328 / 375
第15章・共謀する聖人
◆ 5・料理と親交(後) ◆
しおりを挟む
「おはよう、エイベル!」
盆を手に、弟の部屋を蹴り開ける。淑女にあるまじき行為だが、盆には大量の料理が載っているのだから仕方ない。
惰眠を貪っていたエイベルは渋々といったていで、起き上がる。
ボサボサの赤毛は見た目の成長に伴い、子供時代よりも伸びている。私は盆をベッドに置き、弟の髪を梳かすべく櫛を手にした。
本来ならばメイドの仕事だが、こうした事の積み重ねが大事だろう。
ペットだって、自分で世話をすれば懐いてくれるって聞いたし?
幸い私には、長いリスタート人生で下働きの経験もある。
人の髪を梳かしたり着せたり、焼いたり煮たりといった最低限の料理、洗い物や洗濯。最低限の範囲なら出来るのだ。
「さぁ、こっちに頭を向けなさい」
「……いや、いい」
「そう言わず!」
彼の後ろを取り、髪に櫛を入れる。
「……いらないって……」
「まぁまぁ。こうしてると人生って無駄な事ないわねーって思うわ。過去の経験が生きてる感よ!」
「……うらやましいかもね。……うすいキオクのどれも、ヤクにたつ気しない」
おや?
今のって……自分の、異世界で過ごしてた方の過去の話よね? 自分の心を話すって、私の狙いがイイ感じに働いてるのかも!
「例えばどんな? 私がプラス面を見つけてあげるわよ?」
ここだ、とばかりに話を膨らませようとするが、エイベルは溜息で応じる。
「いらないし……。ってか、なんで朝から元気?」
「死にかけ人生だからね! 小鳥と鐘の音が聞こえないだけでハッピーな目覚めよ……」
「カネ?」
「人生にはトラウマ級の目覚めがあるのよ……」
彼は「ふーん」と呟き、私が髪をいじるのに任せた。
次に彼が口を開いたのは、食事を終えてからだ。
「まぁ、……ぼんやりした人生だったよ」
私の料理への評は一つも下さず、漏らす言葉。
料理の感想を聞くべきか、話を進めるべきか一瞬迷う。
「キオクはうすいけど……、ぜんぜんちがうトコだった。あちこちキレイだけど、とおくはセンソーとかあって、いろんなモンダイがあって。でもオレたちにしてみたらとおすぎて、ジブンでいっぱいの日々」
異世界っていうわりには、どの辺がこの世界と違うのか全く伝わってこないんだけど。
「ちなみにあんたはどんな家で、何してて死んだの?」
「うぁ……、人の心ないね、オネーサマ」
「失礼なっ」
だが彼も話す気はあるらしい。
「まぁ、ビョーキみたいなもの」
「ほう?」
「えいよーしっちょー」
「え? そっちでもソレだったの!? 貧乏だったの?!」
彼はあからさまな嘆息をつき、首を振る。
「くうヒマがもったいなかった。じかんたりなくて、いっぱいじかんほしくて、ねるじかんとか、たべるじかんとかすてて……きづいたら、死んでた」
「ハードな人生だったのね……エイベル」
姉らしい言葉を言えたと思ったが、彼は無言で目を逸らした。
「そーゆーコトでいいや。まぁ、そういうわけで……ぼんやりした人生。まさか、くいものにクローするなんて思わなかった。でもオレにはザマァなのかもね」
「誰がザマァなの?」
「まぁ、ウンメイとか、そーゆー」
弟は子供の姿の頃の方が良かった。大人になった途端、こんなにも暗い思考になっているとは予想外だ。
食べ終わった皿を盆に載せる。このままここにいて私まで暗くなるのは勘弁だ。さっさと退場するに限る。だが人生の先輩として一言。
「馬鹿ね! 昔のあんたはともかく、今のあんたはそいつらを打ち負かす力があるのよ! この姉がしっかりとサポートしてやるから、力つけて、ぶちのめすのよ! 負けたくないならね」
二言でも収まらなかったが、彼は瞳を瞬かせた。
盆を手に、弟の部屋を蹴り開ける。淑女にあるまじき行為だが、盆には大量の料理が載っているのだから仕方ない。
惰眠を貪っていたエイベルは渋々といったていで、起き上がる。
ボサボサの赤毛は見た目の成長に伴い、子供時代よりも伸びている。私は盆をベッドに置き、弟の髪を梳かすべく櫛を手にした。
本来ならばメイドの仕事だが、こうした事の積み重ねが大事だろう。
ペットだって、自分で世話をすれば懐いてくれるって聞いたし?
