痴漢を捕まえたら女の子だったので、好きに触らせてみた結果、私が百合にハマった話。

木立 花音

文字の大きさ
21 / 40
第三章「愛と葛藤の深化 」

【崩れていくルール】

しおりを挟む
 ルールの一つを自ら破った。
 ルールを破ったことで、ルールの再評価が必要になった。
 りのは私を求めていて、私は嫌じゃなかった。なら、ルールを一つずつ外し、関係を少しずつ進展させていくのが自然な選択肢になるのかな。

 二人で海に行ったあの日から、一週間が過ぎていた。
 インターホンの音にドアを開けると、ずぶ濡れになった制服姿のりのが立っていた。濡れた髪から水滴が滴っている。
「家にいたくなかった」と小さく呟いたりのの後ろに、母親の影を見た。
 このひどい土砂降りの中、傘も差さずに来たのだろうか。顔色が良くないし、このままじゃ風邪を引く。

「お風呂沸かすから、入る?」

 少し逡巡する仕草を見せたのち、「一緒に入りませんか?」とりのが言った。
 ルールが一つ外れかける。
 外れてもいいかな、と思う。
 嫌なら拒絶すればいいだけだ。どうということはない。私たちは女同士なのだから、一緒にお風呂に入るのは自然なことで、特別な行為だと意識するのはむしろおかしい。

 濡れた服を脱ぎ捨てて、りのが後ろ手でブラのホックを外すと、形の良い胸があらわになる。どこか気まずくて、私は視線を逸らした。
「どうしたんですか?」と訊かれて、わたわたしてしまう。「なんでもない」と言った自分の声が、大袈裟に浴室に響いた。
 湯船に二人で浸かる。二人だとさすがに窮屈だ。
 りのが前で私が後ろ。ごく普通に触れ合う肌が、温かくて心地よい。抱きしめそうになって、手を身体の横に置く。
 彼女の濡れた髪から水滴が滴る。肩に手を乗せてみたら、ひんやりとしていてびっくりした。以前も思ったが、りのは体温が低いのだろうか?

「冷えてるね」
「そうかもしれないです」

 どうして傘を持ってこなかったの、と聞こうとしてやめた。
 今は何もできない。今日のこととか、明日のこととかではなく、根本的な救いがりのには必要だが、その方法は簡単には見付からない。それでも、と思う。寄り添うことしかできないけれど、今はそれでいいのかもしれない。
 身体を寄せ合って、お湯に浸かりながら会話をした。

「最近、学校ではどう?」
「クラスでちょっと浮いた存在になっています」

 そう言って彼女は口元を緩ませた。

「悪口なんて気にするな、って自分に言い聞かせてる。でも……みんなが向けてくる目はやっぱり冷たい。詩さんに触れているときだけ、そのことを忘れられる」

 りのは笑っているが、瞳の奥には影がある――学校の廊下で囁かれる「レズ」という言葉、そこかしこから向けられる視線。「浮いた存在」なんだと笑って見せるその裏で、彼女はいったいどれほど傷付いているのか。

「女子ってすぐそういうことで仲間外れにするんですね」
「派閥を作るのが好きだからね。そうして多数に収まっていないと、みんな不安なんだよ」

 他人を攻撃するのは弱い心の裏返しだ。自分がそこに行きたくないと恐れるから、誰かをそこに押し込める。そうして自分の居場所を作る。
 耳元に唇を寄せると、りのはくすぐったそうに身を捩った。

「何かあったら私に言ってね。相談に乗ってあげるから」
「ありがとうございます」

 壊れそうなその笑みは、あの日見た奈緒のものとどこか似ていた。
 湯船から上がる。湯気が浴室を満たし、鏡に二人の曖昧な姿が映っていた。
 シャワーを手に取って、りのの濡れた髪にお湯をかける。くすぐったそうに彼女の肩が震え、背中の痣が薄い光の中で浮かび上がる。母親の暴力、学校の冷たい視線――りのがその小さな身体で背負っているものが、私の心を疼かせた。

