その女剣士は世界を救い、英雄となる。

千石

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第43話

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「へへっ、後悔しないでね」

レベンが脂汗にまみれながらも不適に笑う。

勝てるわけがない・・・そのはずだ。

だけど何なのかしら、この胸の高鳴りは、どうにかしてくれる。

そう思わせる何かがこの小さな少年に備わっている。

すぅー

あたしは深く、深く息を吸った。

身体の中が穏やかになるのを感じる。

あたしはあたしに出来ることをしよう・・・。

『落ち着かなくてもいい、焦ってもいい、すべての感情を抑えようとするな、全てを受け入れるんだ』

昔聞いた父の言葉。

あの時はよく分からなかったけど、今なら分かる。

つまりは、視野を拡げると言う事なんだ。

疲労感は・・・そこまでないわね。

外傷は・・・動けないほどではない。

だが、上手いこと身体を動かすことが出来ないのは何故かしら。

あたしは自分の状況を一つ一つ確認していく。

そして、あたしはやっと、自分を抑えつけている力を意識した。

その力が微々たるものであったのにもかかわらず、認識することが出来たのはあたしが冷静さを取り戻したからに他ならない。

あたしはゆっくりと懐にしまってあったものを取り出した。

「どうした?人間よ。来ないのか?」

『審査するもの』がレベンを挑発する。

あたしも意識をそちらに向けた。

原因がわかっても解決方法が思いつかなかったからだ。

「・・・」

レベンは返事をしない。

相も変わらず、じりじりと相手との距離を縮めるのみだ。

攻めあぐねているんだわ。

心を読む能力・・・そんなのがあったときなら、真っ向勝負をするしかないから攻めあぐねる必要はない。

しかし、今は消失したのだという。

それが本当だという証拠はどこにもないけど、そんなことをするとは思えない。

本当に消失したのかわざと使わないのか・・・どちらかは分からないが少なくともそんな不粋なことをするとは思え
ない。

『審査するもの』は戦いを楽しみたがっているのだから。

それにしても、信じられないのはレベンだ。

左拳が使い物にならないうえに全世界の命運がかかっているのだ。

そんな中にあるにもかかわらず。

気負った様子が見受けられない。

いったいどんな人生を歩んできたのか。

自分の修業不足を思い知らされるわ。

「そうか。なら、こちらから行くぞ」

『審査するもの』が動きだした!

といっても、レベンに向かって歩きだしただけだが。

隙だらけね。

あたしは『審査するもの』の無防備さに驚いていた。

おそろしいわ。

闘う上で恐ろしいことは相手に隙を見せることというのはお分りだろう。

しかし、一番恐ろしいのは相手にわざと隙を見せてくる手合いだ。

俺はこんなにも自分の力に自信があるんだ。

その境地に達するのはかなり難しい。

何故なら失敗したら最後、殺されるからだ。

それでも、わざと隙を見せてくる手合いはいる。

ほとんどの場合、無駄な体力を使わず一瞬で勝負がつくからだ。

まあ、あたしも相手より強いと思ったときはやるけど、レベン相手にはやれないわね。

『審査するもの』は自分の力に相当な自信があるのだ。

あるいは、自分の身体の強度にかもしれないけどね。

たしかにあたしから見てもレベンと『審査するもの』との力の差は歴然だ。

『審査するもの』は遠距離からの攻撃が可能な上に、馬鹿みたいな身体の強度。

はっきり言って打つ手なしだ。

しかし、レベンには奥の手があるという。

しかも、それを見破ったのは『審査するもの』自身なのだ。

あたしなら、慎重に事を運ぶけどね。

『ある程度のレベルを超えると実力とは関係のない一撃が勝敗を分けることがある』

昔、お祖父ちゃんが言っていたっけ。

その時は、

『何言っているのかしら、実力があるほうが勝つに決まっているじゃない』

と思ったものだけど、今は違う。

実際に見たことがあるからだ。

全身全霊をかけた一撃には実力差を零にする力があるのだ。

あたしが『審査するもの』に傷つけることができたのも悔しいけども、このためなのよね。
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