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第20話 仮面の淑女の「待ち人」、漆黒の密室にて
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ローズマリーが手配した船は、ありきたりの脱出艇などではなかった。
ジャンクヤードの混沌とした風景の中にあって、明らかに異質なオーラを放つ、流線型の漆黒の高速艇。
闇に潜む捕食者のような船が、スターダスト・レクイエム号に並ぶように停泊した。
連絡艇が星屑の船の格納庫へ静かに潜り込む。
「おいおい、こんなモン、どこで手に入れやがったんだよ」
「ふふ、それは淑女の秘密ですわ」
ローズマリーは優雅に俺の視線を受け流し、真紅のブーツを鳴らして乗り込んだ。
俺たちは、連絡艇に乗船し、闇を切り裂くように発艦した。
そして、その後、星屑の船と並行して航行する漆黒の高速艇へと、宇宙の闇に吞み込まれるかのように、着艦していった。
◇
高速艇のラウンジ。
技術の粋と計算され尽くした快適性が調和した空間。 足音を吸い込む深紅の絨毯、間接照明に照らされた抽象絵画。
シトラス系のアロマが香り、宇宙的なアンビエント・ミュージックが流れる。
俺はこの過剰な快適空間に居心地の悪さを感じながら、深くソファに身を預けていた。
隣には忠実な騎士のように寄り添うローズマリー。
対角には、完璧なポーカーフェイスで航行データを分析するナビィ。
三人の間の重い沈黙を、ローズマリーの甘く濃厚な色香が侵食し始めた。
「ベレット様」
彼女はミューがいないのをいいことに、猫のようにしなやかに体勢を変え、俺の腕に自身の腕を絡ませた。
「お気分はいかがですか?」
囁くように言い、豊満な身体をこれみよがしに押し付ける。
柔らかな熱と弾力が、じわりと伝わってくる。
「おい、鬱陶しい、ひっつくんじゃねえ」
俺は辟易しながらも、その感触から完全に逃れることはできなかった。
「ふふふ。良いではありませんか。あのやかましいチビ助さんはいないのですから」
「そういう問題じゃねえ」
「くすくす。ささやかな船旅を楽しみましょう」
ローズマリーは悠然と微笑み、立ち上がった。
バーカウンターへ向かう優雅な足取り。深紅のタイトな戦闘服が、肢体の曲線を強調する。
ヒップラインの動きが、俺の視線を離さない。
彼女はキャビネットから、繊細なグラスと、古代の工芸品のようなボトルを取り出した。
「ワインでもいかが? 最高級のものですわよ」
「ああ、もらうぜ」
俺はこの状況に抗うことを諦めた。
グラスに注がれる、血のように濃いルビー色のワイン。
芳醇な香りがアロマと混ざり合う。
ふと、ボトルに目が引き寄せられた。
「おい、このワイン……」
ボトルに刻まれたエッチングを二度見した。
「ええ、1000年銀河ワインですわ」
「おい! 何で、そんなシロモノがこんなとこにあるんだ!?」
1000年銀河ワイン。
ごく限られた富豪や王族しか飲めない、1000年熟成の代物。
ボトル一本で中型宇宙船が買える。
「ふふふお口に合いませんでしたか? ではエリクサーシャンパンはいかが? こちらはもう少し甘美な味わいですわよ」
「お前、どうなってやがるんだ!? ったくよ」
俺はこめかみを抑え、溜息をついた。
自分の活動資金が、目の前の女の酒代にも満たない現実に、海賊としての矜持が傷つく。
「まあまあ、ゆっくりと飲みましょう。時間はあるのですから」
ローズマリーは再び俺の隣に座り、身体を絡ませた。
彼女の体温が、俺の警戒心をゆっくりと溶かしていく。
グラスの中でワインが妖しく輝く。
しばし、言葉を交わすこともなく、ただ、グラスを傾けながら、ワインの複雑で奥深い味わいを、少しずつ、そして丁寧に舌の上で転がし続けた。
グラスの中で、深紅のワインが琥珀色のラウンジの光を反射し、妖しい輝きを放っている。
俺はふと、隣の女の横顔を見つめた。
「なんであん時、ジャンクヤードのあのバーに居やがったんだ?」
「たまには、バーで飲みたくなる時もあるでしょう?」
彼女は指でグラスの縁をなぞりながら、吐息混じりに言った。
「こんな上物の酒を持ってるくせにか? 男でも漁ってたのかよ?」
