ゲーマーだけど乙女ゲームは未プレイ! ~攻略対象の甘さについていけない?!~

翠月 瑠々奈

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第二章:グラッド・ディーガスト

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「美味しそう……」

 食堂に入って開口一番、心からの声がもれてしまった。

 食事なんて喉を通るわけがない、と思ってたのに見てたらお腹が鳴った。我ながら現金なものだと思う。

 グラッドが「だろ?」と、得意気に言う。

 ざっと見ると、食堂の中の調度品は白を基調とされていた。白い棚や白いカバーの照明。

 けど、中央に備えつけられた大きなテーブルだけは、切り出した木をそのまま使ったような年輪が見えるデザインをしている。それがなんだか、森の中のレストランといった感じで可愛らしく感じた。

 そして、その上に彩られた料理の数々。

 真ん中に花束を思わせるサラダがあり、その周りに黄金色のパンが入ったバスケットと、それぞれの席にはすでにビーフシチューが準備されている。

 鼻腔をくすぐる芳ばしい香りに、ほっこりしていたら、隣にいたグラッドがフッと笑った。

「見た目だけじゃねえぞ。味も絶品なんだ。うちの料理人はみんな、サイラス出身だからな」
「サイラス?」

 思わず繰り返すと、私を見てから「あー…」と迷ったように視線を漂わせてから続けた。

「料理の得意な国ってことだよ。あとで世界地図でも見せてやるから、ほら席座れ」

 促されたのは手前の席で、わざわざ椅子まで引いてくれる。空賊だって言ってたくせに、こんな丁寧さを見せられると、拍子抜けしてしまうじゃないか。まあ、だからといって、粗暴になって欲しいわけじゃないけど。

 戸惑いながらも、お礼を口にする。

「あの、ありがとう」
「どういたしまして。んじゃあ、他のヤツ等呼んでくるか」

 そんなやり取りの直後だった。背後にある食堂の扉がバンッ!と、思い切り開く。

「お頭! 宝を見つけてきたって本当っすか?」

 無邪気な声で入ってきたのは、子犬のようなくりくりっとした栗色の瞳の男の子。瞳と同じ栗色の髪が無造作にはねていて可愛らしい。でも、グラッドは不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「誰から聞いたんだよ。ユースか? それともランリスか? たくっ、黙ってろって言ったのに」
「私じゃありません……」

 栗毛の男の子の後ろから、ローブにすっぽり包まれた人が現れる。フードまで被ってるから、表情は窺いしれない。けど、声が高いから女の子だろう。

 私はつい表情が緩んでしまう。

 空賊ってやっぱり怖いイメージあるし、もしかしたら身売りされるって可能性も捨てきれないし。でもこうして、他の女の子がいるってことは、乙女ゲームの確率の方が高いかもとホッとする。

 そうじゃなくても仲良くなって、何か話ができたらいいな、なんて思ってるとその子が近づいてきた。すると、グラッドが名前を呼ぶ。

「ランリス」

 声に応えるように、静かに頭を下げる。

「ランリスと申します。以後、お見知り置きを」
「コイツがうちの船占術師なんだ」

 宜しくお願いします、と返しながら記憶を辿る。船占術師という言葉は、ラファルのところで聞いた気がした。

 確か、その術師のおかげで私のことを知ったとか。ランリスを見ると、そのローブの奥から射るような視線を受ける。

「…っ!」

 殺気のような気配に、思わず息を呑む。慌てて目を逸らしたけど、睨まれるようなことをした覚えはない。そもそも初対面だもの。

 でも、すごく悲しくなってしまう。せっかく仲良くなれそうな子を見つけたのに。

 困惑しつつ視線を戻すと、ランリスの横にいた栗毛の子が、手を上げて声を上げた。

「ランリスの言う通りっす! 聞いたのはユースの兄貴からっす」
「ランリスは関係ないっす!」
「で、宝はどこっすか!?」
「わっ! なに?!」

 見ているそばから、栗毛の子が分裂していく。何あれ、分身の術?目を瞬かせて驚く私に、グラッドは何でもないことだと言わんばかりに一言告げた。

「コイツらは三つ子なんだ」
「三つ子……?」

 確かに、スライムのような分裂の仕方はしていない。よくよく見てみれば、重なっていた三人が左右から出てきただけ。

 でも正直見分けがつかないほど、そっくりだ。私の心の内を読んだかのようなタイミングで、グラッドが答える。

「あんまり似てるから、俺たちはバンダナの色で判断してる」

 言われた通り、彼らは揃いのバンダナを頭に巻いていて、それぞれ色が違う。それを見ながら、グラッドが名を告げていった。

「赤がシュネル、青がトマス、緑がタルト…」
「ルっす! オイラの名前はタルトルっす!」

 ルの部分を強調して、すかさずタルトルがそう付け足す。バンダナから下がる羽飾りを、揺らしながら。きっと、普段からそう呼ばれてるのだろう。反応が早すぎるから。隣からしれっとした声が聞こえた。

「俺はタルトの方が好きなんだけどな」
「それはお頭の好みなだけっす!」

 頬を膨らまして怒っているのに、グラッドは笑うばかり。そんな彼らの様子につられて、クスリと笑みがこぼれてしまった。なんだか、強張ってた心をほぐしてくれるようだ。思ってたより皆、怖くないのかも。

 目の前で、尚もタルトルは抗議しようとしていた。けど、それを止めたのは、扉からまた新たに現れた背の高い男性だった。すごくガッシリとした体格をしている。

 その彼がタルトルの頭を、ガシガシと撫でる。

「今更だ、諦めろよ。お頭の甘党は誰にも変えられないさ」

 ガハハッと笑われて、タルトルはむぅーっとしていたけど、最後には諦めたように項垂れた。可愛らしい。

「もういいっす……タルトになるっす」
「ハハッ! 良い心掛けだな、タルト。後で記念にフルーツタルトでも作ってもらおうぜ」

 その言葉に、タルトルの顔がパッと明るくなる。くるくる表情が変わって、見てて飽きない。タルトルが声を上げると、後ろから言葉が続く。

「いいっすね! フルーツタルト食べたいっす!」
「それならオイラも食べたいっす!」
「オイラはチョコのが好きっすけど」
「現金なヤツ等だなー」

 そう、苦笑した背の高い男性は、間を置いて私の方に向き直した。 やっぱりこういうのは慣れない。身を正して、男性と向かい合う。

 反して彼は、柔らかく笑みを作った。

「オレはシバークル・ガイアだ。みんなからはシバと呼ばれている。よろしくな」
「あ、よろしくお願いします」

 受けた挨拶に、私も頭を下げる。シバは暗めの銀色をした短髪で、瞳も同じシルバーがかった黒色。片耳には金色のピアスをしていたけど、見かけより落ち着いた雰囲気をしていた。

 隣で、グラッドが再び言う。

「あと二人、航空士と参謀みたいなのがいるが、まあアイツ等は後で紹介する。とりあえず今船にいるのはこれぐらいだ。ああ、それと」

 一旦切って、彼は私の方へ真っ直ぐ視線を向けてくる。

「さっきも言ったが、俺がグラッド・ディーガスト。この船の船長だ。改めて宜しくな」

 手を差し出されて、軽く握手を交わす。、堂々とした姿が眩しいくらい格好良い。ラファルとはまた違う、逞しさを秘めた魅力。

「よろしくお願いしますね」

 名乗れないのがもどかしいけど、私も精一杯の笑顔を返した。
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