その女剣士は世界を救い、英雄となる。

第55話

「貴方は？」

あたしは入り口からやってきた人物・・・白髪の老人に尋ねた。

「名乗るほどのものではない。それよりもやつを・・・倒したのか？」

「ええ・・・手強かったけどね」

あたしは手に持っていた箱を隠しながら答えた。

「そうか。では勇者たちに尋ねよう。まずは可愛らしい勇敢なお嬢さん？」

「はい？」

「貴方は富と名誉を欲するか？」

「・・・どういうこと？」

「どうもこうも言葉の通りだよ。どうするかな？」

・・・なるほどね。

過去の伝説の人物たちがどうして有名になったのか、やっと合点がいったわ。

ここでイエスと答えると、文字通り富も名誉も得られるんだわ。

・・・でも、気になるわね。

「何がかね？」

「！？」

老人はコホンと咳をして、

「失敬、レディの心を覗くなんて紳士にあるまじき行為だがそれだけ重要だということでご容赦願いたい」

頭を下げ、老人が弁解する。

まあ、今更ながら心を読まれたからってどうともないけど、質問しやすいってのは好都合だわ。

「気になることっていうのは他でもない、その申し出を断っている人間が存在するって事実よ。全員が全員、イエスと答えないってことは、それなりに何か代償を必要とするんじゃない？」

「ほほぅ。なるほどなるほど、なかなか大した推察じゃな」

老人はひとしきり感心してから、

「そのことは、尋ねられないかぎり答えんのじゃがな。・・・確かに、富と名誉を手にすると、その代償として忘れてしまうのじゃ。自分がなぜ有名になったのかということを。しかし、そんなことは些細なことにすぎないのでな、わざわざ説明しとらんのじゃ」

なーる、確かに富と名誉を手に入れるんだったら、なぜそうなるにいたったか何ぞ関係ないものね。

しかし、それでは・・・。

あたしは『審査するもの』のことを悟られないように、深く考えるのをやめた。

「でも、それって１００歳を超えると思い出すんでしょ？」

不意にレベンが会話に割り込む。

老人は気分を害した様子もなく、レベンの方を向き、

「ほう、お若いの、よく知っとるのぅ。実物に会ったのか？」

「まあね」

老人は何度か頷いた後、あたしの方に顔を向ける。

「どうなさる。お嬢さん？」

「あたしは・・・遠慮しとくわ」

ゆっくりと、しかしはっきりとあたしは言葉を紡ぐ。

「・・・そうか。」

老人はそれだけ言って、今度はレベンに向きやり尋ねた。

「僕もいいや。この年で富や名誉なんてもらったら、根性腐っちゃうしまだまだ上を目指したいからね」

あっさりと否定した。