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閑話 とある竜戦士のつぶやき

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 俺の名はドラフォール・ギガレント。フォレストドラゴン族の戦士長だ。

 最近になって我らの崇める女神、植物の大女神と巷では言われているアミリルス様が復活なされた。

 これは目出度いということで、女神様自ら俺ともう一人の腹心が復活させてくれた聖人の元へ派遣されることになった。

 たかが戦士長の俺が? 戦士長なんて何人もいるのでは? と疑問に思わなくもなかったが…もう一人の腹心を見て納得した。

 そいつはいい奴なのだが…やたらとテンションが高くて声もでかくてうるさい。

 小さい頃から一緒にいろんな訓練をしてきた幼馴染のヒョドリンという。

 そいつはもともと高位のトレントだったが、俺と一緒に訓練や修行、モンスター退治や瞑想などを繰り返してトレント種の中で最高位のカイザートレントになった実力者だ。

 さまざまな木の実を実らせて、それを敵に投げてぶつけることで爆発させたり、命中した場所に果実が破裂して、中に入っていた硫酸が敵を溶かしたりと物騒な攻撃を仕掛けることができる。

 さらにその目と口からは緑色の光線や炎を出すことができる。

 これはカイザートレント特有の攻撃で、相手の生命に直接ダメージを与えて生命そのものを削り取るという、恐るべき攻撃だ。

 もちろん相手がゴーレムやアンデッドでは効果がないが、それでも逆を言えば生きている敵であれば、よほど強力な結界を貼っていない限りはまず防げないので、生物相手ならほぼ無敵といえる。

 俺も竜族なら必ず使えるブレスの攻撃や、大地のオーラを剣身にまとわせて大岩だろうと、ジャイアント・ヴァイパーという20メートルほどの大蛇も一撃で倒すことができる。

 とにかくこいつはテンションが高くてやかましいので、俺が選ばれた主な理由は、こいつの手綱をとってほしいということなんだろう。

 そんな俺達にアミリルス様を復活させてくれた聖人を護衛してほしいという。

 それが女神様自らの命令となれば、従わずにはいられなかった。

 だが件の聖人はとても聖人といえる者ではなかった。フォレストドラゴンの長老曰く、獣人の聖人で淫らな行為をして人心を掌握しているが、冥王、海神王のお気にいりだそうだ。

 そして都市をも吹き飛ばす「海神王の槍」というアビリティを授けられ、死人であっても死後一週間までなら蘇生できるというアビリティも冥王様から与えられたそうだ。

 更にパーフェクトヒールやアルティメットヒールさえも使用可能。

 また覇王竜を一人で倒したという強者で、創造神の分身二名に守られているという。

 …それでは俺が護衛する意味がないのでは? と長老に聞いたら、彼は苦笑していた。

 「ドラフォールよ。お前に期待しているのは強さではないのじゃ。世界各国を旅してまわってきた、この世界での常識を知るお前しかおらん。他の竜戦士は人間や獣人を見下しているからな。
 
 だがお前は違う。旅人として20年はこの世界各国を渡り歩いたお前なら、常識に疎いあの聖人殿の力になってやれるだろう。わかるか? わしらはお前の力だけじゃなくてその知識や経験があの聖人殿の役に立つのではないかと思っているんじゃよ」

 だから俺が選ばれたのか。

 そして実際に会ってみると、ラフィアスという黒い獣人は意外と礼儀正しくてすぐに好感がもてた。

 もっともここに来た以上はここであった事全てを王都ジェルロンドをはじめ、他の街や村といった外の世界の住人にラフィアス殿の許可なく情報を漏らすことはしないように、と蛇の神であるアナントス様に誓約させられた。

 何故ここまでするのかと最初は疑問に思ったが、いざここに来てみるとすぐにそれは氷解した。

 何しろ彼の分身が400名もいて、巨大なタライの中に射精し続けているのだから、時折目玉の化け物や巨大な針の姿をした者達が見回っている。ラフィアス殿によると黒い獣人は全員が俺の分身で、うろついているように見えるのは分身に異常がないか、確認している時空の大精霊達だと教えてくれた。

 だが分身達が射精しているのを見ると、何だか異世界に迷い込んだような感じがして最初は気分が悪かった。

 あまりにも淫らなことを露骨にしていると。

 事実、このダンジョンがある王都ジェルロンドの中枢ともいえる王城ジスニーヴァインでは、既婚者や恋人がいる者を除いた全員がラフィアス殿の精液を飲んでおり、高等治癒魔法にして浄化魔法でもある竜王の息吹や覇王竜の息吹を何度も王都にかけた事。

 また彼の精液を飲んだ者は老若男女を問わずに若返ったり、円形脱毛症が治ったり、不眠症や精神的な病にかかっている者さえも治っているという。

 最もこれは全て精液の力ではなく、パーフェクトヒールやアルティメットヒール。そして精神を癒して修復するアビリティも併用しているということだが、精液を飲むという事に当時の俺は違和感を感じて密にラフィアス殿を嫌悪していた。

