会長にコーヒーを☕

シナモン

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4話 機嫌の悪い日々

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「会長、明日来社予定のサウール様が会長とお話がしたいと言われています」
「ああ、わかった」

 海外で進行中の整備事業の事業主が来日中汐留に立ち寄る予定になっていた。
 それを急遽この部屋へ変更し招き入れることになった。


 翌日。役員関係者揃う中上がってきたのは、中東某国政府投資公社及び政府要人六名ー。

 …うち、目を見張る派手な女が一人。

「こんにちは、九条会長」

 アナスタシアと紹介された石油相の娘は手を差し出した。
 薄いクリーム色の長いネイル…。に、見覚えのある顔が。

 ーーーBBーーー

 …のキャラクター、スカイレッド、スカイピンク、ブルーその他もろもろ…。

「ようこそ。初めまして」

 黒いエナメルのミニのスーツに長いブーツ。
 デザイン専攻の学生が仕立てそうなサイケデリックな服だ。
 真っ白に染めた髪を高い位置で結んで、魔女が現れたかのごとく部屋がざわつく。

 ーーなぜロシア名?

「私ははじめましてではございません。先日お見かけしましたわ、九条会長、幕張の見本市で」

 ーー!
 あそこにいたのか。


「素晴らしい腕前で。うっとり眺めておりました」


 ーーそっちか。


 ? 役員は意味がわからずただ頷いている。

 中東の自由主義国で近年都市化が凄まじい勢いで進んでいる。

 それにしてもこなれた日本語だ。


「わたくし気になって気になって。あのビジネススタイルのゲーマー集団はどなた様? フロンティア社の方に勇気を出して聞きましたの。御社の方だったなんて、なんという偶然でしょう。早速便乗させてもらいました」

「そうでしたか」

 …ということはこの嬢は汐留に来る予定ではなかったのだな。

「この子はあのゲームに傾倒しておりましてな。困ったものです」

 と上席の石油相。
 ゲームに夢中とは。
 見たところ同年代のようだが。

「新しいの方も面白いわ。オーストラリアに第一号が完成ですって? 見てみたいわ。招待してくださる?」
「ええ、どうぞ。ご案内しましょう」
「説明していただけるのかしら。九条会長」
「…。私が案内しますよ」
「嬉しいわ」

 というわけで急遽完成式典に参加することになった。ゴミ箱…。そろそろ名称を与えなければならぬ。

 さて……。
 そろそろ本題か。

「本日お伺いしたのは今やってる橋や道路の件ではございませんわ。新たな再開発を考えています」

 彼らの提案を聞いて一同息を飲んだ。

「世界最大のアミューズメントパークよ。私は私の国をもっとファンタジックにしたいの。〇ィズニーや〇ニバーサルは素晴らしい。でも私は更にゲームの世界に絞ったおとぎの国を作りたいのです。具体的にはあのゲームの世界を再現したいの」

 ーー!?

「二度と生産中止なんてことにならないよう、広めるのよ」

「……旧ゲーム機が製造中止になると聞いて私費で10万台ほど購入し国民に配ると言い出したのです。いやはや、すごい熱の入れようで」

 と父親が断りを入れる。(父親は英語)

 私費で10万台…。
 先日の熱狂的な会場を思い出す。
 あの区画だけ異常な盛り上がりだった。

 生産中止? ごく一部の熱狂的ファンが盛り上がっているのか。
 パーク全体をあの極彩色に染めると?

「これを弊社に、ですか? 」

 お門違いの案件である。

「ええ」
「フロンティア社側は……」
「あの日お話した感じではとても好感が持てましたけど」

 それはただの立ち話では。

「……アイディアを募ってましてね。世界中に呼びかけています」

 大真面目に言われても…。素人の起業ではないんだ。
 資金は豊潤にありそうだが。
 名称を使用しているということは許可済みなのか。

「あなた方のVRの技術は素晴らしいわ。あれで終わりだなんて惜しい。是非使わせていただきたい。私の理想図はこうです」

 一同、PCと繋がった大型スクリーンを見上げた。




「これは……」


 テーマパーク?

 って何だったか…。遊園地か。

 BBランドと表示された娯楽施設の周囲に商業棟。
 進行中の公共事業とは完全に別件の提案にどよめく。

 そりゃそうだ。

 管轄外だ。

 我が社の未開拓ゾーン…。

 知ってて来たのだろうか?

