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第二章「あたしがダブルスプレイヤーになった日」
【ダブルスやったことないって本当なの?】
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今から三年前のこと。北海道地区予選会のシングルス競技において、一年生にして表彰台を独占した三人の選手がいた。
その三人は、そこから当然のごとく、三年間表彰台を独占し続ける。
奇しくも三人が同学年にそろったことで、黄金世代とみなが称えた。下の世代からは憧れの対象として、上の世代からは畏怖の念をこめて、彼女らは北海道地区の『三強』と呼ばれることになる。
そのうちの一人が――あたしだ。
そんな三強のうちの二人、あたしと心が入部したことが知れ渡ると、バドミントン部の中が一時騒然となった、らしい。
しかし、肩の故障によりスマッシュが打てないのだと次の情報が流れると、部内の関心のほぼすべてが心一人に注がれた。
まあ、しょうがない。
スマッシュを打てない『風をまとう者』など、凡百のプレイヤーにすぎないのだから。
◇ ◇ ◇
札幌永青高校は、札幌市中央区にある全日制普通科の私立高校だ。緑豊な敷地内には学生寮があり、遠方からの生徒を多数受け入れている。心を育てる学園を目指している。
部活動が盛んなことでも有名で、陸上競技部、バスケットボール部等々、複数の部活動の栄光を称える垂れ幕が、校舎の内外にいくつも掲げられている。
室内競技部の練習場は、大半が体育棟にある。棟内にはメインアリーナ、サブアリーナ、柔道場や剣道場等々のほか、トレーニングルームが配置されており、放課後になると多くの生徒がこの場所に集う。
部活動見学・仮入部期間が今日で終わり、正式に部員としての活動が始まる。
新入生を含めた全部員がサブアリーナに集まり、顔合わせ会が行われた。「新たな仲間と一緒に切磋琢磨し、助け合い、喜び合いながら目標に向かっていきましょう」と三年生の主将が挨拶をした。
女子バドミントン部に入部した一年生は九名。
そのうち四人が経験者で、五人が初心者だった。バドミントンは、高校入学後に始める人も少なくない。これはわりとありがちなことだ。
顔合わせで時間が割かれたので、初日の練習は軽めのメニューで終わる。
まだ日が高いうちに学校を出る。一年生五人で連れだって、先日心と試合をした市民体育館に向かった。
というか、半ば強制的に連行された。「ダブルスの練習をしようよ紬」という心の主張によって。
「え、紬。もしかしてダブルスやったことないの?」
「うん」
「一度も?」
「一度も」
呆れたみたいに頭を抱えたのは市川夏美。
経験者である一年生の中の一人で、ダブルスに特化した選手だ。双子の姉とずっとペアを組んできたらしい。
双子で、二人ともミディアムヘアをポニテと同じ髪型なので、一見すると見分けがつかない。双子なので顔だって瓜二つなのだし。とりあえず、眼鏡をかけている冷静沈着なほうが姉。お調子者で賑やかなのが妹の夏美だと覚えた。
「なるほど。完全なるシングルス特化なわけね。いや、でも納得だわ。風をまとう者のプレイスタイルだと、時としてペアの存在が邪魔になるもんね」
心が、お尻をさすりながら恨めしそうにこっちを見る。
あたしと心とでペアを組んで、市川姉妹と練習試合をしていたのだが、すぐあたしと心のラケットが何度か交錯した。その後も息が合わず、二人がぶつかったところで練習をいったん中断した。
「自分勝手。手前勝手。優越意識。唯我独尊」
「四字熟語で悪口を並べるのやめてよ」
「事実でしょ」
ムスッとした顔で心が立ち上がる。
そんな言い方ばかり、本当に鼻持ちならない奴だと言い返したいが、原因は自分にあるので何も言えない。苦笑いするほかない。
