こうもりのねがいごと

宇井

文字の大きさ
11 / 47

11

しおりを挟む
 アスランはこれまで異性同性に関わらず付き合ったことがない。性経験もない。

 十代の頃、一度だけ、閨の指南役という女性との機会が設けられた。
 相手は若くはあったがどこかこなれた様子で、どうみても玄人の女性。彼女の手が懸命にアスランのふにゃけた物を元気にさせている途中でそれは起こった。

 アスランの目が大きくなり、瞳の紫が血の色に変わる。そして丸い瞳孔が縦に裂けたのだ。
 そして、これまでやり場がなく彼女の背に回していた手の爪は鋭利に伸び黒色にかわっていた。
 彼の変異に気付いた彼女は大声を上げ、ベッドから転げ落ち小机で額を切って気絶した。  
 これまで見た事がない部分変異。それも美形とされる少年が今にも食い掛からんとしている猛獣にみえ彼女は戦慄したのだ。
 その騒動のあと、アスランの相手をしようという猛者は現れなかった。
 アスランの相手をした女性が食われ、ベッドは血の海になったと一部で噂が広がったのが原因だった。
 アスランには相手を傷つける理由がない。生きている女性を襲い血肉を食らう趣味もないのだが、意識せず出てしまう物を制御するのは難しい。
 他の龍は無事にその儀式を通過していたのに、アスランには無理だった。きっと誰が相手となっても他を圧倒する獣性が出てきてしまうのだろう。
 時は流れそんな噂もなくなってしまっていたことに加え、アスラン自身も誰かを求めることを放棄してしまっていた。
 それでも彼はその見目もあり注目されていた。
 男性であっても彼の姿をつい追ってしまう。女性などは目が合うとキャっと声を上げて赤くなった顔を扇子で顔を隠し、それでいて集団になるとこちらを見てはキャッキャッとうるさい。
 一体何がしたいのかわからず白けるだけだ。
 アスランがいた国はとても窮屈で、その国の誰にも心惹かれなかった。
 しかしここは違う。
 誰の好奇の目もない場所で、アスランは自由を感じていた。
 この地へやってきて一週間。
 そろそろ暇になってきたと言う所で、ジイが送ってきた小さな蝙蝠は可愛らしかった。

 コウを家に入れ体を拭くように、寝衣として渡したシャツに着替えているようにといった。
 こんな上等な物は着られないと、慌てて辞退するのを強引に持たせることができた。あとは同じベッドに引きずり込むだけだ。
 実はアスランはベッドに横になり、堂々とコウの着替える姿を楽しんでいた。
 背を向けながらも、ちらちらとたまにこちらを窺う素振りが初々しく好ましい。

 コウは策略を巡らさない。コウは別荘が欲しいだの流行のドレスの話などしない。屑となった木の実が捨てられないとかもかわいすぎる。
 コウは蝙蝠姿であって可愛い。でも抱っこした時に触れた尻がかわいいから、やはり人化した方がいい。
 食べたい……
 尻を食べたい……

 アスランはコウを堪能しゴクリと喉を鳴らしてしまっていた。
 自分をいやらしい目でみる龍がすぐ後ろにいるとは、そして自分の尻が狙われる立場であるとは思いもしないコウは背中とお尻、無防備な素肌をさらしてしまっていた。
 
「着替え終わりました。あの……アスラン様、どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
「本当ですか?……お顔が……少し……失礼していいでしょうか」
 
 首をかしげた後、こちんとコウが額を合わせてくる。
 すぐ近くにコウの潤んだ瞳がある。その瞳がゆっくりと近づいてきていた。

 な、何事がおこっている……
 
「こ、これは」
「こうして熱を測ることができるのだと、聞いたことがあります」
「コウはこうして測ったことがあるのか、誰にだ?」
「え? こういうやり方もあると知っていただけです。誰かに試したことはありません」
「そうかそうか」

 ならばよい。
 アスランはそっと胸をなでおろす。熱を測ると称してコウにいけないことをしようとした奴がいたのかと思ったのだが、そうではないようだ。
 
「えっと、熱は、ないように思います」

 コウと触れ合った場所から熱が冷めていくのが寂しい。

「いや、どうだろう。何しろコウは初心者だ。熱を測るのは初めてだろう。だったら慎重を期して、もう一度やってくれるか」
「それもそうですね、わかりました」

 素直なコウは言いつけを守る。
 そっと顔が近づき、おでことおでこが触れ熱が伝わる。
 ここで少し唇を突き出したら届くだろうか。少し触れたくらいなら気のせいだと思ってくれるだろうか。
 不埒な男はこの世でもっとも自分がアホであると自覚していない。
 コウが眠りに入った後、アスランはコウの腰を抱き、肩を甘噛みしながら己の理性と闘っていた。
 甘い匂いがするのだが、食べてはいけない。たとえ骨と皮だけの体でも美味しいのがわかるのに、食べてはいけない。
 コウを頭からほおばり、バリバリと噛み砕いて胃におさめてしまいたい。
 抱きしめてその全身を舐めて、自身の猛りを埋め込んでしまいたい。
 そのどちらもをアスランは望み欲している。しかしそれはコウの承諾なしにやってはいけないことだ。
 アスランはコウを抱き寄せて、唇の届く範囲にあるコウの甘い頬と滑らかな首筋と頼りない肩を、いつまでもかぷかぷと噛んでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

処理中です...