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第四章「総力戦」
決戦前夜
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足音が遠ざかり、病室の中が再び静寂に包まれたころ、ルティスは穏やかな声でリオーネに話しかけた。
「……頑張った方なんじゃないの?」
「まったくだわ。私には到底似合わない。……なんだか、悪事を打ち明ける子供みたいな気分だったわ」
リオーネは懐から煙草を取り出すと、震える手で火を点け、気持ちを落ち着かせるように口に咥えた。
「それで、本当に神殿には報告するのですか?」
「当たり前でしょ。バレなければこれ幸いと、黙っているほど卑怯な女でもないわ」
リオーネはふう、と紫煙を吐きだすと、ちょっとだけ拗ねたような表情で、窓の外へと視線を向けた。
「鬼が出るか蛇が出るか。ま、ここまで来たら、どんな運命でも受け入れる覚悟はできているわよ」
そんな彼女の様子を見ながら、ルティスは可笑しくなって笑った。
──そうね……。今度は私が、懺悔をする番なのかもしれないわね。
* * *
神殿内部の長い廊下を、一行は歩いていた。
歩きながら、オルハが隣のコノハに話しかける。
「……ところでコノハ。ルティスが先ほど言っていたあれ、どう思ったかしら?」
「ん。あの、『あまり時間がない』って話ですか?」
「……ごめんなさい言葉が足りてなかった。よく『あれ』でわかったわね」
ああ、と得心したようにコノハが手を叩く。
「まぁ、私も気になっていたからね。正直なところ、もっと短いと考えた方が良いかな? たぶん、いいところ四~五日じゃないかと。猶予」
更にコノハは、こう付け加えた。
「あの子は嘘が付けないし、すぐ顔に出ちゃうタイプだからね」
「……私も同感かしらね。それが分かっていたからこそ、リンも明日出発しようと決めたんじゃないかしら」
少し前を歩いていたリンが、ちらと背中側に視線を飛ばして、「まあな」と同意を示した。
──嘘がつけない、か。
コノハが深く巡らしていく思いは、ルティスのことから自分のことへと移っていった。それは、今から数年前の話。
彼女の祖父は、偉大な発明家としてトリエスト島全土に名を轟かせる人物だった。彼の研究とは、端的に言って錬金術と魔術との融合。機械を生成する過程において、サポート的に魔術を用いる彼の研究は、機械文明の発展に一石を投じた。トリエストが、錬金術と魔術で栄えている島と称されるようになったのも、コノハの祖父による功績が非常に大きい。
だが、賞賛の声があがる一方で、彼の功績を妬む声が存在していたのもまた事実。ある日のこと、彼の工房で実験の最中に起こった爆発事故により、数名の死傷者が出てしまう。
事故があった日以降、妬み嫉みの声が次第に強くなっていく。一旦声が大きくなり始めると、たちまちのうちに世論まで影響を受けた。それまで、祖父を称えていた声までもが一変し、強い糾弾に晒されるようになっていった。
祖父がいったい何をしたというの?
そんなコノハの嘆きも虚しく、事故が起きたのは祖父の監督不行き届きが原因だという、事実無根な噂話までが広がっていく。
そうして仕事が回ってこなくなり、次第に孤立を強めていくなか、祖父は突然命を絶った。
孫娘に決して心配をかけまいと、『何も心配はいらない。大丈夫だよ』、と伏し目がちに笑ってみせた祖父の最後の顔を──今でも忘れることができない。
「なんかさ~……みんな凄いよね」
自嘲気味にコノハがもらした呟きは、廊下に響いている足音にすら掻き消されそうなほど小さくて。
「……何がかしら?」
いつになく真面目な様子に、首をかしげながらオルハが問い返す。
「リンは時々ちょっと怖い時もあるけど、自分の信念っていうのかな。ちゃんと持っているしさ、シャンは弟であったり、また誰かのために、命までを懸けられる強さを持ってる。オルハにしたってそう。一見クールだけど、その実自分の意見はしっかりと持っているし、ルティスは自分の運命と向き合って、立ち向かおうとしているじゃん?」
「……私の話はともかくとして、まあ、そうね」
「それと比べると、私って、なんにも無いんだよね。立派な魔術師になりたいという夢を掲げてはいるものの、具体的にどうしたらいいのか全然わかっていない。夢を叶えた先に見据えているプランもない。そんな空虚な自分を誤魔化すため、大きな声を出して元気な自分を演出しているだけ。……本当は……うん、全然強くなんてないの」
話し始めからトーンが低かったコノハの声は、最後は蚊の鳴くような小声にまでなってしまう。
ふむ……と少し考えたのちオルハは言った。
「……コノハは、今のままで良いんじゃないかしら?」
「そうなのかなあ……」
