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第37話 「ご主人様」の務め。紅蓮の薔薇を抱いて
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カジノのVIPエリアは、一瞬にして凍りついた。
硝煙の匂い。
静寂。
そして、遅れてやってくるどよめき。
俺はコツ、コツと、傷だらけのブーツの踵を血色の絨毯に鳴らし、床にへたり込むローズマリーへと歩み寄った。
まったく……。
コイツは……。
「ど、どうして、ここへ……?」
ローズマリーが震える声で尋ねる。
「たまたま、小遣い稼ぎに遊びに来ていただけだ」
俺はぶっきらぼうに答え、手を差し出した。
「立てるか?」
「ええ。ありがとうございます、ベレット様」
ローズマリーは一瞬ためらった後、俺の手を握り返した。
その身体を背後に庇うように引き起こす。
そして、顔面を押さえて蹲る巨体の獣人、レグルスへ向き直った。
「おい、このクソ猫野郎」
静かな怒りに満ちていた。
「まったく、俺の『モノ』に随分と舐めた真似をしてくれるじゃねえか」
俺はスターダスト・リボルバーの熱を帯びた銃口を、レグルスの脂汗滲む額へねじ込んだ。
ジュッ、と皮が焼ける音がする。
「……! は、白銀の流星! 貴様! この神聖なる決闘を邪魔する気か!?」
「何が神聖だ。インチキしかできねえクソ猫が」
ギリギリと、骨が軋むほど強くねじ込む。
「こ、このカジノで銃を抜くなど! どうなるか分かっておるのか!?」
「へっ、テメエこそ何も分かってねえようだな」
俺は冷たく笑った。
「宇宙海賊の暗黙の掟ってやつをよ。人様の『モノ』に許可なく手ぇ出したんなら、その汚ねえ脳ミソを床にぶちまけられても文句は言えねえってなあ!」
「ちっ! 野郎ども! こいつを殺せぇ!」
レグルスの金切り声に応じ、群衆の中からレーザーガンを構えた手下たちが姿を現した。
だが、遅い。
パァン! パァン! パァン!
リボルバーが火を噴く。
弾丸が、手下たちの手首だけを寸分の狂いもなく撃ち抜く。
鮮血が深紅の絨毯に醜い華を咲かせた。
「な、なんだと……!?」
残るは、レグルスただ一人。
俺は再び熱せられた銃口を、恐怖に引きつる毛深い額に、突きつけた。
「今度、俺の『所有物』にふざけた真似をしてみろ」
絶対的な殺意を込めて囁く。
「そのデケエだけの役立たずの額に風穴開けてやるからな。覚悟しとけよ」
レグルスの股間から、生温かい液体が滲み出した。
彼は白目を剥き、そのままドサリと崩れ落ちた。
失神か。
腰抜けめ。
俺はその無様な骸を一瞥すると、ローズマリーへ向き直った。
「帰るぞ。歩けるか?」
「それが……」
ローズマリーは、踵が食いちぎられた哀れなハイヒールを悲しげに見つめた。
「お気に入りのヒールが壊されてしまいまして。それに……」
彼女はふと、計算され尽くした絶妙なタイミングで顔を上げた。
潤んだ瞳。
甘く、魔性の響き。
「ベレット様。お恥ずかしながら、足を挫いてしまいましたの。ですから……このか弱いローズマリーを、お姫様抱っこでお部屋まで運んでくださいまし」
「はあ!? お前、何ふざけたこと言ってやがるんだ!」
俺は頭をガシガシと掻いた。
「お前さんなら片足だってケンケンで帰れるだろうが。さっさと歩け」
「まあ、ベレット様ったら、おつれないこと」
ローズマリーは、悲しげな仕草をみせて、軽く肩をすくめた。
「淑女に、裸足で、この汚れたカジノの床を歩かせるおつもりですの?それは、あまりにも、紳士的ではございませんことよ?」
彼女は俺の腕にするりと自分の腕を絡ませ、豊満な胸を押し当てた。
「それに、先ほど大勢の前で、わたくしのことを、ご自分の『所有物』だと、高らかに宣言なさったではございませんか」
耳元で、熱い吐息と共に囁く。
「ならば、その大切な『所有物』が、怪我をして動けないとなれば、責任を持って、介抱してくださるのが、『ご主人様』としての、当然の務め、というものではなくて?」
……! ったく、この女は!
