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第21話 6人のアンドロイドと眠れない巫女
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【視点:ミュー・アシュトン】
スターダスト・レクイエム号の中は、まるで時が止まったような深い静寂に包まれていた。
広い艦内にポツンと残された私は、自室の重力制御ベッドに身を横たえている。
シーツはひんやりと冷たくて、なんだかすごく心細くなる。
膝を胸に抱えて、私は窓の外に広がる漆黒の宇宙空間をぼんやりと見つめた。
無数の星々が放つ、冷たくて遠い光。
それは何億光年という途方もない距離を旅してきた、孤独の証明みたい。
宇宙って、どうしてこんなに広くて、寂しいんだろう。
肌に触れる冷たい感触が、胸の奥の孤独をちくちくと刺す。 聞こえるのは、生命維持装置の「シューッ、シューッ」っていう微かな音だけ。
その規則正しい音が、逆に私の心をぎゅっと締め付けるの。
ベレット……。今頃、あの仮面女と一緒……?
嫌!
考えたくない!
でも、ダメ。
頭の中がベレットのことでいっぱいになっちゃう。
まるで制御不能になった宇宙船みたいに、思考が勝手にベレットの方へ暴走していく。
狂おしいほどの独占欲。
彼の傍にいるローズマリーへの、マグマみたいにドロドロと燃え上がる嫉妬。
ベレットが鼻の下を伸ばしてたらどうしよう。
……ううん、ベレットに限ってそんなことないもん。
でも、もしもってことがあるじゃない?
そして、もう一つ。
私を苛む、もっと根っこにある恐怖。
胸元のペンダント「星影の涙」が、私の不安に呼応するように、チカチカと不吉な光を放ってる。
怖い。
またあの時みたいに、力が暴走してしまったら?
もし、大好きなベレットを傷つけてしまったら?
……そんなの、絶対に嫌!
私は震える指先でペンダントをぎゅっと握りしめた。
その冷たい感触だけが、私をこの現実に繋ぎ止めてくれる命綱。
私の中に潜む、制御不能な「獣」。それが暴れ出して、大切な人を傷つける未来が、何よりも怖い。
私が私でいられなくなる瞬間が、すぐそこまで来ているような気がして……。
ポロリ。
瞳から、一筋の涙が音もなく伝い落ちた。
涙は頬を伝って、シーツの上に宇宙の塵みたいな小さな染みを作る。
一度溢れ出した涙は、もう止まってくれなかった。
寂しいよ。
怖いよ。
ベレット、助けて……。
コンコン。
静寂を切り裂く、規則正しいノックの音。
「ミューさん」
私はびくっとして、ゆっくり体を起こした。
「ナビィです。お食事を持ってきました」 「ナビィ?」
慌てて涙をぬぐって、恐る恐る扉を開く。
そこには、トレイを持ったナビィのサブボディが待っていた。
どこか温かい雰囲気。
「お食事の時間となりましたので、ミューさん?」
「ナ、ナビィィィィ……、うわああああん!」
私はもう、理性を手放して、ナビィに思いっきり抱きついた。
子供みたいに泣きじゃくってしまった。
もう、我慢の限界だったの。
「大丈夫ですか? バイタルチェックスキャンを開始」
ナビィはトレイを片手で器用に持って、もう片方の手で優しく背中をさすってくれた。
AIらしい冷静な声。
でも、その手はとっても優しい。
「心拍数と体温上昇。身体の外傷なし」
ナビィは私をソファへと導いてくれた。
私はしばらく、ナビィのメイド服にしがみついて離れられなかった。
泣きじゃくる私を、深く澄んだ琥珀色の瞳が静かに見つめている。
ナビィの存在は、まるで巨大な岩みたいな安心感。 悪意も、煩わしい感情の揺らぎもない。
ただそこにいてくれる、揺るぎない安定感。
ああ、ナビィがいてくれてよかった……。
「ミューさん。大丈夫ですか? 私に出来る事があれば、対応します」
ナビィが静かに私の手を取って、包み込むように握ってくれた。
「少し食事を取られてはどうですか? 体温と血圧が下がりつつあります」
「うん」
ナビィの穏やかな顔を見つめていたら、少しずつ落ち着いてきた。
私は小さく頷いて、深く息を吐いた。
「少し、話を聞いてくれる?」
「はい」
ナビィはわずかに首をかしげた。
「私、怖いの」
喉の奥から、絞り出すような声が出た。
「抑えきれないフォワードが、いつか暴走するんじゃないかって……。ベレットを傷つけちゃうんじゃないかって……」
「ミューさんの恐怖は、現在心理的負荷が主な要因です。結論から申し上げると、その恐怖を完全に消し去ることは困難です」
