水精姫の選択

六道イオリ/剣崎月

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 パルヴィが部屋へ戻ってからヴォルフラムが王城へと戻ってきた。馬丁に預け迎えに出て来た顔見知りの大臣たちに連れられてジークベルトの元へとむかう。
「お前、老けたなあ」
「確かに老けたな。年齢よりも老けてみられるからな」
「そうか。ところで困ってることとかないかなあ」
「お前の困っているは、異形関係だろう? 今のところないよ。お前の息子が細君と共に狩り歩いているからヴェーラに近寄りもしない」
「……」
「なんだ? その顔は」
「さあね」
「嫌だね。お前のその表情は不吉だ、ヴォルフラム」

◇◇◇◇◇

 ジークベルトたちが居る部屋へと行き報告はした。
「イズベルガも本物を見なければ解らないってさ」
「そんなこと解りきっていたことでしょう、ヴォルフラム。面倒から逃げるための下手な口実でしょ」
「まあね。それで、あの娘との交渉は?」
 ジークベルトの説明を聞き、ヴォルフラムは意外だったとばかりに口笛を吹いてからかう。
「そうか。お前にしちゃあ随分と譲歩したな」
 話を聞いただけでパルヴィを強制送還でもするかと思っていたヴォルフラムは、ジークベルトの意外な答えに久しぶりに”本当に”おどろいた。
「誰かのせいでね!」
「お前さん、もう少し柔らかにだな」
「あなたに言われたくはありませんね、ヴォルフラム」
 不毛な会話を続けている脇にあるのはゲルティ王の棺。明日出棺の儀を行い、埋葬されることになっている。
 葬儀が長いので死体が腐敗しないよう、魔女特製の蝋が塗られ、形は保たれている。腐敗臭はまったくしないとまでは言えないが、この部屋に立ち入れるのは死臭に慣れている者ばかりなので問題はなかった。
「父に最後のお別れをしてください。そうしないと棺の蓋をすることができません」
「ゲルティにお別れねえ」
「最後だから聞きますが」
「なんだ? ジークベルト」
「父はあなたのことを嫌っていました、理由など陳腐過ぎて誰もが知っています。あなたは父のことを歯牙にもかけなかったと言われています。それで、実際のところはどうなのですか?」
 ハイエルフの魔力にも打ち勝つ最強の魔人を従弟に持った王。その人生は誰もが想像するものであった。
「好きだったよ」
「どうして?」
「俺のいい引き立て役だった。最初は俺の引き立て役に使ってやらるくらいしか価値がないと思って、色々と手間暇かけてやったが、最後は俺が筋書き書かなくても上手に演じてくれていた。立派な道化師だったよ。お前は俺の引き立て役にはならないからなあ」
「そうですか。次に質問です」
「はいはい、なんですかねえジークベルト王さま」
「あなたは私の本当の父親ですか?」

 ジークベルトの母親はコスタ。ヴォルフラムの最初の妻でもあった。
 ヴォルフラムの長男テオバルトを産んだのち、ゲルティの王妃に迎えられた。ゲルティ王以外、誰一人として幸せではなかった結婚式。ゲルティ王自身、望んだものは王妃ではなくヴォルフラムに対する「なにがしか」であっただけ。
 コスタはヴェーラ王族特有の容姿を兼ね備えたジークベルトを産むのだが、息子が優れていることにゲルティ王は疑念を抱き、愛することはなかった。
  これに関しては国民はゲルティ王と同じ妄想を共有する者が多かったが、彼とは違い文句はなかった。ジークベルトは優秀でヴォルフラムは王族の血が流れてい る。ハイデマリーは血が近すぎる関係になるが、王妃でも問題ない。国民にとってはゲルティ王の妄想が現実であろうがなかろうが、ジークベルトが存在すれば よい。

「まさか。お前が俺の息子だったら、もっと面白みある男になってるはずだ。その面白みのなさ、ゲルティ譲りだろ」
「そうですよね……だそうです、ゲルティ先王。棺の端を持ってください。さっさと封をしますよ」
「はいはい。じゃあね、ゲルティ」

―― ヴォルフラムがそう言ったんだ! ――

 豪華に飾り立てた重い棺の蓋を被せる。
「明日はこの棺の回りに花を飾るのか」
「はい。では夕食の席でまた」
 ジークベルトが立ち去るとヴォルフラムは棺に腰を下ろして、何度かドアをノックをするように叩く。
「いやあ、あの嘘信じるとは思わなかったんだ。悪かったなゲルティ」
 笑顔というにはあまりにも程遠いが、そうとしか表現できない表情でヴォルフラムはゲルティからすべてを奪い取った。憎いからではなく、まして愛していたわけでもなく、興味本位だけで。
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