「詩さん、私が背中を流してあげます」

 りのの声は、囁くように柔らかく、だがどこか切実だ

「じゃあ、お願いしようかな」

 彼女はシャワーを手に取って、私の背中にお湯を流した。水滴が鎖骨を滑り落ち、胸元に溜まる。泡をまとったりのの指先が肩に触れ、ゆっくりと下に降りていく。

「詩さんの背中、綺麗ですね」

 褒め言葉にこそばゆくなる。

「そうかな?」
「はい。こんなに綺麗な人見たことないです」

 りのが突然背中に唇を押し当ててきた。ちゅ、と水音が響いて、その場所から温もりが広がっていく。
 唇を触れさせたまま、りのがゆっくりと息を吐く。柔らかい唇の感触と吐息が、くすぐったいけれども心地よい。

「詩さんの背中も肩も髪も全部好きです」

 そう言って、りのがまた一つ口付けを落とす。

「キスは、する場所によって意味が違うんだって。知ってましたか?」
「そうなの? 背中へのキスはどういう意味があるの?」

 などととぼけて見せるが本当は知っている。
 背中へのキスは『確認』だ。背中に遠慮なく触れられるのは、親密な間柄の者に限られる。自分にしかできない方法で、愛情を表現したい、もしくは確認したいときに背中に口付ける。
 意味を知っているだけにリアクションしづらい。だから、知らないふりをした。

「うふふ、内緒。あとでゆっくり調べてみて」

 脇腹に添えてあった指先が、私の二の腕に触れる。そのまま腕をなぞっていき、彼女の指先が私の手に触れる。指と指が絡み合うようにして繋がれる。

「詩さん」

 りのが私のうなじにキスをした。痕を残そうとするみたいな、強くて深いキスだった。
 うなじへのキスはなんだったかな。
 考えているうちに、背中から抱きすくめられる。両手を拘束されて、身動きできなくなった。
「詩さん」と囁く声は震えている。キスマークをつけるみたいな強い抱擁には、愛情表現というよりも、むしろ孤独を埋めるような必死さがあった。
 黙って彼女の抱擁を受け入れた。彼女が抱えている不安が、触れた指先から伝わってくるようだったから。

 お風呂から上がる頃にはすっかり日が暮れていて、外ではざあざあと雨が降っていた。
 りのに部屋着を貸し、私はブラウスとショートパンツに着替えてソファに並んで座る。窓を叩く雨音以外の音はなく、部屋は静寂に包まれていた。りのは膝を抱えるような体勢をしていて、私は彼女の細い肩にそっと手を添えた。
「最近眠れないんです」と彼女は言った。
「怖い夢を見るの」と続けた声は震えている。

「どんな夢?」
「暗い部屋で、母に首を絞められるんです。苦しくて、声が出せない」
「それはとても怖い夢だね」

 甘えるように、りのが体重を預けてくる。
 夢の話か、それとも現実の話か。頭の片隅でそっと思う。

「いつか本当に殺されてしまいそうで、それが怖い」
「夢は夢だよ」

 りのの手を握る。どうしたら、彼女の不安を取り除けるだろう。どうしたら、彼女はぐっすりと眠れるのだろう。
 答えはすでに知っていた。「一緒に寝ようか?」と提案すると、彼女は小さく頷いた。まんまと乗せられた気がするが、今は乗っておこうと思う。

 寝室に移動して、二人でベッドに潜り込む。向かい合わせの体勢からりのを抱き寄せると、わかっていたことだが本当に華奢だ。不安を取り除くように背中をさすると、彼女はかすかに身じろぎをした。

「お母さんのこと、嫌い?」

 この質問が、彼女にとって地雷なのを知っている。それでも聞いておかなくてはならなかった。

「嫌いじゃないですよ。でも、ちょっとだけ苦手かな。……昔は、優しかったんですけどね」

 昔は、という表現をりのは使った。何かしらきっかけがあって、それから母親は変わってしまったということだろうか。彼女の家はシングルマザーだったはず。父親がいなくなったのが、そのタイミングだったのかもしれない。

「りの、最近、眠れないって言ってたよね。何か……家で落ち着かないこと、あったりする?」

 りのの母親には、おそらく虐待癖がある。だからといって、『母親失格』の烙印を押すのは早計だ。すべての行動には理由がある。単に厳しい躾の一環かもしれないし、愛情が深すぎるがゆえの過剰な反応かもしれない。虐待の背景にあるのが、必ずしもネガティブな要因とは限らない。
 りのの瞳が揺れた。彼女は膝を抱え、宙に指で小さな円を描いた。