「うん……。そうよね……」
やっぱり、そうだよね。
嘘をつかないナビィだからこそ、その言葉は重い。
肩を落とす私に、ナビィは続けた。
「ですが、マスターとミューさんの安全確保は私の最優先事項です。万が一の場合、最大限の安全措置を講じます」
アンドロイドの瞳に宿る、偽りのない真摯な光。
「サブボディの私も、乗組員の安全保障システムの一つとして機能します。怖がる必要はありません。不安な気持ちを『聞く』ことは可能です」
冷徹な論理と温かい配慮。
その言葉に、強張っていた心が少しだけ軽くなる。
そうか、私は一人じゃないんだ。
ナビィも、私を守ってくれるんだ。
「……ありがとう」
私は小さく微笑んだ。
サイドテーブルに置かれた食事を見る。
温かいアルタイルコーンポタージュと、フルーツサンドイッチ。
ポタージュの湯気が、なんだか懐かしい生活の匂いを運んでくる。
「……美味しい」
一口飲むと、冷え切った体に温かさがじわーっと染み渡る。
強張っていた心が、ゆっくりと解けていくみたい。
サンドイッチの甘さが、傷ついた心を癒してくれる。
ベレットは、いつもこういうご飯を食べてきたんだよね。
ふと、素朴な疑問が浮かんだ。
この巨大な箱舟は、どうやって維持されているんだろう?
「ねぇ、ナビィ。この船って、どうやって切り盛りしているの? 」
ナビィは、静かに答えた。
「マスターと私で運行、及び管理をしています」
「でも、この船、すごく大きいじゃない? 二人だけで動くモノなの?」
「ご心配には及びません。私がスターダスト・レクイエム号のナビゲーションAIとして、全システムを統合管理、運営しています」
ナビィは、その疑問を予期していたかのように、淀みなく説明を始めた。
「艦内の各エリアには、私の思考と機能を分散させたサブボディたちが配置されており、それぞれのエリアを統括しています。そのサブボディが、さらに多数の作業用ロボットたちに具体的な指示を出し、艦内のあらゆる作業に当たらせています」
「いつも複数の身体を動かしているなんて、どうやってるの?」
「複数のボディの運用は、メインボディを親機として、子機である各サブボディごとに、プロトコルを最適化して処理しています」
「うーん? サブボディたちごとに違いがあったりするの? まさか、人格まで違うとか?」
少し冗談めかして尋ねてみた。 まさかね、みんな同じナビィでしょ?
「はい。その認識であっています。サブボディごとに、特化された役割に応じた機能と、その運用に最適な『ペルソナ』が設定されています」
ナビィは胸元に手を当て、優雅に一礼した。
「例えば、このボディはサブボディの一つ、ナビィ5です。艦全体のライフサポートシステム、具体的には乗組員の健康管理や生活環境の維持を担当しています」
その仕草一つ一つが、完璧な「メイド」のそれだった。
「ここにいるのがナビィ5ね。他には、どんなナビィがいるの? みんなメイド服なの?」
「現在、オリジナルボディからサブボディまで、6体稼働中です。服装は、それぞれの職務に最適化されたものを着用しています」
ナビィは部屋のコンソールを操作し、壁面にある大型モニターを起動させた。
「まず、機関室で機関長を担当している、ナビィ2です。船の心臓部とも言える機関の運転、精密な整備、点検、修理などの技術的な仕事を一手に担っています」
モニターには、油と熱気が充満し、轟音の響く機関室で、修理に奔走するナビィ2の姿が映し出された。
作業服に身を包み、無骨で力強い印象だ。
なんだかかっこいい。
「次に、船の武装や兵器を担当している砲雷長、ナビィ3です。レーザー兵器やミサイル等の運用が主な仕事であり、船の防衛ラインを構築しています」
指令室のような空間で、軍服に似た制服を着たナビィ3が映し出される。
冷徹なプロフェッショナリズムが滲み出ている。
強そう……。
「そして、見張りや荷物の積みおろしを担当している甲板長、ナビィ4。船体の外装チェック、物資の搬入出の統制が彼女の役割です」
広大な格納庫で、作業着姿のナビィ4が作業用ロボットに指示を出している。
力持ちのお姉さんって感じ。
「みんな少しずつ雰囲気が違うわね。仕事によって、外見も変えているの?」
「はい、あくまでもサブボディ。各仕事に最適化されています」
「あれ? さっき6体稼働してるって言ってなかった? オリジナルボディと、今の4体で5体。後、ひとりは?」
一瞬の沈黙。
ナビィが視線を外した。
……怪しい。女の勘が、ピピッと反応した。
この沈黙、絶対に何か隠してる!
