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第53話 闇の獣人、女王の許可を受けて悪魔の大群の退治に乗り出す

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 グレーターデーモンの上に馬乗りになった俺は、ひたすら浄化魔法・ピュリファイをかけた両手でこの上級の悪魔を殴り続けた。

 浄化魔法をかけているのは、悪魔の肉体が魔力を凝縮して作られているからだ。言ってみれば負の霊気で作成された肉体。体の弱い人間ならすぐに万病にかかりやすくなって、最悪の場合寝込んでしまうだろう。

 だからこそ浄化魔法が有効だ。もちろん他の生物に憑依している場合はなかなか有効ではなく、込める魔力もかなり高くしないといけないが、こいつの場合は自らの魔力を凝縮した仮の肉体に過ぎない。

 実際にこいつは殴られながら、やめろ、とか触るな、とかいろいろ言っているが、知ったこっちゃない。

 せっかく皇子様と穏便に、仲良くできるシーンを台無しにしやがったのだ。

 その罪、万死に値する! 俺は更に魔力を込めて殴り続けているのを背後の面々は微妙な表情で見ているのを何となく感じた。

 「すげぇ。あの上級悪魔をフルボッコしてやがるぜ」と声からして白い豹の獣人。

 「あの悪魔が鎧を着ているから顔面を集中攻撃か。変態呼ばわりされても怒りに支配されていないとはさすがはラフィアス様だな」と黄色い虎の獣人。

 「だけどいつまで裸でいるんだ? 非常事態なんだからもう服とか着てもいいのに」と灰色の狼人。

 「きっとあの眼鏡の女の人が怖いから命令されない限りできないんだよ。ラフィアス様、あの人をすごく怖がっているのを僕、見ていたからね」…これは青い犬の獣人。ああそうだよ。怖いよ。どんなに強い力を身につけてもあの人は怖いよ。呑気に言っているが、それはあの人に殴られたことがないからだ。一度フルボッコにされてみろ。こんな上級悪魔なんて比べ物にならないくらいおっかないんだからな。

 実際、最初に殴られた時はよくも小や大のつく便を漏らさなかったと自分をほめたくらいだ。

 それに比べたらこんな悪魔なんて雑魚にしか過ぎないんだよ! 足掻いても無駄だムダMUDA無駄ぁ!!

 これだけじゃ物足りないので俺は自分に倍速の魔法をかけて、さらに攻撃速度を上げてやる。

 とにかくこいつはムカつく。魔法で浄化? そんな親切なことしてやるもんか! こいつは徹底的にぶちのめして抵抗できないくらい弱らせてから説教だ。それでこいつが素直に従えば浄化してやってもいい。

 正直言って今の俺にとって、こいつは雑魚だ。覇王竜のドランギルに比べたらどうってことはない。

 むしろシャルミリア局長の方が怖い。あの人はもうそこらのモンスターなんぞ比べ物にならないほど強い上に怖い存在なんだからな。あの人に比肩するほどの存在となると魔王か邪神くらいだろうな。

