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第9話
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「先日、アンジュとアンドレ様の婚約が破棄されました」
「えっ!?」
「アンドレ様がとある上位貴族ともめて、その際にケガをさせてしまい、怒りを買ってダヴィアン伯爵家が没落寸前まで追いやられたそうです。
嫁ぎ先のお家が傾いている状況で、そんな家には嫁を出せないとアンジュの実家カヌベイラ子爵家から婚約破棄を申し立てました。
先ほど申した通りいい噂が無かった人物でしたので、いい機会だとアンジュの家族も思ったのでしょう」
へぇそんなことがあったなんて知らなかったな。結構最近の事なのだろうか。
それとも水面下での出来事で、あまり大事にしてないだけ?でも没落寸前まで追い詰めるって結構な相手を怒らせてるな…。
王族でも殴ったのだろうか。
まあでもこれでアンジュ様は自由の身だ。
モイフナー様はいつ求婚しても問題はない。
あ、でもカヌベイラ子爵家は今財政的にピンチなんだっけ。
で、その支える力が無かったから、モイフナー様はアンドレ様に彼女を奪われちゃったんだもんね…。
「アンジュには、まだ何も伝えておりません。ラーテリィ様にお話しした後にと、決めておりました」
「そうなのですね…」
「はい。それに最近、レマダリ家の財政状況に変化がありまして。繁栄の兆しが見えてきており、アンジュの実家であるカヌベイラ家を支えられるくらいの財政の見込みが…」
「……!もしかしてお酒?」
「えぇ、そうなのです!試用販売元様にすごく気に入っていただき、いろんなお店に降ろしていただける長期契約を結べたのです。そこからできた縁などがあり、景気が上昇しております。
なので、アンジュを迎え入れる準備は…出来ているのです」
すごい流れだな、と口が間抜けにもぽかんと開いてしまう。
あまりにも出来た流れ、運がいいというか、いろいろなタイミングが重なったと言うか。
もちろんお酒の価値がきちんと評価された結果だと思う。だってすごくおいしかったから。
私はすぐに口を閉じ、んんっと軽く咳払いし彼をまた覗いた。
するとどうだろう、次見た彼の頬には涙が伝っているではないか。
ぎょっとして、すぐにポケットからレースのハンカチを取り出した。
「モ、モイフナー様っ?お、お使いください」
「っ、ぁ、ありがとう、ございます…っ」
次々と流れてくる彼の涙。
それを薄いハンカチで吸い取っていく。
彼はぐっと自身の目から溢れる涙を止めようとするが、鼻や目、耳が赤くなるだけで止まる気配がない。
男性の涙なんて、弟たち(幼少期)以外見たことなかったから、どうしていいのかわからず心臓がバクバク鳴っている。
「やっと、やっとなんです」
「…?…?」
「ずっと結ばれない恋だと思っていたから…っ」
顔を覆い隠し、背中を曲げて項垂れるように倒れ、籠った声でモイフナー様はそう言った。
きっと、今私に話してくれた以上の壁が彼らの間にはあったのだろう。
肩を揺らし、時折ぐす、と鼻をすすりながら泣く彼の背中を思わずそっと撫でた。
「私は、モイフナー様たちの恋を応援しておりますわ」
「っ!」
「話していただきありがとうございました。モイフナー様は素敵な男性です、そんな方に見初められたアンジュ様もきっと素敵な女性なのでしょう。
私は…あなた方の幸せを願っております」
「…ラーテリィ様っ!」
顔をあげたモイフナー様はまたぽろぽろと涙を流していた。
あぁ綺麗な雫。これが純愛の涙かあ。
私は涙をお拭きくださいな、と優しく笑いながら彼が持つ私のハンカチを目元に当てた。
これは全然悔しがってるわけじゃないのだが、別に私は彼を好きだったわけではない。
なら両想い相手と幸せになってもらうのが一番に決まってる。彼は先ほど言った通りいい人だ。
幸せになってほしいというのは、本音である。
しかし彼含め5人に断られまくっている私、今回はただで終わってたまるか。
「モイフナー様、結果はどうであれ、縁談を持ちかけていただいたこと、感謝しておりますわ」
「え、?」
「これを機にモイフナー様のことをよく知れましたし…。レマダリ家の開発されたお酒…父がとても気に入っておりまして。
これからは良い お友達 でいられたらと思っているのですが」
「!もちろんです、また、送らせていただきますね」
はは、と眉を下げて、まだ涙が残る瞳を細めて彼は笑った。
私も口元を隠しながらふふ、と笑う。
お酒が手に入るんだ、良い縁談だった。
それになかなか聞けない純愛話も聞かせてもらったし。
これでプラマイ0か、ぎりぎりプラスだろう。
「そろそろ屋敷に戻りましょうか」
「……はい、そろそろ父達も話し終えた頃でしょう」
私はベンチから立ち上がり、それに続いてモイフナー様も立ち上がる。
ベンチの横で、つぼみの中、1本だけ咲いた桃色のナデシコが揺れているのが見えた。