「家は……うん、ときどき静かすぎるの。お母さんが忙しくて家にいないことが多いから、一人きりの家って、ちょっと怖いというか落ち着かなくて」
「それはわかる……」

 人がいない家は私も少し苦手だ。
 でもね、と彼女は続ける。

「詩さんと一緒にいると安心する」
「お母さんは、なんの仕事をしているの?」
「仕事?」

 うーーんと彼女は考え込んで、それから軽く頬を膨らませた。

「私にばっかり質問するのずるいです」
「そうか。それもそうだね。じゃあ……どうしようかな」

 そこでりのがいたずらっぽく笑んだ。布団を引っ張って、顔の下半分を隠した。

「ひとつ質問に答えるたびに、詩さんに一度触りたいです」
「いつも触っているじゃない」
「そうですけど、そうじゃないんです」

 ルールが一つ外れるのが、今なのかなと思う。
 でも、好意があるとわかっている相手に、自由に触らせるのはまずくないか。
 まずければ、ここで話を終わらせればいい。それがわかっていながら、すでに半分流されている自分の心を見つめた。優柔不断だな。

「変なことはしないって、約束します。詩さんが嫌ならすぐに止めますから」
「……うーん……」

 ここでさらに一歩、踏み込んでいく必要がある。この関係がここで途切れてしまわないように、繋ぎとめなくてはならない。そう。これは彼女の心のケアの一環だ。

「わかった。いいよ、それで」
「やった!」

 こちらがリスクを負うことなく、彼女の本音を引き出せるとは思っていなかった。
 それはそうと、そうやって無邪気に笑われたら断るに断れないじゃない。

「お母さんの仕事は、銀行員? だったかな。あと、学校でPTA会長をしているの」
「PTA会長?」

 母親の仕事を把握していないのか。それがまず驚きだったが、それ以上にPTA会長という肩書きに驚いた。娘を虐待している母親に、PTA会長の任は勤まるのか。

「そう、PTA会長。家では家事をほとんどしないけど、学校では余所行きの顔をしているみたい。先生たちは、いつも私のお母さんのことを褒めているよ」

 りのの指が私のうなじに触れる。
 少し驚いてから、これが質問に答えたことによる報酬だと気付く。
 指は肩に向かって滑り、鎖骨をなぞった。こそばゆくて身を捩ったが、逃がさないぞとばかりに腰を抱き寄せられた。
 触る時間が長すぎるんじゃないの? と思うが言わずにおいた。

「朝食は、いつも誰と食べているの?」
「だいたい、いつも一人かな」

 片親なのだし、母親の勤務時間が長くなりがちと考えたら妥当か。だいたい、という表現を使ったのだから、たまには一緒に食事をするのだろう。親子関係が冷え切っているわけではないのか。
 彼女が私のお腹に触れる。するりと手が、ブラウスの内側に滑り込む。ひんやりとした指の感触に、身体がぴくんと反応した。
 そう言えば、「直接肌に触るのは禁止」のルールはとっくに剥がれている。

「指、冷たい」
「あ……ごめんなさい」
「いいよ。私の身体で温めて」

 返事の代わりに、りのが私の胸元に顔を埋めた。

「今、夢中になっているもの何かある?」
「ネイルかなあ。ピンクとかベージュとか、今のトレンドに合わせて色を集めるのが楽しいの」
「この間海に行ったときも、綺麗なネイルをしていたもんね」
「気付いていてくれたんですね。嬉しいです!」

 りのの指がせり上がってきて、布地越しに胸の膨らみのすぐ下を摩る。そこは……と制止しようとしてやめた。ここは我慢だ。

「買うお金はある?」
「ありますよ。心配してくれているんですか? 詩さんは優しいなあ」

 特別お金に困っているわけではないのかな? シングルマザーの家庭でも、生活が困窮していないなら良いことだ。
 性感帯への接触はNG、のルールが剥がれるのを覚悟して目を瞑る。
 ところが彼女の手は動かない。私の身体をぎゅっと抱きしめているのみだ。

「家でテレビはよく観る?」
「あんまり観ないかな。部屋でスマホをいじっていることが多いかも」

 食事が終わると、すぐ部屋にこもってしまうのだと。母親とは生活リズムが違うので、食事を一緒にすることが少ない。食事もりのが作る。けれど、食費はちゃんともらっているし、母親と不仲なわけではないのだと。
 いずれにしても、家族の団欒は少なそうだが。
 突然、りのが動いた。身体を起こして私の上に跨ってくる。布団に私の背中が沈む。お腹に彼女の熱を感じる。

「りの……?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...