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第二章:グラッド・ディーガスト
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「で、歳は?」
「成人してますね、一応」
「出身が…」
「東の方……か、北か南か西か」
適当に答えたら「全方位じゃねえか」と呆れられる。でも仕方がない。本当に分からないのだから。
突然見知らぬ美術館で目が覚めたと思ったら、急に誘拐されて変な飛行船に乗せられて、自宅がどこかなんて知る術もない。
そして目の前の男性──グラッド・ディーガスト。自身を空賊だと名乗るイケメン。たぶん彼も攻略対象ってやつかも。
長い赤髪に、射貫くような金色の瞳。整った顔立ちだから黙ってるとちょっと怖い。
気まずさに視線を泳がせたら、グラッドは鼻を鳴らして続けた。
「まあいいや。それで? 好きなことが……」
「ゲームです」
「げえむ、ね。観劇みたいなもんだったか?」
「さっき話したジャンルはそうですね」
だよな、と答えてぐいっと前のめりになる。勢いのまま続けた。
「んで、名前は?」
「………」
無理やり作り出す沈黙に、彼が大きくため息を吐いた。そのまま何も言わないでいると、お手上げだと言わんばかりに肩を竦めてソファへ寄りかかる。
さっきから探りを入れられてるのは分かるけど、こっちだって警戒するのは仕方ないじゃない。
何故だか知らないけど、名前を教えちゃいけないみたいだし。
その疑問を素直にぶつけてみる。
「逆に聞くけど、なんで名前が知りたいの? 適当に呼んでくれていい……んですけど」
勢いで言ったものの、なんだか睨まれてるみたいで、また敬語に戻そうとする。するとグラッドは一度息を吐いてガシガシと頭をかいた。
「そんな畏まらなくていい、普通にしろよ。別に取って食うわけでもないしな」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「あ?」
「う、嘘です」
慌てて返したら、「ハッ」と言いながら口元を緩める。
「冗談だよ。そう怯えるなって」
「冗談とか言うんですね」
「見えないか?」
「まあ……」
「よく言われる」
それすら本当なのか、と疑惑の目で見てしまう。グラッドは窓に目を移して続けた。
「それで、なんで名前が知りたいか、だっけか」
「そう…ですけど」
「まあ、細かいことは省くが……要は手っ取り早く力を使うためだな」
「力?」
「そうだ」
肯定されて考える。やっぱりこのゲームの主人公には特殊能力があったらしい。最初の見立ては間違っていなかった。ただ、その方法が違ったってだけで。
ここに来て、ラファルの話が聞けなかったことが痛手になる。
だってまさか、チュートリアルがスキップするなんて思いもしないじゃない? 強制的に誘拐イベントなんてものが起こるなんて……。
ひとつ思い当たるのは、ルスフェルが『昼食をご用意していいですか?』って聞いたこと。あれは『チュートリアルをスキップしますか?』だったのかもしれない。
それなら今の状況も頷ける。ならば、と一か八か訊いてみる。
「ちなみにその力って何?」
「さあな。お前が教えてくれたら、すぐに分かるだろうさ」
即座に返されて私は「ぐぬぬ…」と呻かざるを得なかった。
もし本当に、『私の名前』に何かあるとしたら、この世界に真名があるってことかもしれない。よくアニメや物語で、真名には霊的な魂が宿り、誰かに握られると操り人形になる、とか聞いたことあるし。
それを今、彼に教えるのはリスクしかない。そんなことを考えながら私は、一つ息を吐いてゆったりと背もたれに寄りかかった。
「……」
「……」
互いに口を閉ざすと、外から聞こえてくるゴウン、ゴウンという駆動音しか耳に入らなくなる。
しばらくして根負けしたようにグラッドが、組んでいた長い足を崩して立ち上がった。
「埒が明かねぇな。一旦休憩にする」
離れていく後ろ姿を見届けて、私は一気に脱力した。
ソファの背もたれに頭をのせて、そのまま天井を見上げる。かすかに震えるシャンデリアは、精巧な造りをしているようだ。
軽く頭を傾けて、壁に備え付けられている飾り棚を見る。中には高そうなお酒が並んでいた。けど、ところどころに置かれたおかしな置物はなんだろう。木に顔とコインが刺さってる。
不思議だな、と思いながら室内を見ていたら、扉の近くで外を眺めていたグラッドが振り返った。
「そういえば、食事はまだだったんだよな? 今用意させるから来いよ。みんなに紹介もしたい」
思い付いたようにそう言って、グラッドは窓辺から再び私の近くにくると、手を差し伸べてくる。
「えっと……」
けど、なかなかその手を取れない。食事って、毒とか入ってないよね。紹介したいって、誰に?考えてたら、グラッドの方から手を掴んできた。
半ば無理やり立たされて、引きずられるように部屋を出る。
