悪役令嬢なお姉様に王子様との婚約を押し付けられました

林優子

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8.誕生日パーティとお姉様の過去バナ

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「あ、殿下」
 殿下が近づくと皆うやうやしく礼を執ります。
「やあ、来てくれてありがとう。リーザ、まず彼がべヴァリー。お父上が魔法省の技術部に勤めている」
 最初にひょろっとした深緑色の髪の男の子を紹介されました。
「初めまして、エリザベートです。ジョゼフィーヌお姉様とクルトがお世話になってます」
「ひょ、あ、ご、ご丁寧にありがとうございます。ベヴァリーと申します。こちらこそお世話になってます。あの鬼姫の妹なのに可愛い……」
 最後の方、ベヴァリーさん、小さい声で何か言ってましたが、聞き取れませんでした。

「我が国で魔法と言えば、攻撃魔法使いの育成が重要視されているが、もっと魔法技術の開発研究に力を入れられないかと考えているんだ。具体的に言うと魔法具の開発。錬金術だ」
 前からフレドリック殿下はそうお考えみたいです。この数年は実際に人々の暮らしをご覧になってますますその思いを強くなさっているようです。
「それはいいお考えです」
 一般の人は魔力が弱いのですが、魔法具を上手く活用することで生活は随分便利になるでしょう。

「次にロシェとアリシア」
 と、無心に料理を食べている二人に声を掛けました。
「はい、殿下」
「はい、ただいま」
 こちらにやって来た二人は、一人は男の子で一人は女の子です。どちらも背が高くて鍛えている感じです。
「彼女がエリザベートだよ。リーザ、ロシェはデュモンドの弟で、アリシアはセーガンの娘なんだ」
「そうなんですか?」
「はい、僕ら二人、エリザベート様にお目に掛かるのはこれが初めてですが、ずっと兄達からお話をうかがっておりました」
 男の子のロシェさんの方が言います。
「だから私達、今日お会い出来るのをとても楽しみにしていたんです」
 アリシアさんはドンとロシェさんを突き飛ばして話に割り込んできました。
 結構な勢いですが、ロシェさんは大丈夫でしょうか。

「はは、こう見えて二人はとても仲が良い。剣の腕は折り紙付きだよ」
 慣れっこなのでしょうか、フレドリック殿下は動じません。
「は、はい。よろしくお願いします。デュモンド卿とセーガン卿にはとても良くして頂いてます」
「過分なお言葉、恐縮でございます。父もデュモンド卿もさぞ喜ぶでしょう」
 二人を代表してアリシアさんがそう言い、二人は騎士らしく礼を執ります。格好いいです。

「それから、エドモンド、来てくれ」
「はいはい」
 と今度は水色の髪でメガネの頭良さそうな男の子です。
『殿下に、はいはい言ってるー』
 驚きましたが、フレドリック殿下は気にしてません。
「彼は王立図書館長のお孫さんだ。秀才でね、頑張らないと首席の座は奪われそうだ」
 フレドリック殿下は優秀で首席だそうです。
「何をおっしゃいますか、座学は僕が一番ですが、総合順位ではフレドリック殿下やジョゼフィーヌ様も追い抜けそうにないですよ。あとクルト君もしれっと上位に入ってますからね」
「彼はオールラウンダーで苦手な科目がないんだよな」

 クルトも頑張っているみたいです。私も鼻が高いです。
 そうしてフレドリック殿下は、貴族やそうでない人も一人ずつクラスメイトを紹介してくれました。




 ***

 誕生日パーティーは終わりましたが、
「リーザは残って」
 とフレドリック殿下のお部屋に来ています。
 ジョゼフィーヌお姉様やクルトや護衛のデュモンド卿や侍従もいます。

「あの、これ、お誕生日おめでとうございます、フレドリック様」
 羽根ペンとがクッキーをお渡しします。
「えっ、私に?ありがとう、何かな、開けてもいい?」
「はい」

「嬉しいよ、ありがとう。こちらのクッキーは……もしかしてリーザの手作り?」
 フレドリック殿下はめざとく聞いて来ます。
「はい」
 頑張ったのですけど、料理長が作るよりずっと不格好です。すぐに分かってしまいました。
「味はそんなに変ではないと思うのですが…お口に合いますかどうか……」
 モゴモゴと言い訳する私ですが、「食べていい?」と言うやいやなフレドリック殿下はクッキーを一枚食べてしまいました。

「美味しいよ」
「あ、ありがとうございます」

「デュモンド卿、お毒味の前に殿下がお召し上がりですが、どうぞ」
 とお姉様はデュモンド卿にクッキーを渡してます。
「同じものですわ」
 クルトも侍従に渡してます。
「はい、お確かめを」
「では失礼して。頂きます」
 とデュモンド卿はモシャモシャと一口でクッキーを食べました。
「ああ、美味いですよ。エリザベート様もジョゼフィーヌ様も可愛らしい上に料理もお得意なのですね」
「それほどでもございませんわ、おほほ」
 お姉様はおしとやかスマイルで応対してます。