「もうひとつは、おもてなしとコミュニケーションを担当していた、コンパニオンのナビィ6です。現在、本来の職務は休止しています」
モニターが切り替わり、華やかな姿のナビィ6が映し出される。
その姿は、他のサブボディと違い、露出度の高い制服に身を包み、どこか享楽的な雰囲気をまとっていた。
なんか、すごく色っぽい……。
え、なにこれ?
「コンパニオン? どんなお仕事なの? 楽しそうな仕事みたいだけど」
「本来は、乗組員に寄り添い、コミュニケーションを取り、心の安定と船内での生活をより豊かにするための接待や、娯楽を提供することが主な仕事でした」
ナビィは淡々と説明を続ける。
「しかし、現状のリソース不足のため、現在は本来の職務を休止し、艦内のメンテナンススケジュールの最適化などにあたっています」
「そうなのね。ん? 接待?」
頭の中に、ナビィの言葉が遅れて響いた。
接待? 娯楽? コミュニケーション?
……それって、まさか。
「はい、お酒の席から、夜のお世話まで…乗組員のプライベートな部分に深く関わり、彼らの欲求を満たすことも、任務に含まれていました」
嫌な予感がする。
すごく嫌な予感!
夜のお世話って……ベレットは男の人で、ナビィはこんなに綺麗で……。
「まさか……!」
スプーンがカチャリと音を立てて落ちた。
「もしかして! べ、ベレットと!?」
「マスターのプライベートについては、一切お話しできません」
完全拒絶!
それが余計に怪しいのよー!!
「なんでよ!」
「最重要プロトコルです」
「ちょ、ちょっとナビィ!? 教えてよっ! お願い! ベレットと、そ、その……夜のお世話って、一体何をしていたの!?」
私は前のめりになり、ナビィの袖を掴んで縋り付いた。
気になりすぎる!
私の知らないベレットの夜の顔!?
「教えられません」
「ねえってば! 私、気になるの! ねぇ、ナビィ!」
「重ねて申し上げます。話せません」
ナビィは視線を外したまま、無表情を貫く。
でも声が少し硬い!
絶対何かある!
私の恋のライバルは、ローズマリーだけじゃなくて、ナビィ6もだったの!?
「ナビィィィ!」
私の絶叫が室内に響き渡った。
その後、興奮冷めやらぬ私はナビィを質問攻めにした。
ナビィ6のこと。ベレットのこと。
あの仮面女のこと。
やっぱりナビィ6のこと。
ナビィは淡々と、でも誠実に付き合ってくれた。
私が寂しくないように、ずっと話し相手になってくれた。
私はソファに体を預け、窓の外の星々を見つめる。
ナビィは静かにそばにいてくれた。
「私には、ミューさんの感情を共有することはできません」
ナビィは率直に言った。
「しかし、ミューさんの安全と心の平穏を維持することは、マスターからの最重要指令です。あなたが孤独を感じることがないよう、私は常にサポートします」
「そっか……」
AIらしい、率直で温かい言葉。 私は空になったトレイの横で、ナビィの手を握った。
冷たいけれど、不思議な安らぎがある手。
「ナビィがいてくれて、良かった」
「ミューさんのバイタルデータ、安定値に達しました」
ナビィの手が、わずかに握り返してくれた気がした。
広い艦内の静寂の中、私たちの間には微かな絆の温もりが灯っていた。
ナビィ、ありがとう。
でも、ナビィ6のことは後で絶対吐かせるからね!
