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第一章
8話 地獄に仏
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「うっ……………」
「気が付いたか?」
「……え?」
もうダメだ。
そう思って手放した意識。
気がつけば俺は、ウッドロッジのような明るい部屋のソファで横になっていた。
柔らかさ、暖かさ、眩しい光。
焦がれた感覚が、波のように押し寄せる。
それだけで、鼻の奥がツンと痛くなった。
「俺は……」
「ダンジョンに倒れていたんだとよ。うちの使い魔が見つけた。身体に異常はなさそうだったから放っとけって言ったんだが、こいつがな……」
「それは、ありがとう」
ーー歓迎は、されていない?
普通の言葉のはずなのに、棘がある。
それでも助けられたのは事実だ。
そう思って、恩人の顔を見た。
「…………」
「なんだ?」
そこにいたのは絵本から抜け出したような、小柄な老人。
岩山のような体躯、刻まれた皺、傷跡、そして荒くれ者の目に宿る、どこか遠い光。
「ドワーフ?」
「珍しくもねえだろ」
どうやら正解のようだ。
その声はそっけないが、追い出す気はない。
そんな気がした。
「聞いていいか?」
「なんだ」
「さっきの“使い魔”って……」
「こいつだ」
背後から、ころん、と小さな影。
つるりとした顔、大きすぎる足、まん丸の瞳。
ミニチュアのドワーフのようで、でも違う。
「コロポックルだ」
「コロポックル……」
単純な疑問が湧き上がったが、それよりも先に聞かねばならないことがあると思い、ドワーフに再度尋ねた。
「俺はダンジョンに倒れていた。そうだよな?」
「そうだ」
こくり、とドワーフ。
やはり、そこは間違っていないようだ。
「ゴブリンから毒を受けていた筈なんだが、なんで今は何事もないんだ?」
「ん?なぜ、だと?ワシが見つけた時は、さっきも言ったように何事もなさそうだったぞ」
「え………?」
ーーじゃあ、どういうことだ?
毒が自然治癒することなどあるのか。
いや、まずないだろう。
俺があの時感じたのは、あの死の底と落ちていく感覚。
「レベルは、上がってねぇのか?」
「レベル?…………あ、そういえば?」
そういえば意識が落ちそうになる瞬間、あのアナウンスがあったような気もする。
「覚えがあるな?レベルが上がればそれまで受けた状態異常が少し回復する。体力も同じだ。大体二、三割だがな」
ーーなんだその仕様。
「それって当たり前なのか?」
「まぁ、そうだな。ダンジョンに潜るような奴らは皆知っているぞ?」
初耳だった。
なぜそんな重要なことを。
そう思って思わず顔を顰めてしまったが、ここに俺を放り込んだ兵士の顔を思い出すと、もうその時点で納得してしまった。
そもそも、丁寧な申し送りがある訳がない。
そんななかで、偶然とはいえドワーフからこの話が聞けたのは大きい。
ただ、ひとつだけ分からないのは、回復率だった。
ドワーフが言うには、二、三割。
でも、体感的には違う。
“異様に”高かったのだ。
まるで、誰かが……。
「おめえ、どこから来た?」
「え…………?」
首を捻って考え事をしていると、ずぃ、といつの間にかドワーフがこちらに寄っていた。
ふたつの瞳が、まっすぐにこちらを見てくる。
なにか思い当たることでもあるのか、彼は真剣だった。
だが、そう問われたとて、俺が聞きたいくらいだった。
「あそこには、いろんなところから囚人が放り込まれてくる。当然冒険者じゃねえ奴らもだ。商人だろうが、娼婦だろうがな。お前、冒険者じゃないだろ?よく今まで死ななかったな」
冒険者じゃない。
それは、その通りだ。
だが、すんなりとその言葉は落ちてこなかった。
「どうした?」
「いや……………」
顔に出ていたようだ。
なんだかその状態が子どもみたいで、妙に恥ずかしい。
サッと顔を背けた。
ーー本当に子どもか。
呆れるような、自分の冷静な部分。
