ブリアール公爵家の第二夫人

大城いぬこ

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ロシェルとディオルド

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 ディオルド様と口づけがしたくて待っていたら秘所に熱いものが触れて、押し入られ痛みのような圧迫感に声を上げてしまった。その直後、ディオルド様が自分の拳で自分の頬を殴った。

 驚いているうちに足をまとめられて揺さぶられた。腰を打ち付けるディオルド様になにをしたらいいのかわからなくて、混乱しているうちに呻き声が聞こえ、お腹に熱いものがかけられた感覚がしても臙脂の瞳を見つめ続けた。 

 俺を見てくれと、さみしいと言うディオルド様の言葉が強く心に残っていた。 

 ディオルド様がぬるぬるしたものを私に擦り付けている間に口の端から血が垂れてきたのを見つけ、思わず手を伸ばして拭うとディオルド様が頬を寄せた。私はそのまま頬を手のひらで包む。それが望みのように見えた。 

「…痛かったか?」 

 あの圧迫感のことを言っていると思い、少しと答えると眉尻が下がった。 

「すまん…繋がらんと言ったのにな…我を忘れた…」 

 ディオルド様の…あの…局部を私の秘所に入れることが閨なのね…少し入ったけど… 

「準備が必要…と…ごめんなさい…私…詳しくなくて…上手にできるか…わからなくて」 

 ディオルド様はため息をついた。それを見て、胸が苦しくなった。上手にできなかったと思うと申し訳なさが沸く。 

「…ロシェル…すまん…そんなに痛かったか?」 

 もう痛くないけど、ディオルド様をがっかりさせてしまった。何がいけなかったのかわからない。 

 ディオルド様は腰を引いて、足の間からなにかを抜いた気配はしても、私はディオルド様を見ていられず、泣き出しそうで両手で顔を覆う。 


「ロシェル」 

「…ごめんなさい…上手に」 

「違うぞ、ロシェル。俺が悪い」 

 涙を流したくなくて、力ませた顔を見せたくなくて隠しているのに、ディオルド様は私の手首を掴んでゆっくりと顔から離してしまった。 

「ロシェル」 

 耐えていた涙が蟀谷を伝う。ディオルド様がそれに吸い付き飲んでいく。 

「俺は…お前を…失いたくない」 

 どうしてそんなことを言い出したのかわからなかった。臙脂の瞳が私を間近で見つめる。 

「俺は…準備を終えてお前を抱くべきだったが…感情に負けた…欲に負けた…情けないよな…いい年の男が…すまん…け…経験が…少なくてな」 

「だから…殴って…」 

「ああ…驚いたろ?」 

 私は素直に頷く。 

「私…私…閨のことは不勉強で…ディオルド様が準備をしている間…私…勉強します…上手になれるよう努力します」 

 私も知るべきだわ。繋がることの喜び、二人で喜ぶことだから私も勉強したいわ。 

「お前は勉強などしなくてもいいが…したいなら好きにしろ」 

「はい」 

「俺はお前に触れると…止まらなくなる…口づけするだけでお前を裸にしたくなる」 

「準備が終わるまで口づけはできませんか?」 

「…したいのか?」 

 私が頷くとディオルド様は口の端を上げて微笑んだ。 

「俺もだ…したかった…が…我慢してた」 

 ディオルド様と同じ気持ちだったことにほっとしたあと嬉しくなった。 

「私も我慢します」 

 ディオルド様は大きく息を吸い込み、困ったような顔をした。それから顔を近づけ唇を合わせた。 

「するな」 

「…どうしたら…」 

「ははっお前は可愛い…いい顔をする」 

 ディオルド様の笑う顔に胸が締め付けられる。 

「お前が俺を好いていると…わかる。俺はそれを感じる度に嬉しく思う。浮かれてしまう。好いているだろ?」 

「はい」

「ああ…ロシェル」 

 ディオルド様はまた口づけをしてくれた。 




 何度も口づけをしていたらロシェルがあくびをし、俺が抱きしめるとすぐに寝息をたてはじめた。

 ロシェルはもう匂いを放っていないが寝室には残っている。 

 指一本でもキツかった。なのに押し込んでしまった。情けない…完全に理性を失った。 

 俺が中途半端に破った夜着をロシェルの体が冷えないように静かに広げて覆う。いつもは背中から抱いて眠っていたが、ロシェルは俺の胸に顔を向けている。 

 首筋に触れ眠りに落ちたことを確認し、起こさぬよう静かに動き寝台を降りる。

 水差しのある棚に向かい、タオルを水に濡らして股間を拭う。このトラウザーズを穿き続ける気になれず脱ぎ捨て、放ったガウンに袖を通す。新たなタオルで顔も拭い、窓へ向かう。