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「先日、アンジュとアンドレ様の婚約が破棄されました」
「えっ!?」
「アンドレ様がとある上位貴族ともめて、その際にケガをさせてしまい、怒りを買ってダヴィアン伯爵家が没落寸前まで追いやられたそうです。
嫁ぎ先のお家が傾いている状況で、そんな家には嫁を出せないとアンジュの実家カヌベイラ子爵家から婚約破棄を申し立てました。
先ほど申した通りいい噂が無かった人物でしたので、いい機会だとアンジュの家族も思ったのでしょう」
へぇそんなことがあったなんて知らなかったな。結構最近の事なのだろうか。
それとも水面下での出来事で、あまり大事にしてないだけ?でも没落寸前まで追い詰めるって結構な相手を怒らせてるな…。
王族でも殴ったのだろうか。
まあでもこれでアンジュ様は自由の身だ。
モイフナー様はいつ求婚しても問題はない。
あ、でもカヌベイラ子爵家は今財政的にピンチなんだっけ。
で、その支える力が無かったから、モイフナー様はアンドレ様に彼女を奪われちゃったんだもんね…。
「アンジュには、まだ何も伝えておりません。ラーテリィ様にお話しした後にと、決めておりました」
「そうなのですね…」
「はい。それに最近、レマダリ家の財政状況に変化がありまして。繁栄の兆しが見えてきており、アンジュの実家であるカヌベイラ家を支えられるくらいの財政の見込みが…」
「……!もしかしてお酒?」
「えぇ、そうなのです!試用販売元様にすごく気に入っていただき、いろんなお店に降ろしていただける長期契約を結べたのです。そこからできた縁などがあり、景気が上昇しております。
なので、アンジュを迎え入れる準備は…出来ているのです」
すごい流れだな、と口が間抜けにもぽかんと開いてしまう。
あまりにも出来た流れ、運がいいというか、いろいろなタイミングが重なったと言うか。
もちろんお酒の価値がきちんと評価された結果だと思う。だってすごくおいしかったから。
私はすぐに口を閉じ、んんっと軽く咳払いし彼をまた覗いた。
するとどうだろう、次見た彼の頬には涙が伝っているではないか。
ぎょっとして、すぐにポケットからレースのハンカチを取り出した。
「モ、モイフナー様っ?お、お使いください」
「っ、ぁ、ありがとう、ございます…っ」
次々と流れてくる彼の涙。
それを薄いハンカチで吸い取っていく。
彼はぐっと自身の目から溢れる涙を止めようとするが、鼻や目、耳が赤くなるだけで止まる気配がない。
男性の涙なんて、弟たち(幼少期)以外見たことなかったから、どうしていいのかわからず心臓がバクバク鳴っている。
「やっと、やっとなんです」
「…?…?」
「ずっと結ばれない恋だと思っていたから…っ」
顔を覆い隠し、背中を曲げて項垂れるように倒れ、籠った声でモイフナー様はそう言った。
きっと、今私に話してくれた以上の壁が彼らの間にはあったのだろう。
肩を揺らし、時折ぐす、と鼻をすすりながら泣く彼の背中を思わずそっと撫でた。
「私は、モイフナー様たちの恋を応援しておりますわ」
「っ!」
「話していただきありがとうございました。モイフナー様は素敵な男性です、そんな方に見初められたアンジュ様もきっと素敵な女性なのでしょう。
私は…あなた方の幸せを願っております」
「…ラーテリィ様っ!」
顔をあげたモイフナー様はまたぽろぽろと涙を流していた。
あぁ綺麗な雫。これが純愛の涙かあ。
私は涙をお拭きくださいな、と優しく笑いながら彼が持つ私のハンカチを目元に当てた。
これは全然悔しがってるわけじゃないのだが、別に私は彼を好きだったわけではない。
なら両想い相手と幸せになってもらうのが一番に決まってる。彼は先ほど言った通りいい人だ。
幸せになってほしいというのは、本音である。
しかし彼含め5人に断られまくっている私、今回はただで終わってたまるか。
「モイフナー様、結果はどうであれ、縁談を持ちかけていただいたこと、感謝しておりますわ」
「え、?」
「これを機にモイフナー様のことをよく知れましたし…。レマダリ家の開発されたお酒…父がとても気に入っておりまして。
これからは良い お友達 でいられたらと思っているのですが」
「!もちろんです、また、送らせていただきますね」
はは、と眉を下げて、まだ涙が残る瞳を細めて彼は笑った。
私も口元を隠しながらふふ、と笑う。
お酒が手に入るんだ、良い縁談だった。
それになかなか聞けない純愛話も聞かせてもらったし。
これでプラマイ0か、ぎりぎりプラスだろう。
「そろそろ屋敷に戻りましょうか」
「……はい、そろそろ父達も話し終えた頃でしょう」
私はベンチから立ち上がり、それに続いてモイフナー様も立ち上がる。
ベンチの横で、つぼみの中、1本だけ咲いた桃色のナデシコが揺れているのが見えた。
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