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二人
第50話 辿り着く
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「旭陽」
「……は。存外似合ってるじゃねえか。調整した連中に感謝しなくちゃなあ?」
「はは。それは後でな。……ほら、おいで」
「っ――なッまいきィ」
漆黒の衣装を纏った俺に、色も型も同じ衣を纏った旭陽が眉を上げた。
不満げな表情はすぐに崩れて、可笑しそうな笑みに変わる。
旭陽へ向けて差し出した手に、褐色の手が乗せられた。
国に侵入した『勇者一行』を始末して、過剰に敏感になっている体を散々俺の色で塗り替えた後。
気絶した旭陽を抱えて城へ戻った俺に、驚いて一通り騒いだ魔族たちは旭陽の無事を泣いて喜んでくれた。
いや、どう見ても無事とは呼べない弱り方だったけどな。
でも旭陽が生きてて、俺が望んだ相手をちゃんと自分で見つけ出してこれたってことに、我が事のように喜んでくれた。
当たり前のように全員が祝ってくれるっていうのが、魔族の凄いところだと思う。
その後、スライム狂いになっている人間たちを尋問して人の国を再調査した。
尋問といっても、ちょっとスライムを遠ざけただけだ。
発狂したように泣き喚いて愚図る男たちに尋ねると、やっぱり訊いていないことまで色々と喋ってくれた。
旭陽は、やっぱり人間たちがこの世界に召喚したらしい。
俺が魔族に召喚されて戻ってきたのと同様に。
俺が魔王として呼び戻されたように、旭陽は当初、魔王を殺す勇者として呼び出された。
……聞いた時には耳を疑ってしまった。
こいつの何処に勇者成分があると思ったんだ……?
俺が以前考えていた通り、呼び出した側の殆どの人間が旭陽に入れ込んで骨抜きになってしまった。
だが主導者――贄を献上する立場である『元王筋』の男だけは、目的を忘れていなかった。
恐ろしいまでに他者を惹き付ける旭陽に空恐ろしいものを感じながら、これなら魔王や魔族の警戒も解かせるのではないかと期待して。
閨に呼ばれる可能性も高い贄の立場で勇者を潜り込ませた――つもりだった、らしい。
確かに、俺も魔族もそんな警戒は一切行っていなかったな。
俺だって、攻撃を受けたところで旭陽のプライドによるものだとしか思わなかっただろうし。
人間たちにとって計算違いだったのは、旭陽に俺を殺すつもりがなかったことだ。
他人に押し付けられた役目を顧みる男じゃないし、そもそも勇者って柄じゃない。絶対何かの間違いだ。
俺と一番縁が深い相手だから、何か召喚魔法に狂いが出たってところじゃないか?
俺にとっては思わぬ場所から降ってきた奇跡だったが。
驚いたことに、主導者の男も自分の息子を地球に送り込んでいたそうだ。
こっちに呼び戻されるまで、次代の魔王は自分の正体を知らずにただの人間として生きている。
だから本当は、一足先に記憶が戻った勇者が地球で魔王を殺して、それで終わるはずの話だったという。
向こうでは、こっちのように死が軽くない。
相手が何だろうと、生命を奪った者は殺人者として罪に問われる。
そう教えたが、人間たちはそれも理解した上だったらしい。
一人の人生が潰れることで、多くの人間が魔族の支配を逃れるチャンスを得る。そちらのほうが余程重要だ、と。
……人間って、本当に身勝手な生き物だな。
しみじみと再確認することになった。
旭陽が赤子の時に送り出した我が子かどうか、主導者には判別できなかったという。
多分違うと思う。
そもそも地球で無事に成長できたのかどうかも分からないらしいし、旭陽にはあっちにれっきとした両親が居た。
我が子かどうかもよく分からない、勇者らしい正義感も見えない。