「うふふふ、面白いでしょう? ホラ、ここ。廃棄予定の溶鉱炉を再利用しましょう。ショッピングゾーンもありきたりのモールにしたくないの。随時アイディアを募っています」

 容貌も含め自分の世界に浸りきっていて吸引力がすごい。
 その世界観に引き込まれる。

 しかし…。

「これは……」

 入札に参加…ではなく、

「私は私の理想の世界に旧式のマシンは置きたくない。楽しくないことはしたくない。ミス御堂、あなたのデザインは素晴らしい。素敵なものをいっぱいお持ちの御社に是非主導していただきたいのです」

 自由主義国といってもこの一族独裁のようなものだ。
 我が社で決まり…か。


「もちろんゲームの対戦コーナーも充実させますわ。ねえ、九条会長、いつかお手合わせ願いたいわ。私はランクs~aをいったりきたりですが」

「ええ、是非」

 これは…。
 珍妙な姫を引き寄せたな。
 やってしまったか……。

 しばらく熱く語る…。
 ゲームのデモムービーまで用意して、まるでフロンティア社の代理人だ。
 みんな知っているのかヒソヒソ言い合ってる。


 ーーああ、これですか

 ーー元はどこかの県のゆるキャラだったアレですよね。子供がやってます

 ーーウチもです。中毒性がありますよねー。家内が困ってましてね

 ーー何故か部屋を片付けるようになりまして。そこだけが利点です

 ーーそうそう


「ファンタスティック! このステージをリアル体験できるなんて素晴らしいと思いませんか」

 立派なプレゼンだが。
 これを我が社に
 フロンティア社との橋渡しもというのか。

 ピンクイエローレッドグリーン……この世界が現実に。


「本当にこのゲームは素晴らしい。デザインもサウンドもパーフェクト! 早くリアルで体験したい。一度我が国にいらしてくださいな。ーーーーそれではごきげんよう」

 退室後も空気感が消えない。

「レディ〇ガのようでしたな」
「あれがいわゆるコスプレですかな」
「なんとまあ、……時代ですな」

 熱意は十二分だがフロンティアにどこまで伝わっているのやら…。その前に伝わっているのか?

「フロンティア社の我が社の窓口は」重役に尋ねた。
「ーーはい。過去の実績ですとT不動産プロジェクト推進2課中野くんです。何度か一緒にショーの企画をしたのがフロンティア社の社長一族だそうで」

 中野か。
 そう言えば名刺交換したな…。

「この予定地周辺も開発されたばかり。どこの施工だったかな」

「はい。現地のーー社です。電算入札ですが。ホテルはb国のk氏設計、施工はーー社です」

 ……独裁国家というのはトップの一言ですべて進んでしまうのだ。

「施工実績をまとめておいてくれ。プロジェクトチームの用意を」「はい」


 姿勢を正し、では諸君ーと一言。場を鎮めねばならない。


「ーー周知の通り我が社はこの手の施設の建設運営の経験がない。だが今の話だとほぼ我が社主導で決定だ。これを前向きに取る者は挙手してくれ」

 各々小さく手をあげる者、そのままでいる者…。

 ーー半々。

 社長と顔を見合わせる。

「わかった。下ろしてくれ。本日はご苦労だった。以上ーー」

 ……立ち上がり退室していく者を見ながら、「モール…」つい呟くと社長苦笑。だが表情は明るい。「大丈夫ですよ」「…」



 強気だな。
 フロンティア社にしても未知数だろうに。
 我が社は娯楽施設の運営管理をやってないわけではないが、アナスタシア嬢が口にした有名どころのようなものではない。

 ただ一度ハリボテの見本市を視察しただけで賭けに出たか。

「御堂くん」

 アナスタシア嬢に名指しされたということはデザインは彼女に決定だ。
 遊園地?はいいとして、モール?がよくわからんな。

「私もゴールドコーストへ行くことになったんだが、すまないが君、終わった後近辺のモールの案内をしてくれないか。私はモールに行ったことがないんだ。参考に見ておく」
「え、私、一人でですか」
「ああ、必要なら社員をつけてくれ。任せる」
「は、はい。…あの、会長」
「なんだ」
「ショッピングモールなら東京にもありますが」
「どこにあるんだ?」
「えw、先日の幕張の隣にも大きなモールがありましたが」
「そうか? 気づかなかったな」
「…(@_@)」

「ーー今回は海外の話だしな。それに直近で丸二日とれそうなのがその日しかないんだ。悪いが付き合ってくれ。何ならシドニーまで足を伸ばしてもいい。決まったら行程を秘書室に送っておいて」
「かしこまりました」






