死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

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第4章・捨てられし者

◆ 6・過去との対峙 ◆

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 鳥の鳴き声。
 起床を急かす時計の音。

 私は跳び起きた。


 待って待って待って?!
 これ完全に、いつものじゃん!!!! いつ死んだ?! もうミランダ来る?!


「おはよ」

 すぐ傍で声がして振り返る。
 そこには掌サイズで白光する美少女――羽の生えたエンジェルっぽいモノが顔に向かって突撃してくる。
 慌てて避けると勢い余ったのか、ベッドに落ちていく。白いワンピースのようなものをまとった姿は先ほど見た天使を彷彿とさせる。


 もしかして……。


 灰色の羽根に所々黒いモノが混ざった翼は、お世辞にも綺麗とは言い難い。幼いエルシアによく似た容姿だが、その髪色は黒ずんでいるし、瞳も淀んだ海の色をしている。

「エルロリス?」
「そう、あなたの残り半分よ。初めまして、シャーロット。私も愛をこめてチャーリーと呼ぶわね、嬉しいわ、ずっと話したいと思ってたのよ? チャーリー、いつも頑張っていたわね、見てたわ、抱きしめてあげる!」

 またも顔近辺に飛んできた灰色天使を払う。
 ぺちゃりと落ちた先はフカフカのベッドの上だ。


 ……いや、ちっさ。


「ええ、私の大半はオリガが刻んで獄に繋いだの。でも動きやすくいいでしょう?」

 めげない前向きすぎる天使に愕然とする。


 何だコイツ……フロー以上に頭のネジが緩んでるんじゃないの?


「ネジ? ネジなんてないわ。服だって継ぎ目なしなんだから! 基本は貴方たち『悪役』の中に封じられてて動けないの。そう、そうなのね? ネジで止められるっていう比喩ね?! 人間難しいっ、でも好き! 納得よ、チャーリー、その通りよ!」


 待って……これ、私なの??
 やめて、マジでやめて……。自分の黒歴史よりもずっと痛いわ、これ。


「あなたって……ずいぶん後ろ向きに物を考えるのね、チャーリー。私もそういう時期あったわ。でも大丈夫、段々と吹っ切れていくものだから、あなたも私の境地に辿り着けるわ! だってあなたも私だものね!」


 絶対イヤ!


「ってか、心読まないでくれる?! それから絶対あんたみたいにはならないから! ってか今、私と分離してんじゃん! そのまま帰ってくださいっ」
「それは無理よ。あなたとまだ一体化してるし、兄さんにも今はどうしようもないみたいだし……あ、でも大丈夫。いつもあなたを通して、あったかさやうれしさを体感してるから、寂しくなんてないわ」

 ニコニコと笑う天使は可愛らしい。


 本当に、あの尊大天使の妹か、これが?
 で、本当に私???


「って、そんな場合じゃない!!! ミランダよっっ、ミランダが来るわ!」
「あ、ココは私が落ち着いて話しやすいようにって用意した場所よ」
「お、落ち着かないわー!!!!!」

 天使は驚いた顔をする。

「一番なじみ深い場所をって思ったの」
「一番の悪夢だよ!! ……ってか、つまりミランダはいないのね? それで、あんたって本当に、……私、なのよね?」
「ほぼ同化しかけてるわ。こうして実体化できたのも、オリガのお陰ね」

 笑う天使に顔を顰める。
 記憶ではオリガに胸を突き刺されて消滅までのカウントダウン中だったのだ。『お陰』など間違っても選ぶべき言葉ではない。

「久しぶりに兄さんにも会えたから嬉しかったのよ? 元気そうでホッとしたわ。穢れた魂と一緒にいると、私を見つけられないし、とっても心配してたみたいで。私の光も随分と弱くなってしまったから猶更だったのよ」
「会えたって言っても、会話したの私じゃん」

 彼女はゆるりと頭を振る。

「人間の時間でいう、100年くらい前に私に会いに来たのよ」


 え?


「嬉しかったわ」
「待って、ソレって私が会ったより遥かに前って事だよね?! いつよ!! ってか、ソレってループの最初?」
「嬉しかった。必ず、私を元にって……いいのに、そんなこと。私は兄さんが元気で、勇者や皆が幸せであれば」

 エルロリスは頷き、私の額に小さな手を当てた。

「ねぇ、チャーリー……私が消えたら、エルシアに」
「嫌よ!」
「チャーリー?」
「これ以上の死亡フラグいらないです!!!! あの裸のおっさんには自分でお申し付けくださいなっ。むしろ天に帰れ!!! あんたが消えたら、あんのクソおっさんヤバい気がするわっっ!!!!」

 そうだ、『アレ』は私であって私ではない。あの過去はこの『エルロリス』のものでしかない。
 ソレを痛感する。
 このエルロリスも自分であって自分ではない。
『エルシア』の『情』は私ではなく『エルロリス』に注がれたもので、決して自分に対してではない。
 だが一つ分かった事がある。


 今の色々、私にまつわるアレやコレ、全っ部、妹への執着が原因系っっ!!!!!
 間違いないわ。エルロリス、あんたは『無事』に、天に戻らなきゃいけないっっ。じゃないと、地上が終わる気しかしないんですけど???