ただ召喚魔法が呼び出したという理由で信じて送り出した――いや、差し出した相手は、いつまで経っても魔王に牙を剥いたという話が流れてこない。
そこで再召喚を行い、呼び出されたのが――旭陽よりはよほど主導者の思い描いていた勇者像・我が子像に近かった、俺が始末したあの男であったというわけだ。
話を詳細に聞き出した俺は、まず人間の国から徹底的に召喚魔法についての情報を消し去った。
同じ行為を繰り返されては困る。
かといって、人間の国そのものを滅ぼすのは無関係の者たちが憐れだ。
魔族の支配を何故厭うのかも調査しているが、これは昔高貴な立場であった者たちが中心のようだ。
贄という人質を出し続けていたことで、魔族に対する恐怖と嫌悪は根強く息衝いていた。
でも魔王が俺になってから、贄の待遇が一変したことが細々と人の国にも噂として流れていた。
最初は信じなかった人々も、近頃は大分意識が変化していた。
魔王討伐だけを考えて生きていた一部の人間だけが、軟化していく国の空気に危機感を募らせていたそうだ。
人間を滅ぼす直前に最後の優しさを見せる、なんて面倒なことは誰もやらないのにな。
魔王に対する悪印象が暴走して、激しい疑心暗鬼に陥っていたってところか。
異世界事情に巻き込まれた男が気の毒と言えなくもないが、魔族ですらない旭陽に手を出した時点で自業自得だ。
困ったのは、勇者一行で生き残った二人の男の処遇である。
魔王を狙ってきたのは確かだが、命を狙ったわけではない。
一応旭陽を保護しようと思っていたようだし、仲間の暴走を制止しようともしていた。
処刑するのは気が進まないが、無罪放免というわけにもいかない。
結局、迷った挙句にサンドロに贄として与えた。
前に折角のお見合いを潰してしまったからな……
溜まってねえのと軽く旭陽に尋ねられた時、赤くなって口篭っていたのも大きい。
溜まるよな、それは。俺がしょっちゅう旭陽を悶えさせてる場面に出くわしてるし。
人間と魔族だと、耐久や性欲に差があるが……まあ二人居るんだ。
勇者一行として同行していたくらいだから脆くはないだろうから、早々壊れはしないはず。
魔族一人の性欲処理くらいは果たせるだろう。
一応、サンドロには不要になったらいつでも言うようにとも伝えた。
「……は。存外似合ってるじゃねえか。調整した連中に感謝しなくちゃなあ?」
「はは。それは後でな。……ほら、おいで」
「っ――なッまいきィ」
漆黒の衣装を纏った俺に、色も型も同じ衣を纏った旭陽が眉を上げた。
不満げな表情はすぐに崩れて、可笑しそうな笑みに変わる。
旭陽へ向けて差し出した手に、褐色の手が乗せられた。
国に侵入した『勇者一行』を始末して、過剰に敏感になっている体を散々俺の色で塗り替えた後。
気絶した旭陽を抱えて城へ戻った俺に、驚いて一通り騒いだ魔族たちは旭陽の無事を泣いて喜んでくれた。
いや、どう見ても無事とは呼べない弱り方だったけどな。
でも旭陽が生きてて、俺が望んだ相手をちゃんと自分で見つけ出してこれたってことに、我が事のように喜んでくれた。
当たり前のように全員が祝ってくれるっていうのが、魔族の凄いところだと思う。
その後、スライム狂いになっている人間たちを尋問して人の国を再調査した。
尋問といっても、ちょっとスライムを遠ざけただけだ。
発狂したように泣き喚いて愚図る男たちに尋ねると、やっぱり訊いていないことまで色々と喋ってくれた。
旭陽は、やっぱり人間たちがこの世界に召喚したらしい。
俺が魔族に召喚されて戻ってきたのと同様に。
俺が魔王として呼び戻されたように、旭陽は当初、魔王を殺す勇者として呼び出された。
……聞いた時には耳を疑ってしまった。
こいつの何処に勇者成分があると思ったんだ……?
