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第三章 学園編
旅立ち
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よく晴れた朝。
ルドルフとルカは馬車の前に並び、屋敷の皆と挨拶を交わしていた。
あの日、ファリドから学園のことを聞いて早くも半年。
入学にあたっての準備や、探索関連でやり残しはないかと色々と慌ただしく動いていると、知らぬ間に出発の日になっていた。
準備は万端。
唯一、ルカの心残りがあるとすれば、神竜山脈にアタック出来なかったことだ。
ここはダンジョンよりもより高位のモンスターがいるところとして知られている。
少しの間になるだろうが、レベルアップの為には攻めておきたい。
そんな考えだった。
しかし、その提案を皆にした時、ルドルフからの回答はNOだった。
なぜ、と詳しく問うまでもなく、彼の口から出たのは簡潔な言葉。
「力量が足りていません」
少なくとも全てのステータスが800以上。
そのレベルを、パーティメンバーの全員が満たしていないと、麓の入り口部分で全滅の可能性もある。
そんな高難度のエリアなのだ。
さすがにルドルフも、はい行きましょう、と簡単に許可が出せるはずもなかった。
『帰ってくるまでにレベルアップして、再挑戦かな』
しかしルカも諦めてはいなかった。
レヴィアを倒すための、さらなるレベルアップ。
それが理由でもあるが、あとは個人的な興味。
神竜とはいかなる生物か。
実際には言い伝えだけで、神竜という生物はいないのかもしれないが、それに連なるような個体はいるようだ。
それらはどんな外見なのか。
それらはどんな生態なのか。
そして、それらと戦闘を交わしたい。
それがルカの願望だった。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「ルカ、あちらに着いたらすぐに手紙を頂戴ね?」
ファリド、エレーナとルカに声をかける。
特にエレーナについては一人息子の旅立ちに、不安を隠せない様だった。
その証拠に綺麗な金色のまゆ毛が、萎れるように下がっている。
「ルカ様、お元気で」
「ルカっち、がんばるっすよ!僕も今度会った時にはびっくりするくらい成長しとくっすから!」
「あれは任せて」
今度はリーナから始まり、ルゥ、イヴから声をかけられる。
「父上、母上、それに皆もありがとう」
屋敷の前に勢揃いした皆の顔を、ひとりひとり見ていくルカ。
数年間と言えど、地球でのそれと全く違う密度の濃い時間を共に過ごした人と場所。
それが今更になって実感され、胸の奥から熱いものが込み上げてきた。
「…っ!も、もう行くね!!ほら、ルドルフ!」
潤んできた瞳を隠すように、バッ!と顔を背けると、ルドルフに出発を促し、馬車に向かうルカ。
その様子を横目に見ながら、ルドルフは皆に深く一礼すると、御者台に向かう。
ヒヒン!
馬車を引く馬も、ルカ達の出発の気配を感じたのか、準備万端と言わんばかりの元気な声を上げた。
◇
「それでは」
御者台に登り、振り返りざまの短い挨拶をすると、ルドルフは馬を操り、ゆっくりと馬車を走らせ始めた。
ガタゴト、と土の上を転がる車輪の音が辺りに響き出す。
それに合わせて、再度皆の口から次々にルカに向けた激励の言葉が飛ぶ。
しかし、中にいるルカからの反応はない。
皆との別れが悲しくて、ひっそりと車内で泣いているのか。
それとも、王都での生活への妄想を膨らませているのか。
そんなことは外に居る皆からは分からなかったが、徐々にスピードを上げていく馬車は、その皆の声を置き去りに、皆との距離を段々と広げていく。
そして徐々にスピードが乗り、馬車がガタゴトという音からガタガタガタガタと小気味よい音を上げ始めた頃、その音にも負けないほどの一際大きな声が辺りに響いた。
「ルカっち!頑張るっすよ~!!!」
ルゥだ。
いつも通りの、うるさいくらいな元気なそれ。
彼女のその声にようやく馬車の中で動きがあり、ガタガタと音を立てていた。
そして、ガラッと馬車の側面の窓が勢いよく開く。
「ありがとう!!みんな、行ってくるね!」
鼻声ながらも、ルカに負けないくらいの大きな声。
それが風に乗って皆に届き、やまびこのように響いていく。
ルカの視線の先には、じっと馬車を見つめる両親に、全身を使って手を振るルゥ。
深いお辞儀のまま静止しているリーナと、ちょこちょこと小さく身体の前で手を振るイヴ。
