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ノエル
*視点が途中で変わります。
「ノエル、気分はどう」
「ありがとうございます、とっても気持ちよくて気分がいいです」
ノエルは庭に設置された東屋でそよ風に包まれながら、綺麗な花々を眺めていた。
「そう、よかった。よかったら僕のケーキも食べていいから」
テーブルの上には熱い紅茶の入ったティーカップ以外にケーキやクッキーなどたくさんのお菓子が置かれていた。
「そんなに食べられませんよ」
そう笑うノエルの手を取ると隣に座った男は大事そうに自分の両手で包む。
「君とのこういった時間がうれしすぎてつい用意しすぎてしまった。今度は劇を見に行こうか」
「ありがとうございます、トマス様」
ノエルは隣に座るトマスに笑いかけた。
トマスもうれしそうに笑うとノエルを抱きしめた。
「ノエル、ずっと僕のそばにいてね」
「はい。……でもこんな僕でいいのですか? 何も覚えていないのに」
「……。ああ、また一からノエルと恋ができるんだから、思い出せなくても問題ないよ。これからの事だけを考えていこう」
トマスは優しくノエルの頭を撫でる。
「ありがとう」
ノエルはほっとしたように笑った。
ノエルはこれまでのことを何も思い出すことが出来なかった。
気が付いたとき、そばにいてくれたのがトマスで、婚約者だと言われた。ラクロワ国に二人で旅に来ていて、途中転倒して頭を打ってしまったという。
ノエルに記憶がないとわかったときトマスは狼狽えていたが、大きな怪我がないと分かるとすぐにメローランド国へと連れて帰ってくれた。
そしてすでに同居していたというアレオン家にかえり、記憶が戻らないノエルの世話をしてくれているのだ。
ノエルの両親はいるらしいが、義理の母や妹との関係が悪いため実家とは元から疎遠だったという。そのため婚約中から一緒に暮らしていたと説明を受けた。
不安もあったがトマスがいつもそばにいてサポートし、優しくしてくれたおかげで随分心は落ち付いてきていた。
その数日後、約束通りトマスが観劇に連れていってくれた。
「疲れてない? 大丈夫?」
「はい。大変面白かったです。後半も楽しみですね」
「これが終わったら食事に行こうか」
「うわ~、うれしい」
劇間の休憩時間に体をほぐすためにホールを歩いていると後ろから声をかけられた。
「失礼、こちらを落されたのではありませんか?」
ノエルが振り向くと、スラリと背が高く洗練された服に身を包んだ若い男が立っていた。
「ああ、すいませ……あれ? これは僕のではないようです」
差し出されたハンカチはノエルの物ではなかった。
違ったものの親切なその人を見ると、思わず見とれるほどの目鼻立ちが整っていた。
「ご親切にどうも。ですが彼の物ではありません。では失礼」
トマスがどこか冷たい口調でそう言うと、ノエルの腰に手を回して歩きだした。
ノエルはトマスの失礼な態度に、慌てて頭だけを下げてその場を後にした。
「ね、ノエル。他の人に見惚れないで」
トマスは悲しそうに言った。
「え? 見惚れてなんか……まあ、とても素敵な方だとは思いましたけど」
「ほら!」
「もう、名も知らないかたに嫉妬されても困ります」
「だってノエルには僕の事だけ見て欲しいから」
「……そうしているつもりです」
顔を赤くするノエルに機嫌を直したトマスはさらに腰を抱き寄せるようにして歩いた。
その二人の姿を、ハンカチを片手に持ったままのアランは茫然として見送った。
<アラン>
「どうなってる! ノエルは俺の顔を見ても何の反応もなかった! まるで知らない人みたいに……」
「おちつけ。まずは彼が無事だったことを喜ぼう」
一緒にノエルを探しに来たバルトサールがアランをなだめる。
「それはそうだが……ノエルを捨てた男がなんでノエルのそばにいる! ああ、今にもノエルがあいつに……」
室内を荒っぽく歩き回っていたアランはそこまで言うと、急にだまりこむと剣を腰に差して部屋を出ていこうとした。
「待て待て待て! アラン! 何をする気だ!」
「ノエルをとり返す」
「だから落ち着けって! お前が犯罪者になってどうする! 父が今色々と手を打っている。もう少しだけ我慢してくれ。こちらの国へ訴状を送ってもらっているんだ。それが届き次第、堂々と彼を奪い返せるからもう少し我慢してくれ」
「……」
アランは気を落ち着かせるように大きく息を吐くと、宿のソファーへとどさりと座り込んだ。
「ノエルは私の弟だ。それを勝手に連れ去られたんだ、ただでは済まさない。外交ルートで追い詰め、責任は取らせる」
バルトサールは険しい顔でそう言った。
「……急いでくれ」
ノエルに未練のあったトマスがノエルを迎えに来たのではないか。
そしてトマスを忘れられなかったノエルは喜んで帰国したのではないか——ノエルはそんな人間じゃないと分かっていても、二人の仲の良い姿を見たアランはそんな不安を打ち消すことが出来なかった。