あれ、ゲームってこんなに勝手に進むっけ?プレイヤーの意思は無視ですか。引きずられながら、そんなことを考えていた。
「成人してますね、一応」
「出身が…」
「東の方……か、北か南か西か」
適当に答えたら「全方位じゃねえか」と呆れられる。でも仕方がない。本当に分からないのだから。
突然見知らぬ美術館で目が覚めたと思ったら、急に誘拐されて変な飛行船に乗せられて、自宅がどこかなんて知る術もない。
そして目の前の男性──グラッド・ディーガスト。自身を空賊だと名乗るイケメン。たぶん彼も攻略対象ってやつかも。
長い赤髪に、射貫くような金色の瞳。整った顔立ちだから黙ってるとちょっと怖い。
気まずさに視線を泳がせたら、グラッドは鼻を鳴らして続けた。
「まあいいや。それで? 好きなことが……」
「ゲームです」
「げえむ、ね。観劇みたいなもんだったか?」
「さっき話したジャンルはそうですね」
だよな、と答えてぐいっと前のめりになる。勢いのまま続けた。
「んで、名前は?」
「………」
無理やり作り出す沈黙に、彼が大きくため息を吐いた。そのまま何も言わないでいると、お手上げだと言わんばかりに肩を竦めてソファへ寄りかかる。
さっきから探りを入れられてるのは分かるけど、こっちだって警戒するのは仕方ないじゃない。
何故だか知らないけど、名前を教えちゃいけないみたいだし。
その疑問を素直にぶつけてみる。
「逆に聞くけど、なんで名前が知りたいの? 適当に呼んでくれていい……んですけど」
勢いで言ったものの、なんだか睨まれてるみたいで、また敬語に戻そうとする。するとグラッドは一度息を吐いてガシガシと頭をかいた。
「そんな畏まらなくていい、普通にしろよ。別に取って食うわけでもないしな」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「あ?」
「う、嘘です」
慌てて返したら、「ハッ」と言いながら口元を緩める。
「冗談だよ。そう怯えるなって」
「冗談とか言うんですね」
「見えないか?」
「まあ……」
「よく言われる」
それすら本当なのか、と疑惑の目で見てしまう。グラッドは窓に目を移して続けた。
「それで、なんで名前が知りたいか、だっけか」
「そう…ですけど」
「まあ、細かいことは省くが……要は手っ取り早く力を使うためだな」
「力?」
「そうだ」
肯定されて考える。やっぱりこのゲームの主人公には特殊能力があったらしい。最初の見立ては間違っていなかった。ただ、その方法が違ったってだけで。
ここに来て、ラファルの話が聞けなかったことが痛手になる。
だってまさか、チュートリアルがスキップするなんて思いもしないじゃない? 強制的に誘拐イベントなんてものが起こるなんて……。
ひとつ思い当たるのは、ルスフェルが『昼食をご用意していいですか?』って聞いたこと。あれは『チュートリアルをスキップしますか?』だったのかもしれない。
それなら今の状況も頷ける。ならば、と一か八か訊いてみる。
「ちなみにその力って何?」
「さあな。お前が教えてくれたら、すぐに分かるだろうさ」
即座に返されて私は「ぐぬぬ…」と呻かざるを得なかった。
もし本当に、『私の名前』に何かあるとしたら、この世界に真名があるってことかもしれない。よくアニメや物語で、真名には霊的な魂が宿り、誰かに握られると操り人形になる、とか聞いたことあるし。
それを今、彼に教えるのはリスクしかない。そんなことを考えながら私は、一つ息を吐いてゆったりと背もたれに寄りかかった。
「……」
「……」
互いに口を閉ざすと、外から聞こえてくるゴウン、ゴウンという駆動音しか耳に入らなくなる。
しばらくして根負けしたようにグラッドが、組んでいた長い足を崩して立ち上がった。
「埒が明かねぇな。一旦休憩にする」
離れていく後ろ姿を見届けて、私は一気に脱力した。
ソファの背もたれに頭をのせて、そのまま天井を見上げる。かすかに震えるシャンデリアは、精巧な造りをしているようだ。
軽く頭を傾けて、壁に備え付けられている飾り棚を見る。中には高そうなお酒が並んでいた。けど、ところどころに置かれたおかしな置物はなんだろう。木に顔とコインが刺さってる。
不思議だな、と思いながら室内を見ていたら、扉の近くで外を眺めていたグラッドが振り返った。
「そういえば、食事はまだだったんだよな? 今用意させるから来いよ。みんなに紹介もしたい」
思い付いたようにそう言って、グラッドは窓辺から再び私の近くにくると、手を差し伸べてくる。
「えっと……」
けど、なかなかその手を取れない。食事って、毒とか入ってないよね。紹介したいって、誰に?考えてたら、グラッドの方から手を掴んできた。
半ば無理やり立たされて、引きずられるように部屋を出る。
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