 そして覇王竜を一人で始末したラフィアス殿は俺の予想を遥かに上回る実力者だった。

 何しろ彼が半裸の状態で組み手をしても、手加減している状態の一撃で俺がこのダンジョンの階層の果てまで吹き飛ばされてしまうのだから。

 そして俺の渾身の力を込めたブレスや大地の霊力を剣身に込めた一撃さえも、まともに食らって平然としているその姿には絶望という感情しか浮かばなかった。

 完全武装の状態でヒョドリンと一緒に戦っても、惨敗した。その動きの速さといい、攻撃の強さや重さといい、何度挑んでも素手のラフィアス殿から未だに一本もとれていない。

 俺が装備しているのは全てアダマンタイトの武器と鎧だ。その剣をまともに食らっても傷一つ付けられないなんてどういう体をしているんだ!?

 この黒い獣人には逆立ちしても勝てそうにない。そんな敗北感と屈辱感が嫌悪感に拍車をかけていたのかもしれないな。戦士長なのに情けない。彼が半神半人とフェランという性奴隷の女性から知らされた。

 だがそれがわかっていても彼に対する嫉妬と嫌悪は俺の中に渦巻いていた。

 だがこの精液がポーション瓶に詰められて、新たなアビリティの習得やこのダンジョン・コアに注ぎ込むことでいろいろなアイテムを獲得できて、神々に捧げたら神々の力が回復・または強化させる効能があるとわかってからは、以前のような嫌悪感はなくなった。

 それにアミリルス様が復活した後でも、俺達に対するお礼と称してラフィアス殿の精液ポーションを献上してくれているとわかって、彼に対する嫉妬と嫌悪は薄らいでいった。

 そしてこの精液を変えたものが多く開発されていると知り、飴玉を舐めてみた。

 ほんのりとした甘さが俺には合うようだった。欠点としては舐めすぎると元気になり過ぎて、体を動かさざるを得なくなるということだ。

 もちろんそれは飴玉を舐めすぎた俺が悪いのだが、上半身を裸にしてこの階層を走り回る俺を、大精霊や上位魔神達は呆れたような、または珍妙なものを見る目で見ていたが、それも今ではすっかり慣れたようで、あ、またかといった感じで、特に珍しい物を見るような視線を浴びることはなくなった。

 そして時間停止をかけてはいろんなものを編みだしたり、作ったりしているラフィアス殿が姑息な感じがしていたが、それも邪神対策の為とわかってからは姑息だとは思わなくなった。

 それも今では必要なことだったということがわかった。もはや邪神側も少しずつ本気になってきており、古の神々と邪神との戦いほどではないにせよ、世界各地で封印されていた妖魔や怪物が解き放たれている。

 無論、その8割はラフィアス殿が自ら出向いて始末している。

 そして封印されていた魔物以上に厄介なのが…異世界から召喚された悪魔や怪物達だ。

 彼等には時間停止は通用しない。実際に俺がここ、ダンジョンの地下131階層に来てからはラフィアス殿の眷属である上位魔神や魔神王と協力して、ここに来たさまざまな形状の怪物達を撃退している。

 彼等は自分の意志で来た者もいるが、大半は時空の大精霊セレソロインやエレンソル、サンティラといった者達が世界各地で被害が出ないように、戦力の整っているこの階層に引き寄せているのだという。
 
 おかげで一時は毎日、雑魚ばかり相手にさせられてうんざりした事もあった。

 今では一週間に一度来ればいい方か。その間にラフィアス殿はさらに魔皇神をも味方につけてしまった。

 ただでさえ創造神の分身二人を味方にしているが、この二人はラフィアス殿が絶体絶命の大ピンチに陥らない限りは動かない。

 そこで味方を増やす為にラフィアス殿がさまざまな神に己の精液を詰めた精液ポーションを億単位でさまざまな神に捧げて味方にしてきた。すでに家屋、井戸、畑、道などの神々の加護を得ているようだ。

 ならば魔を司る神も味方にして損はないと思ったのだろう。

 だが結果は我々が予想していたものとは全く違った。

 魔皇神がラフィアス殿を大いに気に入ってしまったのだ。おかげでラフィアス殿の願いは叶い、彼が射精する精液は非常に美味となった。

 そのせいでほとんど毎日のように大精霊や上位魔神。そしてラフィアス殿が味方にして、全員が自ら性奴隷になることを希望した五人のシャイターン(人から悪魔に変えられる実験に無理矢理参加された、元・人間の妖魔達)がすごく喜んでくれてラフィアス殿の精液を飲み続けるほどた。