「ノエル、気分はどう」
「ありがとうございます、とっても気持ちよくて気分がいいです」
ノエルは庭に設置された東屋でそよ風に包まれながら、綺麗な花々を眺めていた。
「そう、よかった。よかったら僕のケーキも食べていいから」
テーブルの上には熱い紅茶の入ったティーカップ以外にケーキやクッキーなどたくさんのお菓子が置かれていた。
「そんなに食べられませんよ」
そう笑うノエルの手を取ると隣に座った男は大事そうに自分の両手で包む。
「君とのこういった時間がうれしすぎてつい用意しすぎてしまった。今度は劇を見に行こうか」
「ありがとうございます、トマス様」
ノエルは隣に座るトマスに笑いかけた。
トマスもうれしそうに笑うとノエルを抱きしめた。
「ノエル、ずっと僕のそばにいてね」
「はい。……でもこんな僕でいいのですか? 何も覚えていないのに」
「……。ああ、また一からノエルと恋ができるんだから、思い出せなくても問題ないよ。これからの事だけを考えていこう」
トマスは優しくノエルの頭を撫でる。
「ありがとう」
ノエルはほっとしたように笑った。
ノエルはこれまでのことを何も思い出すことが出来なかった。
気が付いたとき、そばにいてくれたのがトマスで、婚約者だと言われた。ラクロワ国に二人で旅に来ていて、途中転倒して頭を打ってしまったという。
ノエルに記憶がないとわかったときトマスは狼狽えていたが、大きな怪我がないと分かるとすぐにメローランド国へと連れて帰ってくれた。
そしてすでに同居していたというアレオン家にかえり、記憶が戻らないノエルの世話をしてくれているのだ。
ノエルの両親はいるらしいが、義理の母や妹との関係が悪いため実家とは元から疎遠だったという。そのため婚約中から一緒に暮らしていたと説明を受けた。
不安もあったがトマスがいつもそばにいてサポートし、優しくしてくれたおかげで随分心は落ち付いてきていた。
その数日後、約束通りトマスが観劇に連れていってくれた。
「疲れてない? 大丈夫?」
「はい。大変面白かったです。後半も楽しみですね」
「これが終わったら食事に行こうか」
「うわ~、うれしい」
劇間の休憩時間に体をほぐすためにホールを歩いていると後ろから声をかけられた。
「失礼、こちらを落されたのではありませんか?」
ノエルが振り向くと、スラリと背が高く洗練された服に身を包んだ若い男が立っていた。
「ああ、すいませ……あれ? これは僕のではないようです」
差し出されたハンカチはノエルの物ではなかった。
違ったものの親切なその人を見ると、思わず見とれるほどの目鼻立ちが整っていた。
「ご親切にどうも。ですが彼の物ではありません。では失礼」
トマスがどこか冷たい口調でそう言うと、ノエルの腰に手を回して歩きだした。
ノエルはトマスの失礼な態度に、慌てて頭だけを下げてその場を後にした。
「ね、ノエル。他の人に見惚れないで」
トマスは悲しそうに言った。
「え? 見惚れてなんか……まあ、とても素敵な方だとは思いましたけど」
「ほら!」
「もう、名も知らないかたに嫉妬されても困ります」
「だってノエルには僕の事だけ見て欲しいから」
「……そうしているつもりです」
顔を赤くするノエルに機嫌を直したトマスはさらに腰を抱き寄せるようにして歩いた。
その二人の姿を、ハンカチを片手に持ったままのアランは茫然として見送った。
<アラン>
「どうなってる! ノエルは俺の顔を見ても何の反応もなかった! まるで知らない人みたいに……」
「おちつけ。まずは彼が無事だったことを喜ぼう」
一緒にノエルを探しに来たバルトサールがアランをなだめる。
「それはそうだが……ノエルを捨てた男がなんでノエルのそばにいる! ああ、今にもノエルがあいつに……」
室内を荒っぽく歩き回っていたアランはそこまで言うと、急にだまりこむと剣を腰に差して部屋を出ていこうとした。
「待て待て待て! アラン! 何をする気だ!」
「ノエルをとり返す」
「だから落ち着けって! お前が犯罪者になってどうする! 父が今色々と手を打っている。もう少しだけ我慢してくれ。こちらの国へ訴状を送ってもらっているんだ。それが届き次第、堂々と彼を奪い返せるからもう少し我慢してくれ」
「……」
アランは気を落ち着かせるように大きく息を吐くと、宿のソファーへとどさりと座り込んだ。
「ノエルは私の弟だ。それを勝手に連れ去られたんだ、ただでは済まさない。外交ルートで追い詰め、責任は取らせる」
バルトサールは険しい顔でそう言った。
「……急いでくれ」
ノエルに未練のあったトマスがノエルを迎えに来たのではないか。
そしてトマスを忘れられなかったノエルは喜んで帰国したのではないか——ノエルはそんな人間じゃないと分かっていても、二人の仲の良い姿を見たアランはそんな不安を打ち消すことが出来なかった。
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