スターダスト・レクイエム号の中は、まるで時が止まったような深い静寂に包まれていた。
広い艦内にポツンと残された私は、自室の重力制御ベッドに身を横たえている。
シーツはひんやりと冷たくて、なんだかすごく心細くなる。
膝を胸に抱えて、私は窓の外に広がる漆黒の宇宙空間をぼんやりと見つめた。
無数の星々が放つ、冷たくて遠い光。
それは何億光年という途方もない距離を旅してきた、孤独の証明みたい。
宇宙って、どうしてこんなに広くて、寂しいんだろう。
肌に触れる冷たい感触が、胸の奥の孤独をちくちくと刺す。 聞こえるのは、生命維持装置の「シューッ、シューッ」っていう微かな音だけ。
その規則正しい音が、逆に私の心をぎゅっと締め付けるの。
ベレット……。今頃、あの仮面女と一緒……?
嫌!
考えたくない!
でも、ダメ。
頭の中がベレットのことでいっぱいになっちゃう。
まるで制御不能になった宇宙船みたいに、思考が勝手にベレットの方へ暴走していく。
狂おしいほどの独占欲。
彼の傍にいるローズマリーへの、マグマみたいにドロドロと燃え上がる嫉妬。
ベレットが鼻の下を伸ばしてたらどうしよう。
……ううん、ベレットに限ってそんなことないもん。
でも、もしもってことがあるじゃない?
そして、もう一つ。
私を苛む、もっと根っこにある恐怖。
胸元のペンダント「星影の涙」が、私の不安に呼応するように、チカチカと不吉な光を放ってる。
怖い。
またあの時みたいに、力が暴走してしまったら?
もし、大好きなベレットを傷つけてしまったら?
……そんなの、絶対に嫌!
私は震える指先でペンダントをぎゅっと握りしめた。
その冷たい感触だけが、私をこの現実に繋ぎ止めてくれる命綱。
私の中に潜む、制御不能な「獣」。それが暴れ出して、大切な人を傷つける未来が、何よりも怖い。
私が私でいられなくなる瞬間が、すぐそこまで来ているような気がして……。
ポロリ。
瞳から、一筋の涙が音もなく伝い落ちた。
涙は頬を伝って、シーツの上に宇宙の塵みたいな小さな染みを作る。
一度溢れ出した涙は、もう止まってくれなかった。
寂しいよ。
怖いよ。
ベレット、助けて……。
コンコン。
静寂を切り裂く、規則正しいノックの音。
「ミューさん」
私はびくっとして、ゆっくり体を起こした。
「ナビィです。お食事を持ってきました」 「ナビィ?」
慌てて涙をぬぐって、恐る恐る扉を開く。
そこには、トレイを持ったナビィのサブボディが待っていた。
どこか温かい雰囲気。
「お食事の時間となりましたので、ミューさん?」
「ナ、ナビィィィィ……、うわああああん!」
私はもう、理性を手放して、ナビィに思いっきり抱きついた。
子供みたいに泣きじゃくってしまった。
もう、我慢の限界だったの。
「大丈夫ですか? バイタルチェックスキャンを開始」
ナビィはトレイを片手で器用に持って、もう片方の手で優しく背中をさすってくれた。
AIらしい冷静な声。
でも、その手はとっても優しい。
「心拍数と体温上昇。身体の外傷なし」
ナビィは私をソファへと導いてくれた。
私はしばらく、ナビィのメイド服にしがみついて離れられなかった。
泣きじゃくる私を、深く澄んだ琥珀色の瞳が静かに見つめている。
ナビィの存在は、まるで巨大な岩みたいな安心感。 悪意も、煩わしい感情の揺らぎもない。
ただそこにいてくれる、揺るぎない安定感。
ああ、ナビィがいてくれてよかった……。
「ミューさん。大丈夫ですか? 私に出来る事があれば、対応します」
ナビィが静かに私の手を取って、包み込むように握ってくれた。
「少し食事を取られてはどうですか? 体温と血圧が下がりつつあります」
「うん」
ナビィの穏やかな顔を見つめていたら、少しずつ落ち着いてきた。
私は小さく頷いて、深く息を吐いた。
「少し、話を聞いてくれる?」
「はい」
ナビィはわずかに首をかしげた。
「私、怖いの」
喉の奥から、絞り出すような声が出た。
「抑えきれないフォワードが、いつか暴走するんじゃないかって……。ベレットを傷つけちゃうんじゃないかって……」
「ミューさんの恐怖は、現在心理的負荷が主な要因です。結論から申し上げると、その恐怖を完全に消し去ることは困難です」
「うん……。そうよね……」
やっぱり、そうだよね。
嘘をつかないナビィだからこそ、その言葉は重い。
肩を落とす私に、ナビィは続けた。