体育館で練習を始めてすぐ、あたしの欠点が露呈した。
「ダブルスにはどんなフォーメーションがありますか?」
双子のペアの姉のほう、市川小春が眼鏡の奥の瞳を光らせた。詰問されているみたいでなんか怖い。特段背が高いわけでもないのに、妙な威圧感がある。
「トップアンドバックとサイドバイサイド」
トップアンドバックは前衛と後衛に別れる陣形で、主として攻撃するときに使うもの。サイドバイサイドは横に広がる陣形で、こちらはスマッシュを打たれる局面など守備が必要なときの陣形だ。
「そこは理解できているんだー」
「じゃあ、単純に周りが見えていないだけなんだね。もしくは見る気がないか」
「面目ない。いや、ちゃんと見ているつもりだよ」
双子姉妹の辛辣な声に、殊勝な態度で頷いた。
「見ているつもりであれなの? もうちょっとペアの動きを意識しなさいよ!?」と心。
「いや、だからごめんて」
体育館に来ているメンバーは五人。市川小春、夏美の双子の姉妹と、心、紗枝ちゃん、あたしだ。
市川姉妹は岩見沢市の出身で、このへんでは結構強いダブルスプレイヤーだったのだと、さっき心から説明を受けた。中学時代から、市川姉妹はあたしのことを大会でよく見ていたため知っていたらしい。
らしい、という表現からわかるように、あたしは二人のことをいっさい知らない。そのことを告げたらたいそうショックを受けた顔をしておられた。
「相手のフォーメーションを崩そう、なんて気概がないのはしょうがないとして、動きが独善的すぎるのよね。トップアンドバックの陣形をなるべく堅持してくれたらいいと言ったのに、それすらできないなんて。全部のシャトルに反応するってどういうことなのよ」
「……」
心の毒舌が今日はまた一段ときつい。
露呈したあたしの欠点。それは、ペアとの連携がうまく取れないことにあった。
ダブルスは自分とペアとの位置関係を認識し、状況を見極め攻守の切り替えを行う必要がある。陣形をすばやく変えて、スペースを上手くカバーし合う必要があるのだ。
ダブルスが苦手な人はこの判断がとかく遅い。無駄な動きが多くなって、守備範囲をカバーできずに自陣のコートに大きな穴が空いてしまうのだ。
「自分のことで精一杯というよりは、自分のことしか考えていないのね。自分だけが気持ちよく打てたらそれでいいのよ」
「散々な言われよう」
心いわく、判断が遅いのではなく、むしろ早すぎる。周りを見ることなく身勝手に動いてしまうため、ペアとの連携がちぐはぐになっている。……のだとか。
「スマッシュを打とうと落下点に入った私に、視界の外からぶつかってきたあなたに反論する権利はない」
「面目ない」
「こんなにひどいとは思っていなかった。紬のバドミントンは、ブサイクだよ」
「いや、わかってるけどさあ、そこまで言われる筋合いはない!」
「まあまあまあ」
一触即発の空気になったあたしたちの間に、小春が割って入った。
「まさか私が、あの『風をまとう者』にダブルスのやり方を教えることになるとは思わなかったよ」
短めのポニーテールを揺らし、にゃはは、と夏美が笑う。
夏美とペアを組んで、ダブルスの練習に残りの時間の多くを割いた。サーブレシーブから、トップアンドバックの陣形になるまでの流れを、心を相手にして何度も確認をした。
ダブルスの経験者である夏美の教え方は、とてもわかりやすい。
「紬がなるべく前衛に出られるようにしなくちゃだから……。サーブの選択が結構大事になるよね」
サーブはラリーの始まりの部分にあたる。テニスのように上から打つことが許されていない以上、バドミントンのサーブに強烈なショットはない。コースを打ち分けるなど、駆け引きをうまく使って相手を揺さぶっていくのがメインとなる。
ショートサーブにロングサーブ、それぞれにフォアハンドとバックハンドの打ち方がある。
