イヴィル・バスターズ ―STEEL LOVES FLOWER―

天宮暁

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第五章 わたしを孕ませて

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◆天崎真琴/――

 わたしの前で、瞬が崩れ落ちた。
 がくんと首を垂れ、放心状態に陥ってしまったようだ。
 実際、ショッキングな場面ではあった。
 久瀬倉春姫の頭は、鬼の力で潰され、茶色い脳漿をふりまきながら砕け散った。
 白衣びゃくえを纏った久瀬倉春姫の身体は、一瞬の痙攣の後にがくんと弛緩し、動かなくなった。
「へえ、さすがは巫女……というべきかな。なかなか蓄えてるね」
 久瀬倉春姫の砕けた頭蓋を握りしめたまま、拓真の腕がどくどくと脈打っている。忌獣のような原始的な存在と異なり、自分自身が鬼となった、忌累機関でも類を見ない忌的存在である拓真は、久瀬倉春姫を『食う』のに直接的な摂食行為を必要としないのだろう。
 が――
「……馬鹿だな、おまえは」
 わたしはつぶやいた。
「え? なんのこと、姉さん」
「馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、ここまで馬鹿だとは思わなかった」
「だから――なんのことだよッ、姉さん!」
 拓真がいらついた声を上げる。
「わたしはこんな馬鹿を相手に戦うことを諦めたのか……。まったく、瞬に説教のできる筋合いじゃなかったな」
「だから――ッ! なんだと聞いてるんだよ、姉さんッ!」
 拓真の一喝とともに、拓真を中心に颶風が巻き起こった。
 わたしは茫然とする瞬の前に割り込み、両腕を構えて、コートをなびかせる颶風に耐えた。
 颶風には無数のかまいたちが伴っていて、〈絶対遮断〉のあるわたしの身体にこそ効かないものの、忌獣との戦闘用に作られたはずの偽装スーツのあちこちが一瞬で切り裂かれていた。
 ただ昂ぶった感情を解き放っただけでこうだ。もし本気になってその力を振るえば、どれほどの災厄を巻き起こすのか、想像もつかない。
 そう、これこそが鬼――最強とされる忌的存在の力なのだ。
 しかし、
「ぐ――っ!?」
 拓真が突然胸を押さえ、苦しみはじめた。
「な、なん……だ――!? 姉さん、ぼくに、何をしたの!?」
「見ていたろう? わたしは何もしていない」
「そんな、馬鹿な……それじゃ、これは……一体……!?」
「そういえばおまえは、久瀬倉春姫のことを、『巫女』とばかり呼んでいたな。おかしいとは思っていたんだ」
「な……に……?」
「それも間違いではないが、正確な表現ではない。久瀬倉春姫は贄姫にえひめ――久瀬倉家の擁する特殊な能力者だ。おそらくは忌霊によってもたらされた、一種の呪いとも言うべき能力なのだろうな。贄姫は、『鬼に食われることで鬼を食う』のだそうだ」
「鬼に……食われることで……鬼を……?」
「その贄姫を――おまえは、食った」
「馬鹿な……そんな忌能……あるわけが……」
「だから、特殊な能力だと言っているだろう? 贄姫の力は忌能ではなく、おそらくは贄姫に取り憑いた忌霊がもたらす、嫌がらせじみた能力なんだ。だが、侮れないぞ。なにせ、〈万代〉で散った代々の贄姫の妄念が結晶化したような能力なんだからな」
「くっ……なんだ……これ……僕の力が……」
「ちょっと美奈恵の記憶を探ればわかることだったのだがな。慢心したのか興奮したのか知らないが、余計な記憶ばかり探って、肝心の記憶が手つかずとは笑わせる。……もっとも、おまえに本体である『鬼』を喰われてしまったからな。贄姫――久瀬倉春姫にその力が残っているかどうかは、正直、分の悪い賭けだった」
「ぐ……あ……っ……吸われ……」
「わたしの手でおまえを殺せないのは残念だが、これでよかったのかもしれないな。わたしがおまえを殺したら、それはそれでおまえにとっては喜びなんだろう?」
「くそぅ……こんな、ことって……」
「わたしもこれまで、何度となくそう思ったが、現実は受け入れてもらうほかない。
 さらばだ、拓真。もう二度と会うこともないだろう」
「姉……さん……ねえ、さ……、――がはぁっ!」
 拓真の背中が大きく膨らんだ。
 その膨らみは気味の悪い蠢動を繰り返す。
 そして――
「ぐあああああああっ!!」
 拓真の背中が割れた。
 そのなかから、血と肉と粘液にまみれた塊がふたつ、飛び出してきた。