「……クソッ!」
俺は、一瞬の逡巡の後、深い溜息をつき、しぶしぶとローズマリーを横抱きに抱え上げた。
「ふふふ、なんだかとても懐かしいですわね」
ローズマリーは満足気に微笑むと、俺の首に腕を回した。
「なにがだ?」
「くすくす♪」
彼女は、ただ、妖艶に微笑むだけだった。
「それにしてもお前、見た目に反して案外重いじゃねえか……って、オイ! 首を絞めるんじゃねえ!」
「まあ、まあ、ベレット様ったら。淑女に対して、そのような、デリカシーのないことを、おっしゃるものではありませんことよ。少し、お仕置きが必要なようですわね」
「ふざけんな。捨てて帰るぞ」
「あらあら、『ご主人様』ったら。ひどいですわね」
「誰がご主人様だ!」
「くすくす♪」
カジノのVIPエリア。
そこには、呆然と見送る群衆が残された。
「あの残忍にして狡猾な、女帝『ブラッディ・ローズ』が、あのようなしがない宇宙海賊風情の男に、あそこまで、甘えているだと!?」
「うらやま、いや、フン、けしからん!あの、神々しいまでの美しい身体に、気安くベタベタと触れやがって!クソ赤毛野郎め!後で、必ず、八つ裂きにしてくれるわ!」
「そんな。私の憧れのブラッディ・ローズ様が、あんな冴えない、ただのチンピラみたいな男と、乳繰り合っているだなんて!嘘だ!嘘だと言ってよ!」
「引退する、とは、つまり、そういう意味だったのか…!?」
「銀河中に轟いていた、『白銀の流星が紅蓮の薔薇を、奴隷にした』という、噂は、やはり、本当だったんだ…!」
会場では、嫉妬、羨望、殺意。
そして、下世話な好奇心に満ちた様々な憶測や噂話が、まるで熱病のように、瞬く間に駆け巡っていった。
そんな粘つく視線を背中に浴びながら、俺はカジノを後にした。
せっかく、情報集めにカジノへ来たってえのに、完全に無駄足じゃねえかよ……。
無駄足にしてくれた犯人を睨む。
腕の中で、ローズマリーが勝ち誇ったように恍惚とした表情で微笑んでいた。
彼女にとって、この瞬間こそが何よりも甘美な勝利であるかのように。
まったくよ…。
どっちが主人でどっちが奴隷なんだか。
俺は厄介なモンを抱え込んだことを、今更ながらに後悔し始めていた。
ほんと、女海賊は、ろくなもんじゃねえ……。
硝煙の匂い。
静寂。
そして、遅れてやってくるどよめき。
俺はコツ、コツと、傷だらけのブーツの踵を血色の絨毯に鳴らし、床にへたり込むローズマリーへと歩み寄った。
まったく……。
コイツは……。
「ど、どうして、ここへ……?」
ローズマリーが震える声で尋ねる。
「たまたま、小遣い稼ぎに遊びに来ていただけだ」
俺はぶっきらぼうに答え、手を差し出した。
「立てるか?」
「ええ。ありがとうございます、ベレット様」
ローズマリーは一瞬ためらった後、俺の手を握り返した。
その身体を背後に庇うように引き起こす。
そして、顔面を押さえて蹲る巨体の獣人、レグルスへ向き直った。
「おい、このクソ猫野郎」
静かな怒りに満ちていた。
「まったく、俺の『モノ』に随分と舐めた真似をしてくれるじゃねえか」
俺はスターダスト・リボルバーの熱を帯びた銃口を、レグルスの脂汗滲む額へねじ込んだ。
ジュッ、と皮が焼ける音がする。
「……! は、白銀の流星! 貴様! この神聖なる決闘を邪魔する気か!?」
「何が神聖だ。インチキしかできねえクソ猫が」
ギリギリと、骨が軋むほど強くねじ込む。
「こ、このカジノで銃を抜くなど! どうなるか分かっておるのか!?」
「へっ、テメエこそ何も分かってねえようだな」
俺は冷たく笑った。
「宇宙海賊の暗黙の掟ってやつをよ。人様の『モノ』に許可なく手ぇ出したんなら、その汚ねえ脳ミソを床にぶちまけられても文句は言えねえってなあ!」
「ちっ! 野郎ども! こいつを殺せぇ!」
レグルスの金切り声に応じ、群衆の中からレーザーガンを構えた手下たちが姿を現した。
だが、遅い。
パァン! パァン! パァン!