肩が上がらないあたしの場合、このうちロングサーブの選択がほぼない。どうしてもショートサーブ偏重になる。
あたしのサーブからどうやって陣形を整えるか、これが一番の課題だった。いろんなパターンを試していった。
その間、初心者である紗枝ちゃんは、小春からみっちり基礎の指導を受けていた。
ラケットの握り方から始まって、フットワークにラケットの振り方。最後に軽めの乱打まで。球技とは無関係な陸上とはいえスポーツをやっていただけあって、紗枝ちゃんはなかなかセンスがいい。
「ストライドを大きくして、もっとピッチを速めたほうがいいかな」
あたしが横から助言すると、紗枝ちゃんがこちらを見て足を止める。
「ストライドを大きくする? というと?」
「特にバックステップのときね。少ない歩数でシャトルの落下点に入れるように、とんとん、とんって感じ?」
「とんとんとん?」
実際に、ステップを踏んでみせる。
「なんでも軽々とこなしてしまう天才型のプレイヤーは、えてして人に説明するのが下手なんだよね……」
「ええ? わかりにくかったかなあ……」
「にゃはは。考えなくてもできてしまうから、他人に教えるのが苦手なのかもねー」
市川姉妹が、口々に失礼なことを言う。
あれ? とそのあとで夏美が首をかしげた。
「そのわりに、ダブルスの動きはてんでダメだよね?」
「他人の動きに合わせようという気遣いがないんでしょ。そもそも」
まとめるみたいに心が吐き捨てた。
「またブサイクとか言うつもり? そうやって、あたしには協調性がないみたいな言い方しないでよ!」
「ないじゃん!」と紗枝ちゃん以外の全員の声がそろった。
「えええ……」
まあ、でも、と心が補足する。
「理論だけはしっかりしているわね、さすがに。他人に合わせたり教えたりするのが下手くそなだけで。とにかく、今のままじゃ私のペアにはなれないわよ。もうちょっと、頑張りなさい」
心の言葉が、あたしの胸を抉っていく。事実なだけに、何も言い返せない。
シングルスプレイヤーとしては半端者。
ダブルスをやるとしてもペアとの連携に課題がある。
目下それが、あたしの問題点なのだ。
その三人は、そこから当然のごとく、三年間表彰台を独占し続ける。
奇しくも三人が同学年にそろったことで、黄金世代とみなが称えた。下の世代からは憧れの対象として、上の世代からは畏怖の念をこめて、彼女らは北海道地区の『三強』と呼ばれることになる。
そのうちの一人が――あたしだ。
そんな三強のうちの二人、あたしと心が入部したことが知れ渡ると、バドミントン部の中が一時騒然となった、らしい。
しかし、肩の故障によりスマッシュが打てないのだと次の情報が流れると、部内の関心のほぼすべてが心一人に注がれた。
まあ、しょうがない。
スマッシュを打てない『風をまとう者』など、凡百のプレイヤーにすぎないのだから。
◇ ◇ ◇
札幌永青高校は、札幌市中央区にある全日制普通科の私立高校だ。緑豊な敷地内には学生寮があり、遠方からの生徒を多数受け入れている。心を育てる学園を目指している。
部活動が盛んなことでも有名で、陸上競技部、バスケットボール部等々、複数の部活動の栄光を称える垂れ幕が、校舎の内外にいくつも掲げられている。
室内競技部の練習場は、大半が体育棟にある。棟内にはメインアリーナ、サブアリーナ、柔道場や剣道場等々のほか、トレーニングルームが配置されており、放課後になると多くの生徒がこの場所に集う。
部活動見学・仮入部期間が今日で終わり、正式に部員としての活動が始まる。
新入生を含めた全部員がサブアリーナに集まり、顔合わせ会が行われた。「新たな仲間と一緒に切磋琢磨し、助け合い、喜び合いながら目標に向かっていきましょう」と三年生の主将が挨拶をした。
女子バドミントン部に入部した一年生は九名。
そのうち四人が経験者で、五人が初心者だった。バドミントンは、高校入学後に始める人も少なくない。これはわりとありがちなことだ。
