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第三章 本物と偽物
5. 嬉しくて、でも少し切ないクリスマス
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クリスマス当日。一緒に会社を出た彩子と洋輔は予約していた店へと向かった。クリスマスに男女で一緒に行動していれば何か言われそうなものだが、普段からよく飲みにいったりしているせいか誰も何も言わなかった。同僚たちはただお疲れさまと見送ってくれた。
予約した店は和食の店だった。海鮮料理に惹かれてここを選んだ。洋輔はコースで予約してくれていたので、飲み物だけ注文して料理が運ばれてくるのを待った。
「外で和食って久しぶりだね」
「そうかも? いやー、お魚に惹かれちゃったんだよね」
「彩子は肉より魚だもんね」
「うん。お刺身おいしいじゃん」
「本当海鮮好きだね。今度お寿司でも食べいく?」
「え、行く! 行きたい!」
「ははっ。そんな行きたいの? じゃあ、年明けにでも行こっか」
「やったー! ありがとう」
そんなふうにお寿司の話で盛り上がっていれば、徐々に料理が運ばれてきた。お刺身を頬張って顔をほころばせていれば、洋輔に自分の分も食べていいと言われ、いやそこは一緒に楽しみたいのだと抗議した。
そうして楽しく食事をしていれば、あっという間にデザートがやってきた。黒蜜きな粉のわらび餅だ。デザートを前にわくわくしていれば、洋輔が待ったをかけるように声をかけてきた。
「彩子。はい、これ。クリスマスプレゼント」
洋輔のことだから用意してくれているとは思ったが、実際に渡されると嬉しいものだ。だが同時に先日のことが思いだされて複雑な気持ちになる。それを振り払うように彩子は明るい声を出した。
「ありがとう! 開けてみてもいい?」
「どうぞ」
丁寧に包装を解いてプレゼントを開けてみれば、シックなデザインの手袋が出てきた。まさに彩子好みのデザインだ。冷え性の彩子のことを想って選んでくれたのだろう。これ以上ないほどに嬉しいプレゼントだ。
しかしこのデザインの手袋はきっと洋輔がいたあの店には置かれてないだろう。少し切ない気持ちが蘇ってくる。
「ありがとう、洋輔。このデザインめっちゃ好き」
「どういたしまして。彩子いっつも手冷たいし、手袋なら喜んでくれるかなって思って」
「うん、めちゃくちゃ嬉しい。ありがとう!」
「喜んでくれてよかった」
「私もプレゼントあるよ。ちょっと待ってね。はい、これ。開けてみて?」
「ありがとう。ん? これはー?」
「眼鏡ケース」
「あー、眼鏡ケース! おしゃれだね、これ。ありがとう。しかも眼鏡ケース壊れかけてたから、このプレゼント嬉しい。本当にありがとう」
「どういたしまして」
喜んでいる洋輔を見ていると彩子は心が温かくなるのがわかった。
お店を出たあと、洋輔はこのあと家に来ないかと誘ってきた。クリスマスを一緒に過ごしたいと言ってくれているのだ。嬉しくないわけがない。だがどうしても彩子はあのときのことが気になって素直に頷けなかった。彩子の中でどうしようもない不安や不満がくすぶっていた。特別な日だからこそそんな胸の内を晒してしまいそうでこわかったのだ。
結局、洋輔が彩子を自宅まで送ってくれ、そこで解散となった。きっと彩子が一人になりたがっているのを察したのだろう。彩子の家に上がることもしなかった。淋しそうな顔をする洋輔に罪悪感が湧いたが、その日はどうしてもそれ以上一緒にいられなかった。
彩子は、今日は許してほしい、次の日にはまた笑顔に戻るからと、そう心の中で誓った。
予約した店は和食の店だった。海鮮料理に惹かれてここを選んだ。洋輔はコースで予約してくれていたので、飲み物だけ注文して料理が運ばれてくるのを待った。
「外で和食って久しぶりだね」
「そうかも? いやー、お魚に惹かれちゃったんだよね」
「彩子は肉より魚だもんね」
「うん。お刺身おいしいじゃん」
「本当海鮮好きだね。今度お寿司でも食べいく?」
「え、行く! 行きたい!」
「ははっ。そんな行きたいの? じゃあ、年明けにでも行こっか」
「やったー! ありがとう」
そんなふうにお寿司の話で盛り上がっていれば、徐々に料理が運ばれてきた。お刺身を頬張って顔をほころばせていれば、洋輔に自分の分も食べていいと言われ、いやそこは一緒に楽しみたいのだと抗議した。
そうして楽しく食事をしていれば、あっという間にデザートがやってきた。黒蜜きな粉のわらび餅だ。デザートを前にわくわくしていれば、洋輔が待ったをかけるように声をかけてきた。
「彩子。はい、これ。クリスマスプレゼント」
洋輔のことだから用意してくれているとは思ったが、実際に渡されると嬉しいものだ。だが同時に先日のことが思いだされて複雑な気持ちになる。それを振り払うように彩子は明るい声を出した。
「ありがとう! 開けてみてもいい?」
「どうぞ」
丁寧に包装を解いてプレゼントを開けてみれば、シックなデザインの手袋が出てきた。まさに彩子好みのデザインだ。冷え性の彩子のことを想って選んでくれたのだろう。これ以上ないほどに嬉しいプレゼントだ。
しかしこのデザインの手袋はきっと洋輔がいたあの店には置かれてないだろう。少し切ない気持ちが蘇ってくる。
「ありがとう、洋輔。このデザインめっちゃ好き」
「どういたしまして。彩子いっつも手冷たいし、手袋なら喜んでくれるかなって思って」
「うん、めちゃくちゃ嬉しい。ありがとう!」
「喜んでくれてよかった」
「私もプレゼントあるよ。ちょっと待ってね。はい、これ。開けてみて?」
「ありがとう。ん? これはー?」
「眼鏡ケース」
「あー、眼鏡ケース! おしゃれだね、これ。ありがとう。しかも眼鏡ケース壊れかけてたから、このプレゼント嬉しい。本当にありがとう」
「どういたしまして」
喜んでいる洋輔を見ていると彩子は心が温かくなるのがわかった。
お店を出たあと、洋輔はこのあと家に来ないかと誘ってきた。クリスマスを一緒に過ごしたいと言ってくれているのだ。嬉しくないわけがない。だがどうしても彩子はあのときのことが気になって素直に頷けなかった。彩子の中でどうしようもない不安や不満がくすぶっていた。特別な日だからこそそんな胸の内を晒してしまいそうでこわかったのだ。
結局、洋輔が彩子を自宅まで送ってくれ、そこで解散となった。きっと彩子が一人になりたがっているのを察したのだろう。彩子の家に上がることもしなかった。淋しそうな顔をする洋輔に罪悪感が湧いたが、その日はどうしてもそれ以上一緒にいられなかった。
彩子は、今日は許してほしい、次の日にはまた笑顔に戻るからと、そう心の中で誓った。
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