銀河をカケル逃避行 ~5億の借金持ち宇宙海賊、うっかり禁忌を破り愛で詰む~

山本条太郎

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第45話 うさ耳海賊と夢見る少女、リバティ・ランドで大暴れ

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夢の国、リバティ・ランド。 

ポート・リバティの中心にある、人工の理想郷。 

星屑を溶かし込んで作られたかのように、七色にキラキラと輝くゲート。 

絶えず流れる、脳みそが溶けそうなほど陽気な音楽。 

空気中に漂う、綿菓子やポップコーンの甘ったるい香り。

……地獄かよ、ここは。

俺はゲートの前に立ち尽くし、サングラスの奥で渋い顔を作った。 

混沌と欲望が渦巻くこのポート・リバティにあって、ここだけが異質なほどの「幸福」を垂れ流している。 

俺のような、硝煙と安酒の臭いが染みついた宇宙海賊が足を踏み入れていい場所じゃねえ。

敵の要塞に単身乗り込む方が、まだ気が楽だ。

「わーい! リバティ・ランドよ! 見て見て、あそこにリバティ・ラビットがいるわー!」

隣で、ミューがはしゃいでいる。 

ローズマリーにおめかしをしてもらった純白のワンピース。 

その裾を翻し、まるで地上に舞い降りた星の精みたいに跳ね回る。 

真珠色の銀髪が、人工灯の光を浴びて、キラキラと輝く。

その頭には、このランドのマスコットキャラクターである、リバティ・ラビットと同じ、白いふわふわのラビット耳の飾りが、可愛らしくつけられていた。

純真無垢な少女の姿。 

それを見ていると、ここに来るまでの文句が喉の奥でつっかえて出てこなくなる。

だが、問題は俺の頭の上だ。

「なんで、この俺まで、こんなヘンテコなうさ耳なんぞを、つけなきゃならねえんだ」

俺は頭上のカチューシャを忌々しげに触った。 

白い、フワフワのうさ耳。 

鏡を見なくても分かる。

今の俺は、宇宙一マヌケな海賊だ。

「ぷぷぷっ、すごく似合ってるわよ、ベレット。うん、とっても、かわいい」 

「馬鹿にしてんじゃねえぞ、ったくよ」

ミューが俺を見上げて、ニシシと笑う。 

その笑顔を見ていると、不思議と「外して捨ててやる」という気力が削がれていく。 

……ローズマリーめ。『郷に入っては郷に従え』だと? 

ふざけやがって。

これじゃあ、ただの道化だ。

俺は革ジャケットの内ポケットから、プラチナ製のチケットを無造作に取り出した。 

指先に伝わる高価な感触。 

このチケット、一体いくらするんだ?

……いや、考えるのはよそう。 

まあ、あれだ。

今日は「福利厚生」ってやつだ。

柄じゃねえがな。

          ◇


ランドの内部は、俺の許容量を遥かに超えるメルヘンワールドだった。

パステルカラーの暴力。

笑顔の強要。 

俺の荒んだ心が、拒絶反応で悲鳴を上げている。

「おいおい、どんなテーマでやってやがるんだ?ここは本当に、ポート・リバティなのかよ…?」

「ベレット! ベレット! あれに乗りたい! スペースクルーザー・アドベンチャー!」

ミューが俺の手をグイグイと引っ張る。 

その力強さに、俺はたたらを踏んだ。 

普段はあんなに華奢なくせに、どこにこんな馬鹿力が隠れてやがるんだ。

「おい、待てよ、ミュー! そんなに引っ張るな! 逃げやしねえよ!」 

「早く! 早くしないと、置いてっちゃうわよ!」

ミューが、釘付けになった施設は、巨大な宇宙船を模した、体験型のライドアトラクションだった。

目の前には、極彩色のレトロフューチャーな看板。 

『悪の宇宙海賊団を、正義のウォーターガンでやっつけろ!』

……正義、ねえ。

この銀河にそんなもんが残ってりゃ、俺たちも苦労しねえよ。

「宇宙船なんざ、毎日、嫌というほど乗ってんだろうが」 

「だーめ! スターダスト・レクイエム号は、全然かわいくないもん!」 

「宇宙船に、かわいい必要があんのかよ」 

「今度、ナビィに頼んで、ラズベリー色に塗ってもらおうかな」 

「絶対に、やめろ」

そんな他愛のない会話をしながら、俺たちはアトラクションの列に並んだ。 

周りは親子連れか、バカップルばかり。 

俺とミューは……まあ、端から見れば「年の離れた兄妹」か、あるいは「親子」に見えるのか? 

