痴漢を捕まえたら女の子だったので、好きに触らせてみた結果、私が百合にハマった話。

木立 花音

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第一章「関係の始まり」

【痴漢に、家でも触らせてみた(2)】

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 それからも、私とりのが密会する日々は続いた。りのが私の家に来て、服の上から身体に触れる。私はただそれを受け入れるだけだ。
 彼女の触り方は、最初に比べるとずいぶん自然になった。初めての頃は、恐る恐る、まるで壊れ物を扱うようなぎこちなさだったけれど、今ではずいぶん大胆になった。それでもまだ遠慮はあるようで、私の身体から快感を引き出そうとする動きは見せない。一度、「直接触ってみる?」と提案したことがあったが、「一ノ瀬さんが嫌がるようなことは絶対にしたくありません」ときっぱり断られて以来、この話題に触れる気は失せた。彼女がそれでいいなら、私からこれ以上言うことはない。私は、彼女の不安を和らげてあげたいだけなのだ。
 とはいえ、体の反応は正直だ。
 回を重ねるごとに快感は増す一方だった。最初はくすぐったさで身をよじっているだけだったのに、今ではそれだけじゃ済まない。りのに背中やお腹を撫でられると、身体がぴくりと震えてしまう。そして、それを見てりのは嬉しそうに笑うのだ。「感じてくれて嬉しいです」と屈託のない顔で言われれば、私は顔を背けるしかない。これでは、どっちが主導権を持っているのかわからない。

 その日も私たちは同じだった。室内が、夕焼けの薄光に染まっていた。
 ただ一つ違うのは、りのの様子がどこかおかしかったことだ。そわそわしていて、顔色が冴えない。

「どうしたの? 体調悪い?」
「……はい、少し」

 りのは靴を脱ぐと、ふらふらとこちらに近寄ってくる。どうしたの? と訊ねるよりも早く、彼女の腕が伸びてきた。
 獲物を捕らえるみたいに素早く私を抱きしめると、身体を預けてくる。

「ちょっと!」

 抵抗もむなしく、すとんとソファに押し倒された。りのは私の上に覆いかぶさって、首筋に顔を寄せてくる。熱い吐息がかかってくすぐったい。

「そういうのはダメだよ」
「わかってます。けど、ちょっとだけこうさせてください……」

 ルールを破るつもりはないのか、りのはそれ以上動かない。私を抱きしめる腕に力を込めて、しかしそのままだ。やきもちを焼いた子どもが、甘えてくるときの仕草にどこか似ていた。

「……少しだけね」

 抵抗をやめ、りのの好きにさせた。
 目の前にりのの頭がある。綺麗なつむじをしているなって思う。交わされる言葉はなく、荒い呼吸音だけが室内に響いていた。彼女の体温と速い鼓動が伝わってきて、背中に手を回して抱き寄せると、彼女への愛しさが胸に満ちてくる。
 どれくらい時間が経っただろう。

「ごめんなさい」

 身体を離したりのの顔は、今にも泣き出しそうだ。
 優しくフォローしてあげたいと思うのに、口からは何も言葉が出ない。こんなとき、気の利いたセリフの一つでも言える器用さがあれば良かったのに、と歯がゆくなる。
 彼女の長い髪が、鎖骨の辺りで揺れている。半開きになった薄い唇に、ふと目が止まる。りのに触れられるたびに感じてきたもどかしさが胸を過る。
 もし、唇で触れられたらどうなるだろう。
 りのの腕を掴み、半ば強引に引き寄せた。

「……一ノ瀬さん?」

 不思議そうな声を無視して、彼女の髪をかき分ける。形のいい耳に唇を寄せた。
 彼女は今日、きっと家で何かあった。「どうしたの?」と訊ねたいけれど、心が弱っている人にダイレクトに訊くのは悪手だ。彼女の不安を聞いてあげて、「大丈夫だよ」と受け止めてあげるのがまずは肝要だ。

「耳なら、いいよ」

 口にしてから、いいのか、と自分に驚く。
 これは『キスはNG』のルールからの逸脱だ。
 でも、キスと言えば普通は唇を連想する。なら、これはルール違反ではない。
 どこか言い訳がましいが、ここで一歩踏み込と、りのが壊れてしまないまう気がしていた。
 りのが驚いたように目を丸くしたが、ためらいは一瞬だけだ。口角を上げ、私の耳たぶに舌先で触れてきた。

「っ」

 声が出そうになって、なんとか堪える。触れるか触れないかのタッチで、耳の輪郭を舌でなぞられる。湿ったものを感じて背筋がぞくぞくとした。これはまずいと思ったが、もう遅い。身体から力が抜け、腰が立たなくなる。心臓がバクバクと鳴っていて、顔が熱くなってきた。
 耳の裏を舐められ、身体がびくりと跳ねる。
 耳たぶを甘噛みされ、また声が出そうになる。
 私の反応を確かめながら、りのが反対側の耳にも舌を這わせる。ゆっくりと、丁寧に舐め上げる。時折、軽く歯を立てたり、息を吹きかけたりするものだから、そのたびに身体が震えてしまうがお構いなしだ。舌の動きはどんどん大胆になっていく。耳たぶを口に含み、吸い始めた。

「ひゃっ」

 耳の中に舌が入ってくると、ついに我慢できず声が出た。ぬるりとした温かい感触に、頭が真っ白になる。

「ごめん、もうダメ、赤嶺さん」

 身悶えをするたびに、意識が溶けてゆく。
 もう限界だ、と思ったそのときようやく解放された。肩で息をしながらりのの顔を睨んだ。彼女は悪戯っぽく笑い、「ごめんなさい」と呟いた。

「はあ……もう勘弁してよ」

 脱力して、ソファに崩れ落ちる格好になった。もうどうにでもなれ、という気分だった。私にしなだれかかっていたりのが、胸元に顔を埋めてくる。

「もっとしたいです、一ノ瀬さん……」

 その声にいつもの冷静さはない。どこか、熱に浮かされたようなトーンだ。私は小さくため息を吐き、りのの頭を優しく撫でた。

「気持ちはわかるけど、もうダメ。今日はここまで、ね?」
「……」

 りのは黙ったまま動かない。私は苦笑して続けた。
「続きはまた今度ね」と言うと、りのはしぶしぶといった様子で身を起こし、私の隣に座った。

「わかりました。また今度にします」

 私の肩に頭を預けてくる。拗ねたようなその態度に笑ってしまう。
 りのの肩を抱き寄せて、頭をぽんぽんと叩くと、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。その仕草はまるで猫みたいで愛らしい。可愛くて、そしてワガママで。
 そのままの体勢で、しばらく寄り添っていた。
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