 そんな事を思いながら殴っていると、いきなりこいつの全身からすさまじい魔力が放出された。俺は慌てて飛びのいて、こいつから距離を置く。全裸だけど。

 「おのれ…様子見をしておれば獣人の変態ごときが調子に乗りおって…その無礼、万死に値するわ!」

 変形した顔がみるみるうちに修復されていく。やっぱり致命打にはなっていなかったか。

 漆黒の炎を宿した拳を俺にお返しだといわんばかりに振るってくる悪魔。だが俺からみればすごく遅い動きでしかないんだな、これが。

 あっさり回避する俺。追撃して左右の黒い炎の拳で殴りかかる悪魔。さっきと立場が逆転したように見えるが、俺は一発も殴られていない。むしろ余裕で回避している。

 俺の余裕の表情が気に入らなかったのだろう。悪魔はさらに怒り、黒い炎の剣を作り上げた。それも一本じゃなくて二本だ。

 …さて、どうしたもんか。あまり遊ぶのは後ろにいる面々を巻き込むので良くない。ただこいつを楽に滅ぼしてやりたくないのも事実なんだよな。

 というわけで改めて鑑定してみると、最後の一文に目が留まった。なるほど。こいつは上位の悪魔で肉体も仮初のものに過ぎないから回復ポーションが通用すると。

 悪戯心が芽生えた俺は、悪魔が雄叫びを上げながら襲い掛かってくるのをあっさりと回避した。

 そして回避したと同時に時空魔法で呼び出した精液ポーションをこいつにぶっかけてやる。

 それはすぐに効果が出た。悪魔の背中に生えた羽が蒸気を上げながら溶けはじめたのだ。

 「ぎゃああああ! な、なんじゃこれは! 貴様、儂に何をかけた!?」
 
 背中の痛みと溶けていく羽を見てから、次に俺の方を向く悪魔。

 悪いな、その隙を見逃す俺じゃないんだよ。俺は追加のポーションを3つまとめて悪魔の方に放り投げて、空中で念動のアビリティを使ってポーション瓶を粉砕した。もったいないがこうした方が悪魔に満遍なく精液が降りかかるので効果的だ。

 精液ポーションを三つも消費しただけあって、悪魔は顔面を庇いながら全身に浴びた俺の精液を振り払おうとしているが、あれってベトベトしているから魔力で振り払うのも簡単じゃないはずだが。

 …あ、そういえば浄化魔法って汚物や負の存在を浄化するからこいつにも有効なんだっけ。かけてやろうかな、と思いながら様子を見ていると、精液ポーションによるダメージを全身に受けたせいか、顔面を庇いながらの姿勢で膝をついてしまった。

 「くっ…この儂がポーション瓶4本でこれほどのダメージを受けるとは…よほど強力な聖水をもっているようだな、貴様。なかなかやってくれる…」

 「あ、それ違うから。さっきお前にかけたの4本とも俺の精液を詰めたポーション。名付けて精液ポーションって言うんだけど、そんなにダメージ受けたか?」

 愕然とした表情で悪魔が俺を見つめている。そしてその姿勢のまま固まっていると、やおら俺を指さして

 「この変態! 貴様の精液ポーションだと!? そんなものをポーション瓶に詰めるとは貴様、一体何を考えている! そのような思考を持っていることこそ、貴様が変態であることの証――」

 「黙れこの悪魔。お前にだけは言われたくないんだよ!」
 
 また精液ポーションを両ひざをついた悪魔の上に二本連続でぶっかけてやる。

 悲鳴を上げる悪魔に俺は空になったポーション瓶を闇の中の空間に戻しておく。

 体全体から蒸気を上げてのたうち回る悪魔。すでに鎧もボロボロになっている。

 俺は悪魔に近づいていく。気配を察した悪魔がギョッとした顔を俺に向ける。

 それもそうだろう。俺は肉棒をしっかりと掴んで悪魔の方に狙いをつけていたのだから。

 そして連射をイメージする。すでに覇王竜のマントは装備しているので、イメージした瞬間から精液が連続で鈴口から飛び出していく。

 連続で放たれた精液はそのままろくに動けない悪魔を直撃して、さらなるダメージを与えていく。

 こうして8連発ほど連射すると、悪魔の体はボロボロになって崩壊していき、最後には黒い粉末のようなものが小さな山となって残っていた。もちろん完全に崩壊する前にアビリティは吸収しておいた。さんざん人を変態扱いしてくれたんだからな。これくらいはしてもいいと思う。

 皇子に悪影響を与えたらまずいので、また室内全体に浄化魔法・ピュリファイをかけておく。

 すると黒い粉末の小山が消滅した。これで大丈夫だと思って、背後の一同を振り返ると、全員が微妙な顔をしてこちらを見ていた。

 よく見ると、部屋の外で警護していた親衛隊員の二人も部屋の中に入ってきている。そりゃそうか。あれだけ派手に動き回っていれば、何事かと思って部屋の中に入ってくるよな。