「……そうですよ。その元気なところが、あなたの良いところなのですから。たとえそれが、虚勢であったとしてもね。気持ちがいったん落ち込んでしまうと、自分で感情を上手くコントロール出来ない、そんな不器用な人は案外と多いものです。そうは思いませんか?」
「うん。それはそうかもね」
「……そういった人たちからしたら、本音を隠して明るく振る舞うことができるコノハは、羨ましい存在なのですよ」
「そっかあ……。そういやカノンにも、以前、そんなことを言われたなあ」
「……そうでしょう? だから、胸を張ってください。コノハは、今のままでいいのです」
うん、わかったよ、と頷くコノハの横顔を見つめ、オルハは心中で呟いた。
あなた達と出会ってから、私の人生は刺激的なことばかり。
故郷の村を襲撃者の手で焼かれ、逃げるように森を出てからはや数百年。あなたを見ていると、封じ込めていた暖かな感情のあれこれを、ふとした瞬間に思い出してしまう。
あなたが凄いと感じているように、あなたを凄いと感じている人もたくさん居るんです。それも、わりと近くに。
──私も、その中の一人かもしれないわね。
* * *
時刻は夜半を過ぎ。
ラガン王国の天空都市は、ブレストの街から約二十キロメートルの地点で停止していた。
厚い雲に阻まれていることで、浮遊している大地の姿はこの場所からは窺えない。敵の姿、目的が見えないことが市民の不安をあおり、完全に浮き足立っていた空気も、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
だが、街に三箇所ある門を中心に厳重な警戒態勢が敷かれていくなか外出緘口令まで出されたことで、いつまた苛烈な攻撃がくるのか、と不安を募らせている者もまた多かった。
緊張。不安。楽観。様々な感情が、夜の闇に溶け込んでいた。
街の北門を警備するのは、レイド村から駆けつけた、侍衆の精鋭と冒険者たち。
神殿が存在している西門付近を警備するのは、エストリア王国の騎士団と神官戦士隊。
ラガン王国の姿を直接拝める要所である東門には、増援として馳せ参じた、ルール=ディールの騎士団主力が集結していた。
さて、肝心のラガン王国であるが、二日前の早朝以降まったく動きがない。これにより、警備に当たっている者らの間にも、次第に弛緩した空気が流れ始めていた。
確かに油断はならない。ならないのだが、この日も特に何も起こらないまま夜は更け、何事も無く朝を迎えるだろう。大半の者が、緊張しながらもそう思っていた。
「寒いなあ……」
人通りが殆どない路地を、一人の男が歩いていた。腰に長剣をおびていることから、冒険者であろうことがうかがえる。
男は、自分が警備していた場所と仲間たちから離れ、当てもなく徘徊していた。
こんなところをお偉いさん達に見付かったら大目玉だな。そんな感じの不安と、別にそうなっても構わない、という捨て鉢な感情の双方を抱えて。
ブレストの街にある神殿より、守備隊編成の打診が男たちの元に届いたのは、二日前の午前中。
有力なパーティにのみかかるという招集の声に応じ、名声を上げるチャンスとばかりに、彼らも意気揚々と参加した。しかし、ここまで敵の襲撃は一切無く、彼らを束ね指示を出していたのも、よくわからん侍とかいう連中だ。早い話が彼らは蚊帳の外だった。
聞くところによると、夜明け前に出発するという遊撃隊も、『ヒートストローク』とかいう女だらけの冒険者パーティらしい。
「フザけてんのか」
男は苛立ち混じりに路上の小石を蹴飛ばした。
「くっそつまらねぇ……。だいたい女だらけのパーティとか何考えてんだ。俺らの方が戦えるに決まってるだろうが、テメーらの目は節穴なのかと。そもそもだ。もっと大人数で乗り込めば楽勝だろうが」
初秋とは言え、夜遅い時間ともなるとかなり冷えこむ。外套を羽織り直すと、男は街の外壁に設けられた見張り塔の方を見上げる。
上弦の月明りとかがり火によって照らされた塔の窓からは、複数の人影が視認出来た。
そういえば、『空からの襲撃も警戒するよう』なんてお達しもあったかねえ。そんなことをふと考え、悴んだ手を温めるようにポケットに突っ込むと、男は通りを離れ小路に入った。
「ふう……」
周囲の視線を気にしながら、男が用を足しているときのことだった。その人影は、突如男の真横に現れた。
音もなく、すっと空から舞い降りてきたため、男は気が付くまで時間が掛かってしまう。
「あ……?」
間抜けな声をあげ、茫然と人影を見つめた。
それは、一見ヒトのような姿をしていたが、断じてヒトじゃないのは一目瞭然。肌は石のような灰褐色をしており、背中には翼も生えていたのだから。
状況が理解できず、男の思考が瞬時に凍り付いた。だがそれは、彼にとってむしろ幸いだったのかもしれない。恐怖を感じる暇もなく、最後の瞬間を迎える事が出来たのだから。
人影が何かを真横に振るった直後、男の体は硬直したように震えたのち、横倒しになってどう、と倒れた。
