妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん

文字の大きさ
18 / 46

アランの友人

しおりを挟む
 アランとの暮らしは、これまで仕事に明け暮れ、婚約者や家族からも十分な愛を受けることができなかったノエルにとって温かくて楽しいものだった。
 ともすればうっとうしいくらいのアランの愛情表現に救われ、とても幸せを感じる毎日だった。

 そんなある日、友人の家に一緒に行かないかとアランに誘われた。
 アランの旧知の友人で、先日ノエルを助けてくれたディオンの雇い主だという。
「茶でもどうかと誘われたんだが、メイドの紹介も頼めるしな」
 一通り家事はアランがしてくれているが、ノエルは今後のことを考えていずれ通いのメイドを雇用しようと考えていた。
 ただ雇用となると問題はノエルの不安だけではない。
 ギルドに依頼すれば手配はしてくれるが、給金は安くて済む代わりにその質は玉石混合。
 貴族の屋敷で働く者たちは知り合いや紹介など身元のはっきりした者を雇用する。雇われる彼ら自身が下位貴族の子女であることも多い。それが安全と使用人の質の担保になっているのだが、代わりに働く側にもプライドがあるため平民に雇われるなど拒否することが多い。

「身元のしっかりした方から紹介してもらえるのは嬉しいけど、僕は平民同然だし、無理じゃない?」
「まあ、急ぐ話じゃないし話だけもしておけばいいんじゃないか」
と言って連れてこられたのは大豪邸だった。
 ディオンは主だとか従者だとか言っていたから貴族だとは思っていたが、アランの友人がまさか高位貴族だとは思わなかった。
「えっと……どんな知り合いなの?」
 門を入ってからも屋敷までは相当距離がある。
「……まあ、ちょっとした知り合い?」
「こんな貴族と知り合いだなんてアランも実は貴族だったりして……」
「俺の事はともかく、奴に会いに行こう」
「僕みたいなのが入って大丈夫なのかな」
 心配しながら、門をくぐった。

 執事に案内され、気品漂う調度品が飾られた応接室へ通される。
 そこにはアランと同じくらいの年齢の男性が座っていた。
 品の良い服装に身を包み、身だしなみにも気を使った貴族然とした男はオハナ侯爵子息のバルトサールだと挨拶をしてくれた。
「エルと申します。先日は助けていただきありがとうございました」
 ノエルは礼を取り、挨拶を返す。その洗練された動きにバルトサールは眉を上げるが何も言わなかった。
「いや、ディオンが役に立ったようで何よりだ」
 そう言いながらノエルの顔をしげしげと見つめる。
「なんだか……会ったことあったかな。懐かしい気がする」
「いえ、初めてお会いします」
「おい、使い古された手でエルにちょっかいをかけるな。エルは俺の愛する大切な人だからな」
 アランがムッとした声で割り込む。
「はあ?」
 バルトサールの驚いた声に思わずノエルの方が恥ずかしくなった。
 顔が真っ赤になりアランを見るも、アランは涼しい顔をしていた。

「急に帰ってきたかと思えば、友人の危機だとか言ってさんざん人をこき使っておいて。自分はその間に愛する人とよろしくやってたというのか」
 バルトサールは半目でアランを見る。
 ユーグやエミリーを拘禁したのはこの屋敷の地下だったのだ。
 監禁していたエミリーの世話も、闇ギルドとの交渉もバルトサールが請け負っていたのだ。
 アランの依頼人が襲われそうになったとディオンから聞いていたから、そのアフターフォローで忙しいのだろうと思っていたが、まさか依頼人に手を出していたとは。

「それは感謝している。だから礼に来たんじゃないか。ついでに使用人の紹介もしてもらいたくてね。身元の保証ができないものは雇いたくない。加えて人柄重視だ」
 あまりアランから感謝が伝わってこないバルトサールはため息をついた。
「お前だってわかっているだろう? 俺が紹介できるのは貴族の子女で身を立てて生きていこうとしている者だ。もちろん身分もしっかりしているし、人となりも大体はわかる。だが彼らは自分より爵位が上の家門で働くことを望む。お前が雇い主ならともかく……平民の彼が雇い主だろう?」
「なに言ってるんだ、エルは……」
と言いかけてアランはやめた。ノエルが身分を隠して生活しようとしているのを知っているからだ。

「オハナ侯爵子息様。大変ぶしつけなお願いをしてしまい申し訳ありませんでした。今しばらく自分たちだけで生活できますので」
 ノエルは恐縮して、謝罪した。
「君に言っているんじゃないよ、アランだ。こいつは公爵家の次男のくせに数年前にふらっと出て行ったきりのくせに、戻ってきたと思ったら頼み事ばかりで勝手すぎる! きちんとしたメイドが雇いたければお前が表に立て」
「公爵家?!ええ? どういうこと?」
「なんだ、アラン。お前まさか説明していないのか」
「ああ、まあな」
 アランはふいっと視線を外して窓に向ける。
「で? 家には戻るのか?」
「……。俺の大切な家族はここにいる」
 そういって人前にもかかわらずアランは自分の方に引き寄せるようにノエルの体に腕を回す。
「ちょ……人前で」
 恥ずかしくてノエルは顔を赤く染めた。


 ノエルは一緒に旅をしてきた何でもできる護衛が公爵令息だと聞き驚いていた。
 家を出た理由が気になるけど、それは自分が踏み込んでいいことではない。
 ノエルが好きになったのはただのアランだから出自はどうでもいい。

 ただ、この先貴族のオハナ家と交流を持つことで、自分の居場所が実家にばれないかとほんの少しだけ不安が胸をよぎった。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる

kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。 かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。 そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。 「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」 おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 希望したのは、医療班だった。  それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。  「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。  誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。  ……けれど、婚約者に裏切られていた。  軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。  そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――  “雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。 「君の料理が、兵の士気を支えていた」 「君を愛している」  まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?  さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

お前が結婚した日、俺も結婚した。

jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。 新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。 年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。 *現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。 *初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

処理中です...