俺は海賊らしい軽薄さで挑発した。
すると、ローズマリーは突然、体を重ねてきた。
彼女は、しなやかな指先を、伸ばし、俺の胸板をつねった。
「いてえな! 何しやがる!」
「わたくしは、その日暮らしをするような下賤な尻軽女ではなくってよ! ベレット様はわたくしをなんだとお思いになっていらっしゃるのかしら!?」
声には怒りではなく、傷つけられたことへの切なさがあった。
「泣く子も黙る、女海賊ブラッディ・ローズだろ」
「偏見ですわね」
深いため息が、俺の首筋にかかる。
「偏見もクソも、事実だろうが。それに、戦いの手癖もひどかったしよ」
「仕事とプライベートを混同しないでくださいませ。わたくしはどこぞの愚かな女海賊のエルフとは違います。訂正してくださいまし」
「フン、女海賊なんて、どうせろくなもんいやがらねえからな」
過去を回想し、忌々しげに漏らす。
「その風評はエルフの女海賊のせいですわ! わたくしのせいではありませんことよ」
「似たようなもんだろ」
「違います! わたくしは、ただの淑女ですわよ」
彼女は抗議するように、柔らかい体を俺の腕に強く絡ませた。
「じゃあ、お前みたいな上玉な淑女が、あんな場末のバーにいやがるんだよ?」
俺は剃刀色の瞳で仮面の淑女を射抜いた。
彼女は目を逸らし、祈るように両手を胸元に当てた。
そして、透明感のある声でつぶやいた。
「あのバーにいたのは、待ち人に、会える気がしたからですわ」
「待ち人って?」
ローズマリーは遠い空間を見つめた。
仮面の奥に、過去を映し出しているようだった。
「わたくしがまだ何も知らない幼い少女だった頃から、ずっと焦がれ続け、そしてかけがえのない、大切な人……」
声は夢見るように遠く、切ない。
二人の間に沈黙が流れる。
「……邪魔したようで、悪かったな」
俺は居心地の悪さを感じ、頭をかいた。
ローズマリーは俺の肩にそっと全ての重みを預け、濡れたような顔で見上げた。
「ふふふ、本当に、悪いお人ですこと」
仮面の淑女は、ただ婉然と微笑んだ。
その笑みは、俺の心に新たな棘を植え付けるかのようだった。
「ナビィ。ローズマリーのアジトまでの航路、問題ねえか?」
俺は甘美で危険な空気を振り払うように問いかけた。
「航路、再計算完了。特に問題ありません」
ナビィの冷静な声が、ラウンジの熱を一瞬冷ます。
「到着予定時刻まで、お二人はどうぞごゆっくりお過ごしください」
ナビィはその一部始終を、対角のシートから完璧なポーカーフェイスの下で、複雑な光を宿らせながら静かに観察していた。
ジャンクヤードの混沌とした風景の中にあって、明らかに異質なオーラを放つ、流線型の漆黒の高速艇。
闇に潜む捕食者のような船が、スターダスト・レクイエム号に並ぶように停泊した。
連絡艇が星屑の船の格納庫へ静かに潜り込む。
「おいおい、こんなモン、どこで手に入れやがったんだよ」
「ふふ、それは淑女の秘密ですわ」
ローズマリーは優雅に俺の視線を受け流し、真紅のブーツを鳴らして乗り込んだ。
俺たちは、連絡艇に乗船し、闇を切り裂くように発艦した。
そして、その後、星屑の船と並行して航行する漆黒の高速艇へと、宇宙の闇に吞み込まれるかのように、着艦していった。
◇
高速艇のラウンジ。
技術の粋と計算され尽くした快適性が調和した空間。 足音を吸い込む深紅の絨毯、間接照明に照らされた抽象絵画。
シトラス系のアロマが香り、宇宙的なアンビエント・ミュージックが流れる。
俺はこの過剰な快適空間に居心地の悪さを感じながら、深くソファに身を預けていた。
隣には忠実な騎士のように寄り添うローズマリー。
対角には、完璧なポーカーフェイスで航行データを分析するナビィ。
三人の間の重い沈黙を、ローズマリーの甘く濃厚な色香が侵食し始めた。
「ベレット様」
彼女はミューがいないのをいいことに、猫のようにしなやかに体勢を変え、俺の腕に自身の腕を絡ませた。
「お気分はいかがですか?」
囁くように言い、豊満な身体をこれみよがしに押し付ける。
柔らかな熱と弾力が、じわりと伝わってくる。
「おい、鬱陶しい、ひっつくんじゃねえ」
俺は辟易しながらも、その感触から完全に逃れることはできなかった。
「ふふふ。良いではありませんか。あのやかましいチビ助さんはいないのですから」