二度と動くことのない、骸となって。
この男が、これから始まる争乱の、最初の犠牲者となった。
「……頑張った方なんじゃないの?」
「まったくだわ。私には到底似合わない。……なんだか、悪事を打ち明ける子供みたいな気分だったわ」
リオーネは懐から煙草を取り出すと、震える手で火を点け、気持ちを落ち着かせるように口に咥えた。
「それで、本当に神殿には報告するのですか?」
「当たり前でしょ。バレなければこれ幸いと、黙っているほど卑怯な女でもないわ」
リオーネはふう、と紫煙を吐きだすと、ちょっとだけ拗ねたような表情で、窓の外へと視線を向けた。
「鬼が出るか蛇が出るか。ま、ここまで来たら、どんな運命でも受け入れる覚悟はできているわよ」
そんな彼女の様子を見ながら、ルティスは可笑しくなって笑った。
──そうね……。今度は私が、懺悔をする番なのかもしれないわね。
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神殿内部の長い廊下を、一行は歩いていた。
歩きながら、オルハが隣のコノハに話しかける。
「……ところでコノハ。ルティスが先ほど言っていたあれ、どう思ったかしら?」
「ん。あの、『あまり時間がない』って話ですか?」
「……ごめんなさい言葉が足りてなかった。よく『あれ』でわかったわね」
ああ、と得心したようにコノハが手を叩く。
「まぁ、私も気になっていたからね。正直なところ、もっと短いと考えた方が良いかな? たぶん、いいところ四~五日じゃないかと。猶予」
更にコノハは、こう付け加えた。
「あの子は嘘が付けないし、すぐ顔に出ちゃうタイプだからね」
「……私も同感かしらね。それが分かっていたからこそ、リンも明日出発しようと決めたんじゃないかしら」
少し前を歩いていたリンが、ちらと背中側に視線を飛ばして、「まあな」と同意を示した。
──嘘がつけない、か。
コノハが深く巡らしていく思いは、ルティスのことから自分のことへと移っていった。それは、今から数年前の話。
彼女の祖父は、偉大な発明家としてトリエスト島全土に名を轟かせる人物だった。彼の研究とは、端的に言って錬金術と魔術との融合。機械を生成する過程において、サポート的に魔術を用いる彼の研究は、機械文明の発展に一石を投じた。トリエストが、錬金術と魔術で栄えている島と称されるようになったのも、コノハの祖父による功績が非常に大きい。
だが、賞賛の声があがる一方で、彼の功績を妬む声が存在していたのもまた事実。ある日のこと、彼の工房で実験の最中に起こった爆発事故により、数名の死傷者が出てしまう。
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祖父がいったい何をしたというの?
そんなコノハの嘆きも虚しく、事故が起きたのは祖父の監督不行き届きが原因だという、事実無根な噂話までが広がっていく。
そうして仕事が回ってこなくなり、次第に孤立を強めていくなか、祖父は突然命を絶った。
孫娘に決して心配をかけまいと、『何も心配はいらない。大丈夫だよ』、と伏し目がちに笑ってみせた祖父の最後の顔を──今でも忘れることができない。
「なんかさ~……みんな凄いよね」
自嘲気味にコノハがもらした呟きは、廊下に響いている足音にすら掻き消されそうなほど小さくて。
「……何がかしら?」
いつになく真面目な様子に、首をかしげながらオルハが問い返す。
「リンは時々ちょっと怖い時もあるけど、自分の信念っていうのかな。ちゃんと持っているしさ、シャンは弟であったり、また誰かのために、命までを懸けられる強さを持ってる。オルハにしたってそう。一見クールだけど、その実自分の意見はしっかりと持っているし、ルティスは自分の運命と向き合って、立ち向かおうとしているじゃん?」
「……私の話はともかくとして、まあ、そうね」
「それと比べると、私って、なんにも無いんだよね。立派な魔術師になりたいという夢を掲げてはいるものの、具体的にどうしたらいいのか全然わかっていない。夢を叶えた先に見据えているプランもない。そんな空虚な自分を誤魔化すため、大きな声を出して元気な自分を演出しているだけ。……本当は……うん、全然強くなんてないの」
話し始めからトーンが低かったコノハの声は、最後は蚊の鳴くような小声にまでなってしまう。
ふむ……と少し考えたのちオルハは言った。
「……コノハは、今のままで良いんじゃないかしら?」
「そうなのかなあ……」
「……そうですよ。その元気なところが、あなたの良いところなのですから。たとえそれが、虚勢であったとしてもね。気持ちがいったん落ち込んでしまうと、自分で感情を上手くコントロール出来ない、そんな不器用な人は案外と多いものです。そうは思いませんか?」
「うん。それはそうかもね」
