銀河をカケル逃避行 ~5億の借金持ち宇宙海賊、うっかり禁忌を破り愛で詰む~

山本条太郎

文字の大きさ
55 / 67

第51話 緊急依頼、報酬は1億クレジット!ルビントン家の令嬢を救え!

しおりを挟む
スターダスト・レクイエム号のブリッジ。 

リバティ・ランドの喧騒の中で繰り広げられた、ミューとの「デート」という名の家族サービスを終え、俺はやっと「キャプテン」の顔に戻っていた。

ミューの機嫌は、ようやく元に戻り、スターダスト・レクイエム号の艦内には、穏やかな空気が流れていた。

俺はキャプテンシートに深く身を沈め、ホログラムディスプレイに映る銀河図を睨みつけていた。 

視線は星々を射抜きながら、脳内では別の計算が高速で回っている。

……足りねえ。

船の修理は、ローズマリーが出してきた出所不明の「クレジット」と、ナビィたちの献身的な作業でなんとか形になった。 

瀕死だったエンジン音も、今は力強い鼓動を刻んでいる。 

だが、問題は山積みだ。

増えた所帯クルー。 

ローズマリーがいる手前、生活レベルを下げるわけにもいかねえし、ミューにひもじい思いもさせたくねえ。 

そして何より、俺の脳裏に常にこびりつく、負債総額5億クレジットという絶望的な数字。 

燃料タンクの目盛りを見るたびに、胃がキリキリと痛む。

コンドル情勢は混沌とし、ガルムからの連絡は途絶えたまま。 

ミューの「星詠の指輪」の手がかりは、虚空に落とした砂粒のように見つからない。 

八方塞がりってやつだ。

「さて、どうするかな」

俺は深く、重いため息をついた。 

マグカップの冷めたコーヒーを煽る。

泥水のような苦さが、今の俺の気分には丁度いい。

「もう少し、活動資金を稼がねえとな。船の完全修理も、スターゲイザーの強化も、まだまだ先の話だ」

独り言のように呟くが、その声には焦りが滲んでいた。 

金がなきゃ、自由も、守りたいものも守れねえ。

それがこの冷たい銀河の鉄則だ。 

綺麗事だけで腹は膨れねえ。

「でも、ベレット。あんまり、危険な仕事はしないでほしいの」

隣のシートから、ミューが潤んだラピスラズリの瞳で見上げてくる。 

不安げに胸元のペンダントを弄る仕草。 

チリン、と小さな金属音が静寂に響く。 

……そんな目で見んなよ。

お前を安心させるために、俺は危険な橋を渡らなきゃならねえんだ。

「分かってるって」

俺は視線を逸らし、ぶっきらぼうに答えた。 

優しく言い含めるのは苦手だ。

行動で示すしかねえ。

「ナビィ、何か手頃で割のいい仕事は入ってねえか? できれば即金で、高額なやつだ。まあ、ちっとは安全なやつ、な」 

「マスター、現在ポート・リバティで公開されている依頼情報を検索します」

ナビィが静かに頷き、コンソールを操作する。 

琥珀色の瞳がデータの海を高速でスキャンしていく。 

「条件に合致する依頼を抽出。……一件、該当を確認しました。緊急性が高く、かつ高額報酬が見込める依頼です」

ナビィの声色が僅かに変わった。 ディスプレイに、警告色で点滅する依頼情報が表示される。

「ほう? どんな依頼だ?」

俺は思わず身を乗り出した。

 金の匂い。

俺の腐った性根が、獲物を見つけた猛禽のように反応する。

「依頼主:惑星企業連合 ルビントン家。依頼内容:小惑星帯『アステリア・リーフ』にて消息を絶った、令嬢ララティーナ・ルビントンの捜索および救助。成功報酬:1億クレジット。発見・救助を確認次第、即時支払われます」

「ルビントン家?」

その名を聞いた瞬間。 

俺の背筋に冷たいものが走ると同時に――。

それまで優雅に紅茶を飲んでいたローズマリーの身体が、ピクリと震えた。

カチャン。

カップがソーサーにぶつかる音。 

「ローズマリー?」

俺は訝しげに彼女を見つめた。 

仮面の下の表情が、激しく揺らいでいるのが見て取れる。 

「い、いえ。何でもありませんわ、ベレット様」

彼女は咄嗟に仮面の位置を直し、震える指先を隠すように膝の上で組んだ。

「ただ、ルビントン家は……わたくしが以前お仕えしていた家ですので。お嬢様のお名前を聞いて、少し驚いただけですわ」

声が上ずっている。

「あの、ララティーナ様が、消息を……? そんな」

仮面の下から漏れる、か細い呟き。 

演技じゃねえ。

本気で心配してやがる。

血の気が引いたような声だ。 

ミューもまた、何かを感じ取ったようにローズマリーを見つめている。

……匂うな。

危険な匂いが、プンプンしやがる。

1億クレジット。

破格の報酬。 

喉から手が出るほど欲しい金が、目の前で光を放っている。

頼主は、あの惑星企業連合の幹部一族。 

そして、ローズマリーのこの反応。 

俺の勘が囁いている。

これは、甘い香りで獲物を誘う毒の花だと。 

下手をすれば、企業連合の闇に足を踏み入れることになる。

だが、この金はデカい。

それに……。 

俺はティーカップを両手で持ったまま微動だにしないローズマリーの横顔を、チラリと盗み見た。

コイツは何かを知っている。

この依頼を受ければ、惑星企業連合の尻尾を、少しは掴めるかもしれねえな

危険リスク報酬リターン

天秤にかけるまでもない。

「よし、ナビィ」

俺は決断を下した。腹は決まった。

「すぐにルビントン家に連絡を取ってくれ。依頼を受けるとな」 

「マスター、よろしいのですか? この依頼には、複数の危険因子リスクファクターが予測されますが」 

「ああ、構わねえ」

俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。 久しぶりに血が滾る。

「金のためだ。それに……」

ちらりとミューの顔を見る。 

不安そうな顔を、笑顔に変えてやるための方便が必要だ。

「困ってる奴を見捨てるのは、寝覚めが悪いからな」 

「ベレット!」

ミューがパァっと顔を輝かせた。

……まあ、こういう建前も必要だろ。

実際は欲と計算まみれだがな。

「承知いたしました、マスター。ルビントン家代表者とコンタクトを開始。正式に依頼を受諾します。目標宙域、アステリア・リーフへ航路設定。出港手続き後、直ちにワープシークエンスの計算を開始します」

ナビィが迅速に動く。 

コンソールから、機関始動シークエンスの電子音が静かに流れ始める。

「ローズマリー」

俺は仮面の淑女に声をかけた。

「お前も準備しろ。ルビントン家のことは、この中でお前が一番知ってるんだからよ」 

「は、はい! ベレット様!」

ローズマリーは力強く頷いた。 

その声には、いつもの余裕とは違う、切迫した色が混じっていた。 

スターダスト・レクイエム号が、重い音を立ててドッキングベイを離れる。 

巨大な船体が、ポート・リバティの光を反射しながら、コロニーのエアロックへと滑り出す。

目指すはアステリア・リーフ。 

無数の岩塊が漂う、危険な小惑星帯。

そこで待つのは1億の金か、遭難した令嬢か。 

それとも――俺たちを飲み込む、巨大な罠か。 

いずれにせよ、サイは投げられたってわけだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...