その女剣士は世界を救い、英雄となる。

千石

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第83話

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「うーん。よく寝た!」

あたしは勢い良くベッドから飛び起きる。

フカフカなベッドだったため、連闘の疲れも手伝って今はもう昼近い。

あたしはお祈りの日課をこなしてから、外の空気を吸おうと、部屋を後にした。

「呼び止めちゃって悪いねバガルトのおっちゃん」

城の中にある大きな庭に行くとレベンの話し声が聞こえた。

何してるのかしら?

バガルトもいるみたいだけど・・・。

「気にするな。それより何の用だ?小僧」

相変わらずバガルトが素っ気なく返事する。

「僕と勝負してくれない?ちょうど見届け人もきたし」

レベンはあたしの存在に気付いていたようだ。

「ちょっと、あんた何考えてんのよ?」

気付かれてるならと、会話に参加する。

「別に。ただ、世界のレベルをね・・・体感したいんだよ」

そういってレベンは不敵に笑う。

ダメだこりゃ、本気だわこの子。

「そんなに暇ではないが相手してやろう」

バガルトも不敵に笑い。

構えをとる。

「ふぅ、あんたたちって似たもの同士ね。分かったわ。見届けてあげる」

ここに来たことを後悔しつつ、あたしは右手を高々と挙げた。

「うれしいね」

にっこりと笑いながら、レベンが飛び出す。

重心を低くし、頭を手でガードしながら、すぐにバガルトの面前まで達した。

勢いを殺さず左拳を突き出した。

バガルトは余裕を持って体を反転させ、レベンの後ろをとる。

「ぬるいな。真面目にやれ」

言葉とともに、レベンの背中を殴り付ける。

「がはっ」

当たりどこが悪かったのか、血を吐き出しつつ、2、3メートル吹っ飛ばされるレベン。

「いってぇ。流石に強いなぁ」

直ぐ様起き上がり、再び構えをとる。

「痛いのはあんたが手を抜くからでしょうが」

呆れた声で言ってやる。

「うっさいなぁ、準備運動ってやつは必要でしょ」

決まり悪げにいってくる。

「どっちが勝ってもいいから、早く決めてよ。起きたばかりで何も食べてないんだから」

「わかったよ。と言うわけだから、本気で行くよ、おっちゃん」

「受けてやろう。食い物の恨みは恐いからな」

過去に嫌な思いででもあるのかバガルトは以外にすんなりと了解する。

ギン

一瞬で辺りの空気が一変した。

もちろん、二人が本気になったからだ。

あー、息苦しい。

二人は互いに出方を伺っているのか、微動だにしない。

二人はしばらく睨み合い。

まったく同時に動き出した!先程迄とは比べものにならないスピードと気迫だ。

レベンが先に攻撃を仕掛ける。

だがバガルトは冷静に攻撃を受け流し、レベンに隙をつくらした。

バガルトは間髪入れずに拳を振るう。

レベンはいまだ体勢を立て直せていない。

決まったわね。

あたしはこの瞬間、バガルトの勝利を確信した。

ゴキッ

鈍い音がし、膝をついたのは予想に反して、

バガルトの方であった。

「ふぅ、まさか足を使うことになるとはね」

攻撃を食らっていたのだろう。

レベンは左手で脇腹を押さえている。

言葉から察するにあの状態から蹴を放ったみたいね。

器用なヤツ・・・。

「やるな、小僧・・・いや、レベン・アインターブ。私のほうが速いと思っていたのだがな」

バガルトは膝をついたまま、呟く。

「まさか、あんたがこういう能力を持っていたとはね、残念だけどこの勝負は引き分けだよ」

どうやらレベンはバガルトの能力を察したようだ。

残念ながらあたしの位置からでは死角になっていて見えなかたけどね・・・損したわ。

「次はこうはいかんがな」

バガルトが口元を吊り上げて笑う。

「それはこっちの台詞だよ。じゃあ、そろそろ僕は行くよ」

「へっ?どこへ?」

「もうここでやり残したことはないからね。離れることにするよ」

「・・・そう。達者でね。レベン」

まだまだ、話したりないことなんかがあったけど、あたしは、別れの挨拶を口にする。

出会いと別れとはこういうものだと知っているから・・・。

「うん。・・・マーヘン、あなたに会えて良かったよ」

レベンがいつもの元気な声とは違い、寂しげにいった。

「ええ、あたしもあなたに会えて良かったわ」

そこであたしは初めて気が付いた。

最初会ったときの耳障りだった声が今では気にもなっていなかったことに・・・。

あたしはじんわりと目に涙が浮かんでくるのを感じていた。

「じゃあ縁があれば・・・」

「そうね・・・縁があったらまた会いましょう」

そう、あたしたちは互いの右拳をあわせた。

それはクラフトがお互いを認めたときにする挨拶だった・・・。

それからレベンはあたしの首にかかったネックレスに手を触れ、

(・・・元気でね)

(ああ・・・レベンも達者でな・・・)

その後、バガルトにも別れを告げ、まるで台風の様な小さな子供はあたしの前から姿を消したのだった。

(また、会えるだろうか)

『審査するもの』が名残惜しそうに尋ねてくる。

あたしは自信満々に、

(大丈夫よ。あいつは行くっていったのよ。家に帰るっていうんじゃなくてね。だから、旅をしていればいつかきっと会えるわ)

それに・・・まだ聞いていないことがあるもの・・・と心の中で付け足す。

「大丈夫、また会える」

もう一度、今度は声に出して言ったのだった。

あたしは、しばらく空を見上げていたが、不意に思い出す。

(そうだわ・・・あたしはあなたの名前を考えておいたの。いつまでも『審査するもの』じゃ、呼びづらいものね) 

(名前か・・・考えたことなかったな。それで、なんて名前だ?)

 (へへ・・・スカイ・フリーっていうのはどう?)

(自由な空か、いい名だ。いつも空ばかり見ていた私にはちょうどいい。ありがとう)

(気にしないでよスカイ。気に入ってもらえてうれしいわ)

・・・これからどんなことが待っているかわからない。

けど、あたしはもうあなたのような人は出させないわ、キート・・・。

そう、あたしは天に向かって改めて誓ったのだった。



空は雲一つなく、いつまでも青く、あたしたちを見守っていたのだった・・・



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