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第二章 少年期編
え?ダンジョンに行けんの?
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ザシュ!
「ギャー!」
綺麗な切断面を残して、醜悪な小鬼が真っ二つにされた。
それを両断した原因ー風魔法の刃ーは、そのまま勢いを落とさず森の奥へと消えていった。
「お見事です」
その様子を見ていた老齢の冒険者は短く魔法を放った主の手際を賞賛した。
「いつも通りだけどね」
それを誇るでもなく、むしろ少しつまらなそうな様子で横たわるモンスターの遺骸を見つめながらこぼす少年。
「あ~~~」
気の抜けたような声を上げながら彼は空を仰ぎ見た。
「さすがにちょっと飽きたかな」
その場の平穏を示すように、チュンチュンと安心しているような小鳥の鳴き声が辺りに響いていた。
◇
「ダンジョンにいきたい」
ゴブリンの討伐証明部位である耳を、慣れた手つきでナイフで切り取りながら、ルカはポソリと呟いた。
「ふむ、ダンジョンでございますか?」
「うん」
ルカの呟きを拾ったルドルフが、ダンジョンのある方向に顔を向けた。
「僕もね、強くなってきたと思うんだようね?そりゃ、ルドルフみたいにはまだ戦えないけどさ、それでもそこら辺の冒険者にも引けを取らないとは思うんだけど…」
そうなのである。
ルカが言うように彼の戦闘力はすでに一般的にベテランと呼ばれる冒険者と比べても劣っておらず、唯一足りていないとすれば経験ぐらいのものであった。
それも元は超一流と言われたルドルフが共にいれば全く問題ないと言えた。
「良いですよ」
「そりゃ簡単には許可できないかもだけどさ、一旦父上にも伝えて判断してもらえれば…」
「良いですよ。行きましょう、ダンジョン」
「え?」
「ファリド様からの許可はすでにいただいております」
「え?」
ルドルフの言葉がすぐには理解できず、何度も聞き返してしまうルカ。
瞬きを10回くらいした時だろうか、ようやく意味がわかってきたように顔に喜びの色が満ちてくる。
「なんで?」
「いえ、もうそろそろルカ様から話が上がるかと思い、先に確認をしておったのです」
「マジで!?出来る男だねぇ~!」
「きょ、恐縮です」
テンションが上がったルカは、思わず大きな声でルドルフを賞賛した。
ルドルフもその言葉に照れたように口髭を扱いた。
「え?じゃあ、今から行けるの?」
「はい、その通りです。行かれますか?」
「行く行く!!!」
子供らしい無邪気な笑顔を浮かべたルカは、喜びを表現するようにピョンピョンと飛び跳ねた。
◇
「では、参ります」
「うん」
さきほどは新領域に行ける嬉しさに思わず浮かれてしまったルカだったが、いざ初めての地を踏む段になると、今までルドルフに仕込まれた冒険者としての心得が思い出され、冷静になっていた。
「よかったです」
「うん?」
「あのままダンジョンに向かうことになるのであれば、いっそ引き返すつもりでした」
「げ…」
ルカの先ほどまでの浮かれようのことを言っているのであろう、あのまま浮かれたままであれば帰っていた、そう言ったルドルフの言葉にルカはひやりとした。
「あのままではすぐに何かしらのミスや見落としで窮地に陥っていた可能性があります。そうならないためにも、一から教え直す必要があるかと思いましたが、私の一年間の努力が無駄ではなかったようで何よりです」
(あぶねぇぇぇ~~~)
冷静にならなければ、ダンジョンどころかまた一から学び直しターンに入っていた。
そうルドルフに釘を刺されたルカは、キッと目に力を入れて態とらしく大きめの声で彼に答えた。
「だ、大丈夫に決まってるじゃないか。あれだけ教えてもらったのに、今さら新しいところに行けるからって浮かれたままでいるはずないよ。そんな冒険者はすぐに死んじゃうからね!」
「はい、そのとおりです」
あの、初めて会った時に見せた鷹のような鋭い目付きでルドルフがルカを見つめる。
虚勢や誤魔化しを無視するかのような温度の感じられない目線に冷や汗が止まらなくなるルカだったが、ここで焦ってはそれこそツッコミの余地を与えてしまう。
ルカはぎりりと歯を食いしばると、余裕の微笑を浮かべてルドルフを見返した。
「大丈夫なようですね。それでは今度こそ向かいましょう」
「うん」