「ですが、マスターとミューさんの安全確保は私の最優先事項です。万が一の場合、最大限の安全措置を講じます」
アンドロイドの瞳に宿る、偽りのない真摯な光。
「サブボディの私も、乗組員の安全保障システムの一つとして機能します。怖がる必要はありません。不安な気持ちを『聞く』ことは可能です」
冷徹な論理と温かい配慮。
その言葉に、強張っていた心が少しだけ軽くなる。
そうか、私は一人じゃないんだ。
ナビィも、私を守ってくれるんだ。
「……ありがとう」
私は小さく微笑んだ。
サイドテーブルに置かれた食事を見る。
温かいアルタイルコーンポタージュと、フルーツサンドイッチ。
ポタージュの湯気が、なんだか懐かしい生活の匂いを運んでくる。
「……美味しい」
一口飲むと、冷え切った体に温かさがじわーっと染み渡る。
強張っていた心が、ゆっくりと解けていくみたい。
サンドイッチの甘さが、傷ついた心を癒してくれる。
ベレットは、いつもこういうご飯を食べてきたんだよね。
ふと、素朴な疑問が浮かんだ。
この巨大な箱舟は、どうやって維持されているんだろう?
「ねぇ、ナビィ。この船って、どうやって切り盛りしているの? 」
ナビィは、静かに答えた。
「マスターと私で運行、及び管理をしています」
「でも、この船、すごく大きいじゃない? 二人だけで動くモノなの?」
「ご心配には及びません。私がスターダスト・レクイエム号のナビゲーションAIとして、全システムを統合管理、運営しています」
ナビィは、その疑問を予期していたかのように、淀みなく説明を始めた。
「艦内の各エリアには、私の思考と機能を分散させたサブボディたちが配置されており、それぞれのエリアを統括しています。そのサブボディが、さらに多数の作業用ロボットたちに具体的な指示を出し、艦内のあらゆる作業に当たらせています」
「いつも複数の身体を動かしているなんて、どうやってるの?」
「複数のボディの運用は、メインボディを親機として、子機である各サブボディごとに、プロトコルを最適化して処理しています」
「うーん? サブボディたちごとに違いがあったりするの? まさか、人格まで違うとか?」
少し冗談めかして尋ねてみた。 まさかね、みんな同じナビィでしょ?
「はい。その認識であっています。サブボディごとに、特化された役割に応じた機能と、その運用に最適な『ペルソナ』が設定されています」
ナビィは胸元に手を当て、優雅に一礼した。
「例えば、このボディはサブボディの一つ、ナビィ5です。艦全体のライフサポートシステム、具体的には乗組員の健康管理や生活環境の維持を担当しています」
その仕草一つ一つが、完璧な「メイド」のそれだった。
「ここにいるのがナビィ5ね。他には、どんなナビィがいるの? みんなメイド服なの?」
「現在、オリジナルボディからサブボディまで、6体稼働中です。服装は、それぞれの職務に最適化されたものを着用しています」
ナビィは部屋のコンソールを操作し、壁面にある大型モニターを起動させた。
「まず、機関室で機関長を担当している、ナビィ2です。船の心臓部とも言える機関の運転、精密な整備、点検、修理などの技術的な仕事を一手に担っています」
モニターには、油と熱気が充満し、轟音の響く機関室で、修理に奔走するナビィ2の姿が映し出された。
作業服に身を包み、無骨で力強い印象だ。
なんだかかっこいい。
「次に、船の武装や兵器を担当している砲雷長、ナビィ3です。レーザー兵器やミサイル等の運用が主な仕事であり、船の防衛ラインを構築しています」
指令室のような空間で、軍服に似た制服を着たナビィ3が映し出される。
冷徹なプロフェッショナリズムが滲み出ている。
強そう……。
「そして、見張りや荷物の積みおろしを担当している甲板長、ナビィ4。船体の外装チェック、物資の搬入出の統制が彼女の役割です」
広大な格納庫で、作業着姿のナビィ4が作業用ロボットに指示を出している。
力持ちのお姉さんって感じ。
「みんな少しずつ雰囲気が違うわね。仕事によって、外見も変えているの?」
「はい、あくまでもサブボディ。各仕事に最適化されています」
「あれ? さっき6体稼働してるって言ってなかった? オリジナルボディと、今の4体で5体。後、ひとりは?」
一瞬の沈黙。
ナビィが視線を外した。
……怪しい。女の勘が、ピピッと反応した。
この沈黙、絶対に何か隠してる!
