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第165話 闇の獣人、変幻悪魔と決闘する

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 召喚の魔法陣の中から出てきたのは、でっかいドラゴンの頭部だった。

 ただしその全てが骨でできていた。最上位の悪魔となるといくらでも姿形を変えられるのでアンデッドとはいえないだろうな。実際、アンデッドの放つ独特の波動というものが全く感じられないし。

 黒銀色の骨でできた体を魔法陣の中からゆっくりと出していく。全長25、6メートルはあるだろうか。

 もっと大型の魔物とか怪物とか見ている俺にとっては、あまり驚くものではなかったが、その真紅の瞳が俺をじっと見つめている。もちろん眼球はない。だが瞳といってもいい真紅の光が骨でできた頭部に二つあるので、生物といってもいいほどの存在感がある。

 「ふむ。どうやら俺様を召喚できるとは、相当な実力者のようだな。だが召喚できるからといって俺様は納得してはおらんぞ?」

 黒銀色のドラゴンの発する声音は召喚主の俺に対してあまり敬意をもっていないということがよくわかる。

 というかむしろ、小馬鹿にしているといった感じだった。言うなら侮蔑とか見下しているといった方がわかりやすいだろうか。

 「うーん。あまり時間をかけたくないんだけどな。どうすれば俺を主人と認めてくれるかな?」

 いきなり喧嘩腰だとまずいので、なるべく波風を立てないようにして話しかけてみる。

 「ほぉ。どうやら俺様に認められたいようだな。ならばもうわかっているだろう? 貴様のようなガキがオレ様を召喚できたからといって従う道理などないわ! よって俺様を部下として使いたいのなら答えは一つ。力でオレ様を屈服させてみるがいい!」
 
 偉そうに骨でできた両腕を組む骨悪魔に俺は大きく頷くと、ゆっくりと腕を持ち上げて骨悪魔を指さした。

 「それじゃお前を倒してみせる。で、方法はどんなものがいい? 俺自身の力でやった方がいいか? それとも俺の部下や召喚した連中でやってもいいか?」

 「獣人の子供に仕える連中の実力など、たかが知れているわ。そんな連中など、大した力などないだろうから、いくらでも呼び出すがいい。もっともそんな連中をぶつけようと、俺様を倒すことなどできんだろうがな」

 うん。やっぱこいつ、自分の実力に絶対の自信があるのがわかる。わかるけど、過度の自信をもっているというのは「自信過剰」って言うんだよ。

 卑屈になるのも駄目だけど、こいつみたいに自分の力に絶対の自信をもつ余りに他者を見下すようじゃ駄目だな。

 こうして俺は、渋るアナントスに離れてもらってからこいつが出てきた魔法陣に飛び込むと、魔界へと移動して待ち構えていた骨悪魔と戦うことになった。

 しかし見事なまでに骨ばかりの体なんだな。体だけじゃなくて羽にも皮膜は全くない。あるのは骨だけ。

 こういう時の勝負ってお互い名乗りを上げるのが筋ってものなので、お互いに名乗り合った。

 この最上位悪魔の名はモロンゾン。俺が名乗ったら、即座に攻撃を仕掛けてきた。

 いきなり前脚を振り上げたかと思ったら、すぐに振り下ろして俺を潰そうとする。

 とっさに回避していなかったら、潰れて地面にめり込んでいただろう。

 相手は悪魔なので、常識というものは通用しない。もちろん最上位の悪魔なので、プライドは高いからそこを突けば卑怯な攻撃はしてこないと思うが、勝てばよかろうなのだー! とか言って自分のプライドを守る為に非常識な事とかしてこないとも限らない。

 実際、こいつは俺が神剣のコピーを4本ほど投げつけたら、巨大が災いして全部命中した。
 
 当然、魔属性のこいつには神剣は忌むべきものだ。全部受けて苦しそうにもがいたかと思うと、体が黒銀色の塊になって縮んでいく。

 このままでは的になるだけだと思ったのだろう。確かにあれだけでかいサイズだと飛び道具とか攻撃魔法なんて当てやすいからな。その判断は間違っていない。

 どうやらこの悪魔は変身するのが得意らしい。だけど所詮は悪魔だ。いくら変身しても、魔属性であることには変わりない。

 一応、ライオン型の獣人、三つ首のトロール、全身から電撃を放つワイバーンなどに変化したが、覇王竜のマントを強化したものを装備している俺にはどの姿になっても攻撃は通らなかった。

 それで業を煮やしたのか、今度は黒づくめの料理人のような姿になった。長い帽子に右手にフライパン、左手に包丁をもっているので間違いなく、今のモロンゾンは料理人だ。でも何の理由で?