 そしてレヴィンや他の四人の騎士達も感心半分、呆れ半分といった表情で俺を見ている。

 「レヴィン。上級悪魔は倒したぜ? それで皇子様の容態は?」

 「あ、ああ。皇子様なら大丈夫だよ。気絶しているだけだからね。…それにしても君は本当に強いね。まさかあんな方法でグレーターデーモンを倒すとは思わなかったよ、うん。本当に予想外だった」

 どうもレヴィンや男達が微妙な顔をしていたのは、俺が精液ポーションや連続射精して上級悪魔を退治したのが原因らしい。ヒソヒソと話す声に耳を傾けていれば、あんな方法で、とかラフィアス様にしかできない、とか非常識な方法だが効率的だとかいろいろ言っているのが聞こえてきた。

 どうやら俺の考えていた攻撃方法と違う! と言いたいらしいが自分の実力がないのに俺に文句を言うほど身の程知らずじゃないようだった。

 それでいいんだよ。何の実力もない癖に文句言う奴が出たら、死なない程度にそいつの活力を闇魔法で吸い取って2日はベッドの上から動けなくなるほど衰弱させているところだぞ?

 俺はあどけない寝顔をしている皇子を見て、さっきまでの怒りは完全に消えていた。かわいい。こうして眠っていれば、皇子もかわいくて守ってやりたくなるのに。

 …いや、今まで皇子は自分が近い内に死ぬと思っていたから親友なんて作れなかったんだろう。

 親しい存在を作れば、いずれ死ぬ自分の為に悲しんで泣くだろうからな。

 メイド達が皇子の側に座り込んで介抱している。だが外で大量の魔の気配を感知した俺は、とっさに顔を上げて窓に駆け寄った。

 そして鎧戸を開けて外を見てみると…そこには大量の下級悪魔が王城を中心に召喚されていた。

 それは王城を中心に、城下町へと広がっていく。まるで悪性の病原菌みたいだ。

 数も多い。視認できている中では数千か。いやもっと多いと考えた方がいいだろう。

 グレーターデーモンは囮だったのか? 俺は指示を仰ぐために局長の方を見てから窓の外に視線を向ける。

 俺の様子にただ事ではないと思ったのか、レヴィンをはじめ他の面々も隣の窓に駆け寄って鎧戸を全開にして外の様子を確認していく。

 「これはこれは。…また、随分と物騒なイベントを開催してくれたものだな」

 と局長。その楽しそうな顔と声音に背筋がゾッとしたのは俺だけじゃないはずだ。

 俺は心底、闘いに没頭できる喜びに歓喜している局長から目を逸らしていた。自然に、女王陛下や姫、皇子を抱きかかえた執事や近衛騎士達と視線が合う。

 外の下級悪魔を鑑定してみると、魔界から何者かによって召喚された存在だということ。召喚された? じゃあ動物や虫に憑依しているわけじゃないんだな。

 ならば覇王竜の息吹が通用するはずだ。俺は女王陛下の前で片膝をつくと、この装備を手に入れる際に覇王竜からアビリティを受け取ったこと。研鑽を重ねて今なら王城はおろか、王都をまとめて浄化できるということを簡単に伝えた。

 これが俺の精液を飲む前の女王ならば、眉唾の話として簡単には信じてくれなかっただろう。

 だが俺の精液を20回も飲んでくれた彼女は少なくとも5年は若返っていた。ストレスや王族としての苦しみも俺の精液を大量に飲んだせいで、大分楽になったようだった。

 俺の提案に彼女は即座に許可した。

 「あなたの実力なら竜族の中でも特に強い力をもつ覇王竜も倒せるのでしょう。事実、あなたは全く本気を出さないで己の放つ精液のみで上級悪魔を倒しましたからね。

 ならばアビリティを譲り受けたという話も、俄には信じられませんが、あなたならそういうこともあると、今なら信じられます。ですからその力でこの王都をまるごと浄化できるのなら、ぜひお願いします。ただし無理はしないように」

 「では行って参ります。レヴィン、局長。おそらく敵は城内に侵入してきているはず。だからここでみんなを守ってほしい。俺は今から下級悪魔達を浄化してくるけど、中級や上級の悪魔には通用しない可能性が高い。すぐに戻ってくるけど、それまでは――」

