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プロローグ
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しおりを挟む─混沌溢れし刻来る、されど乙姫舞い降りて、穢れを払う光とならん。その身は闇色、その名は漆黒の乙姫─
タイトルのない本。その中の一ページを開いて、女性はそっと机の上へと置いた。見開きのその場所には詩に似た文字が並んでいる。それが本当は何を意味していたのか、今となっては分からない。これは幼い頃に兄にせがんで書いてもらった夢物語。ただ可愛らしいだけの冒険譚。
そのページの中央で輝く少女はどことなくその女性を思わせる。長い黒髪で黒い瞳、その目元にホクロのある主人公。再び本の端に手を伸ばす。ゆっくり傾けるとページがパラパラと落ちていく。
何度も変わる場面。困難や喜びとともに紡がれている少女が世界を救う。描かれた登場人物たちの笑顔を最後にパタンと閉じる。
「……」
彼らとは対照的に女性は、その長い睫毛を悲しげに伏せる。
…………私はそんな存在に、救世主にはなれなかった、と。
これから全く逆のことをしようとしていた。それがたとえ、自ら望んだことではなかったとしても。誰かの苦しみを作り出すかもしれないその一歩を、無理やり踏み出していく。
「──」
ふと足を止めて振り返る。せめて、この本だけは持っていこう。そう思い伸ばした指先が裏表紙に触れる。そこには主人公の少女ともうひとり、幼い顔立ちの少年が手と手を取り合い祈るように目を閉じている絵が描かれている。
彼女は愛おしげに見つめて少年をなぞるように指を滑らす。出来ることなら、こんな風に兄のそばにいられたらどれほどよかっただろう。
泣き出しそうな感情が込み上げる。だけどきゅっと口を引き結び顔を上げる。
───これは兄の遺した偉大な計画だ。
もし成功すれば、この世界は大きな力を手に入れることが出来る。その礎に自分がなるのなら、それは願うべきこと。そうやって自分を強く納得させ抱えた本とともに歩き出す。
それに、と彼女は思う。
兄のいなくなった世界に──未練など、もうない。
ステンレス製の壁で囲われた室内の出入り口。近づくと僅かにスライド音を立てて扉が開く。その中へ彼女の姿は消えていった。
しばらくして、遠くから始まりを告げる音声が響き渡る。機械的なそれは、彼女の名と共に破滅をもたらすシステムを作動させた。
──Sプログラム発動コード登録完了。転移、開始します。
これは、ある兄妹の愛の結晶。
託された者がその想いに辿り着くことが出来るのなら……あるいは、きっと。
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