 さて、アナスタシアは強運の持ち主なのだろうか。


 週末参加した名古屋での会合で偶然フロンティア社の社長と同席し、幕張の件で話が盛り上がりその足で名古屋市内のフロンティア本社に。本式の商談のように段取りが進み、手土産にゲーム機をいただいて帰京した。




 部屋につないだゲーム機でオンラインゲームに参加してみる。

 …これは、決まってしまったかもしれないな…。

 既に締結したような感触だ。
 長くだらだら続いた交渉がひょんなことで一気に進むことがある、そんな手ごたえ。

 この中毒性…手が勝手に動く。

 スコアがどんどん加算され…まだまだ上には上がいるのだな…。

 それにしてもうるさい色調と音響だ。

 キリがない。コントローラーを置いた。

 昔…嫌という程この類のゲームに付き合わされた。アメリカの親代わりのホストファミリーは全く叱ることなくやらせていた。飽きるまでやらせてそのうち時間を制限させることを教えていた。

 本当の子供のように甘やかし過ぎず厳しくし過ぎず、高広の旺盛な好奇心を潰すことなく明るく力強く接してくれた。

 お陰で高広はのびのび育った。最初はアジアンだということでいじめられて苦労したが。


 ーーまあ、あなたの声素敵ね。聖歌隊のソロをやってちょうだい。綺麗な声だわ。

 高広の声を褒めてくれた教師に出会うまで…外ではいじめられ、
 一人で野や街を駆け回り家でゲームに没頭した。


 父の言うように肉親の愛情に触れた記憶がない私と高広はどこか偏っている。

 ーーお前は女心がわかってない。お前の最大の弱点だぞーー

 父の言葉が重くのしかかる。

 ええ、おっしゃる通りですよ、お父さん……。
 わかっているから……せめて結婚と口にするのはやめてもらえないものだろうか。



 しばらくソファにもたれているとドアがノックされ、


「会長、お車の用意が出来ました」
「ああ」






 車で移動中、

 携帯にメール着信が。

 見るなりハッとした。


 高広!


 大勢とビーチにいる画像と短いメッセージだ。

 ーー兄さん元気~?俺は元気だよ。心配しないでね。沖縄の写真で~す(^○^)ーー


 日本にいるのか…。


 思い出したすぐ後に届くとは。


 不思議なことが続くな。

 相変わらずだな、高広。


 無事でよかった…。


 本当に高広か?

 まじまじと見つめて、

 ほう…と体をシートに預ける。



 方々手を尽くしてあっけないものだな……。




(私、見ました、弟さん)


 そういえばいつか言われたな。


(しょっちゅうこのへんうろついてるの)


 ……。

 あれは本当だったのか?


 まさか?








「なんだって、権利を孫に?」

「はい。先程篠田専務に連絡がありまして。会長にお伝えするように言われました。今専務が電話応対中です」

 地権者が動いた。

 ーー高田誠二。交渉権をあの男に譲ると言うのか。

「養殖業をたたみたいと、そういう話でした。明日行ってまいります」

 担当の篠田専務は人当たりがよく、施設取り壊しや業種転換、売却、いずれにも首を振り続けていた地権者が、専務との交渉で養殖業を生かす食品加工の線でまとまったところだったのだが。

「ああ、そうしてくれ」

 養殖を諦める?
 あれほど執着していたのに何故。

 ーー証拠を隠滅しようとしているんじゃないだろうな。

 嫌な考えがよぎった。

 痕跡を消そうとしているのか?

 どす黒い雲がとぐろを巻こうとしているかもしれない。

 ここは専務に任せるしかないか。知事からの連絡はまだこない…。





 ふらっと街を歩いてみる。

 いつか食べたサバランが食べたくなって、探してみるが行き着かず。

 もう限界だ。食べ物を受け付けないのだ。

 どうなっているのだ、この体は。

 ふと思いついて、藤島龍平に連絡。

 ーーはい、もしもし



 ーーああ、すまない
 ーーえ、九条くん、どしたの、こんな時間にw
 ーーアレが食べたいんだ。あの、いつか君にきてもらった時のパン…
 ーーサバランか? なんだ、どした、大丈夫かw?
 ーー今忙しいか?
 ーーいや、いいよ、もう店閉めてる…って11時過ぎてますけどw

 ーー悪いな。

 ーーうん、わかった、オッケー。明日なら行けるよ、店休みだから。



 翌日部屋に届けてもらった。


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