上 下
109 / 128
第五章:絶対に負けられない戦い

第106話:押し返し

しおりを挟む
 和弥も必死に食い下がるが、結局2回戦目は恵に逃げきられて2位に終わってしまった。
 3回戦目も2位。
 残る2試合、このまま2位を続けてもベスト4進出は可能であろう。

(しかし……。麻雀に限らず『2位でいい』と思っていたら、3位になったりするのが勝負事だ)

 エアコンが効いてる筈の会場内だが、それでも熱気で暑いくらいだ。
 開襟の半袖シャツの和弥も、少し額が汗ばんでいるのが分かる。

(残り2回戦、ギアはフルスロットルでいくぜ)

 おしぼりで顔と手を拭いた和弥は、一層気合を入れた。

 一方、立川南の控室。

「部長…竜ヶ崎先輩、勝てると思います?」

 不安になった紗枝はそう、直球で訊いてみた。
 綾乃は組んでいた腕を解き、ポケットからガムを取り出し、噛み始めながら答える。

「さあ?私は超能力者じゃないしね。勿論部長として『竜ヶ崎くんが勝つ!』って言い切りたいけど。恵ちゃんの強さも半端じゃないのは分かっている」

「………」

「でもね」

 ガムを噛むのを一旦止めた綾乃は続ける。

「ほぼぶっつけ本番と言っていいこのルールで、恵ちゃんと互角に戦えてるのは凄いよ。両脇の2人だって、ベスト8に来ただけあって決して雀力は低くはない」

「綾乃の言う通りだ、中野」

 ペットボトルの紅茶を一口飲んだ龍子。

「竜ヶ崎の顔を見てみろ。何よりも本人は全く諦めてないぞ」

『これより裏ドラありの半競技ルール・準々決勝を開始します。参加者は受付までお願いします』

 いよいよ綾乃の参加する半競技ルールの開始だ。

「……あっと、私も出番みたい。行ってきます」

 綾乃も立ちあがり、ガムを包み紙に丸めて捨てると控室を出ていく。
 控室には、紗枝と龍子だけが残った。

(………あの時。無敵の龍インビジブルドラゴンなどと呼ばれチヤホヤされて、私は天狗になっていた。『裏雀士なんてMJリーガーになれないヤツがアウトロー気取って格好つけてるだけ』なんてな。新一さんには本当に、往復ビンタを食らった気分になったものだ)

 再びモニターに目を移す龍子。

(息子のお前は一体どれだけ出来るのか。じっくり拝見させてもらうぞ竜ヶ崎………)

 4回戦目。トン1局。ドラは四索。
 和弥の配牌は自風牌のナン暗刻アンコでドラも対子。最低でも3,900は狙えそうな手である。
 

 ところが………。

「ポン」

 5巡目に恵が二萬をポン。そして7巡目。

「ツモ。500・1,000ゴットー
 

(もったいない手だな)

 捨て牌を見ると、確かにタンピン三色の一向聴イーシャンテンからポンテンにとって、2,000点の手にしていた。

(キミの手が大きそうだったしね)

 恵は点棒入れに点棒をしまいながら、和弥をチラリと見る。どうやら和弥の手が大きく育ちそうなのを、恵には見抜かれてたようだ。

 脇の2人はすっかり雰囲気に呑まれてしまっていた。もうこうなったら恵との一騎打ちだ。

(関係ない。俺は“俺の麻雀を打ち切る”だけだ)

 東2局。和弥の親である。ドラは九萬。
 10巡目。全員手が遅いようでここまで誰も動きがなかったっが、和弥は絶好のペンチャンを引いて聴牌テンパイだ。和弥は初めて恵と紅帝楼で打ったのを思い出す。
 

 場を見渡すと、一筒がはすでに2枚切られカラ、四筒も2枚見えている。対して索子は四索が一枚見えているだけだ。ならばここは三・四索のカンチャン単騎待ちでいくべき。一筒に手をかけた。

(あの時はズバリ待ちを読まれたが………。今回はどうだっ!?)

 ダマでも7,700ある手だが、リーチで親満確定である。和弥は迷わず点棒入れを開け、千点棒を取り出す。

「リーチ」

 場が平たい時の親は極力ダマテンにしている和弥だが。が、この親リーは迷いなど全くなかった。

「親リーねぇ。その手ならダマでもいいんじゃないかなぁ?」

「…リーチする、しないは俺が決める事だ」

「おー、こわ」

 明らかに声のトーンが一段低くなった和弥に、脇の2人は内心ギョッとする。あまり笑顔を見せない少年という印象は普段からあったが、恵に対する冷たい物言いは露骨すぎたからである。
 現物を合わせ打つ下家シモチャ。続いて恵がツモ山に手を伸ばした。

「うわ、これ来ちゃった」

 どうやら和弥のアタリ牌を掴んだようである。しかし和弥とも綾乃とも異質の、恵だけの読み方───どうやって、こちらの聴牌形を読んでいるのか。
 12巡目。

「ツモ」

 和弥は静かにツモ牌を置く
 

「4,000オール」

「なるほどね。勢い戻ってきたじゃん」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

愛しい人へ~愛しているから私を捨てて下さい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:2,360

爺さんチートでチートいい気分

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:61

ラブハメパークは年中無休で営業中♡

BL / 連載中 24h.ポイント:5,411pt お気に入り:108

あなたに愛や恋は求めません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:96,078pt お気に入り:9,247

【完結】私だけが知らない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:362pt お気に入り:2,369

処理中です...