死亡回避困難で悪役令嬢は鬱ってる。―理想ENDは天使も悪魔も出し抜いて大往生ですけど?―

ムツキ

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第9章・思惑の行方

◆ 17・反組織の試験(後) ◆

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 空が見える広い試合会場には数組の傭兵や冒険者がいる。
 安全措置としてなのか、隅の方には治療師の証たる腕章をつけた集団もある。
 その中の二人となった私たち姉弟は、偽アレクサンダーを前に立っている。モニークは先ほど、用事があると姿を消した。

「エモノは何がいい?」

 武器は壁際にズラリと各種取り揃えてある。どれをつかってもいいのだろう。
 だがエイベルは答える。

「イノシシ」


 うん、分かってないね。それ食べたいものだよね?


「あんた武器は? 素手でいいの?」
「……いーよ」
「だ、そうです。ではよろしく」

 通訳を終え、少し離れた壁際に立つ。偽アレクサンダーは長剣を壁から取って、数度振り、エイベルの前に戻った。
 弟はわずかばかり、腰を落とした。
 空の青さは平穏そのものだというのに、私にまで二人の緊迫感が伝わってくるようだ。

「オレは、バカだけど……なんでかキモチは分かるんだ」

 急にエイベルが口にする。

「アンタは、オネーサマにイヤなコトをしたから……」

 偽アレクサンダーが抜き身の剣を手に、地面を蹴る。

『消えて』

 それは言外の言葉だったかもしれない。
 確かに声を聞いた。
 私の脳裏にまで叩きつけられた言葉は、そのままの力を発する。。彼の手が振るわれた剣より早く、男の首にかかり投げ飛ばした。

 壁に激突する音。

 広場の喧噪が消え、誰もが言葉を失っている。
 偽アレクサンダーが――壁で血を噴いている。
 どこから、なんてレベルを超越してダラダラと地面と壁を濡らしている。


 え……?


 エイベルが拳を作る。
 先ほどのは平手だったのだと気づき、更に愕然とした。
 彼が歩む。
 一歩。
 一歩。
 一歩と。


 いや、……まず、い……よね?
 と、止めなきゃ、もう死んでる? わかんない? 止めなきゃ、ヨーク家姉弟の暴挙って噂が、いやいやそうじゃない、生きてるならすぐに蘇生、あのざまで生きてる? わかんない。どうしよう?


 混乱のあまり言葉を失って、自分が何をすべきか結論がでない。
 その間に、エイベルは辿り着く――男の下へ。

「ダ……メ、だ……! エイベル……!!!!」

 私は叫ぶ。
 ピタリと止まった足とむけられた顔。瞳にゆらめく金色の陽炎。
 少年の姿をした怪物だ。そんな言葉がよぎる。
 深く、息を吸う。
 深呼吸、深呼吸、そして私が一歩を踏み出す。

「エイベル、試合は生かしておいてこそなんだけど? まだ生きてる?」

 毅然と口にできたと思う。
 淑女と貴族のプライドがこんな所で役に立つとは思わなかった。

「え? そー……なの?」

 エイベルの瞳がパチリと瞬きをし、陽炎が消える。

「どうしよう……息は、あ……、もう、止まりそう」

 私は大声で叫んだ。

「怪我人です!! 治療師を!」

 すぐに広場の数人が駆け寄ってくる。治療師が駆け寄る姿も視界に入れ、私は震えそうな自分を律していた。


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