顔合わせで時間が割かれたので、初日の練習は軽めのメニューで終わる。
まだ日が高いうちに学校を出る。一年生五人で連れだって、先日心と試合をした市民体育館に向かった。
というか、半ば強制的に連行された。「ダブルスの練習をしようよ紬」という心の主張によって。
「え、紬。もしかしてダブルスやったことないの?」
「うん」
「一度も?」
「一度も」
呆れたみたいに頭を抱えたのは市川夏美。
経験者である一年生の中の一人で、ダブルスに特化した選手だ。双子の姉とずっとペアを組んできたらしい。
双子で、二人ともミディアムヘアをポニテと同じ髪型なので、一見すると見分けがつかない。双子なので顔だって瓜二つなのだし。とりあえず、眼鏡をかけている冷静沈着なほうが姉。お調子者で賑やかなのが妹の夏美だと覚えた。
「なるほど。完全なるシングルス特化なわけね。いや、でも納得だわ。風をまとう者のプレイスタイルだと、時としてペアの存在が邪魔になるもんね」
心が、お尻をさすりながら恨めしそうにこっちを見る。
あたしと心とでペアを組んで、市川姉妹と練習試合をしていたのだが、すぐあたしと心のラケットが何度か交錯した。その後も息が合わず、二人がぶつかったところで練習をいったん中断した。
「自分勝手。手前勝手。優越意識。唯我独尊」
「四字熟語で悪口を並べるのやめてよ」
「事実でしょ」
ムスッとした顔で心が立ち上がる。
そんな言い方ばかり、本当に鼻持ちならない奴だと言い返したいが、原因は自分にあるので何も言えない。苦笑いするほかない。
体育館で練習を始めてすぐ、あたしの欠点が露呈した。
「ダブルスにはどんなフォーメーションがありますか?」
双子のペアの姉のほう、市川小春が眼鏡の奥の瞳を光らせた。詰問されているみたいでなんか怖い。特段背が高いわけでもないのに、妙な威圧感がある。
「トップアンドバックとサイドバイサイド」
トップアンドバックは前衛と後衛に別れる陣形で、主として攻撃するときに使うもの。サイドバイサイドは横に広がる陣形で、こちらはスマッシュを打たれる局面など守備が必要なときの陣形だ。
「そこは理解できているんだー」
「じゃあ、単純に周りが見えていないだけなんだね。もしくは見る気がないか」
「面目ない。いや、ちゃんと見ているつもりだよ」
双子姉妹の辛辣な声に、殊勝な態度で頷いた。
「見ているつもりであれなの? もうちょっとペアの動きを意識しなさいよ!?」と心。
「いや、だからごめんて」
体育館に来ているメンバーは五人。市川小春、夏美の双子の姉妹と、心、紗枝ちゃん、あたしだ。
市川姉妹は岩見沢市の出身で、このへんでは結構強いダブルスプレイヤーだったのだと、さっき心から説明を受けた。中学時代から、市川姉妹はあたしのことを大会でよく見ていたため知っていたらしい。
らしい、という表現からわかるように、あたしは二人のことをいっさい知らない。そのことを告げたらたいそうショックを受けた顔をしておられた。
「相手のフォーメーションを崩そう、なんて気概がないのはしょうがないとして、動きが独善的すぎるのよね。トップアンドバックの陣形をなるべく堅持してくれたらいいと言ったのに、それすらできないなんて。全部のシャトルに反応するってどういうことなのよ」
「……」
心の毒舌が今日はまた一段ときつい。
露呈したあたしの欠点。それは、ペアとの連携がうまく取れないことにあった。
ダブルスは自分とペアとの位置関係を認識し、状況を見極め攻守の切り替えを行う必要がある。陣形をすばやく変えて、スペースを上手くカバーし合う必要があるのだ。
ダブルスが苦手な人はこの判断がとかく遅い。無駄な動きが多くなって、守備範囲をカバーできずに自陣のコートに大きな穴が空いてしまうのだ。
