ブリアール公爵家の第二夫人

大城いぬこ

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ディオルド

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 ロシェルの催淫香にはかなり慣れた俺だが、当分触れられないと思うと寂しさが込み上げ、シーツに染み込んだ匂いのせいにしながら、眠るロシェルに悪戯をした。

 穏やかな刺激は腟内のものとはかなり違うが、細い体を自分に押し付け、これもいいと思いながら銀髪を口に咥えて遊び、ゆっくりと腰を振っていたのに起こしてしまった。 

 ロシェルを何度も気絶させた。それに反省はしたんだ。だから挿入は我慢したんだ。なのに入れて欲しいと、俺の陰茎を入れて欲しいと二度も言ったんだ。 

 陰茎を握って動かし誘って、無垢で無知な顔をしながら、変な本で余計な知識を得て男を理解したようだが、それは全くの間違いだと秒で勃起した陰茎に触れさせたあとはもう興奮渦巻く俺だ。 

 快楽の入り口二巻にあった、女が絶頂を得やすい体位を無意識に試していた。あの体位は女側の体力を使わないと補足のように小さく書いてあったことが、頭の隅に残っていた。いつもより高い声と痙攣、腟内の強い締めつけにロシェルが絶頂を得たことはわかった。俺も足を閉じた状態の腟内の狭さキツさに何度も吐き出したくせにもたなかった。 

 ロシェルも喜んだ。ロシェルも俺のように興奮したと嬉しい気持ちで覆えば、様子がおかしく、わずかな変化も見逃すまいと五感に集中すると、甘い匂いのなかに違和感を覚え、逸る気持ちを抑えて手を差し入れた。 

「や!」

 身をよじりたいだろうが、体に力も入らず俺が覆っているせいで、抵抗も一音だけのロシェルは秘所をしとどに濡らしていた。愛液より水っぽい感触と濡れっぷりに叫ぼうかと思ったが、ロシェルを驚かせると飲み込んだ。 

「ディオ……ご…めんなさい…濡らして」 

 体を震わせ泣き始めたロシェルに陰茎が跳ねる。 

「あぅ!」 

 銀色の髪の合間から俺を睨むように見る水色がかなり好ましい。 

「ロシェル…も…漏らしたと…」 

 俺がそう言うと水色の瞳は揺れて眉尻は垂れた。困り顔になぜか心をくすぐられた。 

「違うぞ…俺が出した…」 

 …少し誤解を与える言い方だったか? 

「ディオルド様が…私の中で漏ら」 

「違う」 

 俺はロシェルの顔を隠す銀色の髪をどかし、一つしか見えない水色に口付ける。 

「気持ちよかったろ?痙攣したろ?女は絶頂を超えると漏らす…お…俺が…お前に」 

「漏ら…では…これから毎晩…私…漏らして」 

「それは俺次第…」

「嫌です…ディオルド様…手加減を…」 

 駄目だろ…なぜロシェルはこんなに愛らしい… 

「汚いものじゃない…閨に慣れた女は…よく濡らすとガガが言ってた」 

「…本当ですか?」 

 明らかにほっとした顔をしたロシェルに心のなかで謝り、ゆっくりと腰を引いて繋がりを解く。そのまま静かにロシェルの隣に寝そべり向かい合う。 

「ふふ…驚きました…どうやってディオルド様に秘密にできるかって」 

「はは…それは無理だ。俺は鼻が利く」 

 俺は顔を近づけロシェルの鼻と俺の鼻をくっつける。 

「はい。そう思って湯に」 

「そうか」 

 俺はお前にいくつも小さな嘘をつくが許してくれ。繋がったまま夜を明かす夫婦はきっといないだろう。妻を毎晩抱いている夫もいないだろう。何度も気絶させるほど抱くことも…俺のせいだ…俺が早漏のくせに絶倫だから何度も何度も…なにが不能だ…くそビアデットめ… 

「…もう…昼が近い」 

「でも…」 

 ロシェルはここでカーテンが閉められたままだと気づいたように窓を見つめた。 

 音からして庭は作業を終えたろう。だが、ロシェルは一目で違和感を抱く。俺は俺のそばでお前に疑念を抱くような思いはさせたくない。 

「侵入者が入った」 

「え…」 

 水色の瞳が不安を含み俺を見つめる。 

「邸には入っていないが庭まで…な…予想していたことだ…食い止めた」 

「誰か怪我は…」 

「かすり傷だけだ。敵は追い払った」 

 滑らかで柔らかい肌に触れたくなり、蟀谷こめかみから頬、顎へ指先をすべらせる。 

「雇い主を聞いて…終わりだ」 

 捕まえた奴がファミナ・アラントの名を口にしなくても俺はあの女に絶望と死を与える。衆人環視のなかでロシェルに楯突き、虚言をさも真実のように平然と口にする女は生きている限りお前を憎み続けるだろう。立場も理解することができなくなった馬鹿は理解不能な行動を起こす。 

 女一人、それが高貴な人間であれ俺はやる。お前の敵は俺の敵だ。 

「庭が荒れたが戻ったはずだ」 

「はい」 

「昼を食べたら本邸の庭を歩くか?」 

「本当?」 

 幼く尋ねるロシェルに頬が緩む。ロシェルと歩くために歩道の整備を徹底させ、花も見映えがいいものに変えさせ、休めるようにベンチまで置いた。 

「楽しみにしてたろ?手間取ってすまんな」 

「いいえ。噴水を見たいです」 

 穏やかに垂れる水色の瞳が、はじめて会ったときのロシェルとずいぶん面差しが変わったように思う。あのときは不安と緊張、驚きと困惑な顔をしていたが、今は純粋に好奇心を持って見たいと言っている。 