 それは、
「うええええっ。酷い目にあったよぉ~」
「……何度やっても慣れないものですね」
「美奈恵!」
「く、久瀬倉さん!」
 一糸まとわない姿で拓真の身体(もとは美奈恵の身体だが)から飛び出してきたのは、美奈恵と久瀬倉春姫だった。
「うへ、これ、あたしの身体なのぉ? すっご、気持ち悪ぅ……」
 拓真を見下ろし、美奈恵が口許を押さえている。
「久瀬倉さん!」
「三峯……君? どうして、ここに……」
「どうしてって、君を助けに来たに決まってる! 真琴さんたちに頼んで――」
「え? 真琴さん?」
 久瀬倉春姫がわたしの方を向いた。
「よう。昨夜ぶりだな。さっそく対価をもらうことになった。助かったぞ、春姫」
「いえ、どういたしまして。よく状況がわかりませんが、わたしの依頼は……」
「大丈夫だ。もう、終わる」
「えっ……? ちょっと、真琴さん……?」
 疑問の声を上げる瞬に、
「後で説明してやるよ。今はこっちだ」
 そう言って、わたしは背中を大きくえぐられた拓真を見下ろす。
 そんな状態になりながらも、拓真にはまだ息があった。
 こいつを殺しきるのは、贄姫の力をもってしても不可能だったのか。
「美奈恵」
「あいよ~」
 豊満な胸を揺らしながらやってきた美奈恵は、うつぶせに倒れた拓真を裏返す。
「くっ……美奈恵……さん……?」
「ぴんぽ~ん。正解~。優秀な拓真ちゃんにはもう一問プレゼントぉ~。さて、いまからあたしは何をするでしょう?」
「まさか……また……」
「その、ま・さ・か……だよぉ?」
「い、嫌だあああ、あんな、あんなところにまた閉じ込められるなんて、嫌だあああああっ!」
 拓真はそう喚き、もがくが、どういう手品か、馬乗りになった美奈恵はびくともしない。
「まぁたそんな。男の人ならたいてい、『挿れたい』って思う場所なのにぃ」
「それは、ふつうのセックスの話だろぉ!? やめてやめてやめて……あそこは本当に苦しいんだ!」
「ダメぇ~。拓真ちゃん、今回はさすがにおいたがすぎたよぉ?」
「ごめん、ごめんなさい、謝る、謝るからぁ! だからお願い、助けて、助けてぇ!」
「うふふ~。そんなに喜んでくれるとあたしもがんばりがいがあるなぁ」
「どっ……、どこが喜んでるんだよ性病で目まで悪くなったのかこの腐れビッチ!」
「ひっどぉ~い。そんなこと言う子には、手加減なんていらないよね?」
「嘘ですやめて助けてごめんなさいごめんなさい……」
「あれ? 拓真ちゃんのココ、萎れちゃってるよぉ?」
「だから勃つわけないだろこんな状況で馬鹿かこの脳内性病女っ! なんで姉ちゃんはこんな女がいいんだよぉ!」
「だからぁ、あたしと美奈恵は拓真ちゃんの邪推してるような関係じゃないんだけどぉ。ま、勃たないならしょうがないね」
 そう言って美奈恵は右手で手刀を作った。
 その手刀が淡く輝く虹色の光を纏った。
「拓真ちゃんが春姫ちゃんを食べちゃったときのを参考にしたんだぁ。行っくよぉ~」
「待ってやめて助けてごめん、そうだ、僕、僕、美奈恵さんのことが昔から好きで……っ」
「嘘つきは死んじゃえ♪」
「ぐあああああっ!」
 美奈恵の手刀が拓真の腹部に潜り込んでいった。
「があああああっ! ぎゃあああああっ!」
「あはっ、拓真ちゃん、いい声♪ もっと、もっと鳴いて♪」
 美奈恵は拓真の腹の中で指をこねているようだった。
「ぐぎゃああああっ! があっ、ぐはああああああっ!」
「あはっ♪ やっぱり拓真ちゃんは最高だよぉ。もう、こんなの味わっちゃったら、しばらく他の男なんて食べられないかもぉ♪」
「ぐっはぁ、ぐがあああっ、ごっ、ごっ、ごぼおおおおお!」
 絶叫し、腹から血を噴き出す拓真の上で、全裸の美奈恵が淫らに腰を動かしている。
「あっは、気持ちイイ♪ 絶頂が止まらないよぉ! 拓真ちゃん、拓真ちゃん、拓真ちゃああああんっ!」
「がはあぁぁぁっ! ごおおおお、げえええ、ぐああああっ!」
 拓真が苦悶の声を上げるたびに、美奈恵の開けた傷口から虹色の光が溢れ、美奈恵の身体――子宮へと吸い込まれていく。そのたびに拓真の輪郭が薄くなり、その姿が徐々に透けていく。

 壮絶な疑似セックスは、拓真の身体が完全に解体され、虹色の光となって美奈恵の子宮に取り込まれるまでのあいだ続いた。
 満ち足りた顔で眠る美奈恵を背負い、顔を真っ赤にした瞬と春姫とを連れて外に出たとき、空はもう茜色に染まっていた。
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