 そろそろ夜が明ける。最近睡眠不足だが眠気はない。静かに窓を開け、寝台で眠るロシェルの肩まで毛布で覆い整える。 

 銀色の髪を掴み口づけをしてから離れる。 

 寝室の扉を静かに開くとエコーが背を向けて立ち、その足元にはアプソとスモークが倒れていた。 

 俺は扉を閉めエコーに近づく。 

「殺したのか?」 

 振り返ったエコーの顔には殴られた跡があった。その事に眉間が力む。 

「…顔を殴られるな…ロシェルが心配するだろうが…白粉で隠せ」 

「…申し訳ありません」 

「…で?ガガはまだか?説明書を読みたいがな…服用をはじめて効果がすぐだといいがな…次は我慢できんぞ」 

「私が止めます」 

 俺はアプソとスモークに視線を移す。 

「…自我を失うものじゃなかったはずだ」 

 この二人はロシェルの匂いを嗅いだんだろう。だが、あの夜の匂いのほうが濃かった。俺の記憶まで曖昧にさせるほどだ。いや、あの夜は久しぶりすぎたせいか?わからん。 

「スモークがアプソを襲ったのか?アプソがスモークを」 

 性欲が抑えられず襲いあったか?それは見物だが。エコーは乱れた髪を縛り直し、アプソを抱き上げソファへ運んだ。俺はその間にうつぶせに倒れているスモークの体の下に爪先を入れひっくり返す。ガチャンと剣が転がる音になにが起こったか想像できた。 

「媚薬香だと思ったか」 

 スモークはガガと同じことを想像したか、侵入者が頭に浮かんだか。 

「はい。アプソが廊下で嗅ぎとり、この部屋に飛び込むのをスモークが見て続いて入りました。私はその後二人を止めるために」 

「お前が間に合って助かった…コイツらがロシェルの体を見ていたら……半殺しだ」 

 あの時の俺は正気を失くしてた。アプソなら殺していたかもしれん。 

「…廊下まで匂う…か」 

 今の離邸には無駄な匂いが少ない。そのせいでもあるな。 

「アプソとスモークには説明しなければなりません」 

「ああ」 

 アプソが知れば陛下に伝わる。悪用するとは思わんが、気は進まん。 

「アプソは手刀で倒せるがスモークはてこずるよな」 

「はい。匂いに混乱していなければ腕に切り傷くらいは…」 

「…二人は勃起しているか?」 

 なんとなく気になった。エコーは俺の言葉にアプソの股間に触れ首を振った。俺はスモークの股間を軽く踏み、硬いものを探すがなかった。 

「気絶したら匂いが効かないか」 

 だからなんだと言われればそれまでだが… 

「夜はこの階に男を入れるのは危険かと」 

「だな。エコー、湯を運べ。ロシェルの体を拭わないとな」 

「王宮に」 

「行くが、午後でいいだろ」 

 ロシェルは疲れているだろう。目蓋を閉じてすぐに寝息をたてたんだ。 

「旦那様」 

 エコーの視線が俺の頬にある。 

「目立つか?…無我夢中でな…」 

 自分を殴るなどしたことがなかった。ロシェルの上で気絶しなくてよかった… 俺を想い匂いを放ったと思うとなんとも言えない満足感が沸き上がり、己を抑えることができなかった。 

「ふ…好きな女に好かれることは嬉しいもんだな」 

 らしくないことを言っているが本音だ。 

「離邸の使用人はどうするか…ブリアール領の奴らは来るか…?」 

「若い者は興味を持っていました」 

「だが…若い男は…本邸で働かせ離邸に通わせるか…夜は扉を閉ざせばいい」 

 鍵を増やすか、扉を増築するか…





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