「……そういった人たちからしたら、本音を隠して明るく振る舞うことができるコノハは、羨ましい存在なのですよ」
「そっかあ……。そういやカノンにも、以前、そんなことを言われたなあ」
「……そうでしょう? だから、胸を張ってください。コノハは、今のままでいいのです」
うん、わかったよ、と頷くコノハの横顔を見つめ、オルハは心中で呟いた。
あなた達と出会ってから、私の人生は刺激的なことばかり。
故郷の村を襲撃者の手で焼かれ、逃げるように森を出てからはや数百年。あなたを見ていると、封じ込めていた暖かな感情のあれこれを、ふとした瞬間に思い出してしまう。
あなたが凄いと感じているように、あなたを凄いと感じている人もたくさん居るんです。それも、わりと近くに。
──私も、その中の一人かもしれないわね。
* * *
時刻は夜半を過ぎ。
ラガン王国の天空都市は、ブレストの街から約二十キロメートルの地点で停止していた。
厚い雲に阻まれていることで、浮遊している大地の姿はこの場所からは窺えない。敵の姿、目的が見えないことが市民の不安をあおり、完全に浮き足立っていた空気も、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
だが、街に三箇所ある門を中心に厳重な警戒態勢が敷かれていくなか外出緘口令まで出されたことで、いつまた苛烈な攻撃がくるのか、と不安を募らせている者もまた多かった。
緊張。不安。楽観。様々な感情が、夜の闇に溶け込んでいた。
街の北門を警備するのは、レイド村から駆けつけた、侍衆の精鋭と冒険者たち。
神殿が存在している西門付近を警備するのは、エストリア王国の騎士団と神官戦士隊。
ラガン王国の姿を直接拝める要所である東門には、増援として馳せ参じた、ルール=ディールの騎士団主力が集結していた。
さて、肝心のラガン王国であるが、二日前の早朝以降まったく動きがない。これにより、警備に当たっている者らの間にも、次第に弛緩した空気が流れ始めていた。
確かに油断はならない。ならないのだが、この日も特に何も起こらないまま夜は更け、何事も無く朝を迎えるだろう。大半の者が、緊張しながらもそう思っていた。
「寒いなあ……」
人通りが殆どない路地を、一人の男が歩いていた。腰に長剣をおびていることから、冒険者であろうことがうかがえる。
男は、自分が警備していた場所と仲間たちから離れ、当てもなく徘徊していた。
こんなところをお偉いさん達に見付かったら大目玉だな。そんな感じの不安と、別にそうなっても構わない、という捨て鉢な感情の双方を抱えて。
ブレストの街にある神殿より、守備隊編成の打診が男たちの元に届いたのは、二日前の午前中。
有力なパーティにのみかかるという招集の声に応じ、名声を上げるチャンスとばかりに、彼らも意気揚々と参加した。しかし、ここまで敵の襲撃は一切無く、彼らを束ね指示を出していたのも、よくわからん侍とかいう連中だ。早い話が彼らは蚊帳の外だった。
聞くところによると、夜明け前に出発するという遊撃隊も、『ヒートストローク』とかいう女だらけの冒険者パーティらしい。
「フザけてんのか」
男は苛立ち混じりに路上の小石を蹴飛ばした。
「くっそつまらねぇ……。だいたい女だらけのパーティとか何考えてんだ。俺らの方が戦えるに決まってるだろうが、テメーらの目は節穴なのかと。そもそもだ。もっと大人数で乗り込めば楽勝だろうが」
初秋とは言え、夜遅い時間ともなるとかなり冷えこむ。外套を羽織り直すと、男は街の外壁に設けられた見張り塔の方を見上げる。
上弦の月明りとかがり火によって照らされた塔の窓からは、複数の人影が視認出来た。
そういえば、『空からの襲撃も警戒するよう』なんてお達しもあったかねえ。そんなことをふと考え、悴んだ手を温めるようにポケットに突っ込むと、男は通りを離れ小路に入った。
「ふう……」
周囲の視線を気にしながら、男が用を足しているときのことだった。その人影は、突如男の真横に現れた。
音もなく、すっと空から舞い降りてきたため、男は気が付くまで時間が掛かってしまう。
「あ……?」
間抜けな声をあげ、茫然と人影を見つめた。
それは、一見ヒトのような姿をしていたが、断じてヒトじゃないのは一目瞭然。肌は石のような灰褐色をしており、背中には翼も生えていたのだから。
状況が理解できず、男の思考が瞬時に凍り付いた。だがそれは、彼にとってむしろ幸いだったのかもしれない。恐怖を感じる暇もなく、最後の瞬間を迎える事が出来たのだから。
人影が何かを真横に振るった直後、男の体は硬直したように震えたのち、横倒しになってどう、と倒れた。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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