Vtuberだけどリスナーに暴言吐いてもいいですか?

天宮暁

文字の大きさ
10 / 34

#10  手慣れた準備

しおりを挟む
「それより、パソコンよ! マジキャスから支給されたのがあるんだけど……」
 神崎は、勉強机の上にあったノートパソコンをテーブルの上に置いた。
 ……有名どころのゲーミングノートだな。
 けっこうゴツくて、この部屋では明らかに浮いている。

「触っていいか?」
「触らないと始まらないでしょ」
 一応断ってからノートパソコンを開く。
「やるのはいいけど、自分でも覚えてくれよ? たぶん毎回設定がいるはずだし」
「うぐ……」
「神崎ってパソコン苦手なの?」
「自慢じゃないけど、ライバーになるまで触ったこともなかったわ!」
「本当に自慢じゃないな」
 いまどきの女子高生ならそんなもんだろうか。ネット利用はほとんどスマホで、パソコンなんて情報の授業で触るくらい。俺もいまどきの高校生だけどな。

「ひょっとして、配信環境以前にパソコンの操作が全然わからない?」
「うん」
「マジか……」
 同じ年代でも男女でそんなにちがうのか。それとも、これがリア充とオタクの違いなのか?

「それなら、おまえが操作して、俺が後ろから説明するか?」
「イヤよ! あんたが後ろからのしかかってくるみたいで怖いじゃない!」
 自称・空手の有段者がそう言った。
「おまえな……じゃあ、俺が説明しながら操作するから、後ろから見て覚えろよ」
「それならいいわ」
「ったく、教えるのはこっちだってのに。覚えられなくても自己責任だからな」
 こういうのは、見てるだけだとなかなか覚えられないもんだ。自分で操作しながらのほうが理解が早いと思ったんだけどな。

「べつに、使ったことがないってだけで、機械音痴なわけじゃないし。基本的にはスマホと一緒でしょ? マウスとかキーボードとかはよくわかんないけどさ」
「それもそうか。じゃあ、起動して……おっ、早いな」
「そうなの? スマホなら一瞬じゃない」
「パソコンは電源入れっぱなしじゃないから」

 俺はデスクトップをざっと見る。
「配信に必要なアプリは全部入れてくれてるみたいだな」
「有料のアプリも事務所で課金してくれてるって言ってたわ」
「じゃあ使えよな、もったいない」
 ブツブツ言いながら、俺はアプリを開いて配信画面を作ってみる。

「マイチューブのコメントを取り込むには……ええと、調べるか」
「なによ、あんたもわかんないんじゃない」
「こういうのは検索すれば誰かがまとめてくれてるから。おっ、これか。コメントをポップアウトして、配信画面にドラッグ。サイズ調整はこれ。背景を消すには……CSSで指定するのか」
「なにこれ、暗号?」
「コメ欄の背景を消す魔法の言葉だな。俺もちゃんと理解できてる自信はない。自動生成できるサイトがあるのか……英語だけど、わかるか?」
「小さい頃海外にいたから、英語はそれなりにわかるわよ」
「へえ。羨ましい話だな」
 英語に不安がないっていうのは、受験では絶対有利だよな。

「それよりあんた、パソコン使いながらぶつぶつ言うの、いかにもオタクって感じよね。ハマりすぎてて笑っちゃうわ! ぷくくく……!」
「おまえのために説明してるんだるるおぉぉっ!?」
「よくわかんないけど、さっきのまとめの通りにやればいいんでしょ? あんたにできたんだからわたしにも当然できるはずよね。なんだ、思ったより簡単じゃない! これならあんたに頼むまでもなかったかしら」
「そ、ソウデスネ……」
 俺は頬を引きつらせる。
 言いたい放題言いやがって。温厚なかざみんが着拒するわけだ!