その光景を瞼の裏に焼き付けて、皆が見えなくなるまでルカは手を振り続けたのだった。
ルドルフとルカは馬車の前に並び、屋敷の皆と挨拶を交わしていた。
あの日、ファリドから学園のことを聞いて早くも半年。
入学にあたっての準備や、探索関連でやり残しはないかと色々と慌ただしく動いていると、知らぬ間に出発の日になっていた。
準備は万端。
唯一、ルカの心残りがあるとすれば、神竜山脈にアタック出来なかったことだ。
ここはダンジョンよりもより高位のモンスターがいるところとして知られている。
少しの間になるだろうが、レベルアップの為には攻めておきたい。
そんな考えだった。
しかし、その提案を皆にした時、ルドルフからの回答はNOだった。
なぜ、と詳しく問うまでもなく、彼の口から出たのは簡潔な言葉。
「力量が足りていません」
少なくとも全てのステータスが800以上。
そのレベルを、パーティメンバーの全員が満たしていないと、麓の入り口部分で全滅の可能性もある。
そんな高難度のエリアなのだ。
さすがにルドルフも、はい行きましょう、と簡単に許可が出せるはずもなかった。
『帰ってくるまでにレベルアップして、再挑戦かな』
しかしルカも諦めてはいなかった。
レヴィアを倒すための、さらなるレベルアップ。
それが理由でもあるが、あとは個人的な興味。
神竜とはいかなる生物か。
実際には言い伝えだけで、神竜という生物はいないのかもしれないが、それに連なるような個体はいるようだ。
それらはどんな外見なのか。
それらはどんな生態なのか。
そして、それらと戦闘を交わしたい。
それがルカの願望だった。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「ルカ、あちらに着いたらすぐに手紙を頂戴ね?」
ファリド、エレーナとルカに声をかける。
特にエレーナについては一人息子の旅立ちに、不安を隠せない様だった。
その証拠に綺麗な金色のまゆ毛が、萎れるように下がっている。
「ルカ様、お元気で」
「ルカっち、がんばるっすよ!僕も今度会った時にはびっくりするくらい成長しとくっすから!」
「あれは任せて」
今度はリーナから始まり、ルゥ、イヴから声をかけられる。
「父上、母上、それに皆もありがとう」
屋敷の前に勢揃いした皆の顔を、ひとりひとり見ていくルカ。
数年間と言えど、地球でのそれと全く違う密度の濃い時間を共に過ごした人と場所。
それが今更になって実感され、胸の奥から熱いものが込み上げてきた。
「…っ!も、もう行くね!!ほら、ルドルフ!」
潤んできた瞳を隠すように、バッ!と顔を背けると、ルドルフに出発を促し、馬車に向かうルカ。
その様子を横目に見ながら、ルドルフは皆に深く一礼すると、御者台に向かう。
ヒヒン!
馬車を引く馬も、ルカ達の出発の気配を感じたのか、準備万端と言わんばかりの元気な声を上げた。
◇
「それでは」
御者台に登り、振り返りざまの短い挨拶をすると、ルドルフは馬を操り、ゆっくりと馬車を走らせ始めた。
ガタゴト、と土の上を転がる車輪の音が辺りに響き出す。
それに合わせて、再度皆の口から次々にルカに向けた激励の言葉が飛ぶ。
しかし、中にいるルカからの反応はない。
皆との別れが悲しくて、ひっそりと車内で泣いているのか。
それとも、王都での生活への妄想を膨らませているのか。
そんなことは外に居る皆からは分からなかったが、徐々にスピードを上げていく馬車は、その皆の声を置き去りに、皆との距離を段々と広げていく。
そして徐々にスピードが乗り、馬車がガタゴトという音からガタガタガタガタと小気味よい音を上げ始めた頃、その音にも負けないほどの一際大きな声が辺りに響いた。
「ルカっち!頑張るっすよ~!!!」
ルゥだ。
いつも通りの、うるさいくらいな元気なそれ。
彼女のその声にようやく馬車の中で動きがあり、ガタガタと音を立てていた。
そして、ガラッと馬車の側面の窓が勢いよく開く。
「ありがとう!!みんな、行ってくるね!」
鼻声ながらも、ルカに負けないくらいの大きな声。
それが風に乗って皆に届き、やまびこのように響いていく。
ルカの視線の先には、じっと馬車を見つめる両親に、全身を使って手を振るルゥ。
深いお辞儀のまま静止しているリーナと、ちょこちょこと小さく身体の前で手を振るイヴ。
その光景を瞼の裏に焼き付けて、皆が見えなくなるまでルカは手を振り続けたのだった。
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