『スパダリ王子と、恋する妖精のうっかり奇跡!』

かおるこ

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第13話『王子の初恋、発覚』

第13話『王子の初恋、発覚』

その日の訓練場は、朝から騎士たちの熱気に包まれていた。

剣と剣がぶつかる硬い音。砂を蹴る足音。汗の匂い。

青空の下、アルベルトは騎士たちの模擬戦を見ていた。

だが、集中できない。

視線が勝手に別の場所へ向かう。

訓練場の端。

木陰で、ルルが若い騎士と話していた。

「へぇー! すごい! 本当に片手で剣持てるの!?」

「はは、これくらい普通ですよ」

栗色の髪の騎士が笑う。

名前はカイル。

まだ二十歳そこそこだが、人懐こい性格で隊でも人気がある。

ルルは興味津々で彼を見上げていた。

「ねぇねぇ、王子もこんな訓練してたの?」

「殿下はもっと化け物ですよ」

「化け物って言うな」

アルベルトが低く言った。

カイルがぎょっと振り返る。

「で、殿下!?」

「訓練中だろう」

「は、はい!」

カイルは慌てて姿勢を正した。

ルルはきょとんとしている。

「王子、なんか機嫌悪い?」

「別に悪くない」

即答。

しかし空気が妙に冷たい。

カイルは本能的に危険を察した。

「お、俺もう戻りますね!」

「あっ、うん!」

カイルは逃げるように去っていった。

ルルは首を傾げる。

「どうしたの?」

「……いや」

アルベルトは言葉を切った。

胸の奥が妙にざわついていた。

さっきから落ち着かない。

ルルが他の男に笑いかけるたび、妙に気になる。

楽しそうに話しているだけで、なぜか面白くない。

意味がわからない。

「王子?」

ルルが顔を覗き込む。

近い。

金色の髪が陽射しに透ける。

甘い花みたいな匂いがふわりと届いた瞬間、アルベルトの心臓が跳ねた。

「っ……」

彼は一歩下がった。

ルルが固まる。

「……え」

アルベルト自身も驚いた。

なぜ避けた。

わからない。

近づかれるとおかしくなる。

心拍が乱れる。

頭が熱い。

ルルはじっと彼を見たあと、小さく笑った。

「……そっか」

「ルル?」

「邪魔してごめんね」

その笑顔が、少しだけ寂しそうだった。

アルベルトが何か言う前に、ルルはぱたぱたと飛ぶように去っていく。

風だけが残った。

胸が妙に苦しい。

「……なんだこれは」

訓練場の隅で、側近のレオが青ざめた顔をしていた。

「今の完全に嫉妬では?」

隣のセシリアが遠い目をする。

「ついに来ましたね」

「いやでも殿下ですよ!? あの恋愛感情を理解してなかった殿下ですよ!?」

「だからこそ厄介なんです」

一方その頃。

アルベルトは執務室で真顔になっていた。

机には大量の書類。

しかし一枚も進んでいない。

「……」

ペンを置く。

考える。

またルルを思い出す。

他の男に笑っていた顔。

楽しそうな声。

胸の奥がざらつく。

不快だ。

いや、不安に近い。

なぜ。

アルベルトは人生で初めて、本気で悩んでいた。

そして結論を口にする。

「……これが恋か?」

部屋にいた側近全員が固まった。

「「「え?」」」

アルベルトは真剣だった。

「本で読んだことがある。特定の相手を目で追い、他者と親しくしていると落ち着かなくなり、近づかれると動揺する状態」

レオが顔を覆った。

「終わった……」

「何がだ」

「殿下の理性です」

セシリアがため息をつく。

「気づくのが遅すぎます」

アルベルトは眉を寄せた。

「だが理解できない。なぜルルが相手だとこんなに調子が狂う?」

「好きだからです」

「好き……」

その言葉を反芻する。

胸が妙に熱くなった。

ルルの笑顔を思い出す。

泣きそうな顔も。

自分を見上げる瞳も。

守りたいと思った。

隣にいてほしいと思った。

触れたいと思った。

「……重症ですね」

セシリアが呟いた。

一方ルルは、自室でクッションを抱えて転がっていた。

「嫌われたぁ……」

羽がしょんぼり垂れている。

朝からアルベルトの様子がおかしい。

目が合うと逸らされる。

近づくと下がられる。

会話もどこかぎこちない。

ルルは枕に顔を埋めた。

「うぅぅ……やっぱり妖精って変かな……」

すると窓からセシリアが入ってきた。

「何をしてるんですか」

「落ち込んでるの……」

「なぜ」

「王子に避けられてる」

セシリアは一瞬沈黙した。

それから盛大に吹き出した。

「違いますよ!」

「え?」

「あれは避けてるんじゃなくて、意識しすぎて死にかけてるんです!」

「……へ?」

ルルはぽかんとした。

その時だった。

廊下の向こうから、どさっと大きな音が響く。

「殿下!?」

レオの悲鳴。

ルルとセシリアが飛び出すと、そこには壁に頭をぶつけて固まるアルベルトがいた。

「王子!?」

アルベルトは無表情だった。

しかし耳まで真っ赤だった。

「……考え事をしていた」

「壁に突っ込みながら!?」

ルルは慌てて駆け寄る。

「だ、大丈夫!?」

顔を覗き込まれた瞬間。

アルベルトの思考が停止した。

近い。

可愛い。

いい匂い。

柔らかそう。

「っ……」

彼は反射的に後ろへ下がろうとして、今度は花瓶にぶつかった。

ガシャーン!

「殿下ぁぁ!?」

側近たちが頭を抱える。

セシリアは静かに呟いた。

「スパダリ、恋でポンコツ化しましたね」

ルルは慌ててアルベルトの腕を掴んだ。

「怪我してない!?」

温かい手。

細い指。

その感触だけで、アルベルトの心臓が暴れた。

もう駄目だった。

彼は理解してしまった。

ルルが好きだ。

どうしようもないくらい。

だがその一方で、ルルは不安そうに眉を下げている。

「……やっぱり迷惑?」

アルベルトは目を見開いた。

違う。

全然違う。

むしろ逆だ。

近くにいるだけで嬉しい。

声を聞くだけで落ち着く。

笑ってほしい。

なのに。

恋を知ったばかりの王子には、その感情をうまく伝える方法がわからなかった。

だからただ、黙り込む。

その沈黙が、さらにルルを不安にさせるとも知らずに。

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