だが、そんな動きをしていると……。
「うん?動く?」
さっきまでうまく動かなかった身体が、回復しているのに気付いた。
これもレベルアップのおかげなのだろう。
でも、これならば……。
「よっと!」
「お、おいっ!?」
「ルルルルルル!」
腹筋に力を込めて起き上がる。
急に動いた俺に、ドワーフはとっさに焦ったような声を出していたが、コロポックルのほうは、嬉しそうな鳴き声を上げながら、ぴょんぴょんと跳ねていた。
「うん…………大丈夫そうだ」
起き上がった勢いのまま、どかっとソファの上に腰掛ける。
試しに足や手を振ってみても、特に違和感もなさそうだ。
そして改めて起き上がった状態で彼らを見てみると……。
「こんなちっちゃかったのか」
「なっ!?」
思わず口に出た言葉。
それに反応し、ドワーフは凄い形相で睨みつけてきた。
ぞくり。
あの岩男とも通ずるような、威圧感を伴った凄み。
反射的に肩を抱いて、震えを抑えた。
「す……すみません。悪気はなかったんだ。ドワーフを見たのは初めてだったから。というより、礼、だよな。改めて、ありがとう。助かったよ。多分あのままだと死んでいた」
「ふんっ、そう言いたかったなら、最初からそう言え。あいつ以来だ、そんな失礼な事を言う奴は。それに、礼ならワシにじゃない。こいつに言え」
不機嫌さを隠そうともしていなかったが、本気で怒っている訳ではなさそうだった。
それに、誰かのことを言ったドワーフの勢いは急に緩んだ。
懐かしさと優しさ、それに悲しさ、それらを混ぜて貼り付けたような、そんな表情だった。
「ありがとう。本当に助かった」
「ルルルルルルルル!!!」
小さく飛び跳ねながら、ルを連呼する小さな恩人。
意味はわからないが、きっと『どういたしまして』的なことを言っているのだろう。
最初はドワーフの身体に隠れて分かりづらかったが、表情も豊かで感情もわかりやすい。
「いや、でも本当に………」
ドワーフとコロポックル。
この奇妙なコンビの二人を見ながら、俺はしみじみと呟いた。
「地獄に仏だな」
◇
《適合個体、生存値確認》
《推奨行動:進行》
……待機……
……感情値、変動検知。訂正。問題なし。
《更新完了。問題なし》
「気が付いたか?」
「……え?」
もうダメだ。
そう思って手放した意識。
気がつけば俺は、ウッドロッジのような明るい部屋のソファで横になっていた。
柔らかさ、暖かさ、眩しい光。
焦がれた感覚が、波のように押し寄せる。
それだけで、鼻の奥がツンと痛くなった。
「俺は……」
「ダンジョンに倒れていたんだとよ。うちの使い魔が見つけた。身体に異常はなさそうだったから放っとけって言ったんだが、こいつがな……」
「それは、ありがとう」
ーー歓迎は、されていない?
普通の言葉のはずなのに、棘がある。
それでも助けられたのは事実だ。
そう思って、恩人の顔を見た。
「…………」
「なんだ?」
そこにいたのは絵本から抜け出したような、小柄な老人。
岩山のような体躯、刻まれた皺、傷跡、そして荒くれ者の目に宿る、どこか遠い光。
「ドワーフ?」
「珍しくもねえだろ」
どうやら正解のようだ。
その声はそっけないが、追い出す気はない。
そんな気がした。
「聞いていいか?」
「なんだ」
「さっきの“使い魔”って……」
「こいつだ」
背後から、ころん、と小さな影。
つるりとした顔、大きすぎる足、まん丸の瞳。
ミニチュアのドワーフのようで、でも違う。
「コロポックルだ」
「コロポックル……」
単純な疑問が湧き上がったが、それよりも先に聞かねばならないことがあると思い、ドワーフに再度尋ねた。
「俺はダンジョンに倒れていた。そうだよな?」
「そうだ」
こくり、とドワーフ。
やはり、そこは間違っていないようだ。
「ゴブリンから毒を受けていた筈なんだが、なんで今は何事もないんだ?」
「ん?なぜ、だと?ワシが見つけた時は、さっきも言ったように何事もなさそうだったぞ」
「え………?」
ーーじゃあ、どういうことだ?
