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第37話

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「まだリミットまで時間がある。少し話をしてやろう」

そういうと『審査するもの』が語りだす。

・・・ひょっとしたら誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。

とつとつと話しはじめ、あたしは耳を傾けた。

「私が生まれたのは遥か昔のことだった。
   
   私が生まれた理由はわからなかったが、なぜかやるべきことは心の奥底に刻まれていた。
   
   即ち、この世界が存在していいかの審査だ。

 別に審査の方法は決まってはいなかったが今のような方式を採ることにした。

 何故かは知らぬが、この場所には世界中から強き者が集まってくるし、心の強い者の有無がわかるからだ。

 私が破れたとき、使命を果たせたと心地よく眠りにつけた

 ・・・だが、五十年後、私は目を覚ましたのだ。

 ・・・死ねなかったのだ、しかもそれは何度も続いた。

 もう何千年にもなるか、私は審査するために生かされてきた。

 ・・・だが、もうそろそろ限界だ。

 お前を倒し、この世界を滅ぼす。

 そして、私は消える。

 ・・・少し話しすぎたな。

 制限時間まであと30秒か

 ・・・悪いな、人間よ。

 恨むならこの時代に生きたことを恨んでくれ」

そういうとゆっくりと右手をあたしに向けて掲げる。

「まずいわね・・・」

あたしは思わず呟いていた。

あたしがそういったのは『審査するもの』を話を聞いてしまったからだ。

何千年も戦うためだけに生かされ続ける。

なんて辛い事かしら。

・・・先程までなんとか動かすことのできた身体が今ではいうことがきかない。

かろうじて立っているといった状態だ。

「!?」

こちら側に向けられた手に力が収束しているのが見受けられた。

なんて大きさなの・・・あたしよりも二回りは大きいじゃない。

ドサッ

あたしは生まれて初めてあきらめるということをすることになるだろう。

力なく座り込んだのだ。

「10・・・9・・・8・・・7・・・」

『審査するもの』がカウントをとり出した。

あれをくらったら、痛みを感じるまもなく死ねるんだろうなぁ。

あたしは、そんなことを考える。

「6・・・5・・・4・・・3・・2・・・1・・・0」

無常にも一秒のずれもなく『審査するもの』が力の固まりをあたしに向かって放った。

実際には、速かったのだろうけどもあたしにはゆっくりと見えた。

おかしいわね。

こんなときは走馬灯のように昔のことを思い出すって聞いたのに・・・まあ、いいか。死んだらおしまいであることはかわらないし。

悔いは残った、が、どうしようもなかった。

あたしにはこいつを倒すだけの力がなかったのだ。

世界中の人たちには悪いことをしたけど、あたしも、死ぬんだしかまわないわよね。

そんなことを考えている内に力の固まりはあたしの眼前に迫っていた。

ゆっくりと目を瞑る。

目蓋を閉じていてもあたしに向かってくる力を感じることができた。

あたしは死を覚悟した。
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