 「わかっているさ。皆まで言わなくてもいいから、さっさと行きたまえ」

 野良犬でも追い払うかのようにシッシッと手を振る局長。レヴィンも苦笑しながら行っておいで、と短いが暖かい声をかけてくれた。

 俺は以前にはるか上空からこの王城を見ていたことがあるので、この王城の上空に転移するのは簡単だった。

 見れば、街のあちこちから悲鳴が聞こえてくる。火事が起きたのか火が上がっている所も何か所かあった。

 これはまずい。俺は覇王竜の剣を出して竜王の息吹と覇王竜の息吹の二つを同時に発動・展開した。

 もちろん範囲はこの王城・ジスニーヴァインを中心にした王都全体だ。即座に王城から王都全体に白く輝く二重の光の津波としか形容できないものが王都全体へ。そしてさらにその外側へと広がっていく。

 思いっきり範囲を拡大したのに、ほとんど疲れていない。違和感を感じた俺はステータス・ボードを開いて、今のMPを確認してみることにした。

 するとMPの残量が52000となっていた。あれ? そんなに減っていない? と思ったら、いろいろアビリティを上げていて気付かなかったし、その余裕がなかったのもあるが、MPのMAXが124800になっていて、LPのMAXが163200になっていました。

 そういえばいろいろ上げたもんなー。って浸っている場合じゃない。眼下の王都全体を鑑定アビリティの覇王竜の叡智で鑑定してみる。

 だが魔族はどこにもいなかった。そう、王都には。

 しかし王都にはいないが、王城には複数の悪魔の反応があった。竜王の息吹と覇王竜の息吹をまともに浴びても浄化されない悪魔なんて、中級か上級悪魔以外に考えられない。

 やっぱり下級悪魔の軍勢は囮だったのか? それとも上級悪魔が俺に殴られている間に同時に召喚されたのか。あるいは上級悪魔と一緒に召喚されたのかはわからない。

 俺は焼石に水だとわかっていても、再度王城全体に竜王の息吹と覇王竜の息吹を同時にかけてやった。

 しかも今度は込める魔力をこの二つのアビリティに全て込めた。

 幸いなことに複数のアビリティと覇王竜の装備シリーズのおかげで10秒ほどで俺のMPは全快しているので、全魔力を込めても少し待つだけでいいのだ。よって魔力枯渇状態になるのはほんの少しだけなので遠慮なくこの二つのアビリティに魔力を注ぐことができた。

 再度光に包まれた王城・ジスニーヴァイン。また鑑定してみると、20体ほど反応があった悪魔の反応は、5体ほどに減っていた。

 これはいい。体がフラフラしたのもつかの間、すぐにふらつきが消滅して元に戻る。やっぱり覇王竜の装備シリーズを身に着けていてよかったよ。

 俺は時空魔法の時間停止のアビリティを使うと、時が停止した眼下の王城へと一気に降下していった。

----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 後書きです。グレーターデーモンも余裕で倒せたラフィアス。しかもレヴィンや帝国の四人の近衛騎士の予想もしていなかった方法で倒してしまいました。

 グレーターデーモン「解せぬ」

 もう非常事態なので時空魔法とかも使っています。最初から使えよ、とかいう声が聞こえそうですが、これは奥の手の一つです。

 また相手が時間停止魔法とか使ってくる可能性も考えて、なるべく手の内は見せないようにしている事もあるのですが、何よりラフィアスが一対一で戦っている方が性にあっているというか。

 時間停止だとひたすら、ラフィアスの方が有利ですからね。便利すぎるのと、自分がいろいろと有利になる=卑怯な方法だと思っているのと、時空魔法が暴走したら、周囲の時間と空間が滅茶苦茶になるのを恐れているので使いたくない、といった理由もあります。

 なのでよほどの強敵か、非常事態にならないと使いません。

 ちなみに相手が時間停止使っても、時空魔法使えるおかげでラフィアス自身は時間停止に巻き込まれる事はありません。普通に動けます。

  
 これ以上後書きが長くなるとまずいのでこの辺で。読んでくださり、ありがとうございます。

 
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