 さらに魔皇神はラフィアス殿にしか扱えない支配の首輪を与えて、ラフィアス殿は上位魔神や魔神王、シャイターン五人にはめていった。

 もちろん支配の首輪の説明はしてある。

 結果、全員が同意してラフィアス殿に永遠に恋する作用をもつ首輪の装備者となった。

 また最近ではラフィアス殿の精液が美味になったせいか、上位魔神や大精霊、魔神王やシャイターン五人がラフィアス殿の精液を飲みたがるようになって、ラフィアス殿は最近ではこの階層にいる時はいつも全裸でいるようになってしまった。

 というのも全裸でいてくれと大精霊達や性奴隷達から頼まれたからだ。

 実は俺も彼に全裸でいてくれという票に一票投じた方だ。

 だから彼が全裸でこの階層で何をしていようと責めることはできない。むしろずっとその姿でいてほしいとさえ思ってしまっている自分の変化に驚いている。

 それは彼の精液が今まで味わったことがないほど美味だったからだ。

 最初に味わった時の感動と驚きは忘れられない。もうあの精液無しでは生きていけないだろう。

 問題はラフィアス殿が完全支配の首輪をもって俺の首にはめてもいいか? と聞いてこないかということだ。

 俺は性的な事を感じられない。感じる能力を植物の女神アミリルス様に捧げてしまったからだ。

 だがそれでもいいと言われたら…。首輪をはめないと精液を飲ませないと言われたら俺はどうするのだろうか。

 アミリルス様を崇める心と首輪をはめてラフィアス殿に永遠に恋をする心。

 果たしてどちらが強いのか。俺はどちらも決められない。

 ラフィアス殿が優しくて淫らな事だけしているのではなく、料理や鎧、武具の作成などいろんなことをしていることがわかり、彼の魅力というものを理解できるようになった。

 彼が多くの神々から愛されるのも、優しく謙虚であり、決して慢心しない所にあるのだろう。

 もっとも人間達に接する時は傲慢で冷淡かつ冷徹に振る舞っているようだが。

 そうしないと人間達が際限なくラフィアス殿にすがり、甘えるようになってしまって堕落させてしまうのだと彼は言っていた。

 だからわざと冷たく振る舞うのだと。本当に自分が必要な時でない限りは助けたら、また次も助けてくれるんじゃないかと期待させてしまう。

 何度も危機を救ったら冒険者を甘やかせてしまうので、代わりに彼等にもっといい装備を与えて生存率を上げる方向に切り替えたのだと教えてくれた。

 ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトのシャツやパンツ。そして鎧に兜に盾に具足や手甲といたせりつくせりだな。

 もちろん転売したり、装備を渡されたからって周囲に自慢したり吹聴したら、二度と助けない。見かけても見捨てるとラフィアス殿が脅した上で蛇の神アナントス様に誓約させたので、冒険者達が暴走することはないだろう。

 最近ではラフィアス殿に自然に目がいってしまう。彼は俺の視線にすぐに気づいて笑顔を浮かべて股間から生えて天を衝く同性の俺でも絶句するほどの長さと太さをもった肉棒を掴んで必ずこう言って手招きをして誘ってくれる。

 「俺のミルク、飲みたいのか? いいぜ。さあ来いよ」と。

 俺は情けないことだが、毎回頷いて彼の肉棒を掴み、しゃぶり、彼を絶頂へと導く。

 そして彼の射精する精液を存分に飲み込んでいく。

 彼は黙って微笑を浮かべながら俺が彼の肉棒をしゃぶるのを見ているだけだ。

 もう俺はこの空間の異常さに毒されている。

 そしてその異常さを受け入れて染まるのはいいが、染まり過ぎないように自制している。

 そして最近ではラフィアス殿が俺にこう言わないかと恐れている。

 「性的な事を感じる能力がなくてもいい。だから俺の愛人になってずっと俺の精液を飲み続けてくれないか?」

 ヒョドリンや周囲の者達によると、俺は毎度毎度、おいしそうにラフィアス殿の精液を飲んでいるのだというのだから、上記のような誘いが来てもおかしくない。

 だが俺はアミリルス様のものだ。首輪を付けてもいいか? と聞かれても拒否するしかない。

 しかしそれでラフィアス殿が怒って、俺に精液を飲ませてくれないとしたらどうすればいい?

 だからお願いです、ラフィアス殿。

 どうか俺に首輪を付けようとしないでください。

 そしてお願いします、アミリルス様。

 このままずっとラフィアス殿の側にいられますように。

 そして彼の精液を死ぬまで飲み続けることができますように。

 これが俺の願いです。金も名誉も財宝も権力もいりません。

 ただあの黒い獣聖人の精液を飲み続けたい。それだけなのです。

 こんな事を考える俺はもう完全におかしくなっているのでしょう。

 それでもあの首輪を見る度に、そして首輪を付けた者達がラフィアス殿を愛する姿を見る度に俺は内心恐怖しています。

 どうか俺がいつまでもアミリルス様とラフィアス様の両方を敬愛し続けられますように。

 

 
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