 それに何でブタの姿なわけ? しかもニコニコと微笑を浮かべているのがすごく気持ち悪いんですけど。

 「この俺様を本気にしたのだけは褒めてやろう。というわけで死ね!」

 くわっと大きく目を開いて、フライパンとでっかい包丁で攻撃してくる豚の姿になった最上位悪魔のモロンゾン。

 もっとも格闘とかは得意だ。しかもこいつ、悪魔だからダンジョン内に出てくるモンスターと違って退治しても遺体が傷まみれになっても解体するのに遺体の価値が下がって値段が下がるってこともないし。

 だけど豚の料理人の姿だとモチベーションが下がるなー。反撃する気も失せるので、こいつが疲れるのを待って回避に専念する。

 そして5分ほどこいつの攻撃を避け続けてきただろうか。急にこいつの攻撃が止まった。

 「フ…フフフ…。なかなかやるな…。ならば俺様の次の攻撃を喰らうがいい!」

 そう言って召喚したのは…寸胴鍋? 鍋の蓋を外すと煮えたぎるスープが俺に向かって襲い掛かってきた。

 覇王竜の叡智で鑑定してみたら、ゾンビを素材にしたスープ…。あ、駄目だこりゃ。そんなまずいスープなんて願い下げだから、時空の大精霊セレソロインがゴブリンの遺体を火山の噴火口に捨てたのを思い出して、スープは全部火山の噴火口に廃棄処分してやった。

 俺が時空魔法が使えることにムッと来たのか、今度はでっかい皿を召喚した。

 直径5メートルはあるだろうか。その皿の上には紫色の蟹が乗せられている、と思ったら動き始めた。

 そして身を起こすとぶくぶくと泡を吐き始めた。

 右や左にも似たような皿が召喚されていき、同じ紫の蟹が起き上がっては泡を吐き始める。

 三つの大きな泡が空中に浮かぶと、一つになって巨大な泡の塊となって俺に向かって降りかかってきた。

 だがあまりにも遅い。馬鹿正直に受けてやる義理はないのでまた火山の噴火口に廃棄処分してやった。

 そして鬱陶しいので、三匹の蟹は雷魔法で全部こんがりと焼いてやりました。

 自分が召喚したものがあっさりと倒されて青筋を立てるモロンゾン。

 それでも懲りずにまた巨大な皿を召喚して、首だけのイノシシを俺に向かってけしかけたり、鍋の中に入っていたカエル達を操っては俺に向かって毒の液体を口から噴出させたりしてきた。

 首だけの猪はアンデッドそのものなので、範囲を抑えた覇王竜の息吹で浄化した。カエルの数も10匹を超えているが、これも空間操作で毒の液体(唾液?)をカエルごと全部凍結させて地面に落としてやった。

 結構珍しい攻撃をしてきたが、そろそろ付き合ってやるのも飽きてきたな。かといって海神王の槍を投げたら、こいつ下手すると消滅するし。第一あれは海神王様からもらったとはいえ、俺の力じゃないから、それで倒してもこいつは納得しないだろうしな。

 今度は生きた野菜を操って俺に攻撃しようとしてくるが、さすがにうんざりしてきた俺は火魔法で全部焼き払ってやった。

 それでも懲りずに、シチューの液体を操ってきたり、直径3メートルはあろうかという甘い匂いが強すぎるケーキに手足の生えたモンスターを俺にけしかけてきた。

 …うん。匂いはいいけど、覇王竜の叡智で鑑定してみたら、どれも毒や劇薬ばかり入っている食い物ばかりだったな。状態異常無効のアビリティをもっていない限り、少しでも食ったら下痢や毒、下手すると猛毒のバッドステータスになること請け合いだ。

 ケーキの化け物は闇魔法の闇分解で一旦闇の中に吸い込んでから完全消滅させた。このケーキ、匂いこそいいけど少しでも残すと俺の部下や眷属が状態異常になりそうだからな。こんな危険物は消滅させるに限る。

 当然ながらシチューの液体も毒まみれの危険物だったので、これも闇分解で消去。

 それで完全にブチ切れたのか、今度は包丁に青黒い光をまとわせると、先程とは比べ物にならないほどの速度で俺に斬りかかってきた。

 確かに速い。速いけど回避できないほどじゃない。油断しなければどうってことはない程度のものでしかない。

 しかし困ったな。本気を出せば倒せることは倒せるが、それでは芸がない。こいつは自分に絶対の自信をもっているから、うかつに攻撃しても眷属を使ったものでは納得しないだろう。

 つまり俺自身の力でこいつを叩きのめさないといけないのだが…。どうも料理人の恰好をしているせいか、攻撃する気が萎えてしまっている。

 この豚悪魔の姿をした料理人をどうやって消滅させないで味方に引き込めばいいか…。包丁の攻撃を避けながら、俺は考えてみることにした。 

 
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