俺が以前考えていた通り、呼び出した側の殆どの人間が旭陽に入れ込んで骨抜きになってしまった。
だが主導者――贄を献上する立場である『元王筋』の男だけは、目的を忘れていなかった。
恐ろしいまでに他者を惹き付ける旭陽に空恐ろしいものを感じながら、これなら魔王や魔族の警戒も解かせるのではないかと期待して。
閨に呼ばれる可能性も高い贄の立場で勇者を潜り込ませた――つもりだった、らしい。
確かに、俺も魔族もそんな警戒は一切行っていなかったな。
俺だって、攻撃を受けたところで旭陽のプライドによるものだとしか思わなかっただろうし。
人間たちにとって計算違いだったのは、旭陽に俺を殺すつもりがなかったことだ。
他人に押し付けられた役目を顧みる男じゃないし、そもそも勇者って柄じゃない。絶対何かの間違いだ。
俺と一番縁が深い相手だから、何か召喚魔法に狂いが出たってところじゃないか?
俺にとっては思わぬ場所から降ってきた奇跡だったが。
驚いたことに、主導者の男も自分の息子を地球に送り込んでいたそうだ。
こっちに呼び戻されるまで、次代の魔王は自分の正体を知らずにただの人間として生きている。
だから本当は、一足先に記憶が戻った勇者が地球で魔王を殺して、それで終わるはずの話だったという。
向こうでは、こっちのように死が軽くない。
相手が何だろうと、生命を奪った者は殺人者として罪に問われる。
そう教えたが、人間たちはそれも理解した上だったらしい。
一人の人生が潰れることで、多くの人間が魔族の支配を逃れるチャンスを得る。そちらのほうが余程重要だ、と。
……人間って、本当に身勝手な生き物だな。
しみじみと再確認することになった。
旭陽が赤子の時に送り出した我が子かどうか、主導者には判別できなかったという。
多分違うと思う。
そもそも地球で無事に成長できたのかどうかも分からないらしいし、旭陽にはあっちにれっきとした両親が居た。
我が子かどうかもよく分からない、勇者らしい正義感も見えない。
ただ召喚魔法が呼び出したという理由で信じて送り出した――いや、差し出した相手は、いつまで経っても魔王に牙を剥いたという話が流れてこない。
そこで再召喚を行い、呼び出されたのが――旭陽よりはよほど主導者の思い描いていた勇者像・我が子像に近かった、俺が始末したあの男であったというわけだ。
話を詳細に聞き出した俺は、まず人間の国から徹底的に召喚魔法についての情報を消し去った。
同じ行為を繰り返されては困る。
かといって、人間の国そのものを滅ぼすのは無関係の者たちが憐れだ。
魔族の支配を何故厭うのかも調査しているが、これは昔高貴な立場であった者たちが中心のようだ。
贄という人質を出し続けていたことで、魔族に対する恐怖と嫌悪は根強く息衝いていた。
でも魔王が俺になってから、贄の待遇が一変したことが細々と人の国にも噂として流れていた。
最初は信じなかった人々も、近頃は大分意識が変化していた。
魔王討伐だけを考えて生きていた一部の人間だけが、軟化していく国の空気に危機感を募らせていたそうだ。
人間を滅ぼす直前に最後の優しさを見せる、なんて面倒なことは誰もやらないのにな。
魔王に対する悪印象が暴走して、激しい疑心暗鬼に陥っていたってところか。
異世界事情に巻き込まれた男が気の毒と言えなくもないが、魔族ですらない旭陽に手を出した時点で自業自得だ。
困ったのは、勇者一行で生き残った二人の男の処遇である。
魔王を狙ってきたのは確かだが、命を狙ったわけではない。
一応旭陽を保護しようと思っていたようだし、仲間の暴走を制止しようともしていた。
処刑するのは気が進まないが、無罪放免というわけにもいかない。
結局、迷った挙句にサンドロに贄として与えた。
前に折角のお見合いを潰してしまったからな……
溜まってねえのと軽く旭陽に尋ねられた時、赤くなって口篭っていたのも大きい。
溜まるよな、それは。俺がしょっちゅう旭陽を悶えさせてる場面に出くわしてるし。
人間と魔族だと、耐久や性欲に差があるが……まあ二人居るんだ。
勇者一行として同行していたくらいだから脆くはないだろうから、早々壊れはしないはず。
魔族一人の性欲処理くらいは果たせるだろう。
一応、サンドロには不要になったらいつでも言うようにとも伝えた。
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