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第五章 わたしを孕ませて
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◆天崎真琴/七年前
すっかり日が暮れた。
わたしはちぎれた鉄柵を握りしめたまま放心していた。
わたしの身体の下で、ぐちゃぐちゃになった拓真の身体が蠢き、飛び散った肉と肉とがくっつきあって、拓真の腕を、胴を、胸を、首を、頭を、再生していく。
わたしはため息とともに、再度、鉄柵を振り下ろす。
再生しかけた拓真の身体は、ぐちゃっと汚い音を立てて潰れ、飛び散った。
「どうしよう……これ」
わたしは途方に暮れた。
わたしに何か不思議な力が宿ったのはわかっている。
現に、わたしが鉄柵を振るうたびに、たいした力をこめてもいないのに、拓真の身体はぐずぐずに潰れ、溶け、その形を失うのだ。
しかし、拓真はしぶとかった。
わたしが何度拓真の肉を裂いても、刺しても、潰しても――動画の逆再生でも見ているかのように、血肉がひとりでに集まってきて、もとの身体を取り戻そうとするのだ。
「でも、やらなくちゃ……」
わたしは嘆息とともに鉄柵を振り上げた。
その腕を、誰かがつかんだ。
「美奈恵――っ」
わたしはうかつにも、美奈恵の存在を忘れていた。
ぼろぼろになったワンピースの破れ目からは傷や痣が無数にのぞいていて、美奈恵は立っているのもやっとのようだった。
美奈恵は、自分でつかんだわたしの腕に逆にひっぱられるようにして、わたしの前に倒れ込んだ。
いや――わたしの前にではなく、拓真の前に、だ。
「真琴ぉ、弟にそんなことしちゃダメだよぉ」
美奈恵の口調はいつも通りのおどけたものだったが、その表情には力がなく――しかし、目だけが据わっていた。
「こんなやつ……、もう、弟じゃない。美奈恵を……、美奈恵を……っ」
「あたしはべつに、恨んでないよぉ?」
「でも、こいつは――!」
「だって、気持ちよかったし? めちゃくちゃにしてって言っても、ふつうここまではやってくれないんだよ。どんなサディストの男でも、ぜったいにあたしのことを気遣ってくれちゃうんだぁ。でも、拓真ちゃんはちがった」
「それはこいつが――」
「うん。拓真ちゃんは真琴のことが好きなんだけど、真琴はあたしとなかよしだからねぇ。拓真ちゃんはあたしが邪魔なんだ。だから、徹底的に壊そうとしてくれたんだよね。気持ちよかったなぁ……痛くて、苦しくて、切なくて、悲しくて、気持ちよかった」
「そんなの……っ」
「真琴には、わかんないかなぁ。でも、あたしと拓真ちゃん、相性はいいと思うんだぁ。拓真ちゃんはぜったい認めないだろうけどねぇ」
美奈恵はふるえる腕で身体を起こし、ぐちゃぐちゃになった拓真の上にまたがった。
「ねえ……真琴ぉ?」
「……なんだ?」
「真琴が拓真ちゃんなんか要らないって言うならさ……あたしがもらっちゃってもいいよねぇ?」
わたしは展望台の地面に腰をおろし、足を投げ出した。
首をうしろにのけぞらせて見上げた空は、真っ赤に燃える地平線を残して、夜の藍色に染まっていた。
わたしは手で顔を覆おうとして、まだ鉄柵を握ったままだったことに気づいた。
硬直した指を苦労して剥がして、わたしは鉄柵を地面に放り出した。
わたしは大きく息を吸い、大きく吐いてから、言った。
「……いいよ。美奈恵にあげる――そんなの」
――思えば、わたしからのプレゼントを美奈恵が心から喜んでくれたのは、後にも先にもその時だけだったかもしれない。
すっかり日が暮れた。
わたしはちぎれた鉄柵を握りしめたまま放心していた。
わたしの身体の下で、ぐちゃぐちゃになった拓真の身体が蠢き、飛び散った肉と肉とがくっつきあって、拓真の腕を、胴を、胸を、首を、頭を、再生していく。
わたしはため息とともに、再度、鉄柵を振り下ろす。
再生しかけた拓真の身体は、ぐちゃっと汚い音を立てて潰れ、飛び散った。
「どうしよう……これ」
わたしは途方に暮れた。
わたしに何か不思議な力が宿ったのはわかっている。
現に、わたしが鉄柵を振るうたびに、たいした力をこめてもいないのに、拓真の身体はぐずぐずに潰れ、溶け、その形を失うのだ。
しかし、拓真はしぶとかった。
わたしが何度拓真の肉を裂いても、刺しても、潰しても――動画の逆再生でも見ているかのように、血肉がひとりでに集まってきて、もとの身体を取り戻そうとするのだ。
「でも、やらなくちゃ……」
わたしは嘆息とともに鉄柵を振り上げた。
その腕を、誰かがつかんだ。
「美奈恵――っ」
わたしはうかつにも、美奈恵の存在を忘れていた。
ぼろぼろになったワンピースの破れ目からは傷や痣が無数にのぞいていて、美奈恵は立っているのもやっとのようだった。
美奈恵は、自分でつかんだわたしの腕に逆にひっぱられるようにして、わたしの前に倒れ込んだ。
いや――わたしの前にではなく、拓真の前に、だ。
「真琴ぉ、弟にそんなことしちゃダメだよぉ」
美奈恵の口調はいつも通りのおどけたものだったが、その表情には力がなく――しかし、目だけが据わっていた。
「こんなやつ……、もう、弟じゃない。美奈恵を……、美奈恵を……っ」
「あたしはべつに、恨んでないよぉ?」
「でも、こいつは――!」
「だって、気持ちよかったし? めちゃくちゃにしてって言っても、ふつうここまではやってくれないんだよ。どんなサディストの男でも、ぜったいにあたしのことを気遣ってくれちゃうんだぁ。でも、拓真ちゃんはちがった」
「それはこいつが――」
「うん。拓真ちゃんは真琴のことが好きなんだけど、真琴はあたしとなかよしだからねぇ。拓真ちゃんはあたしが邪魔なんだ。だから、徹底的に壊そうとしてくれたんだよね。気持ちよかったなぁ……痛くて、苦しくて、切なくて、悲しくて、気持ちよかった」
「そんなの……っ」
「真琴には、わかんないかなぁ。でも、あたしと拓真ちゃん、相性はいいと思うんだぁ。拓真ちゃんはぜったい認めないだろうけどねぇ」
美奈恵はふるえる腕で身体を起こし、ぐちゃぐちゃになった拓真の上にまたがった。
「ねえ……真琴ぉ?」
「……なんだ?」
「真琴が拓真ちゃんなんか要らないって言うならさ……あたしがもらっちゃってもいいよねぇ?」
わたしは展望台の地面に腰をおろし、足を投げ出した。
首をうしろにのけぞらせて見上げた空は、真っ赤に燃える地平線を残して、夜の藍色に染まっていた。
わたしは手で顔を覆おうとして、まだ鉄柵を握ったままだったことに気づいた。
硬直した指を苦労して剥がして、わたしは鉄柵を地面に放り出した。
わたしは大きく息を吸い、大きく吐いてから、言った。
「……いいよ。美奈恵にあげる――そんなの」
――思えば、わたしからのプレゼントを美奈恵が心から喜んでくれたのは、後にも先にもその時だけだったかもしれない。
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