 俺は大きくため息をつくと、気を取り直して画面に戻る。
「顔認識のアプリはこれだろ、モデルは……入ってるな。
 おお、すげえ! これが七星エリカの生モデルか! ぬるぬる動く! テクスチャすげえ! うおおおっ!」

 俺は、画面をドラッグして七星エリカの3Dモデルを回転させる。
 普段の配信ではこんなに動かないから新鮮だ。
 しかも、俺の意のままにキャラが動く! 視点が動く!
 俺はいろんな角度からモデルを鑑賞し――ガッ!と、マウスを握る手を掴まれた。

「ちょっとあんた! なに当然のようにスカート覗こうとしてんのよ!?」
「ハッ! ついクセで」
「どんなクセよ! クセっていうか性癖じゃない! わたしのパンツ覗かないでよね!」
「す、すまん。大丈夫、リアルのおまえには興味ないから」
「それ、何気に失礼よね!? っていうか、エリカにはきっちり萌えてるってことじゃないの!」
「あーあー知らない知らない。えっと、モデルを配信アプリの枠に入れればいいんだろ」
「誤魔化すんじゃないわよ! って、あら、いいじゃない。キャラとコメント欄ができたわ!」
「背景画像とかBGMとかもらってたりする?」
「使えそうなのを入れておいたって言ってたけど」

「お、あったな。これで……どうだ!」
 天の河を背景に、画面中央に七星エリカ。
 エリカがいつも配信で流してるBGMがかかり、画面右上にはコメント欄。
 エリカが頼りなげにふらついてるのは、カメラがパソコンの前にいる俺の顔を認識してるせいだな。

「へえ! それっぽくなったじゃない!」
 俺の肩越しに画面を覗きこんで、神崎がはしゃぐ。
 混じり気のない神崎の笑顔が、俺の顔のすぐ横に現れる。

(ち、近っ!)
 作業に夢中になって気づいてなかったが、触れそうなほど近くに神崎がいる。
 ふんわりと甘い女の子の匂い。神崎が身を乗り出すたびに、なにか弾力のあるものが俺の背中をかすめてる。

「やるじゃない! まるで自分でもやったことがあるみたいね!」
「……ライバー見てるうちに気になって、アプリをいじったりはしてたから」
「へええ! 見上げた向上心じゃない! 自分でも・・・・配信を・・・やってみよう・・・・・なんて! ま、あんたじゃリスナーが集まらないでしょうけどね!」
 当然のように、神崎が言ってくる。

 俺は慌てて、
「い、いや、配信するつもりはねえよ。ただ、ライバーの話についてきたかったからさ。たまに、配信でも機材やアプリの話してるじゃん?」
「ふぅん? よくわかんないわね。興味あるならやってみればいいのに。Vtuberなら、あんたの顔が悪くても関係ないわけだし」
「……か、顔が悪くて悪かったな」
 いっそう近づいてきた神崎から、身を屈めるようにして距離を取る。

「……ん? あんた、なんでさっきから前かがみになってんのよ。何か隠してるわけ?」
「あ、おい! 覗くな!」
 神崎が身を乗り出し、俺の肩から俺の手元を覗く。
 当然、思春期男子のデリケートな部分も目に入るわけで……
「なっ、なにおっきくしてんのよバカぁぁぁっ!」
「どわああっ!?」
 おもいっきり突き飛ばされ、テーブルの脇に置かれた飲み物に、頭から突っ込んだ。大事な配信用PCを守ろうとして避けれなかったんだ。

「つ、冷たっ!」
「ちょっと、なにやってんのよ!」
「それは俺のセリフだろ!」
「あんたがエロいこと考えてるからいけないんでしょ!?」
「おまえがくっついてきたんだろ! 男ならこうなるっての!」
「へ、へえ……そうなんだ」
「ちょ、ガン見してんじゃねえよ! っていうか、タオルか何か貸してくれ。ベタベタする」
 二人分のジュースを頭からかぶったせいで、上半身がべとべとだ。

「タオルくらいじゃどうにもなんないでしょ。しょうがないわね……お風呂使って。そのあいだに服を洗って乾燥機にかけるわ」
「悪いけどそうさせてもらうか」
「……言っとくけど、お風呂の中で変なことしないでよ?」
「しねえよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...