「……もしかしてこのクッキーは三人で作ったの?」
 フレドリック殿下は私に聞きました。
「はい。三人で作りましたよ」
「私もリーザと一緒に作りたかった……」
 フレドリック殿下はガッカリしてます。
「それではプレゼントになりません」
「それもそうだね。リーザ、私からも渡したいものがあるんだ」
 侍従に視線で合図すると侍従は素早く動いて何かを持ってきます。

「フレドリック様のお誕生日なのに、私に?」
 侍従はフレドリック殿下にペンダントケースを差し出します。
「これなんだ」
 フレドリック殿下はペンダントを手に取ると、私の首にそっとかけてくれました。
「ロケットになっていて、中に私の肖像画が入っている。私のにはリーザの肖像画が入っている」
 とフレドリック殿下はお揃いのペンダントを見せてくれました。

「公爵に許可を貰って肖像画を描かせたんだ。私も学園に入り、リーザと過ごす時間が減ってしまうから、リーザはこれを私だと思ってくれると嬉しい。私もこれを見てリーザのことをいつも想っているから」
「あ、ありがとうございます。すごくすごく嬉しいです!」
「私も嬉しいよ。手作りのお菓子、どうもありがとう」
「えへへ」

 それからはとりとめのない話をしました。
「学園のクラスメイトと仲良しみたいですね」
「ああ、リーザは驚いただろうけど、学園は自由な雰囲気でああやって身分を超えて話すんだ。もちろん公式の場だと彼らもちゃんとしているよ。あと学長の前でもね」
 フレドリック殿下はクスッと笑います。
「そうなんですか」
「彼らは私の将来の側近候補だ。早く側近を指名するようにせっつかれているが、数年掛けてじっくり決めようと思うんだ。私とこの国の未来に関わることだ。生涯の友だったり、私が間違いを犯したら諫めてくれたり、私では思いつきもしない知見を持つ、そんな者達を側近としたい」
 殿下の瞳は遠い未来を見据えています。とっても格好いいです。





「…………」
 帰り馬車の中でジョゼフィーヌお姉様のご様子がおかしいことに気付きました。
 お姉様は何か考え込んでいるようです。
「お姉様、何かありまして?」
 聞くと、「あら何でもないわよ」
 というお答えでしたが、絶対絶対いつもと違います。

「……エリリンはぽよんぽよんなのに時々鋭いのよね」
「無理に私にお話ししなくてもいいですが、何かあるならお父様にご相談なさって」
「いえ、そういう話じゃないの。殿下があいつらを側近に選ばなかったのがちょっと意外でね」
「あいつら?」
 お姉様はフーッと大きくため息を吐きました。
「余計な先入観を与えるのは良くないから言わなかったけど、あのぶりっ子イモ女に誑かされたのはフレドリック殿下だけじゃなかったの」
「えっ……」

「騎士団長の息子、魔法師団の息子、宰相の息子よ。ぶりっ子は高位貴族の令息皆に愛されていて、あいつらはワタクシが死刑になるように仕向けた連中なの。あいつらはぶりっ子イモ女とフレドリック殿下と一緒に神殿に行って聖句を修復したり魔王を倒した旅の仲間なのよ。前世ではフレドリック殿下の親友で側近でぶりっ子を巡って恋のライバルだったの」
「そうなんですか……」
「ワタクシがぶりっ子を苛めたのは事実だし、死刑を命じたのは陛下よ。あいつらのせいだけじゃないわ。それに、エリリン、あいつらはまだ何もしてないわ。だから、いずれ王妃になるあなたがそれだけで彼らに悪感情を持つのは絶対に駄目よ」
 お姉様は偉いです。そうですね、きちんと公私は切り分けないといけません。
「は、はい」
「そうは思うけど、ワタクシ、やっぱりあいつらのことは苦手なのよ。あんまり話したくないの」
 お姉様は小さく肩をすくめます。

 ジョゼフィーヌお姉様がクルト達といた理由が分かりました。
 高位貴族の子女と市民や下級貴族の子女達は最初、別々にお話ししてました。
 フレドリック殿下が皆にお声を掛けたのを切っ掛けに、そんな垣根もなくなりましたが、お姉様はあのお三方を避けていたのでしょう。


「ふー」
 一日が終わって今、私、ベッドの中です。
 何だか濃ゆい一日でした。
 お姉様の体験した前世とは少しずつ違ってきてます。この先どうなるのでしょうか。

 でも眠くなってきました。
 お休みなさい。

 ……お姉様が馬車の中でとっても気になることを言っていた気がするんですが、何でしたっけ?
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