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第二章:グラッド・ディーガスト
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しおりを挟む「それで、姐さんは誰なんすか?」
「なんて呼んだらいいんすか?」
そう聞いて首をかしげたのは、三つ子の二人。青いバンダナと赤いバンダナだから、たしかトマス君とシュネル君。私は聞かれたことに困って、ついグラッドを見上げてしまった。
視線を受けて彼は「そうだな…」と言葉を濁す。
けれどそこで口を挟んだのはランリスさんだった。
「この方の名は、我々には過ぎたもの。聞こうとなさらないでください。世界が揺るがされますよ。あなたたちの好きなパイだのタルトだの、全て消えてもいいんですか?」
「そ、それは嫌っす……」
「パイは絶対ダメっす……」
「そこまで……?」
縮こまる二人の横で聞いていて、思わず呟く。ランリスさんが私をチラリと見て、グラッドに訴えた。
「以前も申し上げた通り、この方は危険な存在です。捕らえた以上、幽閉すべきだと私は再度申し上げます」
「え」
さすがにそれは困る。閉じ込められた時点で『THE END』って出るよね。もしかしてこのルート、バッドエンドだったのだろうか。
そりゃ、現実的に言えば売られるよりマシかもしれないけど。そもそも危険とか幽閉とか、このゲームのヒロインってまさか犯罪者だった……?
動揺する中、グラッドを見上げると、彼はどこか真剣な表情で真っ直ぐランリスを見ていた。
「その忠告を受けたとき、俺が何と言ったか覚えてるか?」
一瞬の沈黙。けど観念したようにランリスが答える。
「………漆黒の乙姫だろうとなんだろうと、この船の乗組員である以上は自由にさせる。でしたね」
「ああ、そうだ。コイツは俺が連れてきた。その時点でもう、この船の乗組員だろう? 役割が必要なら…そうだな、副船長の枠が空いてたはずだ」
言いながら、自身の帽子を取って私の頭に被せる。突然視界が遮られて焦ってしまったけど、再び見上げた先でグラッドが明るい声を出した。
「みんな! 聞いてた通り、コイツは漆黒の乙姫だ。だがその前に、俺たちの仲間になった。名は……」
わずかな時を置いて、彼の口元が弧を描く。
「ルノア。そう呼んでやってくれ」
明らかに今思い付いたであろうその名を、他のみんなが了承と共に呼んでくる。ただ一人、ランリスを除いて。
でも、とりあえず幽閉の危機は去ったらしい。良かったと胸を撫でおろしながら、ふとあることに気が付いた。
このゲーム、全くステータスウインドウが出てこない。名前を手に入れたのに、それらしいナビゲーションもない。思えば今までも選択肢すらなかった。それが変にリアリティを生む。
まるで現実のように馴染み始めているのが、少しだけ怖くなった。
「……」
そんなことを考えながら、ワイワイと騒がしい彼らを見ていると、グラッドが「飯にする」と言う。
ざわざわと解散する中で、ランリスが私を一瞥し、離れていった。
その後ろ姿を見ながら、あとで改めて声をかけてみようと思う。この中で一番漆黒の乙姫に詳しいみたいだから。
少しして動かない私に疑問を持ったのか、グラッドが声をかけてくる。
「どうした? 何かあったか?」
「あ、ううん。なんでもない。名前、ありがとう」
ルノア。私のここでの名前。名乗れないモヤモヤが少しだけ解消されて嬉しくなる。グラッドはポンッと私の頭に手を置いた。
「いい名だろ? ずっと大事にしまっておいたんだが、お前にやるよ」
「しまっておいたもの?」
と、すると以前から考えてたってことかな。不思議に思って聞いたけど、一歩進み出た彼は「ほら、早く座れ」と急かしてくる。
みんなももう座ってるから、仕方なしに勧められるがまま私も食事の席へとついた。
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