「自分のことで精一杯というよりは、自分のことしか考えていないのね。自分だけが気持ちよく打てたらそれでいいのよ」
「散々な言われよう」
心いわく、判断が遅いのではなく、むしろ早すぎる。周りを見ることなく身勝手に動いてしまうため、ペアとの連携がちぐはぐになっている。……のだとか。
「スマッシュを打とうと落下点に入った私に、視界の外からぶつかってきたあなたに反論する権利はない」
「面目ない」
「こんなにひどいとは思っていなかった。紬のバドミントンは、ブサイクだよ」
「いや、わかってるけどさあ、そこまで言われる筋合いはない!」
「まあまあまあ」
一触即発の空気になったあたしたちの間に、小春が割って入った。
「まさか私が、あの『風をまとう者』にダブルスのやり方を教えることになるとは思わなかったよ」
短めのポニーテールを揺らし、にゃはは、と夏美が笑う。
夏美とペアを組んで、ダブルスの練習に残りの時間の多くを割いた。サーブレシーブから、トップアンドバックの陣形になるまでの流れを、心を相手にして何度も確認をした。
ダブルスの経験者である夏美の教え方は、とてもわかりやすい。
「紬がなるべく前衛に出られるようにしなくちゃだから……。サーブの選択が結構大事になるよね」
サーブはラリーの始まりの部分にあたる。テニスのように上から打つことが許されていない以上、バドミントンのサーブに強烈なショットはない。コースを打ち分けるなど、駆け引きをうまく使って相手を揺さぶっていくのがメインとなる。
ショートサーブにロングサーブ、それぞれにフォアハンドとバックハンドの打ち方がある。
肩が上がらないあたしの場合、このうちロングサーブの選択がほぼない。どうしてもショートサーブ偏重になる。
あたしのサーブからどうやって陣形を整えるか、これが一番の課題だった。いろんなパターンを試していった。
その間、初心者である紗枝ちゃんは、小春からみっちり基礎の指導を受けていた。
ラケットの握り方から始まって、フットワークにラケットの振り方。最後に軽めの乱打まで。球技とは無関係な陸上とはいえスポーツをやっていただけあって、紗枝ちゃんはなかなかセンスがいい。
「ストライドを大きくして、もっとピッチを速めたほうがいいかな」
あたしが横から助言すると、紗枝ちゃんがこちらを見て足を止める。
「ストライドを大きくする? というと?」
「特にバックステップのときね。少ない歩数でシャトルの落下点に入れるように、とんとん、とんって感じ?」
「とんとんとん?」
実際に、ステップを踏んでみせる。
「なんでも軽々とこなしてしまう天才型のプレイヤーは、えてして人に説明するのが下手なんだよね……」
「ええ? わかりにくかったかなあ……」
「にゃはは。考えなくてもできてしまうから、他人に教えるのが苦手なのかもねー」
市川姉妹が、口々に失礼なことを言う。
あれ? とそのあとで夏美が首をかしげた。
「そのわりに、ダブルスの動きはてんでダメだよね?」
「他人の動きに合わせようという気遣いがないんでしょ。そもそも」
まとめるみたいに心が吐き捨てた。
「またブサイクとか言うつもり? そうやって、あたしには協調性がないみたいな言い方しないでよ!」
「ないじゃん!」と紗枝ちゃん以外の全員の声がそろった。
「えええ……」
まあ、でも、と心が補足する。
「理論だけはしっかりしているわね、さすがに。他人に合わせたり教えたりするのが下手くそなだけで。とにかく、今のままじゃ私のペアにはなれないわよ。もうちょっと、頑張りなさい」
心の言葉が、あたしの胸を抉っていく。事実なだけに、何も言い返せない。
シングルスプレイヤーとしては半端者。
ダブルスをやるとしてもペアとの連携に課題がある。
目下それが、あたしの問題点なのだ。
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