「エルロリス、手伝うわ。半分自分だし? 結構長いこと一緒にやってきた『仲間』だしね?! おっさん天使の所に帰してあげるから、手を貸してちょうだい」
「あのね。私って、あなただし、天使だから。口に出さなくても全部聞こえてるの。だから取り繕わなくても大丈夫よ」

 笑顔が痛い。
 悪気なく痛いところを責めてくる天使に顔を背ける。

「そ、そうね、人間には必要な建前もあるのよ……天使にはちょっと、分からないかもだけど」
「わかったわっ。知らないふりで聞いてあげるのね」
「……話を戻すと、大筋は変わらないと思うのよ? まずは『聖女』を闇に打ち勝てる存在に鍛える! で『勇者』を選ばせる! で、『魔王』を討伐させる! そこに『あんた』が混入中なわけだから……」


 考えようじゃないの。
 まずオリガは幼馴染大好きっ子だった。二人の為に奔走するも、結局システム的な面で聖女が自害して世界を救う事になってしまったわけだ。そんなシステム作った天使にブチ切れ進行中なわけで。
 無理じゃぁぁぁぁん!!!
 すでにおっさん天使の溺愛妹を封じ続けてるし? 獄に繋いでるとか言ってるし? まずそこもどうにかしないとっっ。
 いやいや、待て、何か抜け道が。
 しかし、勿体ない。
 髪も羽根も瞳も……元はさぞかし綺麗な、それこそフローレンスみたいな色……?


「エルロリス、私思うんだけど……聖女の力がUPするのに、あんたと同化するのは無理なわけ?」
「聖女と同化?」
「だって、あんたって勇者を助けようと手を貸してたわけじゃない? アレってほぼ聖女の行動に見えたんだけど」
「……私は、聖女じゃないよ」
「いやいや、聖女より天使って格上な気がしますけど?!」

 微妙な顔でしょんぼりしている天使は可愛い。
 確かにおっさん天使が可愛がるのも無理はない。残念ながら、その『愛』は私ではなく、この天使の物だ。


 あぁ、その愛があれば生き延びるの、もっと楽だったかも。


「……そういえば、あんたって『勇者』が好きなのよね? おっさん天……お兄さんからその辺りへの忠告とかそういうアレなアレはなかったのかな?」

 ここはしっかり聞いておかねばならないだろう。カエルだけじゃない、おっさん天使のブチ切れ度にも関わってくる事だ。
 つい先日だってブラコンとシスコンの知り合いが殺人事件を起こしかけただけに、事は慎重を期する。
 勇者と聖女が殺された時の彼女の悲しみを見れば、恐らくとは思うのだが――。

「好き?」
「愛してる的な、そういうのだよ」

 なんとなく気恥ずかしくなり後半は尻すぼみになる。
 だが天使は汲み取ったらしく、大きく頷いた。

「ええ、愛してるわ。世界を救う為に勇気を振り上げ立ち向かう、とても素晴らしい行いよ」
「……いや、そゆ愛じゃなくてぇ……うーん、もっとこう……キスとかそういう方向のよ!」

 本物の天使は小首を傾げている。


 いや、待て待て、もしかして純粋天使にいらない事を吹き込みかけてる? ってか種族天使ってマジで天使なわけ?? かつての私だよな?? え、繁殖方法……思い出せないっ!!


「みんな、愛してるわ」

 にっこり微笑む天使。
 穢れがその身に張り付いていても、清らかだ。まさに『人間』とは違うのだと理解した。

「そう……。エルロリス、さん? 私、思ったのよ。あんたの兄って何でもできるでしょ。あんたが聖女に乗り移ってるって知ったらシステム改変くらいしちゃうんじゃないかって。まぁその場合、聖女ごと天界に連れて行っちゃうかもだけど。それはそれで。いや勇者殺されるか?」


 フローが天界で生きていくのは応援してやってもいいが、カエルが殺されるのは可哀想すぎる。


「でも、私もあなたと同じで穢れてるから、光100聖女と合体はできないかも?」
「今さりげに私が汚れてるっていったよね? うん、大丈夫よ! 今の聖女は闇成分高いって悪魔のお墨付きもらってるんだから!!」
「うーん、でも」
「勿論すぐにじゃないの! イケそうなタイミングあったら一緒にその方向突っ走りましょうって話よ、エルロリス、さん!」
「……わかったわ」


 危ない危ない。
 今の私が、この天使成分のお陰で生きていられるんだとしたら、出て行かれたら……瞬間終了疑惑あるわ。


「タイミングはこっちで計ってくわ」
「うん。チャーリーの中にいるし、任せます」

 ペコリと頭を下げる天使に頷く。

「あ」

 天使が何かを思い出したように声を発する。

「あのね、えっと……ベオルファの事なんだけど」

 天使はモジモジと言葉を選んでいる。
 頬を染めて困っている姿まで様になっている。だが、エルロリスの身体から光が溶け出ているし、姿も薄くなりつつある。

「何のこと?」
「ベオルファくんの事」
「知らないです、いないです」
「いるよ! いつも一緒にいて助けてくれてるじゃない」


 そんな王子だか騎士みたいな奴いたか?
 大体独力で勝ちえてきたぞ、この生存競争激化世界。


 少し逡巡するも首を振る。
 どんどん薄くなる天使。

「いないわ、そんな奴。で、そいつが何?」
「あ、時間が……えっと、ベオルファくんは、まだ幼いから……聖女の祈りが聞こえたら、すぐに逃げるように伝えて。天使の奏で……」

 最後に微かに耳に届いたのは「る」だ。


 天使が奏でる何かがヤバいのか。それは人間にもヤバいのか言っていけ!!
 むしろベオルファ誰だよ!?

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