リボルバーが火を噴く。
弾丸が、手下たちの手首だけを寸分の狂いもなく撃ち抜く。
鮮血が深紅の絨毯に醜い華を咲かせた。
「な、なんだと……!?」
残るは、レグルスただ一人。
俺は再び熱せられた銃口を、恐怖に引きつる毛深い額に、突きつけた。
「今度、俺の『所有物』にふざけた真似をしてみろ」
絶対的な殺意を込めて囁く。
「そのデケエだけの役立たずの額に風穴開けてやるからな。覚悟しとけよ」
レグルスの股間から、生温かい液体が滲み出した。
彼は白目を剥き、そのままドサリと崩れ落ちた。
失神か。
腰抜けめ。
俺はその無様な骸を一瞥すると、ローズマリーへ向き直った。
「帰るぞ。歩けるか?」
「それが……」
ローズマリーは、踵が食いちぎられた哀れなハイヒールを悲しげに見つめた。
「お気に入りのヒールが壊されてしまいまして。それに……」
彼女はふと、計算され尽くした絶妙なタイミングで顔を上げた。
潤んだ瞳。
甘く、魔性の響き。
「ベレット様。お恥ずかしながら、足を挫いてしまいましたの。ですから……このか弱いローズマリーを、お姫様抱っこでお部屋まで運んでくださいまし」
「はあ!? お前、何ふざけたこと言ってやがるんだ!」
俺は頭をガシガシと掻いた。
「お前さんなら片足だってケンケンで帰れるだろうが。さっさと歩け」
「まあ、ベレット様ったら、おつれないこと」
ローズマリーは、悲しげな仕草をみせて、軽く肩をすくめた。
「淑女に、裸足で、この汚れたカジノの床を歩かせるおつもりですの?それは、あまりにも、紳士的ではございませんことよ?」
彼女は俺の腕にするりと自分の腕を絡ませ、豊満な胸を押し当てた。
「それに、先ほど大勢の前で、わたくしのことを、ご自分の『所有物』だと、高らかに宣言なさったではございませんか」
耳元で、熱い吐息と共に囁く。
「ならば、その大切な『所有物』が、怪我をして動けないとなれば、責任を持って、介抱してくださるのが、『ご主人様』としての、当然の務め、というものではなくて?」
……! ったく、この女は!
「……クソッ!」
俺は、一瞬の逡巡の後、深い溜息をつき、しぶしぶとローズマリーを横抱きに抱え上げた。
「ふふふ、なんだかとても懐かしいですわね」
ローズマリーは満足気に微笑むと、俺の首に腕を回した。
「なにがだ?」
「くすくす♪」
彼女は、ただ、妖艶に微笑むだけだった。
「それにしてもお前、見た目に反して案外重いじゃねえか……って、オイ! 首を絞めるんじゃねえ!」
「まあ、まあ、ベレット様ったら。淑女に対して、そのような、デリカシーのないことを、おっしゃるものではありませんことよ。少し、お仕置きが必要なようですわね」
「ふざけんな。捨てて帰るぞ」
「あらあら、『ご主人様』ったら。ひどいですわね」
「誰がご主人様だ!」
「くすくす♪」
カジノのVIPエリア。
そこには、呆然と見送る群衆が残された。
「あの残忍にして狡猾な、女帝『ブラッディ・ローズ』が、あのようなしがない宇宙海賊風情の男に、あそこまで、甘えているだと!?」
「うらやま、いや、フン、けしからん!あの、神々しいまでの美しい身体に、気安くベタベタと触れやがって!クソ赤毛野郎め!後で、必ず、八つ裂きにしてくれるわ!」
「そんな。私の憧れのブラッディ・ローズ様が、あんな冴えない、ただのチンピラみたいな男と、乳繰り合っているだなんて!嘘だ!嘘だと言ってよ!」
「引退する、とは、つまり、そういう意味だったのか…!?」
「銀河中に轟いていた、『白銀の流星が紅蓮の薔薇を、奴隷にした』という、噂は、やはり、本当だったんだ…!」
会場では、嫉妬、羨望、殺意。
そして、下世話な好奇心に満ちた様々な憶測や噂話が、まるで熱病のように、瞬く間に駆け巡っていった。
そんな粘つく視線を背中に浴びながら、俺はカジノを後にした。
せっかく、情報集めにカジノへ来たってえのに、完全に無駄足じゃねえかよ……。
無駄足にしてくれた犯人を睨む。
腕の中で、ローズマリーが勝ち誇ったように恍惚とした表情で微笑んでいた。
彼女にとって、この瞬間こそが何よりも甘美な勝利であるかのように。
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