「もうひとつは、おもてなしとコミュニケーションを担当していた、コンパニオンのナビィ6です。現在、本来の職務は休止しています」
モニターが切り替わり、華やかな姿のナビィ6が映し出される。
その姿は、他のサブボディと違い、露出度の高い制服に身を包み、どこか享楽的な雰囲気をまとっていた。
なんか、すごく色っぽい……。
え、なにこれ?
「コンパニオン? どんなお仕事なの? 楽しそうな仕事みたいだけど」
「本来は、乗組員に寄り添い、コミュニケーションを取り、心の安定と船内での生活をより豊かにするための接待や、娯楽を提供することが主な仕事でした」
ナビィは淡々と説明を続ける。
「しかし、現状のリソース不足のため、現在は本来の職務を休止し、艦内のメンテナンススケジュールの最適化などにあたっています」
「そうなのね。ん? 接待?」
頭の中に、ナビィの言葉が遅れて響いた。
接待? 娯楽? コミュニケーション?
……それって、まさか。
「はい、お酒の席から、夜のお世話まで…乗組員のプライベートな部分に深く関わり、彼らの欲求を満たすことも、任務に含まれていました」
嫌な予感がする。
すごく嫌な予感!
夜のお世話って……ベレットは男の人で、ナビィはこんなに綺麗で……。
「まさか……!」
スプーンがカチャリと音を立てて落ちた。
「もしかして! べ、ベレットと!?」
「マスターのプライベートについては、一切お話しできません」
完全拒絶!
それが余計に怪しいのよー!!
「なんでよ!」
「最重要プロトコルです」
「ちょ、ちょっとナビィ!? 教えてよっ! お願い! ベレットと、そ、その……夜のお世話って、一体何をしていたの!?」
私は前のめりになり、ナビィの袖を掴んで縋り付いた。
気になりすぎる!
私の知らないベレットの夜の顔!?
「教えられません」
「ねえってば! 私、気になるの! ねぇ、ナビィ!」
「重ねて申し上げます。話せません」
ナビィは視線を外したまま、無表情を貫く。
でも声が少し硬い!
絶対何かある!
私の恋のライバルは、ローズマリーだけじゃなくて、ナビィ6もだったの!?
「ナビィィィ!」
私の絶叫が室内に響き渡った。
その後、興奮冷めやらぬ私はナビィを質問攻めにした。
ナビィ6のこと。ベレットのこと。
あの仮面女のこと。
やっぱりナビィ6のこと。
ナビィは淡々と、でも誠実に付き合ってくれた。
私が寂しくないように、ずっと話し相手になってくれた。
私はソファに体を預け、窓の外の星々を見つめる。
ナビィは静かにそばにいてくれた。
「私には、ミューさんの感情を共有することはできません」
ナビィは率直に言った。
「しかし、ミューさんの安全と心の平穏を維持することは、マスターからの最重要指令です。あなたが孤独を感じることがないよう、私は常にサポートします」
「そっか……」
AIらしい、率直で温かい言葉。 私は空になったトレイの横で、ナビィの手を握った。
冷たいけれど、不思議な安らぎがある手。
「ナビィがいてくれて、良かった」
「ミューさんのバイタルデータ、安定値に達しました」
ナビィの手が、わずかに握り返してくれた気がした。
広い艦内の静寂の中、私たちの間には微かな絆の温もりが灯っていた。
ナビィ、ありがとう。
でも、ナビィ6のことは後で絶対吐かせるからね!
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気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
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16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
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