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第42話

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「別に。理解して足を止めたわけじゃない」

レベンの声の歯切れが悪い。

「それはそれは尚更結構」

あの時レベンは何かを感じ取ったのだろう。

『審査するもの』の言葉から判断するにまさしく必殺の何かを。

「余裕でいられるのも今のうちだ」

レベンの歯切れがさらに悪くなる。

「ふははははは!」

突然、『審査するもの』が笑いだした。

頭でも狂ったのかしら?あたしは正直訳が分からない。

「何がおかしい!」

レベンが声を張り上げる。

「くっくっくっ、その手でもまだ私に勝とうとしているお前の馬鹿さかげんだよ。笑いたくもなる」

『審査するもの』は本当に嬉しいそうにレベンに向かって言う。

手ってまさか・・・

「レベン・・・」

「ああ、最初の一撃で左拳が折れた。何とか粉砕骨折は免れたみたいだけどね」

あたしの呼び掛けにレベンが答える。

だから、レベンの声の歯切れが悪かったのか・・・あたしが何とかしなきゃ。

だが、意思に反して体はいまだ上手く動かせれない。

何で動いてくれないのよ!?

あたしは胸中で一人ごちる・・・だけど先程よりは良くはなっている。

「馬鹿かどうかは、決着がついてから言ってもらおうか!」

レベンが声を張り上げ、じりじりと相手との距離を縮めていく。

左手は力なく垂れ下がり、レベンの顔はたくさんの脂汗で占められている。

身体のどこを動かしても左手に響き痛みが伝わっているようだ。

あたしは自分の情けなさに心底腹が立っていた。

どうしても身体の奥底から湧き出る“恐怖”から解放されない。

「ずいぶんと辛そうだな」

「!?」

あたしは『審査するもの』の言葉にハッとした

「そんなことはないよ」

レベンが説得力のない声で答える。

・・・そうか、レベンに向けて言ったのか。

何驚いているのかしら、あたしは。

「忘れたのか?私にはお前の心が読めるのだぞ」

「忘れちゃいない。だけどお前はその能力を使ってないだろ?」

「ほぅ」

レベンの指摘に目を細める。

「何故そう思う?」

「簡単なことだよ、僕がまだ生きているからだ。もし、僕の心を読んでも僕を倒せないようなら、あきらめたほうがいい、あんたは戦いには向いてない」

静かにレベンは諭すかのように言った。

「お前は本当に面白い人間だな。正解だ。何故か分からぬが私は今心を読む能力を失っている。もともと不安定なな能力だからな。私もあんな無粋な力を使いたくはないから、丁度いい」

「へっ、あんた馬鹿か?」

レベンが口を笑みの形にし、犬歯を覗かせる。

「お前ほどではないぞ、人間よ」

あたしは初めて分かった気がした。

『審査するもの』は待っていたのだ。

永遠にも及ぶ時間のなかで。

自分が全力で戦える者が現れることを。

「まだ隠しているんだろう?奥の手を。お前のすべてを見せてみろ」
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