会長にコーヒーを☕

シナモン

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9話 残り香

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 ベッドの寝心地はよかった。

 寝室を与えられ、きっとベッドもマットも高級品だ。

 目を閉じて眠りにつく瞬間は至福の時だった。何も頭に浮かべないように眠りの底に着く。

 しかし目が覚めた時。またもや世界が一変していた。

 工場跡地のような、金属系のにおいが充満する場所。建屋であるが机やいすの類はない。いかつい男が5人…。

 だが香苗にはわからない。頭がぼぉっとして、感覚がない。


“…○○せとよ” “じゃあ…” “やっちまおうぜ”



  ドアが開く。 白い髪の若い男が現れた。

「お前ら、何してんねん」 声は低く、だが怒気を含んでいた。 「んなことしたら足がつくで。お前ら全員前科者やんか」

 若い衆は、顔を強張らせた。 「あにぃ…いや、これは…」

「手ぇ出すなって。余計な罪重ねんじゃねーわ。どこからさらってきたんだ」

「でも兄さん、この女、流してこいって言われて」

「誰に」

「坂本のダンナです」

「俺は聞いてへんで」

 その後、本当に命令が下った。流しーそれは隠語で、とある無人島に人を運ぶ闇ビジネスだ。


 結局請け負ったのは白髪の男だ。⦅こんな子を?⦆請け負うにしても随分と毛色の異なる対象だった。


「悪いな、姉ちゃん、俺らもホンマはこんなんしとうないんや」香苗はふらふらして危うい。⦅なんか打たれたんか⦆車で運ばれる。白髪の男はみんなから、兄さん、あにぃと呼ばれてる。


 香苗は、何かを言おうとしたが、声にならなかった。 窓の外は、暗い。 どこへ向かっているのか、わからなかった。

 車が止まったところは海辺の道だった。香苗は朦朧としているうえに、腕に注射された。

「ただの麻酔や。途中で目ぇ覚めんようにな。 目ぇ覚めてそこが地獄か天国か……あんた次第やで。 何の怨み買うたんか知らんけど、 中のことは誰も知らんのや。俺の顔憶えとき、意識しっかり保つんやで。」男が言った。「ええな、姉ちゃん……やで」


 香苗は目を閉じた。香苗を乗せたボートが岸を離れる。うっすらそれらを識別できるのは街灯のおかげだった。

「おい、ハヤテ」呼ばれて白髪の男はそちらを向いた。何人かが護岸に立って暗い海を見つめていた。

「そろそろ警察が大々的に捜査するらしい。もうこれが最後になるかもな」夜の光にかろうじて相手が認識できるレベルで話す連中は、人知れず集められたアンダーグラウンドな若者らだ。この先は“渡し屋”と呼ばれる同じくブラックな業者が島まで運ぶ。

「そうなんや」

「噂じゃ潜入捜査官が入ってるらしい」

「へえ」


 このハヤテという男、真っ白な髪と鋭い目つきが堅気には見えないムードを放っていた。

 白髪と言ってもいわゆる『しらが』ではなく、どことなく温かみのあるホワイトタイガーを思わせる色味の髪の色だった。


 漆黒の海にも染まらない。





 ~~~~~~~~







 波に揺られながら香苗は必死に幻覚作用と戦った。

 誰…? 白い髪、きつい目。耳にこだまする…あの声。





『…姉ちゃん、生き延びるんやで…』



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