毒が自然治癒することなどあるのか。
いや、まずないだろう。
俺があの時感じたのは、あの死の底と落ちていく感覚。
「レベルは、上がってねぇのか?」
「レベル?…………あ、そういえば?」
そういえば意識が落ちそうになる瞬間、あのアナウンスがあったような気もする。
「覚えがあるな?レベルが上がればそれまで受けた状態異常が少し回復する。体力も同じだ。大体二、三割だがな」
ーーなんだその仕様。
「それって当たり前なのか?」
「まぁ、そうだな。ダンジョンに潜るような奴らは皆知っているぞ?」
初耳だった。
なぜそんな重要なことを。
そう思って思わず顔を顰めてしまったが、ここに俺を放り込んだ兵士の顔を思い出すと、もうその時点で納得してしまった。
そもそも、丁寧な申し送りがある訳がない。
そんななかで、偶然とはいえドワーフからこの話が聞けたのは大きい。
ただ、ひとつだけ分からないのは、回復率だった。
ドワーフが言うには、二、三割。
でも、体感的には違う。
“異様に”高かったのだ。
まるで、誰かが……。
「おめえ、どこから来た?」
「え…………?」
首を捻って考え事をしていると、ずぃ、といつの間にかドワーフがこちらに寄っていた。
ふたつの瞳が、まっすぐにこちらを見てくる。
なにか思い当たることでもあるのか、彼は真剣だった。
だが、そう問われたとて、俺が聞きたいくらいだった。
「あそこには、いろんなところから囚人が放り込まれてくる。当然冒険者じゃねえ奴らもだ。商人だろうが、娼婦だろうがな。お前、冒険者じゃないだろ?よく今まで死ななかったな」
冒険者じゃない。
それは、その通りだ。
だが、すんなりとその言葉は落ちてこなかった。
「どうした?」
「いや……………」
顔に出ていたようだ。
なんだかその状態が子どもみたいで、妙に恥ずかしい。
サッと顔を背けた。
ーー本当に子どもか。
呆れるような、自分の冷静な部分。
だが、そんな動きをしていると……。
「うん?動く?」
さっきまでうまく動かなかった身体が、回復しているのに気付いた。
これもレベルアップのおかげなのだろう。
でも、これならば……。
「よっと!」
「お、おいっ!?」
「ルルルルルル!」
腹筋に力を込めて起き上がる。
急に動いた俺に、ドワーフはとっさに焦ったような声を出していたが、コロポックルのほうは、嬉しそうな鳴き声を上げながら、ぴょんぴょんと跳ねていた。
「うん…………大丈夫そうだ」
起き上がった勢いのまま、どかっとソファの上に腰掛ける。
試しに足や手を振ってみても、特に違和感もなさそうだ。
そして改めて起き上がった状態で彼らを見てみると……。
「こんなちっちゃかったのか」
「なっ!?」
思わず口に出た言葉。
それに反応し、ドワーフは凄い形相で睨みつけてきた。
ぞくり。
あの岩男とも通ずるような、威圧感を伴った凄み。
反射的に肩を抱いて、震えを抑えた。
「す……すみません。悪気はなかったんだ。ドワーフを見たのは初めてだったから。というより、礼、だよな。改めて、ありがとう。助かったよ。多分あのままだと死んでいた」
「ふんっ、そう言いたかったなら、最初からそう言え。あいつ以来だ、そんな失礼な事を言う奴は。それに、礼ならワシにじゃない。こいつに言え」
不機嫌さを隠そうともしていなかったが、本気で怒っている訳ではなさそうだった。
それに、誰かのことを言ったドワーフの勢いは急に緩んだ。
懐かしさと優しさ、それに悲しさ、それらを混ぜて貼り付けたような、そんな表情だった。
「ありがとう。本当に助かった」
「ルルルルルルルル!!!」
小さく飛び跳ねながら、ルを連呼する小さな恩人。
意味はわからないが、きっと『どういたしまして』的なことを言っているのだろう。
最初はドワーフの身体に隠れて分かりづらかったが、表情も豊かで感情もわかりやすい。
「いや、でも本当に………」
ドワーフとコロポックル。
この奇妙なコンビの二人を見ながら、俺はしみじみと呟いた。
「地獄に仏だな」
◇
《適合個体、生存値確認》
《推奨行動:進行》
……待機……
……感情値、変動検知。訂正。問題なし。
《更新完了。問題なし》
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