……ほんと、悪い冗談だぜ。

俺たちは二人乗りのフライングビークルに乗り込んだ。 

狭い。 

隣り合って座ると、ミューの小さな肩が俺の腕に触れる。 

ふわりと漂う、石鹸と甘いお菓子の匂い。 

それが、戦場の鉄臭さとは違う「平和」の匂いだと気づいて、俺は少し居心地の悪さを感じて身じろいだ。

「見て、ベレット! このウォーターガンで、出てくる宇宙海賊たちを、やっつけるんだって!」 

ミューは、座席の前に設置されている、カラフルなデザインのウォーターガンを、はしゃぎながら、見つめている。

「へっ、海賊は悪役ってわけか。ご苦労なこったぜ」

「楽しそう!私、ハイスコアを目指すわ!」

ミューは、気合十分に、ウォーターガンを、その小さな手で、ぎゅっと握りしめた。

陽気で、どこか間の抜けたような音楽がかかると共に、フライングビークルは、ゆっくりとコースを自動で周り始めた。

宇宙空間を模した、暗い室内。

ブラックライトに照らされた安っぽい惑星のオブジェが流れていく。

すると、前方から、凶悪なフライングビークルに乗った宇宙海賊たちが、ぬらりと姿を現した。

「ヒャッハー!見つけたぜ、カモども!金目のモン、全部、置いていきやがれ!」
「逆らう奴は、宇宙の藻屑にしてやるぜ!」
「さっさと、くたばりやがれぇぇぇっ!!」

エキストラのコテコテの悪役セリフ。 

海賊たちは、一斉に、攻撃を開始した。

ミューが楽しそうにウォーターガンを構える。

「ミュー、お出ましだぞ。やっちまえ」 

「うん! わかってるわ!」

ミューは、勢いよく、ウォーターガンを、海賊たちへと向けて、連射していく。

だが、その反動は、思っていた以上に強く、狙いは、なかなか定まらない。

「きゃっ!当たらない!それに、反動が、強すぎる!」

「ん?これ、ただの水鉄砲か?にしちゃあ、威力が、あり過ぎやしねえか…?」

その時。

シュンッ! ジュッ!

敵ビークルから放たれた赤い光線が、俺たちのすぐ脇を掠め、背後の壁を焦がした。 

鼻を突く、何かが焦げる臭い。 

俺の全身の毛が逆立つ。

「……!おい、 おい、マジかよ!」

俺の表情から、一瞬で「福利厚生モード」の仮面が剥がれ落ちた。 

ただの演出じゃねえ。

「アイツら、本物のレーザーガンを使ってやがるぞ! このクソ遊園地、どうなってやがるんだ!?」

俺は反射的に、ミューの背後から覆いかぶさるようにして、彼女の手ごと銃を握った。 

ミューの心臓の音が伝わってくるようだ。 

小さい。震えてやがる。

ミューを、危険に晒すわけにはいかねえ。

「ミュー! 落ち着け! よく狙え! 俺が、反動を抑えてやる!」

 「……! …う、うん! ありがとう、ベレット!」

俺の指示と、ミューの照準。 

俺の野生の勘と、彼女のフォワードの力が重なる。

「左上、三時の方向、二機!」 

「うん!」 

「ここで、連射だ! タイミングを合わせろ!」

 「わ、わかったわ!」 

「よし、今だ! 吹き飛ばせ!」 

「フルバースト!!」

ウォーターガンが唸りを上げ、敵機を次々と撃ち落とす。 

俺たちの呼吸は、戦場にいる時と同じくらい完璧にシンクロしていた。

「ぐわあああああ!な、なんだ、こいつら!強すぎるぜ!」
「くそったれ!聞いてた話と、全然違うじゃねぇか!」
「ち、ちきしょう!!も、申し訳ありません、レグルス様ぁぁぁっ!!」

海賊たちは、悲鳴を上げながら、次々と爆散し、コースの闇の中へと消えていった。

こんなもんが、ここのアトラクションなのかよ?

やけに、リアルすぎやしねえか…?

俺は、エキストラたちの、あまりにも迫真に満ちた演技に、感心していた。

まあ……、ミューに怪我がなくてよかった。

          ◇

ビークルが帰還し、俺たちは外へ出た。 

ミューは額にうっすらと汗を浮かべ、満面の笑みだ。

「やった! やったわ、ベレット! 全部、倒し切ったわよ!」 

「ああ、そうだな。……ったく、油断ならねえ場所だぜ」

俺はまだ興奮冷めやらぬミューの手を、優しく握り締めると、エスコートするように降ろした。 

その手は小さくて、壊れそうなくらい柔らかい。 

「ねえねえ、ベレット! ベレット! 私、お腹すいちゃった!」

ミューが、俺の腕に甘えるように抱き着いてくる。 

その無邪気な温もりが、張り詰めていた神経をゆっくりと溶かしていく。

「次は、何か美味しいものを、食べに行きたい!」 

「へいへい、分かりましたよ、お姫様」

俺は肩をすくめながらも、口元が緩むのを止められなかった。 

こんな平和ボケした場所も、たまには悪くねえか。 

少なくとも、こいつが笑っているなら、それでいい。

俺たちは手を繋ぎ、屋台が立ち並び、様々な食べ物の甘く香ばしい匂いが漂う中央広場へと、ゆっくり歩き出した。 
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