えておけ。次に会う時が、貴様の本当の最期だ。アルベルト王子殿下へのにえとしてな』

クラウスはそう言い残すと、ブラックナイト・カスタムを音もなく反転させた。

驚異的な速力で闇に溶け込み、消え去っていく。

「クラウス! この野郎……!」

俺の叫びは、虚しく響き渡るだけだった。 

追いかけようにも、スターゲイザーは動かぬ鉄屑と化している。

「クソがあああっ!」

宇宙空間に、一人ポツンと漂う。 

全身から力が抜け落ちていく。 

悔しさと死の淵から生還した安堵。

「助かった……のか……? 俺は……」

潜望鏡から入り込む星々の冷たい光が、俺の疲弊した魂を静かに照らし出していた。 

それは何の慰めも与えない。 

ただ、宇宙の広大さと、俺の無力さを際立たせるばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...