幸い私には、長いリスタート人生で下働きの経験もある。
人の髪を梳かしたり着せたり、焼いたり煮たりといった最低限の料理、洗い物や洗濯。最低限の範囲なら出来るのだ。
「さぁ、こっちに頭を向けなさい」
「……いや、いい」
「そう言わず!」
彼の後ろを取り、髪に櫛を入れる。
「……いらないって……」
「まぁまぁ。こうしてると人生って無駄な事ないわねーって思うわ。過去の経験が生きてる感よ!」
「……うらやましいかもね。……うすいキオクのどれも、ヤクにたつ気しない」
おや?
今のって……自分の、異世界で過ごしてた方の過去の話よね? 自分の心を話すって、私の狙いがイイ感じに働いてるのかも!
「例えばどんな? 私がプラス面を見つけてあげるわよ?」
ここだ、とばかりに話を膨らませようとするが、エイベルは溜息で応じる。
「いらないし……。ってか、なんで朝から元気?」
「死にかけ人生だからね! 小鳥と鐘の音が聞こえないだけでハッピーな目覚めよ……」
「カネ?」
「人生にはトラウマ級の目覚めがあるのよ……」
彼は「ふーん」と呟き、私が髪をいじるのに任せた。
次に彼が口を開いたのは、食事を終えてからだ。
「まぁ、……ぼんやりした人生だったよ」
私の料理への評は一つも下さず、漏らす言葉。
料理の感想を聞くべきか、話を進めるべきか一瞬迷う。
「キオクはうすいけど……、ぜんぜんちがうトコだった。あちこちキレイだけど、とおくはセンソーとかあって、いろんなモンダイがあって。でもオレたちにしてみたらとおすぎて、ジブンでいっぱいの日々」
異世界っていうわりには、どの辺がこの世界と違うのか全く伝わってこないんだけど。
「ちなみにあんたはどんな家で、何してて死んだの?」
「うぁ……、人の心ないね、オネーサマ」
「失礼なっ」
だが彼も話す気はあるらしい。
「まぁ、ビョーキみたいなもの」
「ほう?」
「えいよーしっちょー」
「え? そっちでもソレだったの!? 貧乏だったの?!」
彼はあからさまな嘆息をつき、首を振る。
「くうヒマがもったいなかった。じかんたりなくて、いっぱいじかんほしくて、ねるじかんとか、たべるじかんとかすてて……きづいたら、死んでた」
「ハードな人生だったのね……エイベル」
姉らしい言葉を言えたと思ったが、彼は無言で目を逸らした。
「そーゆーコトでいいや。まぁ、そういうわけで……ぼんやりした人生。まさか、くいものにクローするなんて思わなかった。でもオレにはザマァなのかもね」
「誰がザマァなの?」
「まぁ、ウンメイとか、そーゆー」
弟は子供の姿の頃の方が良かった。大人になった途端、こんなにも暗い思考になっているとは予想外だ。
食べ終わった皿を盆に載せる。このままここにいて私まで暗くなるのは勘弁だ。さっさと退場するに限る。だが人生の先輩として一言。
「馬鹿ね! 昔のあんたはともかく、今のあんたはそいつらを打ち負かす力があるのよ! この姉がしっかりとサポートしてやるから、力つけて、ぶちのめすのよ! 負けたくないならね」
二言でも収まらなかったが、彼は瞳を瞬かせた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる