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アランの友人
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アランとの暮らしは、これまで仕事に明け暮れ、婚約者や家族からも十分な愛を受けることができなかったノエルにとって温かくて楽しいものだった。
ともすればうっとうしいくらいのアランの愛情表現に救われ、とても幸せを感じる毎日だった。
そんなある日、友人の家に一緒に行かないかとアランに誘われた。
アランの旧知の友人で、先日ノエルを助けてくれたディオンの雇い主だという。
「茶でもどうかと誘われたんだが、メイドの紹介も頼めるしな」
一通り家事はアランがしてくれているが、ノエルは今後のことを考えていずれ通いのメイドを雇用しようと考えていた。
ただ雇用となると問題はノエルの不安だけではない。
ギルドに依頼すれば手配はしてくれるが、給金は安くて済む代わりにその質は玉石混合。
貴族の屋敷で働く者たちは知り合いや紹介など身元のはっきりした者を雇用する。雇われる彼ら自身が下位貴族の子女であることも多い。それが安全と使用人の質の担保になっているのだが、代わりに働く側にもプライドがあるため平民に雇われるなど拒否することが多い。
「身元のしっかりした方から紹介してもらえるのは嬉しいけど、僕は平民同然だし、無理じゃない?」
「まあ、急ぐ話じゃないし話だけもしておけばいいんじゃないか」
と言って連れてこられたのは大豪邸だった。
ディオンは主だとか従者だとか言っていたから貴族だとは思っていたが、アランの友人がまさか高位貴族だとは思わなかった。
「えっと……どんな知り合いなの?」
門を入ってからも屋敷までは相当距離がある。
「……まあ、ちょっとした知り合い?」
「こんな貴族と知り合いだなんてアランも実は貴族だったりして……」
「俺の事はともかく、奴に会いに行こう」
「僕みたいなのが入って大丈夫なのかな」
心配しながら、門をくぐった。
執事に案内され、気品漂う調度品が飾られた応接室へ通される。
そこにはアランと同じくらいの年齢の男性が座っていた。
品の良い服装に身を包み、身だしなみにも気を使った貴族然とした男はオハナ侯爵子息のバルトサールだと挨拶をしてくれた。
「エルと申します。先日は助けていただきありがとうございました」
ノエルは礼を取り、挨拶を返す。その洗練された動きにバルトサールは眉を上げるが何も言わなかった。
「いや、ディオンが役に立ったようで何よりだ」
そう言いながらノエルの顔をしげしげと見つめる。
「なんだか……会ったことあったかな。懐かしい気がする」
「いえ、初めてお会いします」
「おい、使い古された手でエルにちょっかいをかけるな。エルは俺の愛する大切な人だからな」
アランがムッとした声で割り込む。
「はあ?」
バルトサールの驚いた声に思わずノエルの方が恥ずかしくなった。
顔が真っ赤になりアランを見るも、アランは涼しい顔をしていた。
「急に帰ってきたかと思えば、友人の危機だとか言ってさんざん人をこき使っておいて。自分はその間に愛する人とよろしくやってたというのか」
バルトサールは半目でアランを見る。
ユーグやエミリーを拘禁したのはこの屋敷の地下だったのだ。
監禁していたエミリーの世話も、闇ギルドとの交渉もバルトサールが請け負っていたのだ。
アランの依頼人が襲われそうになったとディオンから聞いていたから、そのアフターフォローで忙しいのだろうと思っていたが、まさか依頼人に手を出していたとは。
「それは感謝している。だから礼に来たんじゃないか。ついでに使用人の紹介もしてもらいたくてね。身元の保証ができないものは雇いたくない。加えて人柄重視だ」
あまりアランから感謝が伝わってこないバルトサールはため息をついた。
「お前だってわかっているだろう? 俺が紹介できるのは貴族の子女で身を立てて生きていこうとしている者だ。もちろん身分もしっかりしているし、人となりも大体はわかる。だが彼らは自分より爵位が上の家門で働くことを望む。お前が雇い主ならともかく……平民の彼が雇い主だろう?」
「なに言ってるんだ、エルは……」
と言いかけてアランはやめた。ノエルが身分を隠して生活しようとしているのを知っているからだ。
「オハナ侯爵子息様。大変ぶしつけなお願いをしてしまい申し訳ありませんでした。今しばらく自分たちだけで生活できますので」
ノエルは恐縮して、謝罪した。
「君に言っているんじゃないよ、アランだ。こいつは公爵家の次男のくせに数年前にふらっと出て行ったきりのくせに、戻ってきたと思ったら頼み事ばかりで勝手すぎる! きちんとしたメイドが雇いたければお前が表に立て」
「公爵家?!ええ? どういうこと?」
「なんだ、アラン。お前まさか説明していないのか」
「ああ、まあな」
アランはふいっと視線を外して窓に向ける。
「で? 家には戻るのか?」
「……。俺の大切な家族はここにいる」
そういって人前にもかかわらずアランは自分の方に引き寄せるようにノエルの体に腕を回す。
「ちょ……人前で」
恥ずかしくてノエルは顔を赤く染めた。
ノエルは一緒に旅をしてきた何でもできる護衛が公爵令息だと聞き驚いていた。
家を出た理由が気になるけど、それは自分が踏み込んでいいことではない。
ノエルが好きになったのはただのアランだから出自はどうでもいい。
ただ、この先貴族のオハナ家と交流を持つことで、自分の居場所が実家にばれないかとほんの少しだけ不安が胸をよぎった。
ともすればうっとうしいくらいのアランの愛情表現に救われ、とても幸せを感じる毎日だった。
そんなある日、友人の家に一緒に行かないかとアランに誘われた。
アランの旧知の友人で、先日ノエルを助けてくれたディオンの雇い主だという。
「茶でもどうかと誘われたんだが、メイドの紹介も頼めるしな」
一通り家事はアランがしてくれているが、ノエルは今後のことを考えていずれ通いのメイドを雇用しようと考えていた。
ただ雇用となると問題はノエルの不安だけではない。
ギルドに依頼すれば手配はしてくれるが、給金は安くて済む代わりにその質は玉石混合。
貴族の屋敷で働く者たちは知り合いや紹介など身元のはっきりした者を雇用する。雇われる彼ら自身が下位貴族の子女であることも多い。それが安全と使用人の質の担保になっているのだが、代わりに働く側にもプライドがあるため平民に雇われるなど拒否することが多い。
「身元のしっかりした方から紹介してもらえるのは嬉しいけど、僕は平民同然だし、無理じゃない?」
「まあ、急ぐ話じゃないし話だけもしておけばいいんじゃないか」
と言って連れてこられたのは大豪邸だった。
ディオンは主だとか従者だとか言っていたから貴族だとは思っていたが、アランの友人がまさか高位貴族だとは思わなかった。
「えっと……どんな知り合いなの?」
門を入ってからも屋敷までは相当距離がある。
「……まあ、ちょっとした知り合い?」
「こんな貴族と知り合いだなんてアランも実は貴族だったりして……」
「俺の事はともかく、奴に会いに行こう」
「僕みたいなのが入って大丈夫なのかな」
心配しながら、門をくぐった。
執事に案内され、気品漂う調度品が飾られた応接室へ通される。
そこにはアランと同じくらいの年齢の男性が座っていた。
品の良い服装に身を包み、身だしなみにも気を使った貴族然とした男はオハナ侯爵子息のバルトサールだと挨拶をしてくれた。
「エルと申します。先日は助けていただきありがとうございました」
ノエルは礼を取り、挨拶を返す。その洗練された動きにバルトサールは眉を上げるが何も言わなかった。
「いや、ディオンが役に立ったようで何よりだ」
そう言いながらノエルの顔をしげしげと見つめる。
「なんだか……会ったことあったかな。懐かしい気がする」
「いえ、初めてお会いします」
「おい、使い古された手でエルにちょっかいをかけるな。エルは俺の愛する大切な人だからな」
アランがムッとした声で割り込む。
「はあ?」
バルトサールの驚いた声に思わずノエルの方が恥ずかしくなった。
顔が真っ赤になりアランを見るも、アランは涼しい顔をしていた。
「急に帰ってきたかと思えば、友人の危機だとか言ってさんざん人をこき使っておいて。自分はその間に愛する人とよろしくやってたというのか」
バルトサールは半目でアランを見る。
ユーグやエミリーを拘禁したのはこの屋敷の地下だったのだ。
監禁していたエミリーの世話も、闇ギルドとの交渉もバルトサールが請け負っていたのだ。
アランの依頼人が襲われそうになったとディオンから聞いていたから、そのアフターフォローで忙しいのだろうと思っていたが、まさか依頼人に手を出していたとは。
「それは感謝している。だから礼に来たんじゃないか。ついでに使用人の紹介もしてもらいたくてね。身元の保証ができないものは雇いたくない。加えて人柄重視だ」
あまりアランから感謝が伝わってこないバルトサールはため息をついた。
「お前だってわかっているだろう? 俺が紹介できるのは貴族の子女で身を立てて生きていこうとしている者だ。もちろん身分もしっかりしているし、人となりも大体はわかる。だが彼らは自分より爵位が上の家門で働くことを望む。お前が雇い主ならともかく……平民の彼が雇い主だろう?」
「なに言ってるんだ、エルは……」
と言いかけてアランはやめた。ノエルが身分を隠して生活しようとしているのを知っているからだ。
「オハナ侯爵子息様。大変ぶしつけなお願いをしてしまい申し訳ありませんでした。今しばらく自分たちだけで生活できますので」
ノエルは恐縮して、謝罪した。
「君に言っているんじゃないよ、アランだ。こいつは公爵家の次男のくせに数年前にふらっと出て行ったきりのくせに、戻ってきたと思ったら頼み事ばかりで勝手すぎる! きちんとしたメイドが雇いたければお前が表に立て」
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「ああ、まあな」
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「で? 家には戻るのか?」
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そういって人前にもかかわらずアランは自分の方に引き寄せるようにノエルの体に腕を回す。
「ちょ……人前で」
恥ずかしくてノエルは顔を赤く染めた。
ノエルは一緒に旅をしてきた何でもできる護衛が公爵令息だと聞き驚いていた。
家を出た理由が気になるけど、それは自分が踏み込んでいいことではない。
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