他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石

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第30話

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コンコンコン

無駄に豪華な扉を叩く音が屋敷中に響く。

「誰だ?」

部屋の中から誰何《すいか》の声が返ってくる。

「旦那様、私です」

「お前か、入れ」

部屋の主からの許可が下りたため、するりと入っていく。

あれだけ重厚そうな扉を開け閉めしているにも関わらず、全く音が立たない。

「それでどうだった?」

挨拶も無く、声を掛ける部屋の主・・・ナガリア。

「はい。旦那様の見込み通りでした」

執事は恭しく頭を下げながら答える。

「・・・ほう。それでどんな者だ?儂のメンツをつぶした奴は」

ナガリアが執事に尋ねる。

「はい。本日からバルム家の長女の『付き人』になったものがおります」

執事が淡々と答える。

「・・・今まで『付き人』をつけて来なかったバルム家の長女がな。あやしいな。それで?」

ナガリアが執事に続きを促す。

「本人たっての希望で魔法学園中には知らされておりませんが、つい先日この者は『魔功章』を授かったそうです」

「なんだとっ!!」

執事の言葉に反応するナガリア。

「間違いないのか!?」

ナガリアが執事に確認を取る。

「はい。懐柔している教諭からの情報ですから間違いありません」

執事がはっきりと肯定する。

「そうか・・・」

(儂の息子たちにあの手この手で『魔功章』を与えようと画策したことがあっても一度も上手くいかなかったのだぞ。まさか、儂の元息子がきっかけで『魔功章』を授かる者が出るとはな・・・尚更許せん)

バリン

ナガリアが手に持っていたグラスを思わず握りつぶす。

ポタポタと血が垂れる。

それを見た執事が、

「旦那様!!すぐに手当てを!!」

慌ててナガリアに近づくがナガリアは、それを止め、

「こんな傷など後ですぐ治す。それよりその者の名前は何という?」

執事に問いかけた。

「・・・はい。その者の名は『グレイ・ズー』と申します」

執事が渋々とナガリアの手当を諦め、質問に答える。

「ズー?聞いたことがない貴族だな」

ナガリアは自慢では無いが金と権力を手に入れるためにピンからキリまでの貴族の名前を把握しているという自負があったがズーという名前に聞き覚えが無く、不思議そうな顔をする。

「旦那様が知らないのも無理はありません。そのグレイ・ズーという者は貴族ではなく『平民』なのですから」

「なっ、なんだとっ!平民にこの儂のメンツを潰されたのか!!!」

今まで以上の衝撃がナガリアを襲う。

顔は真っ赤になり、血管が浮き出る。

いつ破裂してもおかしくないくらい怒りを覚えていた。

「旦那様!!落ち着いてください!!」

執事が慌てて声を掛ける。

ナガリアの怒りに比例するように、手から垂れる血の量がどんどん増えていた。

結果オーライではあるが、ナガリアが血を流していなければ額の血管が破裂していたかもしれない。

ナガリアは執事の言葉に無理やり呼吸を整える。

「ふぅ~ふぅ~。非常に腹立たしいがその平民が儂のメンツを潰したと見て間違いないだろうな」

状況的に見て確定だろう。ナガリアはそう判断する。

「どうされますか?」

執事がナガリアに尋ねる。

「決まっている。殺せ!!生まれて来たことを後悔するように残酷にな!!」

ナガリアははっきりと執事に指示を出した。



「グレイ~。起きてる~??」

翌朝、グレイの部屋を尋ねるエルリック。

ガチャ

「おう。おはようエル。行こうか?」

グレイがちゃんと制服を着た状態で扉を開けエルリックに挨拶をする。

「お、おはよう」

エルリックは珍しいグレイの反応に驚きながらも返事をする。

「どうした?」

「いや、だってグレイがもう準備してるからさ」

エルリックが素直に答えるとグレイはばつが悪そうに頭をかき、

「アリシアさんの『付き人』なったおかげで他の仕事をしなくて良くなったからな。睡眠時間もしっかりとれるようになったんだよ」

「そっか、良かったねグレイ!」

エルリックが自分の事のように喜ぶ。

「ああ、ありがとう」

グレイが照れ臭くなりながら礼を言った。

「昨日話した通り貴族女子寮前まで行くけど大丈夫か?」

グレイが自分の仕事に付き合わせるようで悪いと思いながらエルリックに再確認する。

「もちろん大丈夫だよ!さぁ、バルムさんのところに行こう!!」

エルリックは全く気にすること無く大丈夫だと言うとグレイを先導するように歩き出す。

(全く・・・良い友人を持ったものだ)