再度『あぶねぇ~~~』と心の中でルカは叫ぶと、自分史上未踏の地に向けて足を踏み出した。
「ギャー!」
綺麗な切断面を残して、醜悪な小鬼が真っ二つにされた。
それを両断した原因ー風魔法の刃ーは、そのまま勢いを落とさず森の奥へと消えていった。
「お見事です」
その様子を見ていた老齢の冒険者は短く魔法を放った主の手際を賞賛した。
「いつも通りだけどね」
それを誇るでもなく、むしろ少しつまらなそうな様子で横たわるモンスターの遺骸を見つめながらこぼす少年。
「あ~~~」
気の抜けたような声を上げながら彼は空を仰ぎ見た。
「さすがにちょっと飽きたかな」
その場の平穏を示すように、チュンチュンと安心しているような小鳥の鳴き声が辺りに響いていた。
◇
「ダンジョンにいきたい」
ゴブリンの討伐証明部位である耳を、慣れた手つきでナイフで切り取りながら、ルカはポソリと呟いた。
「ふむ、ダンジョンでございますか?」
「うん」
ルカの呟きを拾ったルドルフが、ダンジョンのある方向に顔を向けた。
「僕もね、強くなってきたと思うんだようね?そりゃ、ルドルフみたいにはまだ戦えないけどさ、それでもそこら辺の冒険者にも引けを取らないとは思うんだけど…」
そうなのである。
ルカが言うように彼の戦闘力はすでに一般的にベテランと呼ばれる冒険者と比べても劣っておらず、唯一足りていないとすれば経験ぐらいのものであった。
それも元は超一流と言われたルドルフが共にいれば全く問題ないと言えた。
「良いですよ」
「そりゃ簡単には許可できないかもだけどさ、一旦父上にも伝えて判断してもらえれば…」
「良いですよ。行きましょう、ダンジョン」
「え?」
「ファリド様からの許可はすでにいただいております」
「え?」
ルドルフの言葉がすぐには理解できず、何度も聞き返してしまうルカ。
瞬きを10回くらいした時だろうか、ようやく意味がわかってきたように顔に喜びの色が満ちてくる。
「なんで?」
「いえ、もうそろそろルカ様から話が上がるかと思い、先に確認をしておったのです」
「マジで!?出来る男だねぇ~!」
「きょ、恐縮です」
テンションが上がったルカは、思わず大きな声でルドルフを賞賛した。
ルドルフもその言葉に照れたように口髭を扱いた。
「え?じゃあ、今から行けるの?」
「はい、その通りです。行かれますか?」
「行く行く!!!」
子供らしい無邪気な笑顔を浮かべたルカは、喜びを表現するようにピョンピョンと飛び跳ねた。
◇
「では、参ります」
「うん」
さきほどは新領域に行ける嬉しさに思わず浮かれてしまったルカだったが、いざ初めての地を踏む段になると、今までルドルフに仕込まれた冒険者としての心得が思い出され、冷静になっていた。
「よかったです」
「うん?」
「あのままダンジョンに向かうことになるのであれば、いっそ引き返すつもりでした」
「げ…」
ルカの先ほどまでの浮かれようのことを言っているのであろう、あのまま浮かれたままであれば帰っていた、そう言ったルドルフの言葉にルカはひやりとした。
「あのままではすぐに何かしらのミスや見落としで窮地に陥っていた可能性があります。そうならないためにも、一から教え直す必要があるかと思いましたが、私の一年間の努力が無駄ではなかったようで何よりです」
(あぶねぇぇぇ~~~)
冷静にならなければ、ダンジョンどころかまた一から学び直しターンに入っていた。
そうルドルフに釘を刺されたルカは、キッと目に力を入れて態とらしく大きめの声で彼に答えた。
「だ、大丈夫に決まってるじゃないか。あれだけ教えてもらったのに、今さら新しいところに行けるからって浮かれたままでいるはずないよ。そんな冒険者はすぐに死んじゃうからね!」
「はい、そのとおりです」
あの、初めて会った時に見せた鷹のような鋭い目付きでルドルフがルカを見つめる。
虚勢や誤魔化しを無視するかのような温度の感じられない目線に冷や汗が止まらなくなるルカだったが、ここで焦ってはそれこそツッコミの余地を与えてしまう。
ルカはぎりりと歯を食いしばると、余裕の微笑を浮かべてルドルフを見返した。
「大丈夫なようですね。それでは今度こそ向かいましょう」
「うん」
再度『あぶねぇ~~~』と心の中でルカは叫ぶと、自分史上未踏の地に向けて足を踏み出した。
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