「そういう問題じゃねえ」
「くすくす。ささやかな船旅を楽しみましょう」
ローズマリーは悠然と微笑み、立ち上がった。
バーカウンターへ向かう優雅な足取り。深紅のタイトな戦闘服が、肢体の曲線を強調する。
ヒップラインの動きが、俺の視線を離さない。
彼女はキャビネットから、繊細なグラスと、古代の工芸品のようなボトルを取り出した。
「ワインでもいかが? 最高級のものですわよ」
「ああ、もらうぜ」
俺はこの状況に抗うことを諦めた。
グラスに注がれる、血のように濃いルビー色のワイン。
芳醇な香りがアロマと混ざり合う。
ふと、ボトルに目が引き寄せられた。
「おい、このワイン……」
ボトルに刻まれたエッチングを二度見した。
「ええ、1000年銀河ワインですわ」
「おい! 何で、そんなシロモノがこんなとこにあるんだ!?」
1000年銀河ワイン。
ごく限られた富豪や王族しか飲めない、1000年熟成の代物。
ボトル一本で中型宇宙船が買える。
「ふふふお口に合いませんでしたか? ではエリクサーシャンパンはいかが? こちらはもう少し甘美な味わいですわよ」
「お前、どうなってやがるんだ!? ったくよ」
俺はこめかみを抑え、溜息をついた。
自分の活動資金が、目の前の女の酒代にも満たない現実に、海賊としての矜持が傷つく。
「まあまあ、ゆっくりと飲みましょう。時間はあるのですから」
ローズマリーは再び俺の隣に座り、身体を絡ませた。
彼女の体温が、俺の警戒心をゆっくりと溶かしていく。
グラスの中でワインが妖しく輝く。
しばし、言葉を交わすこともなく、ただ、グラスを傾けながら、ワインの複雑で奥深い味わいを、少しずつ、そして丁寧に舌の上で転がし続けた。
グラスの中で、深紅のワインが琥珀色のラウンジの光を反射し、妖しい輝きを放っている。
俺はふと、隣の女の横顔を見つめた。
「なんであん時、ジャンクヤードのあのバーに居やがったんだ?」
「たまには、バーで飲みたくなる時もあるでしょう?」
彼女は指でグラスの縁をなぞりながら、吐息混じりに言った。
「こんな上物の酒を持ってるくせにか? 男でも漁ってたのかよ?」
俺は海賊らしい軽薄さで挑発した。
すると、ローズマリーは突然、体を重ねてきた。
彼女は、しなやかな指先を、伸ばし、俺の胸板をつねった。
「いてえな! 何しやがる!」
「わたくしは、その日暮らしをするような下賤な尻軽女ではなくってよ! ベレット様はわたくしをなんだとお思いになっていらっしゃるのかしら!?」
声には怒りではなく、傷つけられたことへの切なさがあった。
「泣く子も黙る、女海賊ブラッディ・ローズだろ」
「偏見ですわね」
深いため息が、俺の首筋にかかる。
「偏見もクソも、事実だろうが。それに、戦いの手癖もひどかったしよ」
「仕事とプライベートを混同しないでくださいませ。わたくしはどこぞの愚かな女海賊のエルフとは違います。訂正してくださいまし」
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「その風評はエルフの女海賊のせいですわ! わたくしのせいではありませんことよ」
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「違います! わたくしは、ただの淑女ですわよ」
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「じゃあ、お前みたいな上玉な淑女が、あんな場末のバーにいやがるんだよ?」
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仮面の奥に、過去を映し出しているようだった。
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仮面の淑女は、ただ婉然と微笑んだ。
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俺は甘美で危険な空気を振り払うように問いかけた。
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