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第62話

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「小僧、棄権するなら今のうちだぞ」

ゆっくりとレベンに向かって歩を進めながら、低く、聞いたものを圧倒してしまう声でレベンに忠告する。

「それはこっちの台詞だよ、おじさん」

こちらもまた男に向かって歩を進める。

「なら、こちらからいくぞ!」

一瞬でレベンとの距離を縮める。

ブォンッ!

縮めざまに繰り出した右手のナイフがうなりをあげる!

辛うじて避けるレベン。

続いてすくい上げるかのような左のナイフが、初手をかわしたレベンの顔面に向かって放たれる。

「チィ」

レベンが舌打ちをし、バク宙の要領で跳躍した。

男との距離を随分と話して着地する。

「一回戦からなんて攻防をするのかしら」

隣で映像を見ていたリリヤが茫然と呟く。

「まあね、ちょっとレベルが高いとは思うけど、これぐらいやってくれないとこれから先がつまらないわ」

我ながら不敵なことをいってみる。

「なかなかやるね、おじさん」

「小僧もな。死んでも恨むなよ!」

再び男が駆け出し、左右に持ったナイフをまるで生きもののように繰り出す。

レベンはそのことごとくを辛うじてかわす。

二人が一旦距離をとった。

「全然当たらないね」

レベンが余裕を持って言う。

「どうかな、自分の顔をよく見てみろ」

よく見るとレベンの顔に一筋の血が流れていた。

「へぇ、全部躱したと思ったんだけどなぁ」

レベンの表情が引き締まっていく。

「リリヤ。よく見ておくといいわよ。順当に勝ち進めばあの子と戦うことになるから」

「ええ、あの子は確かに強いわ。でも、あの男には勝てるとは思わない」

リリヤが静かに言い放つ。

「ほう、いい面構えになったな。しかし、おまえでは役不足だ」

男が構えをかえた。体をまるめ両腕を前にだし、腰を落とす。

全力で叩きつぶす気ね。

「役不足かどうか、見せてあげるよ」

ここで初めて、レベンが構えをとる。

腰を落とし、左手だけを目の前に突き出す。

だんっ!

男が今までとは比べものにならない速さで飛び出した。

瞬く間に二人が交錯し、通り抜けた形で二人が止まった。

「・・・決まったわね」

「ええ、あの子の負け・・・ね」

リリヤが独白した。

「あら、何言ってるの?よく見なさいよ」

「えっ」

リリヤは驚き、映像を凝視した。

「こ・・・小僧、一体何をしたん・・・だ」

ドサッ

男はそう言い残し、リングに倒れ落ちた。

「役不足はおじさんの方みたいだったね」

レベンはちらっとだけ男を見てから、ゆっくりとリングから立ち去っていった。
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