 憂いを含んだお前はもういない。 


 ゆっくりと食事をとったあとは、汗と子種を洗い落とすため、風呂に入ることにした。俺はロシェルの疲弊した体のマッサージを指示し、下階の風呂へ向かった。 

 使用人らが厨房から湯を運ぶ間、執務室の窓から外を眺める。

 離邸からも見える本邸の庭にある高い木の葉が日差しを受けて輝き、静かな風に小さく揺れている。 

「ガガは解毒剤のおかげで起き上がれるまで回復しました」 

「…雑魚の刃にやられるなど…」 

「敵は精鋭を送ったということです」 

「…ふん…斑蛙か…いかにも裏組織が使いそうな毒だな」 

「まあ、どこかの山で捕まえて舌根から毒を絞り出せばいい…簡単に手に入りますから。そのかわり解毒剤も作りやすい。ダートがその方面に長けていて命拾いしましたね」 

「ガガが要求した高級娼婦の質を下げておけ…情けない奴だ」 

「…生け捕りにした者の名はギギでした」 

 俺は振り返り、アプソを見る。なぜエコーが報告しなかったかと頭を過ったが、頼み事をして話を切り上げた俺はその後、寝室に戻ったなと思い出した。

 侵入者の素性など大したことではない。どうせ殺すんだ。 

「ガダードの持ちものだったか」 

「向こうもガガを知っているようなことを話していました。金貨を渡す代わりにロシェル様をと」 

「何枚だ?」 

「百五十」 

「馬鹿らしい」 

 まあ、奴隷にとっては夢のような額か。 

「ガガに休んでいろと伝えておけ」 

「はい」 

 アプソが返事をしたとき、扉の向こうから使用人が湯を運び終えたと告げた。 

「ついでに庭の人払いを徹底しろと強く言ってこい」 

「わかりました」 

 俺はガウンを脱ぎながら浴室に向かう。

 濡れたタオルで拭うだけでも汚れは落ちると思うが、仕方がない。

 扉を開けて立ちこもる湯気の中へ入る。残り湯のことを気にしなくていいならと、流さずそのまま湯に浸る。透明な湯を両手ですくい、何度も顔を濡らし、髪を後ろへ撫で付ける。 

「話せ」 

 俺は浴槽の縁に頭を乗せ、かすむ天井を見ながら尋ねる。熱い湯が染みていく。 

「対象は襲撃を知りませんでした」 

「だろうな。だが、俺が聞きたいことはなぜお前が首都を離れたかだ。なにかあったか?」 

 俺はあれがそこまで大胆なことに加担していると思っていない。だが、そろそろ片をつける頃合いだ。 

「注視していた使用人がおかしな動きをしました」 

「トールボットの手先か」 

「はい」 

 ステイシーの周りには常にトールボット家門の使用人がいる。 

「団長が出立した後、女は夜な夜な邸内を探りました」 

「離邸もか?」 

「はい。鍵を持つのはスタン様のみで入れず、窓から中を覗く程度でしたが」 

「…探し物は見つかったのか?」 

「いいえ。進捗を聞きに来た使いの者との会話を盗み聞きましたが…ここにはいないと」 

 ここにはいない…物を探したわけではないな。人を探したか。俺たちが留守にしていた邸内では動きやすかったろうな。 

「トールボット…小心者が」 

 まさか、コモンドールにいるとは考えんよな。 

「…お前が動くほど重要なことではないだろ?」 

「女を張っているとき、違うものも見ました」 

「なんだ?」 

「見知らぬ男が邸の警備に入れた王国騎士に金貨を渡し、団長の旅程を尋ねていました」 

 王国騎士団の抱える騎士は多い。信頼に足る者をと要請したが、金貨には勝てんか。 

「その男を追ったんだろうな?」 

 浴槽の縁から頭を上げて、部屋の隅に立つ男を見つめる。整った顔立ちを隠すためか、目元まで前髪で隠している。この姿で湯を運んだんだろう。 

「シモンズ邸に入りました」 

「バロン・シモンズの手下か」 

「そのようです。俺の知り合いに銀貨を渡し、シモンズ邸を張らせました」 

「奴はジャーマン子爵領地まで来ていた」 

「動きはすぐにありました。バロン・シモンズには別邸があり、そこから旅装でブリアール領地の方角へ駆けたので」 

「お前も動いたか」 

「はい。対象がジャーマン子爵領地にいたので、繋がっているかと探りましたが」 

 ステイシーはなにも知らなかった。たとえ、なにかを察しても目を閉ざし耳を塞ぎ背を向ける。 

「まあ、いい。ステイシーに不審に思われなかったのならかまわん」 

「離れていて寂しかったと言えば喜ばれました」 

「だが、俺が戻って何日経っていると思っている?とっとと合図を送れ」 

「離邸の状況がわからず、なおかつ、本邸ではロシェル夫人の話で皆が過敏になっておりました。おかしな動きはできません。今までの潜伏が無駄になります」 

 画家の正体を知る者は俺だけだ。ガガとエコーも知らない。父上さえ知らなかったはずだ。それほど秘匿していた。

 お互い、用があるときは指定の木の枝に細い布を引っかける。この男を雇ってから引っかけたことはなかった。それだけステイシーに危険と思う不審な言動がなく、怪しい話もなかったということだ。 

「とくに対象は俺のそばを離れず」 

「バロン・シモンズは一人だったのか?」 

 ステイシーはどうでもいい。 

「いいえ。護衛を二人連れていました」 

「護衛に特徴はあったか?」 

「…ありません」 

 足を引きずる男は組織の方と繋がるか。






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