グレイは心の中でエルリックに感謝しながら後に続いたのであった。

その後、アリシアとセリーと合流したグレイとエルリックが他愛のない雑談をしながら教室に向かう。

と、『S組』の教室の前で一人の男が立ちはだかった。

グレイがさり気なく一番先頭に出る。

「・・・ゾルゲさん」

アリシアが相手の名前を呼んだ。

立ちはだかったのは昨日グレイと『決闘』をしたマードック・ゾルゲその人であった。

「・・・」

ゾルゲはアリシアの声にも反応せず目の前のグレイをただ見ている。

(敵意は感じないが・・・)

「何か用か?昨日気絶させたことを謝罪なんてしないからな」

グレイが声を低くしてゾルゲに声を掛ける。

「・・・お前は俺に何を望む?」

ゾルゲはグレイの言葉には答えず、逆にそう尋ねてきた。

「はぁ?」

グレイは唐突の言葉に思わず疑問の声を上げる。

すると、アリシアがグレイの耳元まで来て、

「グレイさん。恐らく、ゾルゲさんは昨日の『決闘』の結果に基づいたグレイさんの望みを聞いているのだと思いますわ」

グレイにだけ伝わる声量で耳打ちした。

「あ、そうだったな。アリシアさんありがとう」

グレイもアリシアにだけ聞こえるように答えるとゾルゲに向き直り、

「俺があんたに望むのは『もう二度と変なちょっかいをかけてくるな』ただそれだけだ」

はっきりとゾルゲに言い放った。




グレイの言葉を聞いたゾルゲは顔を真っ赤に染め上げ、

「・・・ふざけるなよ。そんな望みでは釣り合いが取れない」

と怒りを押し殺し、続ける。

「平民のお前が貴族の『付き人』になるのは大出世と言っても過言ではない。ましてや3大貴族のバルム家の『付き人』なら奇跡といって良いだろう。それを辞めさせるという要求に対して『もう二度と変なちょっかいをかけてくるな』という要求をされることには納得がいかん」

グレイはゾルゲの様子に対し、一度ため息をついた後、

「お前、不器用って言われないか?」

「なっ!!」

グレイのストレートな物言いにゾルゲが動揺する。

後ろで聞いていたアリシアやエルリック、セリーがグレイの発言にぽかんとする。

もっとも、エルリックの場合は笑い声を出さないようにしながら肩を震わせていたが。

「だってそうだろう。『決闘』後の要求が軽いもので済んだにも拘らずそこに文句を言うなんてさ」

グレイが淡々と説明する。

「・・・・・・」

ゾルゲはあまりにも動揺し口をパクパクして声にならない。

一方、頭の中ではしっかりと考えていく。

(何でこいつは貴族の俺に対してこんなにもズバズバものを言えるんだ?)

まずは、グレイの態度に疑問を持つ。

そして、

(・・・こいつは違う。貴族だからとビクビクして接してくる平民どもとは全く異なる。面白い奴だ)

ゾルゲはそこまで考え、ニヤリと笑った。

(ん?なんか様子が変わったな)

グレイがゾルゲの変化に気づく。

「グレイ・ズー。お前のことをこのマードック・ゾルゲが認めよう。お前はアリシアの『付き人』たる資格があると」

ゾルゲはそう言うと手を差し出して来た。

「あ、ああ。ありがとう」

グレイは急に態度を変えて来たゾルゲに違和感を感じながらも差し出して来た手を握る。

「まだしっかりと名乗っていなかったな。俺の名前はマードック・ゾルゲだ」

「グレイ・ズーだ」

「グレイが思いつかないなら仕方ない。ひとまず、『もう二度と変なちょっかいをかけてくるな』という要求を守ろう。マードック・ゾルゲの名にかけて」

そう言ったゾルゲはまさに貴族然とした立派な立ち居振る舞いであった。

グレイは、その姿にやはり貴族だなと感心した後、

「あ~、一つ良いか」

言いづらそうにする。

「なんだ?」

ゾルゲが不思議そうな顔をしてグレイに尋ねる。

「・・・変なちょっかいをかけて来なければ話しかけてくれていいからな」

グレイが握手していない方の指で頬をかきながらそう答えた。

ゾルゲはきょとんとしてから、

「・・・なんだ。グレイも人の事言えないじゃないか」

笑みを浮かべた。

どうやら不器用なのはお互い様のようである。

「良いな。青春だな!!」

「「!?」」

突然聞こえた声にグレイとゾルゲは握手していた手を離し、声の方向を見る。

そこには微笑ましそうに2人を眺めるユイがいた。
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