その女剣士は世界を救い、英雄となる。

千石

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第66話

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「ねえ、誰がやっかいそうに見えた?」

あたしはステーキ肉を切り分けながらリリヤに尋ねた。

一通り、試合を観戦した後あたしはリリヤとともに食事に来ていた。

「やっぱり去年上位だった人はやっかいそうだわ。もちろん、その上位者を倒したレベンもね。そういや、あの子どうしたの?食事に誘ったんでしょ?」

「ああ、何か用事があるみたいで今回は遠慮しとくって」

お肉を頬張りながら、答える。

「ふーん、そうなんだ。ところでさ・・・」

リリヤが不意に声のトーンを下げた。何かしら?

「どうかした?」

怪訝に思いながら尋ねる。

「あの子っていったい何者なの?」

改まって聞いてくる。

そうきたか。

「いや、何者なのと言われてもあたしも最近知り合ったばかりだからなぁ」

「そう」

「何でそんなことが気になるの?」

「そりゃあ、気にもなるわ。あの年であの強さは少し異常よ」

ああ、そんなことを考えていたんだ。

「まぁ、いいんじゃない?問題は勝てるか勝てないかでしょう?」

「それはそうだけど・・・」

あら、納得いかないって顔しているわね。

このままじゃあ、“存在しなくなった日”のことも話さないといけなくなるわ。

話題をかえないと。

「そう言えば、あれにはびっくりしたわね」

「あれって?」

話題転換についてについていけないのかリリヤがキョトンとしている。

「食い逃げだぁー」

「!?」

あたしが口を開こうとしたのを見計らったように店の人が声を上げた。

何ですって!

「リリヤ!ちょっとここにいて」

「えっ!あ・・・ちょっと・・・」

返事も待たずに、あたしは店の外に飛びだした。

いた!

あたしの目にはちょうど曲がり角を曲がる食い逃げ犯の姿が入ってきた。

「・・・」

あたしは無言のまま犯人を追う。

〔何でわざわざ追い掛けるんだ?〕

〔許せないのよ。食い逃げって奴がどうしても・・・〕

〔・・・〕

あたしの迫力のせいか『審査するもの』が黙る。

角を曲がるとたくさんの人がいた。

人込みを掻き分けて食い逃げ犯が逃げ出す。

よし!

だんだん追い付いてきた。

向こうは道を作らなければならないのに比べてあたしはその後をついていくだけでいいのだ。

差が縮まらないはずはない。

人込みを走るのがふりだと思ったのか、裏路地に逃げ込んだ。

「!」

あたしが入ると、食い逃げ犯の姿が消えている。

だけど、気配はするわね。

「隠れているのはわかっているわ。おとなしく出てきなさい」

静かに声を出す。

逆撫ですると面倒になるかもしれないのだ。

「あんた店の人間か?」

物陰に隠れていたのだろう。

意外と近くから出現したが、暗いため顔がはっきりと見えない。

「いいえ。無関係よ」

首をふって答える。

無論、気付かれないように少しずつ近づく事も忘れない。

「じゃあ何しに俺を追い掛けてきた?」

敵意むき出しで行ってくる。

口振りは男みたいだけど、不思議と声が高いわね。

怪訝に思いながらもそんな心中をおくびも出さずに、

「もちろん捕まえに来たのよ」

言い放ち、あたしは食い逃げ犯のところまで一足飛びでいき首筋に手刀をたたき込んだ!

うっ

と唸ってから気絶した食い逃げ犯を手近にあった縄で縛ってから活を入れる。

気絶したままだと運びづらいからね。

目を覚ました食い逃げ犯は、少しボーッとしていたが自分のおかれた状況がわかると暴れはじめた。

「おとなしくしなさい、いくら暴れても無駄よ」

「うるせぇ、さっさとこの縄をほどきやがれ!」

喚きだすのも気にせずに路地裏から出た。

街灯に照らされた顔をみてあたしは思わず言葉を発した。

「あなた・・・やっぱり女だったのね」

そうなのだ、薄汚れた顔をしているが紛れもない女の顔をしていたのだ。

「ちっ・・・ちがう!俺は女なんかじゃねぇ」

何でかは知らないが、先程とは比べものにならないくらいの声量で怒り、暴れる。

「まあ、いいわ。とにかくあなたをお店まで連れていくわ」

ぐいっと縄をひっぱり歩きだすと、もはや抵抗は無駄だと観念したのかおとなしくついてくる。

「何で、食い逃げ何かしたのよ?」

「・・・」

食い逃げ犯は無言のままだ。

「まあ、答えたくないならいいけどね。あたしにはどうでもいいことだし」

「・・・腹が減って仕方がなかったんだ」

しばらく歩いた後、小声で食い逃げ犯が答えた。
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