痴漢を捕まえたら女の子だったので、好きに触らせてみた結果、私が百合にハマった話。

木立 花音

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第一章「関係の始まり」

【捕まえた痴漢は女の子(1)】

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 電車が駅に滑り込むたび、乗客の波が押し寄せてくる。
 朝の通勤ラッシュはちょっと苦手。吊り革につかまり、スマホの画面を無心でスクロールする。
 ガタンガタン。
 電車の車輪が奏でる規則正しい走行音と、衣ずれと咳払い、イヤホンからもれるかすかな音楽。都会の音はどこか無機質だ。
 ホームに着いて扉が開くと、熱気と人とがどっと流れ込んでくる。必死に吊り革を握って耐えるが、女性客に押されて反対側の扉まで流された。
 ああ、嫌だ。次の駅で降りなきゃいけないのに、降り口が遠くなった。

「すみません」

 身を捩ってどうにか電車の中央まで戻り、スマホに目を落とす。
 社会人になって二年ほど経つけれど、満員電車には一向に慣れない。都会で暮らしていく限りこのストレスが続くのかと思うとうんざりだ。
 電車が動き出す。右から左から体重を預けられる。
 ガタンガタン。
 ――!?
 そのとき、お尻に何かが触れた。
 偶然、誰かのカバンが当たっただけ? でも、硬い感触ではなかった。
 暴れた心臓を必死に宥め、視線を下げたまま周囲を窺う。互いの存在を無視するみたいに。誰もが顔を伏せてスマホを見ている。
 うん、気のせいだよ。
 吊り革を握り直し、車窓に映った自分の顔を見つめる。くせ毛のミディアムボブ。疲れた目。二十三歳の養護教諭の顔じゃない。  
 またそんな目をしている――肩口までの長さの髪は、キューティクルが死んでいて枝毛ばかりが目立っている。いい加減に髪を切ろうかな。
 安堵して物思いに耽っていると、またあの感触が戻ってきた。
 これは、誰かの指先? ブラウスの袖に触れている。摘むような仕草なので、間違いなく意図的な接触だ。
 何……? なんなの?
 振り返ってみたけれど、社内はぎゅうぎゅうで人の頭と肩しか見えない。無表情な顔たちが、まるで壁みたいになって私を閉じ込めている。なおも指は止まらない。私の腕を、水面に円を描くように滑らかに上ってくる。
 繊細で柔らかいタッチだ。手首から肘にかけて、ブラウスの縫い目をなぞるような小刻みな動き。

「っ……」

 喉からくぐもった声が出た。心臓が、警告を発するみたいに激しく鳴る。頬がじんわりと熱くなる。
 この感触なに?
 偶然触れているだけじゃないよね? 
 羽が触れているみたいに軽い接触なのに、時折確かな圧があって、ぞくりと背筋が冷えた。

「……!」

 私が抵抗しないと思ったのか、指の動きが大胆になる。
 腕から離れた指先が、脇腹、腰と順に触っていく。布越しの接触なのにひんやりとした感触なのは、私の身体が熱を帯びているせいか。腰のあたりがじわっと熱くなって、膝がかすかに震えた。
 ここまできたら間違いない。痴漢だ。
 息を詰め、身を硬くする。振り返りたい。声を上げたい。でも、私が騒げば周りの人の目が一斉にこっちに向くだろう。そう思うと、声が喉の奥に絡み付いた。痴漢に遭うと、恐怖で声が出ないと聞くが、本当だった。
 指はさらに下へ。
 布越しに私のお尻をなぞっていく。指先の感触が、スカートの生地を通して伝わってくる。ゆっくりと、時間をかけて私の形を確かめるように。
 やめて、と叫びたいのに喉がひりついて声が出ない。電車の軋む音にかき消される。
 お尻の曲線をなぞり終えると、満足したのか手が離れた。
 もう終わり? 良かった……。
 助かった。肩の力を抜いたのも束の間、今度は太ももに生々しい感触が這った。
 嘘でしょ!? 直に触れてくるの?
 スカートの裾をくぐって、つつ……と指の感触が這い上がってくる。恐怖で全身が粟立った。暴れている心臓の音が、触れている指先から相手に伝わっているんじゃないだろうか。恥ずかしい。
 あと数分で電車が止まる。そこで、人混みに紛れて逃げられるだろう。でも、このままされるがままは悔しい。なんとか一矢報いてやる。
 覚悟が決まる。目をぎゅっと閉じ、大きく息を吸い込んだ。

「あの」

 電車が止まるのと同時に、腰に迫っていた手をつかんだ。引きはがせるか、と懸念したけど抵抗は案外弱くて、華奢な手は簡単に捻り上げられた。
 え……? あまりの呆気なさに拍子抜けしつつ振り返る。そこにいたのは――。

「なんで……」

 どんなエロ親父が触っているのか。その予測は大幅に裏切られた。
 握った手首の主は、人形みたいに顔立ちの整った女の子だった。セーラー服、華奢な肩。長い髪が揺れている。つぶらな瞳はまっすぐに私を見つめ、唇は感情を押し殺すみたいに固く結ばれている。スカーフは正しい三角形に折られ、たるみや歪みがない。スカートは膝丈で、裾が乱れることなく自然に広がっている。優等生を絵に描いたような女の子の手首を、私はつかんでいる。

「あんた、なんで? 今の、なんのつもり?」
「……ご、ごめんなさい……わざとじゃ……」

 彼女が謝罪したことで、冤罪である可能性は消えた。
 ほんとに? なんで? この子が痴漢なの?
 女の子が痴漢って、どうして……。

 電車が止まる。車内のアナウンスは耳に届かない。まるで水底にでもいるみたいに、すべての音がくぐもって聞こえる。朝の通勤電車という日常から、突然隔離されてしまったみたいだ。

「わざとじゃない? ふざけないで! 痴漢でしょ! なんで女が……」

 そこで、複数の視線が私に突き刺さっているのに気付いた。
 女子高生の手をひねり上げ、糾弾している私。痴漢の犯人が女だとは誰も思わないから、どう見ても私が悪者だ。

「……っ!」

 仕方なく少女の手を放す。周囲の視線が痛い。まさに針のむしろだ。
 なんでよ、私が被害者なのに。
 電車が停止してドアが開いた。訝しげにこちらを見ながら、人がどっと流れ出ていく。
「話、聞かせてもらうから」と少女に向かって言うと、彼女は涙目で頷いた。
 泣きたいのはこっちだよ。彼女の手を強引につかんでホームに降りた。

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